学位論文要旨



No 124970
著者(漢字) 宇佐美,克明
著者(英字)
著者(カナ) ウサミ,カツアキ
標題(和) エボラウイルス感染に関わる表面糖蛋白質の構造的特徴と分子機能
標題(洋)
報告番号 124970
報告番号 甲24970
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1323号
研究科 薬学系研究科
専攻 統合薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 嶋田,一夫
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 准教授 富田,泰輔
内容要旨 要旨を表示する

[序論]

エボラウイルス(EBOV)は、ヒトや霊長類に重篤な出血熱を引き起こすウイルスである。EBOVには、異なる時期に異なる場所で単離されたZaire,Sudan,lvory Coast, Restonの4つの亜型が報告されている。zaire EBOV(ZEBOV)は、ヒトに90%近い致死率をもたらすが、Reston EBOV(REBOV)はヒトに感染するものの、致死性は報告されていない。これまでにZEBOVの病原性・感染性について多くの研究がなされてきたが、「何故、ZEBOVはREBOVに比べて病原性が高いのか?」についてはよく知られていなかった。本研究では、上記の問いに答えることを目的とした。

EBOVの表面には、唯一の表面蛋白質として、単一遺伝子産物であるグリコプロテイン(GP)から開裂して生じる2つのサブユニットGP1とGP2が複合体を形成し存在する(図1)。GP遺伝子のみをEBOV由来として作出した疑似ウイルスを用いて単球由来未成熟樹状細胞への感染実験を行った結果、ZEBOVとREBOVの感染性の違いがGPの構造と機能のみによって決定されることが強く示唆された。また、この感染はマクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)のブロッキング抗体によって有意に阻害されたことから、GPとMGLとの相互作用がEBOV感染に重要な役割を示すことが明らかとなった。

本研究では、ZEBOVとREBOVにおけるGP1の33(th)-50(th)のアミノ酸残基の違いが、細胞表面のMGLとEBOVGPの結合性を決定すること、GP2の1アミノ酸の違いが細胞内に取り込まれたEBOVのエンドソームとの膜融合過程に重大な影響を及ぼす可能性が高いことを明らかにした。

[本論]

(第1章)細胞表面MGLとの結合性と感染性を規定するGP1の構造的な特徴とZEBOVとREBOVの違い

1.EBOV GP1に対するMGLの結合性は、EBOVのMGL強制発現細胞への感染性と相関する

感染性の高いZEBOVとSudan EBOV(SEBOV)疑似ウイ ルス、感染性の低いREBOV疑似ウイルスを、MGLを強制発現したK562細胞株(K562-MGL)へ感染させた。その結果、ZEBOVおよびSEBOVは、REBOVに比べて有意に感染価が高かった(図2A)。また、これらの疑似ウイルス上のGP1に対して、MGLを用いてレクチンプロットを行った。その結果、ZEBOVおよびSEBOVGP1へのMGLの結合性は、REBOV GP1に比べて有意に高かった(図2B)。 これらの結果から、EBOV GP1に対するMGLの結合性は、EBOV疑似ウイルスのMGL強制発現細胞への感染性と相関することがわかった。

