No | 124939 | |
著者(漢字) | 冨田,大介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トミタ,ダイスケ | |
標題(和) | CuF触媒を用いた新規触媒的不斉付加反応の開発およびSM-130686合成研究への応用 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 124939 | |
報告番号 | 甲24939 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1292号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 光学活性アリルアルコールはヒドロキシル基やオレフィンを足がかりとした変換が可能であり、合成化学的に非常に有用なキラルビルディングブロックである。その触媒的不斉合成は、Sharplessのエポキシ化反応を用いた速度論的分割や、アルケニル亜鉛のカルボニル化合物への不斉付加の二つの方法により主に行われてきた。これらの反応は有用であるが、最高収率が50%である分割法や不安定で発火性の反応剤を用いる点で、特に工業的合成への展開の際に問題を残している。 一方、当研究室ではアリルトリメトキシシランやケテンシリルアセタールなどの求核剤が触媒量の1価フッ化銅によって活性化され、トランスメタル化を経て高活性なアリル銅または銅エノラートが生じることを見いだし、ケトン・ケトイミンへと触媒的不斉付加させる反応の開発に成功している。 これらの知見を基に1価CuF-DTBM-SEGPHOS存在下、安定で低毒性なアルケニルメトキシシラン、アリールメトキシシランを求核剤として、アルデヒド、α-ケトエステル及びトリフルオロメチルケトンへの触媒的不斉アルケニル化およびアリール化反応の開発に成功した(1),2))。本反応では、系中で活性なアルケニル及びアリール銅種が真の求核剤として働く事がNMR実験、速度論解析実験により示唆された。 i) ホウ素反応剤を用いたアルデヒドに対する触媒的不斉アルケニル化及びアリール化反応 有機ケイ素に比べ有機ホウ素は市販のものが多く、反応剤の調製も簡便である。このメリットに着目し、有機ホウ素を求核剤として用いた触媒的不斉アルケニル化、アリール化反応の開発に着手した。 初めにケイ素試薬を求核剤として用いた時と同様の条件をlaと2aの反応に適用した所、収率は67%と中程度であったが、エナンチオ選択性においては、ケイ素試薬を用いた時とほぼ同等の結果を与えることが判明した。これはケイ素の場合と同様の活性種、すなわちアルケニル、アリール銅が生じていることを示唆する結果である。ホウ素試薬の低反応性を解決するため様々な検討を行った結果、フッ素添加剤を適切に選択することによって顕著な反応性の向上が見られた。ビニルピナコールボロネートを求核剤、TBATを触媒量添加することで、様々な芳香族アルデヒドおよび、α,β-不飽和アルデヒドに対し、満足の行く結果で目的の光学活性体が得られた(Table 1,entry 1-6)。また、長鎖アルキル基を持つアルケニルホウ素を用いても良好な結果にて反応が進行した(Table 1,entry 7,8)。 シクロヘキサンカルボキシアルデヒド,シクロプロパンアルデヒドを基質として用いた際にはTBATに加えてBF3・Et2Oを添加剤として用いることにより、アルデヒドの自己縮合によって生じるトリマーの副生を抑制し、目的の化合物を良好な収率、エナンチオ選択性で得ることに成功した(Table 1,ently 9-11)。触媒的不斉フェニル化に関しては、フッ素アニオン添加剤としてカリウムフェニルトリフルオロボレートを用いることで良好な結果にて目的の光学活性ジアリールメタノールを得た(Table2)(3))。 ii) 成長ホルモン促進剤(SM-130686)の触媒的不斉合成研究 これまで開発してきた反応の実践的展開として、本反応を鍵工程とした医薬化合物合成への展開を考え、成長ホルモン分泌促進剤として期待されている大日本住友工業のSM-1306864)の不斉合成研究に取り組んだ。