学位論文要旨



No 125063
著者(漢字) 山成,素子
著者(英字)
著者(カナ) ヤマナリ,モトコ
標題(和) 住民意識を考慮した一般廃棄物処理計画の立案方法に関する研究
標題(洋) Study on Planning Method of Municipal Solid Waste Management Considering Public Preferences
報告番号 125063
報告番号 甲25063
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第481号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 環境システム学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 島田,荘平
 東京大学 教授 松橋,隆治
 東京大学 教授 森口,祐一
 東京大学 准教授 阿久津,好明
 東京大学 准教授 吉田,好邦
内容要旨 要旨を表示する

1. 序論

一般廃棄物を取り巻く要因は多側面に渡っており、例えば、発生抑制、リサイクル、適正処理のための廃棄物管理、廃棄物処理に伴う環境への影響(GHG排出、水質汚染、土壌汚染)、最終処分場の逼迫等がある。さらにはNIMBY(Not In My Back Yard)問題や合意形成などの住民意識が関係しており、近年では環境問題のひとつとしてごみ問題に対する住民意識が高まりつつある。そのためにも多側面の影響を総合評価して公共的な意思決定へ反映ができる評価方法が必要となる。そこで本研究では、住民意識を考慮した一般廃棄物処理計画を策定するために、一般廃棄物の処理モデルを構築し、定量的な評価を行った住民選好を加えることで、処理対策が及ぼす影響を多側面から評価した。多側面に及ぶ影響を統合的に評価することで、行政・自治体と住民の双方にとって最適な処理計画の立案方法の提案を目的とした。

2. 評価手順と評価方法

本研究の評価手順について説明する。まず評価対象の設定を行い、その対象地域において評価する範囲と評価項目を設定した。評価範囲は、建設→収集→処理を考慮し、評価項目に関しては、経済面、環境面、社会面など住民が考慮する一般廃棄物処理施設が及ぼす影響をアンケート調査し、評価項目の抽出を行った。次に、建設、収集、処理のデータの整理を行い、一般廃棄物処理モデルを構築した。『施設配置問題』と『輸送計画問題』をあわせた混合整数計画問題を用いた。続いて、抽出した評価項目に対する住民の便益をコンジョイント分析により換算した。コンジョイント分析で得られた効用関数を元に、それを一般廃棄物処理システムの項目に対応させることで、住民意識を考慮した一般廃棄物最適化モデルを作成した。そして最後に行政・自治体案としてコスト最小化、住民案として住民効用最大化を目的関数とし得られた処理計画と現状とを比較することで統合的な評価を行った。

3. 対象地域の設定

対象地域は石川県とした。石川県の19市町村では現在、RDF製造施設が4施設と焼却施設が11施設稼働中である。石川県における一般廃棄物の発生量は約375千t/年である(平成17年度)。

4. 評価項目と評価範囲の設定

評価項目は住民に対してアンケート調査を行い、その集計結果より抽出した。アンケート調査は、2006年10月30日から11月20日の期間で行い、800件の一般家庭にアンケートを郵送した。設問は2つで、設問1では施設が備える機能に対する住民の選好についての質問をした。設問2では処理施設の建設場所の条件や環境に対する住民の選好を質問した。回答件数は189件(回収率:23.6%)であった。アンケートの結果、選択が多かった項目を中心に整理した。その結果、「経済性」「二酸化炭素排出量」「立地場所の人口密度」「地域汚染影響」「地元還元」の抽出を行い、これに最終処分場のことを考慮して、「埋立量」を加えて6項目とした。

5. 一般廃棄物処理モデルの構築

一般廃棄物処理モデルは、混合整数計画問題を用いるため、建設・収集・処理に関しての設定を行った。また入力情報としては、石川県の各市町村における実際のごみ量・ごみ組成に基づき設定した。

収集の設定

各市町村からの排出源は市役所・町村役場とした。つまり家庭ごみは一度市役所・町村役場に収集され、その後処理施設に運搬するという方法で運ばれるものとする。市町村ごとの延べ走行距離dc [km]については,石川県北部地域の8市町村から得られたデータにより解析を行なった。文献1)より各市町村の人口p[人]と可住地面積S[km2]の平方根との積と延べ走行距離に関係性があると仮定し、pSに対して延べ走行距離が対数的に増加する式(1)を得た(決定係数0.9392)。pdc延べ走行距離:ds=8316Ln(pc)-828921 式(1)

