学位論文要旨



No 124971
著者(漢字) 佐波,謙吾
著者(英字)
著者(カナ) サバ,ケンゴ
標題(和) マクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)1を介した大腸炎抑制機構の解明
標題(洋)
報告番号 124971
報告番号 甲24971
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1324号
研究科 薬学系研究科
専攻 統合薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 准教授 有田,誠
 東京大学 講師 垣内,力
内容要旨 要旨を表示する

【序論】

マクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)はII型膜貫通型のレクチンで、C末端にある糖認識ドメインを介してカルシウム依存的に、単糖としてはガラクトースやN-アセチルガラクトサミンに結合する。マウスにおいては11番染色体上に二つの相同遺伝子Mgl1およびMgl2が存在し、広範なオリゴ糖による解析により、MGL1はルイスX、MGL2はグロボシド4に強く結合し、これらは互いに異なる糖鎖認識特異性を持つことが明らかとなっている。MGL1およびMGL2はマクロファージや未成熟樹状細胞上に発現することが明らかとなっており、マウス生体内では皮膚、大腸、肺などの結合組織に陽性細胞が観察されている。

大腸においてはMGL1およびMGL2陽性細胞は粘膜固有層および粘膜下層に観察され、これらの細胞はCD11b陽性、CD11c弱陽性、F4/80強陽性、MHCクラスll強陽性のマクロファージであった。大腸を含む消化管は食物抗原や常在性細菌に常に暴露されている組織であるが、通常、これらの抗原に対して免疫応答は起こらないように制御されている。この免疫制御機構が破綻するとクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)が発症すると考えられているが、その詳細な発症機構は不明であり、根本的な治療法も確立されていない。IBDの動物モデルとして、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎が知られている。この大腸炎モデルにおいてMgl7-KOは野生型マウスに比べて重篤な炎症を起こすことから、MGL1が大腸の炎症を抑制する機能を持つことが示唆された(図1)。これより、MGL1を介する大腸炎抑制の分子機構を明らかにし、それに基づいた大腸炎の治療を行うことを目的として研究を行った。

[第1章]MGL1による大腸炎制御の分子機構

1.1 大腸炎の進行と大腸マクロファージのIL-10産生

腸管のマクロファージは他の臓器のマクロファージよりも抑制性サイトカインIL-10の産生量が高いことが知られている。また、IL-10を欠損するマウスは自発的に大腸炎を発症することから、IL-10は大腸での免疫反応の制御に大きく寄与していると考えられている。そこで、DSS投与による大腸炎発症前(day 0)と炎症初期(day 2)における野生型マウスとmgl1-KO由来のMGL1陽性大腸マクロファージを単離し、IL-10mRNA量を定量的PCRによって比較した。その結果、大腸炎発症前は両者に差は見られなかったが、炎症初期ではMgl7-KO由来の細胞は野生型よりもIL-10 mRNA量が少なかった(図2)。これより、mgl1-KOにおいて、侵襲が発生した時にIL-10の産生量が少ないことが大腸炎をより重篤にする要因であると考えられ、MGL1がIL-10の発現を正に制御する因子であることが示唆された。

1.2MGL1による常在性細菌の認識

DSSによる大腸炎の発症には常在性細菌が大きく寄与することが報告されている。このことから、炎症時に腸管壁から浸潤する常在性細菌の中にMGL1によって認識される細菌があると仮説を立てた。実際に大腸に浸潤した菌を単離するため、大腸炎を発症したマウスの腸管膜リンパ節をホモジェナイズし、培養を行った。単離された菌はグラム染色性、形態、選択培地上の生育より、E.coli、Enferoooccus、Streptococcus、Lactobacillusであると考えられた。これらのうち、StreptococcusおよびLactobacillusがMGL1およびMGL2に結合性を示した。さらに16SrRNA配列解析の結果、前者はS.thermophilusに近縁の種であることが明らかとなった。

