学位論文要旨



No 125011
著者(漢字) 玉原,正之
著者(英字) Tamahara,Masayuki
著者(カナ) タマハラ,マサユキ
標題(和) 三波川変成岩のシールドクラック様式とプレート境界の流体・変形結合
標題(洋) Mode of sealed-cracks in the Sanbagawa metamorphic rocks and fluid-deformation coupling in the plate boundary
報告番号 125011
報告番号 甲25011
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第429号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 複雑理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鳥海,光弘
 東京大学 教授 斉木,幸一朗
 東京大学 教授 岡田,真人
 東京大学 准教授 佐々木,岳彦
 東京大学 准教授 杉田,精司
内容要旨 要旨を表示する

1はじめに

プレート境界の力学結合は、近年の地震波トモグラフィー等の地球内部探査の発展により、空間時間的に不均質構造であることが分かっている。縦波と横波の速度とその比から、不均質分布はもともとの幾何学的な凹凸ではなく、流体で満たされたクラックによると推定されている。そのような高密度のクラックと流体を可能にするシナリオとしては、脱水変成反応で生じた水の高圧破砕岩体への流入が考えられる。

過去の沈み込み帯であった変成岩を見ても、不均質性の由来は、特に続成・変成作用領域以深では、岩石体に含まれるクラックと考えるのが自然である。地下でのクラックは圧縮応力下で差応力も小さいため、流体を内部に含んだ形でしか存在しえない。流体を含むクラックは、強度や浸透率などに強い不均質性を与える。したがって、その物理化石である鉱化したシールドクラックの諸特性を直接測定することによって、不均質分布の時空間構造は推定できる。それによって、不均質構造のシミュレイション的理解も可能になる。このためフィールドにおいて方位やサイズの分布、内部構造を調査し、力学結合との関係を研究することは重要である。

2地質概説とシールドクラックの記載

ここでは、研究の対象を高圧型変成帯である三波川変成帯の関東山地長瀞地域に見られるシールドクラックとする(図1.(a)(b))。また、主に泥質-砂質片岩に含まれるものとする。

シールドクラックは鉱物脈とも言い、地殻浅部~ 上部マントルにまで幅広く存在する。地下では圧縮応力のため、クラックが開口(モード)、成長するには内部から押し返す媒体が必要である。シールドクラックの存在はそれが水であったことを強く示唆している。シールドクラックの生成-成長メカニズムは、岩石の変形や破壊と溶液からの鉱物の析出が結合した系である。その履歴を読み解くには、両者の影響を考慮しなければならない。

シールドクラックの集団を扱う上で幅(厚さ)や長さや間隔の頻度分布がよく用いられる。たいていべき分布(power-law)になり[2]、そのときの指数Dは正のフィードバックの強さを表す数値とされる[3]。つまり、シールドクラックはクラスタリング構造をとる。Dは生成-成長メカニズムを反映したものである。シールドクラックの微細組織もまた、それを反映しているのと考えられる。

関東山地では多くの場所で片理面の傾斜は緩やかで、それが広く露出した路頭が存在する(図2(a))。その面上でのシールドクラックの方位はどの場所でもほぼそろっている(図2(b))。

存在するシールドクラックの走向は大きく分けて2つのグループに分けられる。一つは片理面と低角かほぼ平行の、もう一つは片理面と高角をなすグループである。前者の多くは片理面と共に後者に切られる関係にある。また、前者の微細組織の多くは変形を受けた証拠を示し、後者の多くは平滑な開口面をもつ。したがって、前者は変成作用の時期又はその前に生じたと考えられる。後者はその後の段階で生じたものなので、沈み込んで変成した岩石が上昇、冷却する時期に生成したと考えられる。実際、この地域のシールドクラック内の流体包有物の均質化温度から推定される形成温度は140.180℃ で、変成岩の上昇に伴って形成されたであろうと報告されている[4]。