また各市町村や中継施設から処理施設までの運搬距離は,市役所・町村役場から処理施設までの地図上の直線距離を算出し、さらに直線距離を道路距離に変換するため文献2)を参考に1.2倍した。燃費はヒアリングより、収集3km/l、運搬4.3km/lであったのでこの値を用いた。

建設・処理の設定

本モデルで使用した処理施設は、ガス化溶融炉、ストーカ炉、RDF製造施設、RDF専焼炉、堆肥化施設である。本モデルは文献3)4)を参考にコスト、二酸化炭素について整理した。コストに関しては,建設費,人件費,電力費,燃料費,整備補修費について考慮している。処理パターンは(1)焼却施設(ガス化溶融炉orストーカ炉)のみ、(2)RDF製造施設+RDF専焼炉、(3)堆肥化施設+焼却施設(ガス化溶融炉)の3つとした。

6. コンジョイント分析による住民選好の評価

環境評価手法の一つである選択型コンジョイント分析を用いて処理施設に対する住民選好を調査した。評価項目の設定で抽出した「二酸化炭素排出量」「地域汚染影響」「埋立量」「地元還元」「処理施設周辺の人口密度」の項目についてTable1のように水準を設定した。

次に直交配列表を用い、Table1の属性・水準を当てはめて、25通りのプロファイルを作成した。この中で矛盾するプロファイルが1つあったためそれを取り除き24個のプロファイルをアンケート調査に使用した。これらのプロファイルから無作為に3つのプロファイルを抽出し、一つの質問を作成した。そして回答者には3つの計画案(プロファイル)の中から最も望ましい案を選択するよう質問を行った。2008年1月24日に1000件の一般家庭に郵送し、2008年2月11日を締め切りとする18日間で実施した。回答件数は256件(回収率:26.26%)であった。

選択型コンジョイントは、条件付ロジットによって推定を行う。回答者はランダム効用関数を持つものと仮定している。Table2に推定結果を示す。

7. 統合的評価

一般廃棄物処理計画の立案の際に、住民選好を考慮し、定量的な評価を行うことができるように効用関数を分析ツールとして用いる。効用関数は下記の式で表される。

V=0.96Landfill+ 10.18CO2 -0.62Population-0.43Pollution-0.19Cost +0.53Hot_Pool+ 0.35Hot_Bath

地域汚染影響(Pollution)は土地利用メッシュにより1メッシュのうち農地面積が占める割合を使用した。特別税(Cost)は年間システムコストを石川県全世帯数で割ることで各世帯の特別税とした。地元還元施設(Hot_Pool, Hot_Bath)は、石川県全処理量のうち地元還元施設のある焼却施設の処理量の割合とした。

8. 統合的評価

8.1. 現状

まず、現状システムについて一般廃棄物最適化モデルを用い、現状の処理コスト、二酸化炭素排出量、埋立量、さらに住民の効用値を算出した。Fig.1(左図)に現状の施設配置を示す。市町村の塗りつぶし模様により共同処理の範囲を表している。コスト147.6億円/年で収集・運搬が26%、ストーカ炉による焼却が45%、RDF製造・焼却が29%をしめていた。

8.2. コスト最小化(行政・自治体案)シミュレーションの結果

行政・自治体が望む案としてコスト最小化シミュレーションを行った。その結果をFig.2の左図に示す。コスト108.1億円/年、二酸化炭素排出量45.0千t/年、埋立量40.5千t/年となった。施設周辺の人口密度は923人/ km2となり、運搬効率の良い人口が密集した地域となった。石川県全体を3つの地域に分けた広域化処理となった。広域化はダイオキシン対策の点からも有効であるが、運搬費の増加、地域住民が複数市町村での共同処理に賛成するか、処理費用負担の公平化が課題として挙げられる。