1.3細菌認識による大腸マクロファージの応答

MGL1を介するIL-10産生誘導が、上皮細胞の傷害により浸潤してきた常在性細菌とMGL1陽性細胞との相互作用によるという仮説を立て、それを検証することとした。マウスから単離されたStrptococcusがMGL1に結合することから、Streptococcus加熱死菌体を加えて大腸マクロファージを16時間共培養し、IL-10mRNAの産生を定量的PCR法により測定した。その結果、野生型マウス由来の大腸マクロファージはSfreptococcusとの共培養によりIL-10mRNA量が増加したが、Mgl1-KO由来の細胞ではその増加は見られなかった(図3A)。同様にして刺激した細胞を、抗IL-10モノクローナル抗体を用いて細胞染色を行い、タンパク質レベルでの検出を試みたところ、野生型マウス由来の細胞では染色強度が増加し、Mgl1-KO由来の細胞では増強は見られなかった(図3B)。以上より、MGL1と常在性細菌の相互作用により、抑制性サイトカインIL-10産生が亢進し、炎症の抑制に寄与していると考えられた。

[第2章]腸内細菌上のMGL1結合成分の探索

2.1 MGL1結合分子の検出

Streptococous上のMGL1結合分子を同定するために、表面タンパク質を変成、遊離させる2Mグアニジン塩酸(GuHCI)に加熱死菌体を懸濁し、37℃で2時間反応させた。その結果、グアニジン塩酸で処理した菌体はMGL1に対する結合性が失われた(図4A)。さらに、菌体可溶化物とグアニジン塩酸抽出物をSDS-PAGEで展開し、MGL1に対する結合をレクチンプロッティングで検討したところ、無処理の菌体可溶化物にはMGL1に結合する15kDaおよび17kDaの成分が確認されるのに対して、グアニジン塩酸処理後の菌体可溶化物にはその成分は消失していた(図4B,C)。同時に、グアニジン塩酸抽出物にその成分が検出されたことから、処理によって菌体表面から解離したと考えられた(図4C)。これらの成分に対して他のレクチンの結合性を検討した結果、ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミンに結合性を有するレクチン(PNAおよびVVA-B4)の結合が確認されたことから、15kDaおよび17kDaの成分はこれらの糖または類似の糖が末端にある糖鎖を持ち、MGL1に対する結合性を有する糖タンパク質であることが示唆された(図4D)。

2.2 Streptococcusの-L-10誘導活性における表面タンパク質の寄与

Streptococcusによる大腸マクロファージのIL-10誘導における菌体表面タンパク質の寄与を評価するため、グアニジン塩酸処理をしてMGL1に対する結合性を失ったStreptococcusを用いて野生型マウス由来の大腸マクロファージを刺激し、IL-10mRNA量を定量的PCR法により測定した。その結果、グアニジン塩酸処理後の死菌体によるIL-10誘導は精製水処理の菌体による誘導よりも有意に低かった(図5A)。それに対して、グアニジン塩酸抽出物を10μg/mLのタンパク質濃度(BCA法による)で加えたものはIL-10の誘導活性を示した(図5B)。これより、Streptococcusによる大腸マクロファージのIL-10転写誘導には、MGL1と菌体表面糖タンパク質の相互作用が寄与していることが示唆された。

[第3章]MGL1/2による乳酸菌群の認識と抗炎症効果

3.1乳酸菌に対するMGL1/2の結合とサイトカイン誘導活性

プロバイオティクスとして知られる乳酸菌8株(L.casei, L.rhamnosus,L-zeae,L.gasseri,L.johnsonii, L.delbmeckii,L.helveticus,L.plantarum)について、加熱死菌体に対するMGL1、MGL2の結合性を解析した。その結果を表に示した。

これら8種類の乳酸菌株を加えて腹腔浸潤マクロファージを刺激し、そのサイトカイン産生を調べた。野生型マウス由来の細胞を用いたところ、IL-10、IL-12、NO産生は表のような産生パターンを示した。IL-10の産生量と、MGL1/MGL2の結合強度の相関を調べた結果、これらの間には相関係数0.80を超える相関が見られた。しかし、Mgl1-KO、Mgl2-KO由来の細胞を用いても、同様のサイトカイン産生を示したことから、これらの菌体の認識に伴うサイトカイン産生におけるMGL1/MGL2の分子的な寄与は小さいと考えられた。