片理面と高角をなすシールドクラックの微細組織について、まず形態的特徴として、幅が小さい(多くは1mm以下)とstretched(fibrous)で、大きくなるほどelongate biocky(syntaxial growth competition)やblockyの ものが多数を占めた(図3(a),(b))。微細組織を形成する要因はさまざまであるが、一つのシールドクラック内でも組織がこのように変化することから、幅の大きさが組織や鉱物の形状を決める第-の要因だと考えられる。また、シールドクラックの壁付近はわずかにstretchedな粒だが、中央近辺はelongate blocky~blockyな組織もよく見られた。構成鉱物は、石英以外にも、斜長石(アルバイト)、方解石、緑泥石、緑廉石、カリ長石等が見られた。ほとんどアルバイトや方解石で構成されたのも存在した。シールドクラック内にクラックシールメカニズムを表す固体包有物は見られなかった同。シールドクラック内のシールドクラックの方位分布の例(ざくろ石帯の矢那瀬)。片理面の傾斜は緩やか(5~100以内)

石英の粒径は、幅が小さくてstretched組織だと、長径は幅と同じで短径は0.05-0.1mmが多数を占めた。幅が大きくなってelongate-blocky組織になると、粒径分布は正規分布、もしくは対数正規分布を示した(図3(c))。ただし、他の構成鉱物の有無に関わらず、石英が主要鉱物である場合に一律に測ったものである。いくつかの場所での結果をまとめると、シールドクラック内での石英の長径は幅と共に増加し、幅とほぼ線形の関係をもつ(図3(d))。上限は分からないが、幅10mmを超えるような範囲まで同じ関係を維持する。この関係はシールドクラックの繰り返し成長の結果だと解釈できるが、その開口速度は明らかでない。また、この関係の変成度による変化は非常に小さいが、傾きの折れ曲がりが出る幅の値に少しの差が存在した。この折れ曲がりが、stretched組織からelongate-blocky、さらにはblocky組織への変化でもある。微細組織の違いは物質輸送モード(主に壁からの拡散と外部からの移流)の違いで説明される[4]。微細組織の違いの統一的な説明は、まだ部分的になされている段階だが、elongate-blocky組織までは鉱物の成長速度が開口速度より速い場合として主にシミュレイションで、blocky組織は開口している状況を想定した場合の高過飽和度の移流実験で再現されている。そこでも、開口幅の増加と共に、拡散から移流が主要なモードになると考えられている。

シールドクラック内の鉱物の化学組成は、壁に比べてアルバイトのCa量と緑泥石のMn量が多い(図4(a),(b))。そういう元素でもシリカでも、壁側に顕著な枯渇帯(depletion zone)は見られなかった。このことから特に幅広のシールドクラック内の鉱物は、より高温で周囲の岩石と平衡にある流体が外部から流入し、析出したものと考えられる。また、アルバイトの中にもCaが多い部分と少ない部分が壁と平行に存在するので、既にクラックがあって開口している部分を流体が選択的に通過することも示唆される。以上のことから、シールドクラックの繰り返し成長は、流体と破壊の正のフィードバック機構であると考えられる。

3方法

以上のことを踏まえ、関東山地の荒川流域の変成度の異なる幾つかの地点で、片理面と高角をなす石英シールドクラックの密集域を選び、幅(厚さ)、長さ、アスペクト比、間隔の分布を調べ、シールドクラックの生成-成長メカニズムが変成度の異なる地点でどのように違ったのかを比較し、結果を考察することで、クラスタリングや流体の正のフィードバックの詳細を明らかにする。

4結果

すべての地点で、測定したシールドクラックの幅と長さとアスペクト比の頻度分布は、適度な刻み幅をとるとどれも対数正規分布によく合った。しかし、積算分布での直線性も考慮して、ここでは本質的にべき乗則に従うと考えた。分布の特徴づけは、その積算分布の両対数軸上での傾き(D-値)で行った。べき乗則に従う範囲は、なるべく多くのデータを含み、相関係数が極大となるという基準で決定した(図5(a))。代表的な場所での値を表1に示す。場所ごとに変動するが、zoneIIでD-値は大きな値をとる(図5(b))。