8.3. 効用最大化(住民案)シミュレーションの結果

住民が望む案として効用最大化シミュレーションを行った。その結果をFig.1(右図)に示す。コスト122.5億円/年、二酸化炭素排出量38.0千t/年、埋立量42.7千t/年となった。処理パターンは分別処理となり、堆肥化施設とストーカ炉が選択された。施設周辺の人口密度は71人/ km2となり、住民が処理施設の影響を受ける人をできるだけ少なくしたいため、人口密度が低い場所に処理施設が設置されたと考えられる。結果としては堆肥化施設が選ばれたのだが、一般廃棄物から作られる堆肥には、堆肥の需給確保(品質への不安、季節変動)やごみ分別の徹底が困難などの問題点がある。したがって、堆肥化施設の導入は現実的には厳しいため、分別処理を除き再度住民効用最大としてシミュレーションを行った(Fig.2右図)。分別処理を除いた効用最大化の結果は、ストーカ炉による焼却で、処理施設数が合計2施設と広域処理となった。この結果はコスト最小時とほぼ同じ結果である。人口密度がコスト最小時と比べると低い場所に配置されていることが異なる点である(人口密度:38人/ km2)

8.4.既存の処理施設を利用した提案

以上の結果をふまえ、既存の処理施設を利用した処理計画の提案を行った。効用最大は、実際の稼動しやすさを考えて、分別処理を除いた効用最大の結果を用いた。

Fig.2に既存の施設を利用した場合の施設配置を示す。○で囲んだ施設を使用することとし、北部にあるガス化溶融炉は場所のみをそのまま利用してストーカ炉に変更した。その際の総コストは、約109.5億円/年、二酸化炭素排出量は44.9千t/年となり、既存の処理施設を使用することで現状よりもコスト26%、二酸化炭素排出量13%削減することが可能であることが分かった。

9. まとめ

本研究では、住民が一般廃棄物処理に対して環境・社会便益をどの程度重視しているのかを定量的に分析し、その分析結果を住民選好指標として処理モデルで用いることにより、従来のコストや環境負荷だけではなく、住民意識を考慮した処理計画の立案方法を提案した。自治体・政府が望む案と住民が望む案の双方とも広域化処理計画となった。広域化処理計画案を実行するためには、運搬効率の良い大規模集約化の処理形態なので、各市町村の共同処理が地域住民に受け入れられることと、組合をつくるなどして各自治体の費用負担の公平化を図ることが挙げられる。その他にも施設の安全性等の情報提供により処理施設への理解を深めてもらい処理施設への不安や疑問を減らすことで、住民合意を得られるような計画プロセスを行うこと、つまりは円滑な行政・自治体と住民とのコミュニケーションを行うことでより地域に最適な処理計画の実現が可能となる。

1)西村正志,大澤義明:ごみ焼却によって発生するダイオキシン類と収集車が出す排ガスに着目したごみ処理広域圏,第37回日本都市計画学会学術研究論文集(2002)2)シンポジウム資料「地域のバイオマス利活用推進に向けたチャレンジ」 農林水産バイオリサイクル研究「施設・システム化チーム」主催,2004年10月3)西村文香,2005年度岡山大学修士論文4)松藤敏彦, 都市ごみ処理システムの分析・計画・評価-マテリアルフロー・LCA計画プログラム-(技報堂)

Table1 属性と水準

Table2 推定結果

Fig.1 現在の施設配置(左図)と効用関数最大化時の施設配置(右図)

Fig.2 既存の施設を利用した場合の施設配置とコスト、二酸化炭素排出量

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、10章から構成されている。

第1章では、我が国での一般廃棄物の処理状況と日本が抱えている一般廃棄物の問題点についてまとめ、廃棄物処理構想計画の策定段階から住民の意見を取り入れ、住民の納得が得られた計画を策定することの重要性を述べている。その上で、本研究の目的を住民意識を考慮した一般廃棄物処理モデルの構築を行い、そのモデルを用いることで将来的に実現可能な処理計画の立案方法を提案することとしている。

第2章では、対象地域とした石川県の一般廃棄物処理状況について詳説している。石川県の処理形態は、ごみの排出量が多い南部地域は市町村単位での焼却処理を行っている。排出量が少ない北部地域では、広域処理としてRDF事業が導入されている。