3.2乳酸菌による大腸炎抑制効果

乳酸菌4種類(L.casel、L.rhamnosus、L. gasseri、L.delbrueckii)を野生型マウスおよびMgl1-KOに投与して、DSS誘導大腸炎に対する軽減効果を評価した。その結果、高い炎症抑制効果をしめしたのはL.rhamnosusおよびL.delbmeckii投与群で、L.casel、L.gasseri投与群も下痢症状については軽減効果を示した。これらの効果はMgl1-KOでも同様に見られ、軽減効果へのMGL1の寄与は見られなかった。

【結語】

本研究により、糖鎖認識分子MGL1と常在性細菌の相互作用により抑制性サイトカイン産生を通して大腸炎が軽減することが明らかとなった。常在性細菌を認識する受容体はこれまでに報告がなく、新しい概念による大腸炎の治療の可能性が見出された。MGL1が認識する細菌上の成分として、糖タンパク質の存在が候補として挙げられ、この成分の作用により大腸細胞の抗炎症作用を増強させる可能性が示唆された。これまでにも、乳酸菌をはじめとした細菌を利用した治療効果が報告されているが、その作用機序は不明であった。これらの菌に対して、MGUおよびMGL2の結合性と腹腔浸潤マクロファージのIL-10誘導活性に正の相関が見られたが、マウスへの投与実験では治療効果へのMGL1の寄与は確認されなかった。

Saba K., Denda-Nagai, K., Irimura, T., Am J Pathol., 2009 Jan; 174(1):144-52., A C-type lectin MGL1/CD301a plays an anti-inflammatory role in murine experimental colitis.

図1DSS投与開始後7日目におけるMgl1+/+マウスとMgl1-1-マウスの大腸組織(A)と組織学的評価(B)。スケールバーは200μm。*ρ<0.05

図2DSS投与前(左)および投与開始後2日目(右)における大腸マクロファージのIL-10mRNA量。いずれもβ-actinmRNAに対する相対量。*p<0.05

図3(A)Streptococcus死菌体の存在下(St.)または非存在下(med)でMgl1+/+およびMgl1-/-マウス由来の大腸マクロファージを16時間培養後のIL-10mRNA量をβ-actln mRNAに対する相対量で比較。(B)抗IL-10抗体を用いた細胞染色による検出。ctrlはアイソタイプコントロールを示す。スケールバーは10μm

図4(A)グアニジン塩酸処理(GuHCl)によるrMGL1/2に対する結合への影響。*p<0.05(B)精製水処理(milliQ)およびGuHCl処理後の菌体(St)および処理上清(Ext)のSDS-PAGE展開。(C)ビオチン化組み換えMGL1を用いたレクチンプロットによる結合タンパク質の検出。(D)ビオチン化組み換えMGL1、MGL2およびビオチン化植物レクチンのGuHCl抽出画分への結合。

図5 精製水(milliQ)まだはGuHCIで処理した死菌体(Streptococcus)、GuHCI抽出物(Ext)を加えて大腸マクロファージを16時間培養した後のIL-10mRNA量をβ-actin mRNAに対する相対量で比較。*p<0.05

表 乳酸菌に対するMGLIIMGL2の結合とサイトカイン産生

結合は、+:結合した、-:結合しない。サイトカイン産生は、IL-10++:≧300pg/mL,+:≧150pg/mL、士:≧50pg/mL、IL-12++:≧1000pg/mL,±:≧100pgImL、NO++:≧25μM,+:≧10μM,±:≧5μM。

審査要旨 要旨を表示する

「マクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)1を介した大腸炎抑制機構の解明」と題する本論文は、大腸固有層に分布するマクロファージ様細胞がその表面に発現するレクチンであるMGLによって、上皮組織が傷害を受けることによって侵入した共生細菌を認識し、細菌に対する応答として起る炎症応答を抑制し、大腸炎の発症を回避している事を明らかにした経緯が述べられている。