2.ムチン様領域以外のドメインがZEBO塾とREBOVの感染性の違いに寄与する

GP1には、N-結合型糖鎖・O-結合型糖鎖に富むムチン様領域が存在し、当領域のアミノ酸シークエンスはZEBOVとREBOVで非常に異なる。従って、ZEBOVとREBOVの感染性の違いが、このムチン様領域によるものである可能性に先ず注目した(図3A)。ZEBOV GPのムチン様領域をREBOVGPのそれに入れ換えたR311-462疑似ウイルスのK562-MGLへの感染は、ZEBOV疑似ウイルスとほぼ同程度の感染性を示した(図3B)。更にR311-462に対するMGLの結合性は、ZEBOVGPと同程度だった(図3C)。また、ムチン様領域近傍も含めて大きく入れ換えたR297-462、R260-462、R187-462に対するMGLの結合性もZEBOVGPと同程度であり、これらの疑似ウイルスの感染性もZEBOV疑似ウイルスと同等、もしくはそれ以上の感染性を示した(図3B、C)。一方、GP1の大半をZEBOVからREBOVに入れ換えたR33-462に対するMGLの結合性がZEBOV GPに比べて減少した(図3C)。更に、この擬似ウイルスの感染性は、ZEBOV疑似ウイルスに比べ、劇的に減少した(図3B)。これらの結果から、いわゆるムチン様領域ではなく、GP1の33(th)-(186)thのアミノ酸残基がMGLとの相互作用を通して感染性の違いを決定することが明らかとなった。実際に、GP1の33(th)-(186)thのアミノ酸残基のみをREBOVに入れ換えた疑似ウイルスはZEBOV疑似ウイルスに比べて劇的に減少し、R33-186に対するMGLの結合性はZEBOVGPに比べて劇的に減少した(図3E,F)。更にGP1の33(th)-50(th)のアミノ酸残基のみを入れ換えるだけでも感染性およびMGLの結合性は減少した(図3E,F)。このことから、GP1の33(th)-(50)thのアミノ酸残基がZEBOVとREBOVの感染性の違いを決めていることが明らかとなり、この部位がムチン様領域のグリコシレーションを制御していることが予想された。

3.ZEBOV GPとREBOV GPのMGLとの結合性の差異はO-結合型糖鎖の構造に依存る

これらのGPにおいて、MGLが結合する構造の特性を解明するために、ウイルス粒子上のN-結合型糖鎖をPNGaseFで切り出し、この前後のGP1へのMGLの結合性をレクチンプロットで調べた。その結果、N-結合型糖鎖切断前後でMGLの結合性は変化しなかった(図4A)。このことから、MGLはN結合型糖鎖ではなく、O-結合型糖鎖を認識していることが明らかとなった。また、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)でGP1に対するMGしの結合性は阻害されたことから、この結合は糖鎖依存的であることがわかった(図4B)。

ZEBOVおよびREBOV GP上に存在するO-結合型糖鎖の構造的な違いを調べるために、これらのGPからO-結合型糖鎖を切り出し、安息香酸で標識後、MALDI-TOF MSとキャピラリー電気泳動の組み合わせを用いて解析した。その結果、構造の異なる複数の糖鎖が含まれていたが、Tn抗原(GalNAc-Ser/Thr)の含量がZEBOV GPの方が高いことがわかった(図5)。

(第2章)ZEBOVとREBOV GP2の構造的な違いと感染性への影響

1.GP2はZEBOVとREBOVの感染性の違いを生む

ZEBOVとREBOVの感染性の違いにおいて、GP2の構造的な差異が関与するかどうかを調べるために、GP2を相互に入れ換えた疑似ウイルスを作出し、K562-MGLへの感染性を調べた。その結果、GP2をZEBOVからREBOVに入れ換えることで、疑似ウイルスの感染がZEBOV疑似ウイルスに比べて劇的に減少した。またGP2をREBOVからZEBOVに入れ換えると、疑似ウイルスの感染がREBOV疑似ウイルスよりも劇的に上昇した(図6A,B)。このことから、GP2がGP1とともにZEBOVとREBOVの感染性の違いを決める因子であることが示唆された。更に、GP2のどの部位がこれらの感染性の違いに寄与するかを調べた結果、ZEBOV GP2の502(th)-527(th)のアミノ酸残基をREBOVのそれに入れ換えた疑似ウイルスの感染がZEBOV疑似ウイルスに比べ劇的に減少した。一方、REBOVGP2の502(th)-527(th)のアミノ酸残基をZEBOVのそれに入れ換えた疑似ウイルスの感染は、REBOV疑似ウイルスに比べ劇的に上昇した(図6A,C)。従って、GP2の502(th)-527(th)のアミノ酸残基がZEBOVとREBOVの感染性の違いに重要な役割をもつことがわかった。

