No | 125010 | |
著者(漢字) | 栗原,恒弥 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クリハラ,ツネヤ | |
標題(和) | 事例ベースのCGキャラクタの変形方法 | |
標題(洋) | Example-based Deformation Methods for CG Characters | |
報告番号 | 125010 | |
報告番号 | 甲25010 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第428号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 複雑理工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.はじめに コンピュータグラフィックスの分野において,人間や架空の動物などを表現するキャラクタアニメーションは重要な課題である.キャラクタアニメーションは,映画やゲーム,バーチャルリアリティ等の様々な分野に応用されている.本論文では,特にキャラクタの変形に関して論じる.キャラクタの変形は,骨格,筋肉,脂肪,皮膚など様々な要因により非常に複雑である。 キャラクタ変形のモデル化には,アニメータによる対話的な指定や,筋肉変形シミュレーションなど様々な方法がある.さらに,近年の計測技術の進歩に伴い人体などの詳細形状を計測することが可能となった.そこで,本論文では様々な姿勢における形状データを入力とする事例ベースのキャラクタの変形方法を提案する. 2節では,提案方法におけるサンプル形状の補間の基礎となる双対四元数補間法について述べる。ここで,双対四元数補間法を拡張し,拡大縮小を可能とする[1].さらに双対四元数補間法を用いた事例ベースの変形方法を提案する.3節では,複数姿勢のCT画像から手の変形モデルを生成する方法について述べる[2,3】.ここで,骨格形状から関節位置および姿勢を求める方法を提案する.さらに,比較的少数のサンプル形状から,自然な変形が得られる方法(Weighted Pose Space Deformation:WPSD法)を提案する. WPSD法は従来法と比較して計算量が増加するため,4節において法線マップ補間を用いた高速な変形の表示方法を提案する[4】.以上により,キャラクタの自然な変形を高速に表現することが可能となった. 2.双対四元数補間を用いた変形とその拡張 本論文で提案する変形方法は様々な姿勢におけるサンプル形状から,アニメーション中の目標姿勢の形状を求めるものである.提案方法はスケルトンを用いた幾何変形と,サンプル形状の補間を融合したものである.先行技術であるPSD法(Pose Space Deformation)は,スケルトンを用いた変形にはSSD法(Skeletal Subspace Deformation)を用いていた.しかしSSD法には,関節部分で形状がつぶれるなどの問題があった(図1(a)参照).このため,PSD法においても変形が不自然になるという問題があった.近年,SSD法の問題を解決するために,双対四元数補間法(dual quaternion linear blending:以下DLB法)が提案された[5].そこで, PSD法におけるスケルトンベースの変形として従来のSSD法ではなく,DLB法を用いる方法を提案する.提案方法により変形がより自然になることを確認した. しかしながら,DLB法は剛体変換だけを扱い,拡大と縮小を扱えないという問題があった.キャラクタアニメーションでは,詳細な変形を表現するためなどに,拡大・縮小などの非剛体変換は多用されている.このため,DLB法を,拡大・縮小が扱えるように拡張するDLBNT(Dual quaternion Linear Blending with Non-rigid Transformation) 法を提案する.DLBNT法は,各関節における座標変換を非剛体変換部分と剛体変換部分に分解し,非剛体部分の座標変換はSSD法で合成し,剛体変換部分の座標変換はDLB法によって合成して変形する. SSD法およびDLBNT法の変形結果の比較を図1に示す.図1に示すようにDLBNT法では肩や膝の部分がつぶれるという問題が解決されている. 3.医用画像を用いた手の変形モデル 事例ベースの変形法では,様々な姿勢におけるサンプル形状が必要となる.また,スケルトンにおける関節位置の正確な推定,各サンプル形状の姿勢の推定も必須である。