MGLはC末端にある糖認識ドメインを介してカルシウム依存的に糖鎖を認識結合するレクチンである。免疫細胞に発現する多様なカルシウム依存型の内在性レクチンの内で、単糖としてガラクトースやN-アセチルガラクトサミンに結合する性質を持つのはMGLが唯一のものである。学位申請者は大腸においては相同性の高いMGL1とMGL2を発現する細胞が粘膜固有層および粘膜下層に分布する事を見出し、これらの細胞がCDllb陽性、CDUc弱陽性、F4/80強陽性、MHCクラスII強陽性のマクロファージでることを明らかにした。大腸を含む消化管は食物抗原や常在性細菌に常に暴露されている組織であり、通常、これらの抗原に対して免疫応答は起こらないように制御されているが、その機構の全容は明らかでなかった。この免疫制御機構が破綻するとクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)が発症すると考えられているが、発症機構は不明であり、根本的な治療法も確立されていなかった。学位申請者はMGL1を欠損するマウスを駆使し、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎をIBDのモデルとして用いて、南GL1が大腸の炎症を抑制する機能を持つことを明らかにした。MGL1を介する大腸炎抑制の分子機構を明らかにできれば、それに基づいた新しい炎症性大腸炎の予防法と治療法を開発できると期待できる。

第1章ではMGL1遺伝子欠損マウスで炎症性大腸炎がより重篤になる原因を分子レベルで追求した結果が述べられている。学位申請者は先ず、DSS投与による大腸炎発症前(day0)と炎症初期(day2)における野生型マウスとMgl1-KO由来のMGL1陽性大腸マクロファージを単離し、IL-10mRNA量を定量的PCRによって比較した。その結果、大腸炎発症前は両者に差は見られなかったが、炎症初期ではMgl1-KO由来の細胞は野生型よりもIL-10mRNA量が少なかった。これより、岬1-KOにおいて、侵襲が発生した時にIL-10の産生量が少ないことが大腸炎をより重篤にする要因であると考えられ、MGL1がIL-10の発現を正に制御する因子であることが示唆された。次に、DSSによる大腸炎の発症には常在性細菌が大きく寄与することが報告されているので、炎症時に腸管壁から浸潤する常在性細菌の中にMGL1によって認識される細菌があると仮説を立て、大腸に浸潤した菌を単離するため、大腸炎を発症したマウスの腸管膜リンパ節をホモジェナイズし、培養を行った。単離された菌はグラム染色性、形態、選択培地上の生育より,E.coli、Enterococcous、Streptococcus、Lactobacillusであると考えられた。これらのうち、StreptococcusおよびLactbacillusがMGL1およびMGL2に結合性を示した。さらに16SrRNA配列解析の結果、前者はS.thermophilusに近縁の種であることが明らかとなった。次に、MGL1を介するIL-10産生誘導が、上皮細胞の傷害により浸潤してきた常在性細菌とMGL1陽性細胞との相互作用によるという仮説を立て、それを検証することとした。マウスから単離されたStreptococcusがMGL1に結合することから、Streptococcus加熱死菌体を加えて大腸マクロファージを16時間共培養し、IL-10mRNAの産生を定量的PCR法により測定した。その結果、野生型マウス由来の大腸マクロファージはStreptococcusとの共培養によりIL-10mRNA量が増加したが、Mgl1-KO由来の細胞ではその増加は見られなかった。同様にして刺激した細胞を、抗IL-10モノクローナル抗体を用いて細胞染色を行い、タンパク質レベルでの検出を試みたところ、野生型マウス由来の細胞では染色強度が増加し、Mgl1-KO由来の細胞では増強は見られなかった。以上より、MGL1と常在性細菌の相互作用により、抑制性サイトカインIL-10産生が亢進し、炎症の抑制に寄与していると考えられた。

