学位論文要旨



No 124946
著者(漢字) 森本,浩之
著者(英字)
著者(カナ) モリモト,ヒロユキ
標題(和) トリクロロメチルケトンをエステル等価求核剤とする直接的触媒的不斉マンニッヒ型反応の開発
標題(洋) Development of Direct Catalytic Asymmetric Mannich-Type Reaction Using Trichloromethyl Ketones as Ester Equivalent Donors
報告番号 124946
報告番号 甲24946
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1299号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴,正勝
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 教授 井上,将行
 東京大学 准教授 金井,求
内容要旨 要旨を表示する

直接的触媒的不斉マンニッヒ型反応は、事前の活性化を経由せずにカルボニル化合物を直接用いることが可能なことから、光学活性β-アミノカルボニル化合物を合成する最も有効な方法の1つといえる。しかし、本反応に適用可能な求核剤は、容易に脱プロトン化可能なケトンやアルデヒドに限られており、より酸性度の低いエステルやアミド等のカルボン酸誘導体を用いることは困難であった。この問題点を解決する1つの方法として、エステル等価体の利用が挙げられる。エステル等価体は、酸化工程を経ずに種々のカルボン酸誘導体が合成可能であり、近年その直接的触媒的不斉炭素-炭素結合形成反応への応用が活発に行われている。しかし、最も直接的なエノラート生成が困難であると考えられるα-アルキル置換されたエステル等価体を求核剤として用いた例は少なく、β-アミノ酸が合成可能なMalnnich型反応に関しては研究開始当初全く報告がなかった。このような背景のもと私は、トリクロロメチルケトン(TCMK,1)をエステル等価体とする1直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発に成功した(2,3)。本反応では、適切な配位子を選択することにより、シン・アンチ両異性体を立体選択的に合成可能であった。また、得られたMannich体を変換することにより、多置換アゼチジンカルボン酸誘導体を立体選択的に合成できた。

【シン選択的直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発2】

私は以前、TCMKがシン選択的直接的触媒的Mannich型反応において有用なエステル等価体であることを報告した1。しかし、既存の触媒では低いエナンチオ選択性しか得られなかった。そこで新規触媒による本反応の不斉化を検討したところ、最終的にiPr-pybox、La(OAr)3及びLiOArから成る触媒系が有効であることが判明した(Scheme 1)。本反応は脂肪族イミンを含めた種々のイミン及びTCMKに対して有効であり、高い収率及びエナンチオ選択性にて目的のMannich体をシン選択的に与えた。また、対照実験から本反応においてはiPr-pybox-La(OAr)3錯体が触媒活性種であり、LiOArが反応を加速していることが示唆された。

【アンチ選択的直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発3】

上記触媒系の反応機構解析の過程から、ルイス塩基性配位子であるpybox非存在下では反応が進行しないことが明らかとなった。そこで、配位子の構造による立体選択性の変化を期待して検討を行ったところ、ビスフォスフィンオキシドをルイス塩基触媒として用いることで高アンチ選択的なMannich型反応が円滑に進行することが明らかとなった(Scheme2)。また、キラルなアリールオキシドを用いることにより、本反応の不斉化にも成功した。

本反応の反応機精解析から、ルイス塩基触媒であるビスフォスフィンオキシドが脱プロトン化過程を加速することが明らかとなった(Scheme3)。さらに、共同研究者(吉野達彦、Gang Lu)と検討した結果、Michae1反応、ニトロアルドール反応においても同様の反応加速効果が観測された。以上の結果は、ルイス塩基性触媒によるブレンステッド塩基触媒の活性化と考えると説明できる(Scheme4)。以上の反応は、配位子による反応性の向上及び立体選択性の制御を実現した点で興味深い。

【Mannich体の変換反応(1-3)】

最後に、共同研究者(Gang Lu、湯川猛史)とともに生成物の変換反応を検討した(Scheme5)。Mannich体はエステル及びジチオアセタールに容易に変換できた。また、保護基の変換も容易に進行した。さらに、ケトン部位のジアズテレオ選択的な還元とそれに続く分子内閉環反応により、他の方法では合成が困難と考えられる多置換アゼチジンカルボン酸誘導体を立体選択的に合成できた。以上により、Mannich体の有用性を示すことに成功した。

(1) Morimoto, H.; Wiedemann, S. H. ; Yamaguchi, A.; Harada, S.; Chen, Z.; Matsunaga, S.; Shibasaki, M. Angew. Chem., Int. Ed. 2006, 45, 3146.(2) Morimoto, H.; Lu, G.; Aoyama, N; Matsunaga, S.; Shibasaki, M.J. Am.Chem. Soc. 2007, 129, 9588.(3) Morimoto, H.; Yoshino, T.; Yukawa, T.; Lu, G; Matsunaga, S.; Shibasaki, M. Angew. Chem., Int. Ed. 2008, 47, 9125.