2.ZEBOV GP H516がZEBOVとREBOVの感染の違いに関与する

最近報告されたZEBOV GPのX線結晶構造解析から、2つの逆β平行ストランド(β19、β20)の間に形成されたFD構造の中で、H516はβシート19内に存在するアミノ酸であることが明らかにされた。GPH516と相互作用すると考えられるアミノ酸はβシート20のGP E545であり、これらは低pH環境で塩橋を形成しやすいことが予想された。そこで、GP2の502(th)-527(th)のアミノ酸残基の中で、516番目を相互に入れ換えた疑似ウイルスを作出し、感染性を調べたところ、ZEBOVGP H516Y疑似ウイルスの感染性はZEBOV疑似ウイルスに比して減少し、一方でREBOV GP Y516H疑似ウイルスの感染性は、REBOV疑似ウイルスに比べ上昇することがわかった(図6A,D)。このことから、少なくとも516番目のヒスチジン残基はZEBOVとREBOVの感染性の違いに関与することが示唆された。

[結論と考察]

本研究において私は、ZEBOVとREBOVの感染性の違いがGPの限られた部分のアミノ酸配列の違いによることを明らかにした。また、MGLが結合するGalNAc含量の違いがこれらの感染性の違いを生むことを明らかにした。GP1の33(th)-(50)thのアミノ酸残基はMGLの結合性を決定している。これは、GP1全体のO-結合型糖鎖の構造(特にTn抗原)および含有量がこの部分に制御されることによると考えられ、ウイルスの最初のステップに必要な細胞表面への結合を規定すると考えられる。

更に、GP2の516番目のヒスチジン残基がZEBOVとREBOVの感染性の違いを生み出すことを見いだした。H516がウイルス膜とエンドソーム膜の融合の過程、すなわちウイルス感染初期の第2のステップに影響すると考えられる。このステップでは、エンドソーム内でGP1がカテプシンLIBにより切断を受け、露出したGP2がエンドソームとの膜融合を起こす。ZEBOV GPの結晶構造を基にしたモデリングにおいて、H516はGP1のカテプシン切断部位との距離が近いことがわかった。このことから、H516はGP1のカテプシン感受性にも影響しているのかもしれない。