幅と長さのD-値を比較すると正の相関が見られる(図5(c))。これはシールドクラック形成の正のフィードバック機構が、幅と長さの両方に現れていることを示している。シールドクラックの間隔の特徴づけは測線(1-D)上のフラクタル次元で行った。基準は幅と長さと同様である。これも場所ごとに変動するが、幅の指数と比較すると、負の相関が見られる(図5(d))。フラクタル次元が小さいほどクラスタリングしているため、クラスタリングは流体の正のフィードバック機構と同時に現れることを示している。流体がクラックを作りながら流れている強い証拠である。幅と長さの関係(形状)も両対数軸上でW=kLm(kは定数)のm-値によって特徴づける(図5(f))。赤い線はアスペクト比データの中心50パーセントで当てはめたものである。分布の代表値を選ぶために、測定の誤りがあり得たことなども考慮して、m-値の決定はこの区間のデータによって行った。m-値はクラックのクラスタリングや流体のフィードバックにはあまり関係せず、zoneIIIで増加する傾向がある(図5(f))。つまり、高変成度を示す岩石では、シールドクラックの長さが短くなり、幅は大きくなる。これは[2]と同様の傾向である。各地点の測定結果を表1に示す。アスペクト比の値はm値を決めた範囲、幅と長さの()はD値を決めた範囲、数密度は定性的な値、-は不明を表す。

数密度は低変成度を示す岩石ほど多かった。塩基性片岩でも何ヶ所か測定した結果は近くの泥質片岩での値より間隔がクラスタリングしてないにも関わらず、D-値は大きかった。

5モデル

流体を含むクラックは、流体の正のフィードバックやクラスタリングによって成長すると考えられる。そのようなモデルには、流体がクラック(空孔と考える)を作りながら圧力差で駆動される水理学的輸送モデルがある[6]。基礎方程式は質量保存則

と運動量保存則

である。ここでρwは流体(水)の密度、φ は流体で満たされたクラックによる空隙率、Rは湧き出し項、Pは流体にかかる(換算)圧力である。方程式の基本形は、φの大きい場所ほどυが小さくなる非線形の移流方程式である。未知量はφ とvと-Pなので、解くにはもう1つPとφ の構成方程式が必要となる。本来は多孔質体のREVにかかる応力と歪みから求まるものだが、ここでは流体が集まるメカニズムを取り入れるため、φが大きいほど.Pが急激に減少する関数をtanhの関数形で与えた。実際、φが大きくなってクラック同士が連結を始めると、Pは減少すると考えられる。計算の条件は、格子をスタガードセルで構成し、初期条件を基準値からのφ の振動とゆっくりとしたυ として与え、境界からも同じ程度に振動するフラックスが流入し、反対側の境界から抜けていくとした。運動量の拡散は式に入れていないが、計算による数値拡散に含まれるとした。計算の結果は、圧力が急激に変化する場所があると、移流によるものよりも格段に短い時間で、流体のクラスタリングが生じ、局所的にφの大きい場所とφが0に近づく領域ができる。1次元の場合、その場所と前方にφのピークができ、その間のφ は非常に小さくなる(図6(a))。ピークの進む速さはその大きさに比例して小さい。ピーク間の距離はピークの大きさや他の場所のφによって近づくことも広がることもある。数ヶ所で同時にクラスタリングが起きている場合は複雑で、各ピークが合体したり、成長・減衰したりする(図6(b))。

6議論

シールドクラックの幅、長さ、間隔の統計分布はべき分布に従う。また、それらの指数間には相関がある。一般に、べき分布形は一定の生成率+一定の成長率(ΔL=βL,β は個々の要素の成長に関する正のフィードバックの大きさで、その数値が大きいとべき指数Dは小さくなる)の確率過程(集団の中のいくつかが確率的に選ばれて成長消滅)で再現可能である。したがって、シールドクラック形成に関する流体と破壊の正のフィードバック機構とクラスタリングを示している。しかし、クラックに関してはべき指数Dが大きい方がクラスタリングは大きいと考えられる。なぜなら、大きく開口したクラックが流体を集めるほど、その流体によって周囲にクラックが生成するからである。これはdamage zoneまたはdamage mechanicsと呼ばれる。火山活動に伴う地震群、岩石破壊実験のAE等において同様のメカニズムがあることが知られている。そこでは、地震(破壊)の空間的なクラスタリングと同時に小さい破壊が増えてb-値(断層長さのD-値に比例)が上昇する。