Scheme 1. syn-Selective Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of TCMK 1

Scheme 2. anti-Selective Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of TCMK 1

Scheme 3. Deuterium Exchange Experiments of TCMK

Scheme 4. Lewis Base Activation of Bronsted Base Catalysis

Scheme 5. Transformation of syn- and anti-Mannich Adducts

審査要旨 要旨を表示する

直接的触媒的不斉マンニッヒ型反応は、事前の活性化を経由せずにカルボニル化合物を直接用いることが可能なことから、光学活性β-アミノカルボニル化合物を合成する最も有効な方法の1つといえる。しかし、本反応に適用可能な求核剤は、容易に脱プロトン化可能なケトンやアルデヒドに限られており、より酸性度の低いエステルやアミド等のカルボン酸誘導体を用いることは困難であった。この問題点を解決する1つの方法として、エステル等価体の利用が挙げられる。エステル等価体は、酸化工程を経ずに種々のカルボン酸誘導体が合成可能であり、近年その直接的触媒的不斉炭素-炭素結合形成反応への応用が活発に行われている。しかし、最も直接的なエノラート生成が困難であると考えられるα-アルキル置換されたエステル等価体を求核剤として用いた例は少なく、β-アミノ酸が合成可能なMannich型反応に関しては研究開始当初全く報告がなかった。このような背景のもと森本浩之は、トリクロロメチルケトン(TCMK,1)をエステル等価体とする直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発に成功した。本反応では、適切な配位子を選択することにより、シン・アンチ両異性体を立体選択的に合成可能であった。また、得られたMamich体を変換することにより、多置換アゼチジンカルボン酸誘導体を立体選択的に合成できた。

【シン選択的直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発】

森本浩之は以前、TCMKがシン選択的直接的触媒的Mannich型反応において有用なエステル等価体であることを報告した。しかし、既存の触媒では低いエナンチオ選択性しか得られなかった。そこで新規触媒による本反応の不斉化を検討したところ、最終的にiPr-pybox、La(OAr)3及びLiOArから成る触媒系が有効であることが判明した(Scheme1)。本反応は脂肪族イミンを含めた種々のイミン及びTCMKに対して有効であり、高い収率及びエナンチオ選択性にて目的のMannich体をシン選択的に与えた。また、対照実験から本反応においてはiPr-pybox-La(OAr)3錯体が触媒活性種であり、LiOArが反応を加速していることが示唆された。

【アンチ選択的直接的触媒的不斉Mannich型反応の開発】

上記触媒系の反応機構解析の過程から、ルイス塩基性配位子であるpybox非存在下では反応が進行しないことが明らかとなった。そこで、配位子の構造による立体選択性の変化を期待して検討を行ったところ、ビスフォスフィンオキシドをルイス塩基触媒として用いることで高アンチ選択的なMannich型反応が円滑に進行することが明らかとなった(Scheme2)。また、キラルなアリールオキシドを用いることにより、本反応の不斉化にも成功した。

本反応の反応機構解析から、ルイス塩基触媒であるビスフォスフィンオキシドが脱プロトン化過程を加速することが明らかとなった。さらに、共同研究者(吉野達彦、Gang Lu)と検討した結果、Michael反応、ニトロアルドール反応においても同様の反応加速効果が観測された。以上の結果は、ルイス塩基性触媒によるブレンステッド塩基触媒の活性化と考えると説明できる。以上の反応は、配位子による反応性の向上及び立体選択性の制御を実現した点で興味深い。

【Mannich体の変換反応】

最後に、共同研究者(Gang Lu、湯川猛史)とともに生成物の変換反応を検討した(Scheme3)。Mamich体はエステル及びジチオナセタールに容易に変換できた。また、保護基の変換も容易に進行した。さらに、ケトン部位のジアステレオ選択的な還元とそれに続く分子内閉環反応により、他の方法では合成が困難と考えられる多置換アゼチジンカルボン酸誘導体を立体選択的に合成できた。以上により、Mamch体の有用性を示すことに成功した。

以上の結果は創薬研究の基盤となるのみならず、広く有機合成化学一般に重要な貢献すると考え、博士(薬学)に十分相当する研究成果と判断した。

Soheme1.syn-Selective Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of TCMK1

Scheme 2. anti-Selective Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of TCMK 1

Scheme 3. Transformation of syn-and anti-Mannich Adducts

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