これら2つの結果は、EBOVの感染性についての新たな知見を与えるとともに、新たな治療薬の開発にも繋がるものと考えている。

図1GPのドメイン概略図

SP:シグナルペプチド、MUC:ムチン様領域

FD:fusion domain、TM:transmembrane

図2 EBOVの感染性とGP1へのMGLの結合性

A)感染実験□:K562-mock、■:K562-MGL

B)MGLによるプロッティング、Z:ZEBOV、Δ:ZEBOVΔMUC、

S:SEBOV、R:REBOV、G:コントロ-ル

図3 GP1キメラ疑似ウイルスの感染性とMGLの結合性

A)キメラGPのスキーム、B、E)感染実験□:K562-mock、■:K562-MGL、C,D,F)キメラGP1に対するMGLの結合性

図4MGLのGP上の糖鎖への結合性

A)PNGaseF消化したGPに対するMGLプロッティング、

B)MGLプロッティングのGalNAc阻害、Z:ZEBOV、R:REBOV

図5 ZEBOVおよびREBOV GPのO-結合型糖鎖のうちのTn抗原のキャピラリー電気泳動

図6 GP2疑似ウイルスの感染

A)GP2キメラのスキーム、

B-D)感染実験□:K562-mock、■:K562-MGL

審査要旨 要旨を表示する

「エボラウイルス感染に関わる表面糖蛋白質の構造的特徴と分子機能」と題する本論文は、ヒトや霊長類に重篤な出血熱を引き起こすウイルスであるエボラウイルス(EBOV)の糖蛋白質のアミノ酸配.列に、このウイルスが高い致死的な感染性を持っ原因が隠されている事を解明するに至った経緯が述べられている。EBOVには、異なる時期に異なる場所で単離された4つの亜型が報告されているが、そのうちZaire EBOV(ZEBOV)は、ヒトに90%近い致死率をもたらすが、Reston EBOV(REBOV)はヒトへの感染性は軽微で、致死性は報告されていない。これまで何故、ZEBOVはREBOVに比べて致死的な感染を起こす病原性が高いのかについてはよく知られていなかった。EBOVの表面に存在する唯一の蛋白質は単一遺伝子産物であるグリコプロテイン(GP)から開裂して生じる2つのサブユニットGP1とGP2が複合体を形成し存在する。GP遺伝子のみをEBOV由来として作出した疑似ウイルスを用いて単球由来未成熟樹状細胞への感染実験を行った結果、ZEBOVとREBOVの感染性の違いが示され、GPの構造と機能のみによって決定されることが強く示唆された。また、この感染はマクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)のブロッキング抗体によって有意に阻害されたことから、GPとMGLとの相互作用がEBOV感染に重要な役割を示すことが明らかとなった。これらの知見を背景として、ZEBOVとREBOVの間のGP1及びGP2の配列の違いが感染の成立に至る過程における役割を解明した。

第1章では、細胞表面MGLとの結合性と感染性を規定するGP1の構造的な特徴とをZEBOVとREBOVの違いについて追求した結果が述べられている。感染性の高いZEBOVと感染性の低いREBOV疑似ウイルスを、MGLを強制発現したK562細胞株(K562-MGL)へ感染させた。その結果、ZEBOVは、REBOVに比べて有意に感染価が高かった。また、これらの疑似ウイルス上のGP1に対して、MGLを用いてレクチンプロットを行った。その結果、ZEBOVのGP1へのMGLの結合性は、REBOVGP1に比べて有意に高かった。これらの結果から、EBOVGP1に対するMGLの結合性は,EBOV疑似ウイルスのMGL強制発現細胞への感染性と相関することが推定された。

GP1には、N」結合型糖鎖・O-結合型糖鎖に富むムチン様領域が存在し、当領域のアミノ酸シークエンスはZEBOVとREBOVで非常に異なる。従って、ZEBOVとREBOVの感染性の違いが、このムチン様領域によるものである可能性に先ず注目した。ZEBOVGPのムチン様領域をREBOVGPのそれに入れ換えたR311-462疑似ウイルスのK562-MGLへの感染は、ZEBOV疑似ウイルスとほぼ同程度の感染性を示した。更にR311-462に対するMGLの結合性は、ZEBOVGPと同程度だった。また、ムチン様領域近傍も含めて大きく入れ換えたR297-462、R260-462、R187-462に対するMGLの結合性もZEBOVGPと同程度であり、これらの疑似ウイルスの感染性もZEBOV疑似ウイルスと同等、もしくはそれ以上の感染性を示した。一方、GP1の大半をZEBOVからREBOVに入れ換えたR33-462に対するMGLの結合性がZEBOVGPに比べて減少した。更に、この擬似ウイルスの感染性は、ZEBOV疑似ウイルスに比べ、劇的に減少した。これらの結果から、いわゆるムチン様領域ではなく、GP1の33から186番目のアミノ酸残基がMGLとの相互作用を通して感染性の違いを決定することが明らかとなった。実際に、GP1の33から186番目のアミノ酸残基のみをREBOVに入れ換えた疑似ウイルスはZEBOV疑似ウイルスに比べて劇的に減少し、R33-186に対するMGLの結合性はZEBOVGPに比べて劇的に減少した。更にGPlの33から50番目のアミノ酸残基のみを入れ換えるだけでも感染性およびMGLの結合性は減少した。このことから、GP1の33から50番目のアミノ酸残基がムチン様領域のグリコシレーションを制御し、これを通してZEBOVとREBOVの感染性の違いを決めていることが明らかとなった。