図5(f)と表1に示したように、変成度が増加するとW=kLmのべき指数mは増加する。また、クラスタリングはクラックの形状にあまり影響しない。線形破壊力学での最大開口しているクラックの形状はで表肱ωは開口幅、Lは長さ、K(IC)は物質の強度、υはボアソン比、Eはヤング率である。つまり、ω=A(岩石の物性)×L(0.5)である。一回の破壊による開口幅はstretched組織で見られる鉱物脈の壁に平行な固体包有物列の間隔から10μm程度と報告されている[5]。どの場所でもmは0.5より大きいので、シールドクラックの成長と共に幅を増していったと考えられる。変成度(温度)が増すほどmの値が大きくなるのは、温度によって結晶成長速度の増加、岩石の物性が変化したこと(特に実効的な強度の増加)によるクラックの幅広化、それによるβ の増加(数密度が小さいので個々のクラックの移流が活発)が考えられる。つまり、1つのクラックへの流体の集中(β)と周囲の岩石の割れにくさ(KIC)のバランスである。これによって、zoneIから変成度の上昇と共にzoneII(ざくろ石帯)でシールドクラックのクラスタリング最大となり、zoneIII(黒雲母帯)になると数密度と共にそれが減少するのも説明できる。ただし、変成岩が上昇時にその温度構造をある程度保持していることが前提である。プレート境界のb-値も定性的には深さと共に増加する国。

温度や岩石の物性の変化がクラックのクラスタリングに及ぼす影響は大きいが、それがなくてもクラスタリングと不均質分布は存在する(図5(b))。モデルはこれを想定したものである。モデルでは圧力変動が生じれば、直ちにクラックが集中する狭い領域とその周りのクラックがほとんどない領域に分離する。クラックが集中し、流体が多く含まれる領域は移流速度が遅くなるので、長時間そのままであり続ける。その間にも周りの流体を集める。こういう正のフィードバックがあるならば、クラックは長期間開き続けることが可能で、定常的な不均質分布が存在することが可能である。もちろん、ゆっくりとではあるがそれは変動する。モデルによるクラックの少ない領域の速度は200℃ で1.7×10(-6)[m/s]程度であり、クラックの多い領域ではこの1/10にまで遅くなる。

同じ深さや均質なプレート境界にも、アスペリティとゆっくりすべり域の不均質性が存在する。これまではサイスミックカップリングとアスペリティの大きさの程度の違いで説明され、なぜそれが生じるかは十分に明らかではなかった。モデルからはそれが流体とクラックの存在パターンの違いであることが示唆される。これは近年の地震波トモグラフィーによる知見と一致している。しかし、流体はプレート境界の速度よりは速く動くので、その構造は時間空間的に変動しうる。温度による対流の効果を入れれば、より動的な動きを見せると思われる。局所的に強度の大きい構造が存在すれば、クラックを多く含むことができるので、そこが相対的に動かない固着域となり、地震時にstick-slip的に動くことも理解できる。

7結論

高圧型沈み込み変成帯である三波川変成帯関東山地において、片理面を高角に切るシールドクラックの様式を調査した。組織はシールドクラックの繰り返し破壊と移流による流体移動の証拠を示す。温度によるクラックの形状の違いが存在する。サイズ分布はどの地点でもべき分布によく当てはまり、流体の正のフィードバックとクラスタリングによる局所化の機構を示している。モデルによれば、比較的大きな圧力差があればそのような不均質分布が生じる。それを可能にするのはクラックの連結である。プレート境界にアスペリティ構造を作る流体とクラックの不均質分布も存在パターンの違いとして理解できる。

[1] M. Hashimoto, M. Tagiri, K. Kusakabe, K. Masuda, and T. Yano, 1992, Geologic structure formed by tectonic stacking of sliced layers in the Sanbagawa metamorphic terrain, Kodama-Nagatoro area, Kanto Mountains, The Journal of The Geological Society of Japan, 98, 953-965.[2] M. Toriumi, and E. Hara, 1995, Crack geometries and deformation by the crack-seal mechanism in the Sambagawa metamorphic belt. Tectonophysics, 245, 249-261.[3] Clark M.B., Brantley S.L., and Fisher D.M., 1995, Power-law vein thickness distributions and positive feedback in vein growth. Geology, 23, 975-978.[4] A. Okamoto, T. Kikuchi, and N. Tsuchiya, 2008, Mineral distribution within polymineralic veins in the Sanbagawa belt, Japan: implications for mass transfer during vein formation. Contribution to Mineralogy and Petrology, 156, 323-336.[5] Ramsay, J.G., 1980, The crack-seal mechanism of rock deformation. Nature, 284, 135-139.[6] M. Toriumi and H. Yamaguchi, 2000, Dehydration and the Mechanics of Metamorphic Belts, Journal of Geography,109, 600-613.[7] Hirose F., Nakamura A., and A. Hasegawa, 2002, bvalue variation associated with the rupture of asperities-spatial and temporal distributions of b-value east off NE Japan, Zisin, 55, 249-260.