SM-130686は、これまでの薬剤とは、次の二点で一線を画している。(1)非ペプチド型の化合物である点(2)経口投与による薬剤の体内導入が可能である点である。一方構造活性相関研究によれば、不斉炭素上の置換基によって大きく活性が異なることが判明している。しかしながら従来の合成法においては、光学活性体を光学分割により単離しており、不斉四置換炭素を直接構築できる触媒的不斉反応の開発および本反応を鍵工程として用いた短工程合成計画は意義深いと考えている。 a) イサチンに対する新規触媒的不斉アルケニル化およびアリール化反応の開発 不斉反応のモデルとして、イサチンを用い条件検討を行った。イサチンに対する触媒的不斉アリール化の例として林5)Feringab)らの反応が報告されているが、触媒量、一般性の面で問題が残されている。これまでの最適条件におけるリガンド(DTBM-SEGPHOS)を用いたところ、満足のいく結果は得られなかった。この問題を解決すべく最適化検討を行った。その結果、バイトアングルの大きさを意識しTaniaphosを基本の型として独自に設計した新規リガンドを用い、触媒量のZnF2を添加剤として用いることで、鍵となる不斉四置換炭素を高収率、高エナンチオ選択性にて構築することに成功した。本触媒系の基質一般性について検討した(Table3)。電子供与基、電子求引基を有する様々なイサチンに対し、良好な結果にて目的の化合物を得ることに成功した(entry 1-5)。また長鎖アルキル基を有するアルケニルシランを用いても、良好な反応性と選択性を示した(entry 6,7)。求核剤としてアリールシランを用いた際には、90%を超える不斉収率を達成した(entry 8-ll)。中でもentry 11のオルト位にクロル基を持つ求核剤を用いた反応は、SM-130686の合成につながり得る初めての反応例である3)。 b) 触媒的分子内不斉反応を鍵工程として用いた合成ルートの確立 しかしながら分子間反応ではSM-130686の母核を満足のいく効率で合成できなかった。そこでSM-130686へと合成展開可能な反応として、新規触媒的不斉分子内反応の開発にも取り組んだ。この新規合成ルートにおいても、鍵となる不斉四置換炭素の構築を自ら開発した反応によって行うことが特徴である(Scheme 2)。分子内反応では、基質の分子量が大きく蒸留精製が困難なためシリカゲルで分解の起こりやすいケイ素反応剤を用いることは困難である。それに対し、ホウ素反応剤はカラム精製に安定なため本分子内反応では、ホウ素反応剤を用いることとした。原料はアニリン部位とケトカルボン酸部位の縮合で得られることから、本方法論は多様な組み合わせの可能な収束的触媒的不斉反応となり得る。分子内反応の開発において、再度リガンドの検討を行ったところPh-BPEリガンドを用いることで、フッ素アニオン源を添加剤として用いる事なしにCF3基、Cl基を有する基質において収率、エナンチオ選択性共に良好な結果を得ることに成功した(Scheme 3)。そこで本反応を不斉四置換炭素構築に用い、SM-130686の不斉合成研究に着手した。容易に入手可能な2-トリフルオロメチルフェニルボロン酸を出発原料とし、Hartwig-Miyaura等によって開発されたIr触媒を用いたホウ素化反応を鍵反応として用いることで、芳香環へ四つの置換基を位置選択的に導入することにに成功した。不斉四置換炭素の構築ではCu-Ph-BPE触媒を用いる事で、立体的に嵩高いSM-130686誘導体に対し良好な収率、エナンチオ選択性で反応が進行することを見出した。その後、官能基変換を行い既存の合成ルートの収率を大幅に向上する結果にてSM-130686の合成に成功した。本触媒的不斉分子内反応によって構築されるオキシインドール骨格は生物活性分子の母核としてしばしば見られることから、開発した方法論は様々な医薬リードの合成に有用であると考えている。 Table 1.アルデヒドに対する触媒的不斉アルケニル化反応 Table 2. アルデヒドに対する触媒的不斉フェニル化反応 Scheme 1.成長ホルモン促進剤(SM-130686)の触媒的不斉合成 Table 3.イサチンに対する触媒的不斉アルケニル化およびアリール化反応 Scheme 2.分子内不斉アリール化反応を用いた合成ルートの設計 Scheme 3.分子内触媒的不斉アリール化反応のモデル反応 Scheme 4.SM-130686合成 | |