そこで,CT画像を用いた事例ベースの変形方法を提案する.CT画像は,詳細な皮膚表面形状と骨格形状を同時に取得できるため,事例ベース変形のサンプルとして好適である. 3.1CTを用いた手の計測 同一被験者の手のCT画像を5姿勢撮影した(図2).図3に示すように, CT画像から,各姿勢の皮膚形状(図3上段)と骨格形状(図3下段)とを得た. 3.2リンク構造の導出 仮定した手の階層的なスケルトン構造を図4に示す.関節位置の推定は複数の姿勢における骨格を比較することで行う(図5).姿勢数をKとし,図3(a)の姿勢を基準姿勢と呼ぶことにする.各姿勢κ(1≦κ≦K)について,親リンクの位置姿勢を基準姿勢に一致させたときの,子リンクjの相対的な姿勢変化を表す回転行列R(κ,j)と移動ベクトルt(κ,j)を求める.子リンクjの関節位置をcjとする.R(κ,j)とt(κ,j)に誤差がない場合には, cjはR(κ,j)とt(κ,j)による変換で移動しない。そこで,変換前後の関節位置間の距離を最小とする点をcjの推定値とする.このとき,評価関数Eは式(1)のようになる. (1) 図6 に推定された関節位置を示す. 3.3 PSD法による変形 PSD法は,スケルトンベースの変形方法であるSSD法と形状補間を組み合わせることで自然な変形を実現する.PSD法では,与えられたサンプル形状にSSD法の逆変換を行い,基準姿勢に変換する.さらに変換されたサンプル形状について形状補間を行い,その結果を目標姿勢にSSD法を用いて変形する.このとき,形状補間の比率は目標姿勢とサンプル姿勢からRBF(Radial Basis Funcdons)等を用いて求める.PSD法は,サンプル形状の補間を基準姿勢で行うため,姿勢の 変化が大きい場合においても,自然な変形が実現できる.形状補間結果を図7に示す. 3.4 WPSD法 上記のようにPSD法は,姿勢を用いて形状補間の比率を求め,形状を補間する.このため,補間によって表現できる姿勢は,サンプル姿勢の線形和に限られる.この問題を解決するために,少ないサンプルを用いて形状を補間するWPSD法(Weighted Pose Space Deformation)を提案する. PSD法では,目標姿勢が与えられたときに,サンプル形状を補間する重みをすべての頂点において一定としていた.しかしながら,姿勢に依存した形状の変形には独立性があると考えられる.例えば,人差し指の変形には,小指の関節角度は影響しないなどである.このような変形の独立性を考慮して,少ないサンプルで形状の補間を実現する方法がWPSD法である.WPSD法では,RBFを用いて形状補間の重みを求めるときに,頂点単位で関節からの影響力を用いる方法である.この方法を用いることで少ないサンプルから自然な変形が可能となる.適用例を図8に,SSD法,PSD法,WPSD法の比較を図9に示す.PSD法では薬指の変形が不自然であるがWPSD法では自然である. 4.3 法線マップ補間を用いた高速な変形の表示 WPSD法は各頂点において形状補間の重みを求めるために計算量が大きいという問題がある.この問題を解決するために,法線マッピングを用いた高速な変形の表示方法を提案する.法線マッピングは法線を局所的に変更することで比較的単純な形状を用いて詳細な形状の外観を模擬するものである.WPSD法に法線マッピングを適用する場合には,サンプル形状間で法線マップが異なることを考慮する必要がある.このため,WPSD法で形状を補間すると同時に法線マップを補間する方法を提案する.さらに,法線マップを補間する場合にはサンプルの法線マップの対応が重要である.このために,特徴点および特徴線を用いてサンプル形状の対応付けを精密に行う方法を提案した。以上により,法線マップ補間を用いない方法と比較して,10倍以上の高速な変形の表示が可能となった. 5.まとめ 事例ベースのキャラクタの変形方法として,DLB法と形状補間を用いた方法を提案した.また,DLB法に対して拡大縮小を扱えるように拡張した。さらに事例べースの変形方法として少数のサンプル形状から自然な変形が実現できるWPSD法を提案した. WPSD法に対して,法線マッピングの補間を用いることで,視覚的には遜色のない変形を高速に表示する方法を示した.さらにWPSD法に用いる高精度のサンプルを得るために, CT画像を用いる方法を提案した. 図1SSD法とDLBNT法(提案法)の比較 図2CT画像の例 図3CT画像から再構成した手の皮膚形状と骨格形状 図4 手のスケルトンモデル 図5 関節位置の算出方法 図6 関節位置の推定結果 図7 形状補間結果 図8 WPSD法による変形結果 図9 変形方法の比較 | |