図1.(a)三波川変成帯の分布(b)関東山地の変成分帯[1]

図2.(a)片理面を切るシールドクラック(b)片理面を高角に切るシールドクラックの方位分布の例(ざくろ石帯の矢那瀬)。片理面の傾斜は緩やか(5~100以内)

図3.シールドクラックの微細組織の例(a)長瀞(緑泥石帯)の幅1mm以下.stretched組織(b)白鳥橋(ざくろ石帯)の幅5.5mm.blocky組織(c)図3(b)の石英の粒径分布,(d)鉱物脈の幅と石英粒径の関係

図4.EPMA表面組成マッピングの例(a)シールドクラック内のアルバイトにCaが多い(b)シールドクラック内の緑泥石にMnが多い

図5.シールドクラックの統計分布(a)白鳥橋での幅の分布(D=1.66)(b)場所ごとの幅のD-値(c)幅と長さのD-値の比較(d)幅と間隔の指数の比較(e)白鳥橋での幅と長さの関係(f)幅と形状の指数の比較

図6.1次元での計算結果色の違いは時間の違い.(a)1ヶ所でクラスタリングが起きた場合(b)数ヶ所で同時にクラスタリングが起きた場合

表1:各蜘点でのシールドクラックの分布の特徴値

審査要旨 要旨を表示する

本論文は5章から構成されていて、第一章はイントロダクションであり、プレート境界の特徴であるアスペリティと力学的な不均質さに対する最近の総論を示し、不均質さが流体の体積比と関係付けられること、そして流体の存在様式がミクロにはクラックとなり、その挙動が力学物性を決定していることを述べ、そのため、本研究ではおもにプレート境界に由来する三波川変成岩に多数見られるシールドクラックを研究した。第二章では関東山地の三波川変成帯の位置づけ、および地質構造、変成作用の年代、そして変成岩の岩石学的特長が論じられる。第三章では、関東山地長瀞地域における三波川変成岩のシールドクラックの特徴量について詳細な測定と分布に関する情報を取得し、記載した。この結果、中間的な部分では顕著なべき分布であることを示した。また、シールドクラックを占めている鉱物について、岩石学的に記載し、さらにその鉱物粒子径がクラック幅に比例する関係を明らかにした。そして、クラックの方位はほぼ2方向あり、そのクラック面に高角で交わるセン断面との関係を明らかにした。クラックの空間分布は顕著なクラスター構造をとり、その拡がりは幅10m-100m、長さ100-10000mに達することを示した。これらのシールドクラックに関する記載的研究はオリジナリティが高い。

第四章では以上の観測事実に基づいて、開口クラックとセン断クラックの複合クラックモデルを適用し、セン断面にセン断クラックを定置し、その両側に開口クラックをつくることによって、観測されるシールドクラックが説明されることをしめした。また、このモデルを適用すると、シールドクラックの統計量からセン断クラックの統計量に転換することができて、プレート境界での地震統計量との直接比較が可能となる。そこでセン断クラックの大きさの統計量の空間分布を推定し、それが地震観測結果との比較から適当なものであることを確認した。

また、開口クラックが流体の有効な経路となることから、流体移動とクラック形成を連結させた非線形クラック発展方程式を導き、これを数値実験した結果、顕著なクラック密度の孤立波解が見つけられた。これはクラッククラスターを意味しており、この研究で得られたシールドクラッククラスターを説明できるものであることが分かった。これらの研究成果はオリジナリティが高く評価される。

第五章では以上のことを総合的に妥当なものと結論した。

したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/32656