第3章では、一般廃棄物処理に対する住民の意識調査を行っている。結果は、住民は一般廃棄物処理による地球環境・生活環境への影響を懸念しており、処理・収集コストなどの処理形態への関心は薄いことが分かった。以上により、住民の関心のある項目として「埋立量」、「CO2排出量」、「施設周辺の人口密度」、「地域汚染影響」、「地元還元」、「経済性」の項目にまとめている。

第4章では、一般廃棄物処理モデルで取り入れた混合整数計画問題について解説している。整数計画問題、施設配置問題について詳説し、実際に石川県を対象地域とした場合の最適化モデルの概要と目的関数、制約条件を示している。処理システムの種類として「焼却」「RDF」「堆肥化+焼却」の3つを設け、これに収集・運搬の設定を加えて、一般廃棄物処理モデルを構築している。

第5章では、石川県の一般廃棄物の特性、収集・運搬の算出方法、処理技術についてまとめている。収集・運搬の算出方法は、収集は各市町村内での回収のこととし、運搬とはその後の処理施設への移動とし、区別して算出している。また処理モデルで使用する処理方法のコスト、二酸化炭素排出量、埋立量についてまとめている。

第6章では、一般廃棄物処理に対する住民意識の構造について、先行研究を用いて解説し、本研究で用いるコンジョイント分析について述べている。本章では、直交配列表の作成方法、推定方法、限界支払意志額の算出方法について説明を行っている。

第7章では、選択型コンジョイント分析を用い一般廃棄物処理施設に関するアンケート調査を行い、推定結果を示している。第3章で整理した項目についてアンケートを行い、コンジョイント分析を行った結果、地元還元の地域冷暖房を除く属性において有意な結果が得られた。

第8章では、一般廃棄物処理モデルに住民効用の評価項目を加えることで、住民意識を考慮した一般廃棄物最適化モデルの構築を行っている。本研究ではコンジョイント分析で得られた効用関数を用いて住民選好を表現している。

第9章では、一般廃棄物最適化モデルを用いて、行政・自治体が望む案と住民が望む案を求め、現状と比較することで処理形態がどのように変化しているのか、また処理形態に影響を与えている項目は何なのかを明確にし、解決策・対応策を提示している。行政・自治体が望む案として目的関数をコスト最小にした場合の結果は、全体が3つのエリアに分かれた大規模集約化の混合処理焼却となった。処理施設は、大規模になると処理単価が安くなるストーカ炉が選択された(総コスト:108.1億円/年、CO2排出量45.0千t/年)。さらに、運搬費を抑えるために運搬効率の良い人口密度の高い場所に処理施設が建設された。一方、住民が望む案として目的関数を効用最大にしてシミュレーションを行った結果は、分別処理が選ばれ、厨芥は堆肥化、可燃ごみはストーカ炉による焼却となった。しかし、堆肥化施設の導入はごみ分別の徹底、需要の確保などの点において現実的に厳しいため、分別処理をモデルから除き、再度住民効用最大でシミュレーションを行った。その結果、ストーカ炉による焼却処理となり、全体を2つのエリアに分けた大規模集約化の処理形態となった(総コスト:110.4億円/年、CO2排出量:45.7千t/年)。また、人口密度が低い場所に処理施設が建設された。以上の結果を踏まえ、最後に既存の施設を利用し、行政・自治体と住民の意見を考慮した処理計画案を提案した。その結果、既存の施設を利用した案は、現状システムと比べると、コストを26%、CO2排出量を13%削減できることが分かった。

第10章では、上記をまとめ、研究の成果について総括している。一般廃棄物最適化モデルにより住民選好を定量的に評価することにより、住民意識を反映した一般廃棄物計画を立てることができ、対策提言のためのツールとして有効であることを述べている。

以上より本論文は、住民が一般廃棄物処理に対して環境・社会便益をどの程度重視しているのかを定量的に分析し、その分析結果を住民選好指標として廃棄物処理モデルで用いることにより、従来のコストや環境負荷だけではなく、住民意識を考慮した処理計画の立案方法を提案した。

したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

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