審査要旨 | 冨田は、「CuF触媒を用いた新規触媒的不斉付加反応の開発およびSM-130686合成研究への応用」と題して、以下の研究をおこなった。 1)有機ホウ素を用いたアルデヒドに対する触媒的不斉アルケニル化及びアリール化反応 フッ化銅-DTBM-SEGPHOS錯体触媒を用いた、アルデヒド了に対する有機ホウ素の触媒的不斉付加反応を開発した(Scheme 1)。ホウ素試薬の低反応性を解決するため様々な検討を行った結果、フッ素添加剤を適切に選択することによって顕著な反応性の向上が見られた。反応機構解析から、銅触媒が金属交換により求核剤を活性化し、活性な有機銅が実際の求核剤として働いていることを見出した。 2)成長ホルモン促進剤(SM-130686)の触媒的不斉合成研究 開発した反応の実践的展開として、成長ホルモン分泌促進剤として期待されている大日本住友製薬のSM-130686の不斉合成研究に取り組んだ。SM-130686は、非ペプチド型の化合物である点と経口投与による薬剤の体内導入が可能である点で画期的であり、従来の合成法においては、光学活性体を光学分割により単離していた。 2-1.イサチンに対する新規触媒的不斉アルケニル化およびアリール化反応の開発 最初にイサチンを基質として条件検討を行ったその結果、バイトアングルの大きさを意識しTaniaphosを基本の型として独自に設計した新規リガンドを用い、触媒量のZnF2を添加剤として用いることで、鍵となる不斉四置換炭素を高収率、高エナンチオ選択性にて一般性高く構築することに成功した(Scheme 2)。 2-2. 触媒的分子内不斉反応を鍵工程として用いた合成ルートの確立 しかしながら分子間反応ではSM-130686の母核を満足のいく効率で合成できなかった。そこでSM-130686へと合成展開可能な反応として、新規触媒的不斉分子内反応の開発にも取り組んだ。分子内反応では、基質の分子量が大きく蒸留精製が困難なためシリカゲルで分解の起こりやすいケイ素反応剤を用いることは困難である。それに対し、ホウ素反応剤はカラム精製に安定なため本分子内反応では、ホウ素反応剤を用いることとした。分子内反応の開発において、再度リガンドの検討を行ったところPh-BPEリガンドを用いることで、収率、エナンチオ選択性共に良好な結果を得ることに成功した。すなわち、容易に入手可能な2-トリフルオロメチルフェニルボロン酸を出発原料とし、Hartwig‐Miyauraによって開発されたU触媒を用いたホウ素化反応を鍵反応として用いることで、芳香環へ四つの置換基を位置選択的に導入することにに成功した。不斉四置換炭素の構築はCuPh-BPE触媒を用いる事で、良好な収率、エナンチオ選択性で進行した。その後、官能基変換を行い既存の合成ルートの収率を大幅に向上する結果にて世界初のSM-130686の不斉合成に成功した(Scheme3)。本触媒的不斉分子内反応によって構築されるオキシインドール骨格は生物活性分子の母核としてしばしば見られることから、開発した方法論は様々な医薬リードの合成に有用であると考えられる。 以上の業績は、医薬リードの効率合成に大きく貢献するものであり、博士(薬学)の学位授与に値するものと考えられる。 Scheme 1. Catalytic Asymmetric Alkenyl- and Aryl-Boration of Aldehydes Scheme 2. Catalytic Enantioselective Arylation and Alkenylation of lsatins Scheme 3. Catalytic Enantioselective Synthesis of SM-130686 | |
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