学位論文要旨



No 125070
著者(漢字) 髙田,祐平
著者(英字)
著者(カナ) タカタ,ユウヘイ
標題(和) 低侵襲不整脈外科における心外膜電位計測および情報統合システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 125070
報告番号 甲25070
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第488号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 人間環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐久間,一郎
 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 教授 杉浦,清了
 東京大学 教授 神保,泰彦
 東京大学 講師 小谷,潔
内容要旨 要旨を表示する

[要旨]

不整脈に対する外科的手技としてMAZE手術がある。心房細動の原因となる異常興奮が高確率で存在する肺静脈流入部周囲などの治療を行うものであるが、開胸操作が必要であり侵襲的である。近年、内視鏡下でMAZE手術を行う低侵襲MAZE手術が行われている。異常興奮部位の同定や術後の治療効果の確認のために心外膜の電気生理をマッピングすることは重要である。それを計測するための開胸下で使用可能な電極アレイに関する報告はあるものの、内視鏡下における低侵襲的なアプローチによる心外膜の電気生理マッピングについては考慮されていない。そこで、我々は内視鏡トロッカーに挿入可能でかつ局所領域内の興奮伝播を計測する24mm×9mm×3mmシリコン製シート型電極アレイを開発した。しかしながら、一回の測定で計測できる範囲は限られているので、複数回測定して全域的な電位地図を推定する必要がある。本論文では、電極アレイの位置姿勢計測を計測し、局所的な電位情報から心全体電位地図を再構成する手法について提案した。局所電極アレイによる電位計測は、異なる時刻で心電信号を計測するため、各計測信号の位相が揃わない。また心臓の拍動・呼吸動・操作によって、計測測定位置と心臓表面上での位置がずれてしまう。そこで前者に対しては、心電信号が周期的であると仮定し、計測基準として共通の体表面心電図に対して同期させ、信号の位相を揃えた。また、後者に対しては、興奮伝播が滑らかで連続的であると仮定して、電位信号より興奮到達時刻を算出し、電極アレイ間における興奮時刻のフィッティング誤差、通常のレジストレーションで用いられる幾何学的な誤差に加え、この興奮時刻のずれを考慮した評価関数を設定し、電極アレイの移動・回転に伴う評価関数の最適化問題として電極位置姿勢の補正を行った。興奮伝播を模擬したシミュレーションデータおよびin vivo実験により得られたデータに対して本手法を適用し、その妥当性を検証した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は8章から構成される.第1章は低侵襲不整脈外科の現状と課題,電気生理マッピング・内視鏡画像情報統合等のコンピュータ支援技術の現状と低侵襲不整脈外科との関連を論じ,解決すべき技術的課題を抽出している.第2章では本論文で報告する研究の目的を述べている.第3章では内視鏡アプローチ可能な小型電極アレイの開発に関し,電極アレイの設計・基本性能評価と動物実験による評価を通して,適切な実現方式を論じている.第4章では第3章で論じた電極アレイを用いて心房領域をマッピングするために,電極の位置を計測可能であり,かつ狭い胸腔内で柔軟な動きが可能なナビゲーション鉗子を設計試作し,その位置.姿勢計測精度評価結果ならびに動物実験による操作性評価結果を示している.第5章では興奮伝播レジストレーション手法による局所電位マップの統合手法を提案している.提案する手法では,異なる時刻に計測された電位データの位相がばらばらになってしまうという問題に対しては,心電同期という従来手法を適用し,心臓の操作、心臓拍動、呼吸動によって心臓の位置が移動及び形状が変化することによる統合誤差については,新たな手法を提案している.すなわち計測対象が時空間的に連続的であると仮定できる興奮伝播であることに着目し、計測時に生じる実際の心臓表面における座標とのずれに対して、興奮伝播が連続的になるように電極アレイの位置合わせを行うものとした。また、連続性のみでは電極アレイの位置を定めることができないので、計測位置からの電位アレイの移動コストを評価関数に加え,電極アレイの位置のレジストレーションはこの評価関数の最小化問題として解くこととしている.第6章ではシミュレーションならびに動物実験により第5章で提案した手法の妥当性を検討し,有効な手法であることを示している.第7章では統合した電位情報を内視鏡画像に高速に重畳する手法の提案を行い,動物実験データを例に提案するシステムの機能を検証した.第8章では以上の研究全体を総括した結論を述べ,今後の課題を論じている.なお本論文の中で第2-6章は金洪浩,小野木真哉,小林英津子,佐久間一郎,小野稔,本村昇,許俊鋭,高本眞一との共同研究であるが,論文提出者が主体となって手法の提案・実装・評価を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

本論文の成果は低侵襲不整脈外科手術支援に新たな技術的解決手段を提案するものであり,低侵襲不整脈外科の正確性・安全性の向上に寄与する成果であるといえる。したがって,博士(科学)の学位を授与できると認める。

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