学位論文要旨



No 125032
著者(漢字) 福田,江里
著者(英字) Fukuda,Eri
著者(カナ) フクダ,エリ
標題(和) エピジェネティックなゲノムメチル化システムに対する細胞死型防御戦略 : メチル化DNAエンドヌクレアーゼの新たな役割
標題(洋) Cell death strategy in fight against epigenetic genome methylation systems : a novel function of methyl-specific deoxyribonucleases
報告番号 125032
報告番号 甲25032
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第450号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 メディカルゲノム専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,一三
 東京大学 教授 渡邉,俊樹
 東京大学 教授 菅野,純夫
 東京大学 教授 正井,久雄
 東京大学 准教授 中川,一路
内容要旨 要旨を表示する

近年、ゲノムに対するエピジェネティックな変化が生命活動の様々なプロセスにおいて、非常に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。特に、DNAのメチル化は、遺伝子発現の制御に影響を与えている。原核生物では、DNAメチル化システムが遺伝子発現を劇的に変化させることが知られている。DNAメチル化システムは、ゲノム間を頻繁に動き、原核生物のゲノムを潜在的な脅威にさらしている。

大腸菌ゲノムのmcrBC遺伝子産物は、二つのRmC (R=A or G)配列を認識してその間でDNAを切断することが知られており、「T4のような修飾塩基を持つファージに対する防御機構」と考えられてきた。このMcrBCが仮説のように防御機構として維持されてきたならば、McrBCホモログの分布もそれと相関関係があると考えられる。しかしながら、現在、報告のあるシトシンがメチル化修飾されたファージは、XanthomonasやHalobacteriumに感染するファージなどである。それに対し、論文提出者が共同研究者と共に行った解析では、200以上の菌種からMcrBCホモログが同定された。このことより、本研究では、McrBCは、メチル化システムの感染に対する防御機構という新しい仮説を立て、実験とゲノムインフォマティクス解析という二つのアプローチから仮説の検証を行った。

まずMcrBCによるメチル化システムの細胞への樹立の阻害の効果を定量的に解析し、メチル化した配列がMcrBCにより認識されるPvuIIメチル化酵素遺伝子の樹立が、非常に厳しく阻害されることを示した。さらに、メチル化酵素遺伝子を持つファージの感染実験においても、このファージの増殖の厳しい阻害を示し、感染に伴う宿主の染色体切断を発見した。以上の結果は、メチル化酵素遺伝子が侵入すると、宿主ゲノムのメチル化が起き、それをMcrBCが察知し、攻撃していることを示す。

次に、このMcrBCによる制限の過程を詳細に観察するために、誘導型PvuII修飾酵素発現系を構築した。この系により、ゲノムのメチル化、染色体切断、細胞死の相関を示した。また、染色体切断の過程への宿主の組換え修復機構の影響を調べ、各変異体に固有の染色体切断のパターンの変化を検出することに成功した。SOS応答の役割について変異体を用いて検討した。さらに、4つのメチル化酵素について、McrBCの効果を検討し、その一般性と配列特異性を示した。

後半では、PSI-Blastを用いて、McrBCシステムのホモログを多数同定し、McrBCホモログの広範囲な分布を示した。また、ホモログ間の比較により、McrBCシステムの認識配列の多様性の可能性を提示した。McrBCホモログのゲノム・コンテキスト解析により、McrBCホモログが可動性因子(制限修飾系やインテグレース、トランスポゾンなど)の近傍に多く存在することを明らかにした。

さらに、ワード頻度に基づく方法で、mcrBCホモログの遠縁からの水平伝達が比較的最近起きた場合が1/3に上ることを示した。また、mcrBCホモログがゲノムから失われやすいことを示した。

以上、本研究は、「McrBCはエピジェネティックな染色体メチル化に対する細胞死型防御機構」という仮説を実験およびゲノムインフォマティクス解析により検証した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、エピジェネティックなメチル化に対する細胞死を、実験的解析およびゲノムインフォマティクス的解析から検証している。

近年、ゲノムに対するエピジェネティックな変化が生命活動の様々なプロセスにおいて、非常に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。特に、DNAのメチル化は、遺伝子発現の制御に影響を与えている。原核生物では、DNAメチル化システムが遺伝子発現を劇的に変化させることが知られている。DNAメチル化システムは、ゲノム間を頻繁に動き、原核生物のゲノムを潜在的な脅威にさらしている。

大腸菌ゲノムのmcrBC遺伝子産物は、二つのRmC(R=A or G)配列を認識してその間でDNAを切断することが知られており、「T4のような修飾塩基を持つファージに対する防御機構」と考えられてきた。このMcrBCが仮説のように防御機構として維持されてきたならば、McrBCホモログの分布もそれと相関関係があると考えられる。しかしながら、現在、報告のあるシトシンがメチル化修飾されたファージは、XanthomonasやHalobacteriumに感染するファージなどである。それに対し、論文提出者が共同研究者と共に行った解析では、200以上の菌種からMcrBCホモログが同定された。このことより、論文提出者は、McrBCは、メチル化システムの感染に対する防御機構という新しい仮説を立て、実験とゲノムインフォマティクス解析という二つのアプローチから仮説の検証を行った。

論文提出者は、まずMcrBCによるメチル化システムの細胞への樹立の阻害の効果を定量的に解析した。メチル化した配列がMcrBCにより認識されるPvuIIメチル化酵素遺伝子の樹立が、非常に厳しく阻害されることを示した。さらに、メチル化酵素遺伝子を持つファージの感染実験においても、このファージの増殖の厳しい阻害を示し、感染に伴う宿主の染色体切断を発見した。以上の結果は、メチル化酵素遺伝子が侵入すると、宿主ゲノムのメチル化が起き、それをMcrBCが察知し、攻撃していることを示す。

次に、論文提出者は、このMcrBCによる制限の過程を詳細に観察するために、誘導型PvuII修飾酵素発現系を構築した。この系により、ゲノムのメチル化、染色体切断、細胞死の相関を示した。また、染色体切断の過程への宿主の組換え修復機構の影響を調べ、各変異体に固有の染色体切断のパターンの変化を検出することに成功した。SOS応答の役割について変異体を用いて検討した。さらに、4つのメチル化酵素について、McrBCの効果を検討し、その一般性と配列特異性を示した。

本論文の後半では、PSI-Blastを用いて、McrBCシステムのホモログを多数同定し、McrBCホモログの広範囲な分布を示した。また、ホモログ間の比較により、McrBCシステムの認識配列の多様性の可能性を提示した。McrBCホモログのゲノム・コンテキスト解析により、McrBCホモログが可動性因子(制限修飾系やインテグレース、トランスポゾンなど)の近傍に多く存在することを明らかにした。

さらに、ワード頻度に基づく方法で、mcrBCホモログの遠縁からの水平伝達が比較的最近起きた場合が1/3に上ることを示した。また、mcrBCホモログがゲノムから失われやすいことを示した。

以上、論文提出者は、「McrBCはエピジェネティックな染色体メチル化に対する細胞死型防御機構」という仮説を実験およびゲノムインフォマティクス解析により検証した。

なお、本論文の実験的解析は論文提出者が行った。ゲノインフォマティクス解析は、論文提出者が行った解析をJanusz M.BujnickiとKatarzyna H.Kaminska(International Institute of Molecular and Cell Biology,Poland)との共同研究により、発展させたものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/32660