審査要旨 | 本論文は、コンピュータアニメーションにおけるキャラクタの変形方法について事例ベースの方法を提案している。本論文は6章から成り立っており、第1章は本論文のテーマである、コンピュータアニメーションにおけるキャラクタの変形方法に関する背景および目的が述べられている。第2章では、キャラクタの変形方法に関する従来手法の紹介がなされている。第3章では、双対四元数補間法を拡張し,拡大縮小を可能とする方法を提案している。さらに双対四元数補間法を用いた事例ベースの変形方法を提案している。第4章では、複数姿勢のCT画像から手の変形モデルを生成する方法について述べられている。さらに、比較的少数のサンプル形状から、自然な変形が得られる方法を提案している。第5章では、法線マップ補間を用いた高速な変形の表示方法を提案している。最後に第6章において、本研究のまとめと今後の課題について述べられている。以下で各章の内容について述べる。 コンピュータグラフィックスの分野において、人間や架空の動物などを表現するキャラクタアニメーションは重要な課題である。本論文では、特にキャラクタの変形に関して論じている。キャラクタ変形のモデル化には、アニメータによる対話的な指定や、筋肉変形シミュレーションなど様々な方法がある。さらに、近年の計測技術の進歩に伴い人体などの詳細形状を計測することが可能となっている。そこで、本論文では上記の方法によって得られた様々な姿勢における形状データを入力とする事例ベースのキャラクタの変形方法を提案している。 第3章では、双対四元数補間法を用いたキャラクタの変形方法について述べられている。本論文で提案する変形方法は様々な姿勢におけるサンプル形状から、アニメーション中の目標姿勢の形状を求めるものである。提案法はスケルトンを用いた幾何変形と、サンプル形状の補間を融合したものである。先行技術であるPSD法(Pose Space Deformation)は、スケルトンを用いた変形にはSSD法(Skeletal Subspace Deformation)を用いていた。しかしSSD法には、関節部分で形状がつぶれるなどの問題があった。このため、PSD法においても変形が不自然になるという問題があった。そこで、 PSD法におけるスケルトンベースの変形として、新たに双対四元数補間法(dual quaternion linear blending:以下DLB法)を用いる方法を提案している。 DLB法を用 いることにより変形がより自然になることが確認されている。しかしながら、DLB法は剛体変換だけを扱い、拡大と縮小を扱えないという問題があった。このため、DLB法を、拡大・縮小が扱えるように拡張するDBNT(Dual quaternion Linear Blending with Non-rigid Transformation)法を提案している。 第4章では、医用画像(CT画像)を用いた事例ベースの「手」の変形モデルについて述べている。提案法では複数姿勢における手のCT画像を撮影する。複数の姿勢における骨格形状を比較することで、関節位置の推定を行っている。さらに、複数姿勢の手の表面形状に対して対応付けを行うことで、事例ベースの変形方法のサンプル形状を得ている。得られた表面形状をPSD法を用いて変形することで、手の自然な変形が可能となっている。さらに、本章では、比較的少数のサンプルを用いた場合にも自然な変形が得られるWPSD法(Weighted Pose Space Deformation)を提案している。 第5章では、WPSD法によるキャラクタの変形を高速に表示する方法について述べられている。WPSD法は各頂点において形状補間の重みを求めるために計算量が大きいという問題がある。この問題を解決するために、法線マッピングを用いた高速な変形の表示方法を提案している。WPSD法に法線マッピングを適用するために、 WPSD法で形状を補間すると同時に法線マップを補間する。さらに、特徴点および特徴線を用いてサンプル形状の対応付けを精密に行っている。以上により、法線マップ補間を用いない方法と比較して、10倍以上の高速な変形の表示が可能となっている。 なお、本論文第3章、第5章は東京大学の西田友是教授との共同研究、第4章、第5章は産業技術総合研究所の宮田なつき氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって開発、分析、検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク |