No | 124988 | |
著者(漢字) | 劉,雪峰 | |
著者(英字) | Liu,Xuefeng | |
著者(カナ) | リュウ,シューフォン | |
標題(和) | 適合および非適合1次有限要素の誤差定数の解析 | |
標題(洋) | Analysis of interpolation error constants for linear conforming and nonconforming finite elements | |
報告番号 | 124988 | |
報告番号 | 甲24988 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第343号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 有限要素法の誤差評価には、様々な誤差定数が現れる。その具体的な値は決定しにくい事もあり、存在のみが論じられることが多かったが、精度保証、事後誤差評価、適応型計算など定量的な誤差評価の重要性が増してきた結果、より具体的な値が必要になっている。本解析では、適合および非適合1次三角形有限要素法で現れる誤差定数を解析して、有限要素解の定量的な事前誤差評価と事後誤差評価を得た。研究内容を下記の三つの部分として説明する。 [1] 適合および非適合有限要素法において、三角形要素での補間関数の誤差評価に現れる様々な誤差定数を系統的に研究して、各誤差定数の形状依存性について考察した。特に、一部の誤差定数の具体的な値もしくは上界と下界を明らかにした。従って、任意の三角形に対する補間関数については具体的な誤差評価ができるようになった。これらの結果は以下のようにまとめられる。 三角形T(a,θ,h)において,補間作用素II0(α,θ,h)、II1(α,θ,h)、II1,n(α,θ,h)、IIF(α,θ,h)(それぞれ論文中で定義される)は以下の補間関数誤差評価がある。 ただし、φi(θ)(i=0,4,5)、C(F,i)(i=1,2)は具体的で簡単な関数として、論文中で定義される。 以上の補間誤差の定量的な評価によって、有限要素解の事前評価を具体的に計算できるようになった。 誤差定数の幾何パラメータの依存性の解析に現れるCi(α,θ)(i=0,1,2,3,5,{4,π},{5,n})はパラメータα,θについて、一様有界であることが分かる。しかし、誤差定数C4(α,θ)とC(F,2)(α,θ)については、三角形の最大内角θがπに近づくとき、発散する。したがって、適合有限要素法と非適合有限要素法について、"最大内角条件"が必要であることが分かる。 [2] 誤差定数を具体的に評価するために、1次適合有限要素法を用いて、ラプラス作用素に関連するいくつかの誤差定数の事後評価方法を構築した。この方法は作用素の固有値理論に基づいており、一般的な形状の三角形に対応するいくつかの誤差定数の具体的な上下評価ができるようになる。さらに三角形の領域に限らず、一般的な凸多角形領域について、ラプラス作用素の最小固有値の評価が可能になる。例として、円領域でのラプラス作用素の最小固有値の評価を行った。 [3]有限要素解の事後誤差評価について、適合有限要素解と非適合有限要素解を組み合わせ、Hypercircle法の原理を用いて、Poisson方程式の境,界値問題の定量的な事後誤差評価を得た。特に、との方法は方程式の解の二階微分の評価は直接には用いないので、非凸な領域での特異問題にも応用ができる。数値例として、L型領域で有限要素解の誤差評価を検証した。将来的には、精度保証付き計算を使うと、有限要素解の誤差の厳密な評価が可能と考えられ、これは理論的な証明に対して重要な意味がある。 | |
審査要旨 | 課程博士学位申請者劉雪峰による提出論文は、Analysis of error constants for linear conforming and nonconforming finite elements(和訳:適合および非適合1次有限要素の誤差定数の解析)と題され、英文で書かれ、6章から構成されている。 有限要素法は偏微分方程式等の有力な実用的数値解法の一つであり、その手法の基本部分はほぼ確立されているが、他方で現在も改良や数学的解析が続けられている。本論文では、最も基本的な適合三角形1次有限要素とそれに関連する非適合三角形1次要素について、その誤差評価式に現れる種々の誤差定数、なかんずく補間誤差定数の定量的な評価の導出と解析を実施し、さらに若干の数値例や応用例を与えたものである。 第1章は序章で、有限要素法の役割やその誤差解析の意義などについて述べ、さらに本論文の目的や後続の各章の内容を概説している。 第2章は3頂点を節点とする適合三角形1次有限要素に関する章で、最初に基本的なモデル問題として2次元ポアッソン方程式のディリクレ境界値問題を挙げ、それに対する有限要素法と代表的な既知の事前および事後誤差評価式を例示し、そこに現れる誤差定数の役割やそれらの定量的評価の意義を述べている。ここで、事前誤差評価とは、問題のデータの他に微分方程式の厳密解などの情報も場合によっては用いるが、得られる数値解の情報は用いないような誤差評価であり、事後誤差評価とは、得られた数値解の情報をも利用するような評価である。次いで、三角形を指定するための幾何学的パラメータや、誤差定数に関連する三角形上の関数空間をいくつか定義した上で、各種の誤差定数を導入し、それと各三角形上での補間誤差評価式の関連を解説している。さらに、幾何学的パラメータに対する誤差定数の依存性を調べ、いくつかの比較的単純な式による上界評価を(場合によっては下界評価も)導いている。特に、Babuska-Azizの定数を含むいくつかの誤差定数については、厳密な値を与える超越方程式を得ているが、これはFourier展開と鏡像法を利用して得られたものである。また、直角三角形要素で直角をはさむ一辺が他の辺に比較して微小になった場合の誤差定数の漸近挙動を解析し、それらの極限値が超幾何関数を含む超越方程式の解として決定できることを証明した。このような結果は、細長い三角形有限要素の挙動を調べ利用するのに有用と考えられる。なお、主要な数学的結果は定理等の形にまとめ、関連する諸結果や注意も付記している。さらに、有限要素法による誤差定数の数値計算結果を求め、理論解析結果の妥当性の確認や、未証明だが予想される誤差定数の挙動をいくつか見いだし、また、上界評価の精度なども観察・検討している。 第3章は非適合三角形1次有限要素に関する解析の章で、まず非適合有限要素を解説した上で、基本的には前章の技法を活用して、様々な結果を得ている。なお、ここで言う非適合とは、前記の適合有限要素法では、領域を三角形分割した場合、近似関数は通常は領域全体で連続になるのに対し、ここで考える非適合有限要素法では、三角形有限要素間の共通辺の中点でしか連続性が課されておらず、その結果、近似関数が領域全体では不連続になりえることを意味している。 このような不連続性のため、非適合有限要素法の場合には、適合の場合に比較して、有限要素解の事前および事後誤差評価はかなり複雑になる。本論文では、混合型有限要素法でよく用いられる、Raviart-Thomasの低次三角形有限要素を補助的に利用して、誤差評価式を導いた。その結果、適合有限要素法から自然に予想されるような非適合近似関数の補間誤差の他に、前記のRaviart-Thomasの有限要素に対する補間誤差評価も必要になった。幸いなことに、これらの新たな誤差定数の評価には、先の適合有限要素法での技法がかなり利用できたが、新たな工夫も必要であった。それら誤差定数に対する上界評価や特別な誤差定数の厳密な決定、さらに直角三角形要素で直角をはさむ一辺が微小になったときの漸近挙動などは、理論的結果として定理やその付記などの形でまとめられている。また、本有限要素の3次元版とも言うべき、非適合四面体1次有限要素に対する予備的な考察と結果も含まれている。最後に、非適合三角形1次有限要素に関する誤差定数に対する数値計算結果や、厳密解が既知の例題についての有限要素解の事前誤差評価と実際の誤差の比較などが示されている。 第4章は、前2章、特に第2章の結果を利用して、2次元のラプラス作用素Δに関連する固有値問題に対して、有限要素解を用いた固有値の事後誤差評価法を提案し、解析と数値例による検証を与えたものである。まず、斉次ディリクレ境界条件下での-Δに対する最小固有値の有限要素近似についての、既知の事前誤差評価式を事後誤差評価式に変換し、さらに本論文で扱った誤差定数に関連するいくつかの固有値問題の場合に、この事後誤差評価法を拡張した。これらの評価式中には、いくつかの誤差定数が現れ、実際の適用ではその上界が必要になる。これにより、誤差定数によっては、事後誤差評価の範囲ではあるが、数値計算結果による誤差定数の上下界評価が可能になるわけで、将来、この手法に対する数値的精度検証法が確立されれば、数学的に厳密な評価になると主張している。数値例として、正多角形領域での斉次ディリクレ境界条件下の-Δについて、その最小固有値の事後誤差評価例や、いくつかの誤差定数に対する適用例などを示している。特に固有値の厳密解が得られる場合には、実際に上下界評価になっていることも確認している。 第5章は、ポアッソン方程式のディリクレ問題の有限要素近似解について、適合および非適合の三角形1次有限要素法の双方を同時に用いた事後誤差解析法を示したもので、その際にハイパーサークル(超円)法のアイデアを利用した。ハイパーサークル法に基づく有限要素解の事後誤差評価では、通常は、適合有限要素法とともに、Raviart-Thomasの有限要素などを利用した特殊な混合型有限要素法が使用される。ところで、専門家の間では広く知られたように、ここで考察した非適合三角形1次有限要素法では、その数値解を事後的に修正することにより、混合型有限要素法によるのと同等な数値解が得られる。その際に、事後誤差評価式に場合により誤差定数を含んだ項も現れるので、本研究で導いた誤差定数の定量的上界評価が有効に利用できる。厳密解が既知の問題について、本手法を利用した事後誤差評価を実際に求め、事前誤差評価による結果よりも定量的に優れた誤差評価が得られることを確認した。また、解に特異性が表れる、L型領域での境界値問題にも本手法を適用し、実際に事後的な誤差評価が得られることを確認している。 第6章は結論と今後の研究課題についての章であり、まず、得られた定量的な補間誤差評価式を一覧表としてまとめ、次いで、未解決の課題として、3次元四面体1次有限要素に関する誤差定数の問題や、近似高次固有値の事後誤差解析手法の開発などを挙げ、若干の予備的な考察や部分的な結果も示している。 最後に参照文献表を示して本論文は終わっている。 以上要するに、本論文は最も基本的な有限要素である、三角形適合1次有限要素および三角形非適合1次有限要素に対し、その事前および事後誤差評価に現れる様々な誤差定数を理論的に解析し具体的な上界を与え、特別な場合には厳密値を求めたものであり、さらに数値計算により理論的な評価式が妥当なことを確認し、またいくつかの応用例を示した。応用例の中には、偏微分方程式の固有値問題の最小固有値に対する事後誤差評価や、偏微分方程式の有限要素解の定量的な事前および事後誤差評価が含まれ、特にいくつかの誤差定数については事後誤差評価も与えている。このように、本論文は有限要素法の有用性を数学的立場から支えるものであり、今後これらの結果を基礎として数値的検証など各種の応用も期待され、数理科学の進歩に寄与するところが少なくないと判定される。よって、論文提出者劉雪峰は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/28165 |