第2章では、腸内細菌であるStreptococcus上のMGL1結合成分の探索を行った。Streptococcus上のMGL1結合分子を同定するために、表面タンパク質を変成、遊離させる2Mグアニジン塩酸(GuHCI)に加熱死菌体を懸濁し、37℃で2時間反応させた。その結果、グアニジン塩酸で処理した菌体はMGL1に対する結合性が失われた。さらに、菌体可溶化物とグアニジン塩酸抽出物をSDS-PAGEで展開し、MGL1に対する結合をレクチンプロッティングで検討したところ、無処理の菌体可溶化物にはMGL1に結合する15kDaおよび17kDaの成分が確認されるのに対して、グアニジン塩酸処理後の菌体可溶化物にはその成分は消失していた。同時に、グアニジン塩酸抽出物にその成分が検出されたことから、処理によって菌体表面から解離したと考えられた。これらの成分に対して他のレクチンの結合性を検討した結果、ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミンに結合性を有するレクチン(PNAおよびVVA-B4)の結合が確認されたことから、15kDaおよび17kDaの成分はこれらの糖または類似の糖が末端にある糖鎖を持ち、MGL1に対する結合性を有する糖蛋白質であることが示唆された。

Streptococcusによる大腸マクロファージのIL-10誘導における菌体表面タンパク質の寄与を評価するため、グアニジシ塩酸処理をしてMGL1に対する結合性を失ったStreptococcusを用いて野生型マウス由来の大腸マクロファージを刺激し、IL-10mRNA量を定量的PCR法により測定した。その結果、グアニジン塩酸処理後の死菌体によるIL-10誘導は精製水処理の菌体による誘導よりも有意に低かった。それに対して、グアニジン塩酸抽出物を10μg/mLのタンパク質濃度(BCA法による)で加えたものはIL-10の誘導活性を示した。これより、Streptococcusによる大腸マクロファージのIL-10転写誘導には、MGL1と菌体表面糖タンパク質の相互作用が寄与していることが示唆された。

第3章では、MGL1/2による乳酸菌群の認識と抗炎症効果について、特に乳酸菌に対するMGL1/2の結合とサイトカイン誘導活性に注目して解析した結果が述べられている。プロバイオティクスとして知られる乳酸菌8株(L.casei, L.rhamnosus,L.zeae,L.gasseri,L.johnsonii, L.delbrueckii,L.helvetis,L.plantarum)について、加熱死菌体に対するMGL1、MGL2の結合性を解析した。その結果を表に示した。これら8種類の乳酸菌株を加えて腹腔浸潤マクロファージを刺激し、そのサイトカイン産生を調べた。野生型マウス由来の細胞を用いたところ、IL-10、IL-12、NO産生は表のような産生パターンを示した。IL-10の産生量と、MGL1/MGL2の強度の相関を調べた結果、これらの間には相関係数0.80を超える相関が見られた。しかし、Mgl1-KO、Mgl2-KO由来の細胞を用いても、同様のサイトカイン産生を示したことから、これらの菌体の認識に伴うサイトカイン産生におけるMGL1/MGL2の分子的な寄与は小さいと考えられた。さらに、乳酸菌4種類(L.casei、L.rhamnosus、L.gasseri、L.delbrueckii)を野生型マウスおよびMgl1-KOに投与して、DSS誘導大腸淡に対する軽減効果を評価した。その結果、高い炎症抑制効果を示したのはL.rhamnosusおよび乙.delbrueckii投与群で、L.casei、L.gasseri投与群も下痢症状については軽減効果を示した。これらの効果はMgl1-KOでも同様に見られ、軽減効果へのMGL1の寄与は見られなかった。

以上のように、本研究により、糖鎖認識分子MGL1と常在性細菌の相互作用により抑制性サイトカイン産生を通して大腸炎が軽減することが明らかとなった。常在性細菌を認識する受容体はこれまでに報告がなく、新しい概念による大腸炎の治療の可能性が見出された。MGL1が認識する細菌上の成分として、糖タンパク質の存在が候補として挙げられ、この成分の作用により大腸細胞の抗炎症作用を増強させる可能性が示唆された。これまでにも、乳酸菌をはじめとした細菌を利用した治療効果が報告されているが、その作用機序は不明であった。これらの菌に対して、MGL1およびMGL2の結合性と腹腔浸潤マクロファージのIL-10誘導活性に正の相関が見られたが、マウスへの投与実験では治療効果へのMGL1の寄与は確認されなかった。これらの成果は免疫学、病態生化学に資するところが大きく、本研究を行った佐波謙吾は博士(薬学)の学位を得るにふさわしいと判断した。

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