これらのGPにおいて、MGLが結合する構造の特性を解明するために、ウイルス粒子上のN-結合型糖鎖をPNGaseFで切り出し、この前後のGP1へのMGLの結合性をレクチンプロットで調べた結果、N-結合型糖鎖切断前後でMGLの結合性は変化しなかった。このことから、MGLはN結合型糖鎖ではなく、O-結合型糖鎖を認識していることが明らかとなった。また、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)でGP1に対するMGLの結合性は阻害されたことから、この結合は糖鎖依存的であることがわかった。ZEBOVおよびREBOVGP上に存在する0-結合型糖鎖の構造的な違いを調べるために、これらのGPからOr結合型糖鎖を切り出し、安息香酸で標識後、MALDI-TOFMSとキャピラリニ電気泳動の組み合わせを用いて解析した。その結果、構造の異なる複数の糖鎖が含まれていたが、Tn抗原(GalNAc-Ser/Thr)の含量がZEBOV GPの方が高いことがわかった。

第2章ではZEBOVとREBOVGP2の構造的な違いと感染性への影響について追求した董果が述べられている。ZEBOVとREBOVの感染性の違いにおいて、GP2の構造的な差異が関与するかどうかを調べるために、GP2を相互に入れ換えた疑似ウイルスを作出し、K562-MGLへの感染性を調べた。その結果、GP2をZEBOVからREBOVに入れ換えることで、疑似ウイルスの感染がZEBOV疑似ウイルスに比べて劇的に減少した。またGP2をREBOVからZEBOVに入れ換えると、疑似ウイルスの感染がREBOV疑似ウイルスよりも劇的に上昇した。このことから、GP2がGP1とともにZEBOVとREBOVの感染性の違いを決める因子であることが示唆された。更に、GP2のどの部位がこれらの感染性の違いに寄与するかを調べた結果、ZEBOVGP2の502-527番目のアミノ酸残基をREBOVのそれに入れ換えた疑似ウイルスの感染がZEBOV疑似ウイルスに比べ劇的に減少した。一方、REBOVGP2の502-527番目のアミノ酸残基をZEBOVのそれに入れ換えた疑似ウイルスの感染は、REBOV疑似ウイルスに比べ劇的に上昇した。従って、GP2の502-527番目のアミノ酸残基がZEBOVとREBOVの感染性の違いに重要な役割をもっことがわかった。

GP2の502-527番目のアミノ酸残基の中で、H516はβシート19内に存在するアミノ酸であることがGP2の構造から予想されたので、516番目のアミノ酸をZEBOVとREBOVとの間で相互に入れ換えた疑似ウイルスを作出し、感染性を調べた。ZEBOVGPH516Y疑似ウイルスの感染性はZEBOV疑似ウイルスに比して減少し、一方でREBOVGPY516H疑似ウイルスの感染性は、REBOV疑似ウイルスに比べ上昇することがわかった。このことから、少なくとも516番目のヒスチジン残基はZEBOVとREBOVの感染性の違いに関与することが示唆された。

本研究において、ZEBOVとREBOVの感染性の違いがGPの限られた部分のアミノ酸配列の違いによることが明らかにされた。また、MGLが結合するGalNAc含量の違いがこれらの感染性の違いを生むことを明らかにした。GP1の33-50番目のアミノ酸残基はMGLの結合性を決定している。これは、GP1全体の0-結合型糖鎖の構造(特にTn抗原)および含有量がこの部分に制御されることによると考えられ、ウイルスの最初のステップに必要な細胞表面への結合を規定すると考えられた。GP2の516番目のヒスチジン残基がZEBOVとREBOVの感染性の違いを生み出すことを見いだされ、GP2の安定性を通してウイルス感染に必須な膜融合の過程に大きく影響する事が示唆された。これらの結果は、EBOVの感染性についての新たな知見を与え、糖鎖生物学、ウイルス学、及び免疫学に資するところが大である。よって、これらの研究を行った宇佐美克明は博士(薬学)の学位を得るにふさわしいと判断した。

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