学位論文要旨



No 125100
著者(漢字) 吉田,薫
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,カオル
標題(和) 品質計測・分析に基づいた選択的ルーティングアーキテクチャに関する研究
標題(洋)
報告番号 125100
報告番号 甲25100
学位授与日 2009.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第226号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 電子情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浅見,徹
 東京大学 教授 江崎,浩
 東京大学 教授 浅野,正一郎
 東京大学 准教授 瀬崎,薫
 東京大学 准教授 中山,雅哉
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、自律分散的に、かつ階層構造をもって運用されるインターネットシステムにおける経路制御問題の技術課題を実商用ネットワークにおける経路制御の現状とエンドユーザにおける高品質接続サービスの提供のために必要な経路制御に関する技術課題に関する考察と分析を行い、エンドユーザおよび各組織が自律的にかつ分散的に実行可能な通信品質の測定手法ならびにその分析手法の提案を行い、さらに、その測定結果を利用したユーザネットワークのマルチホーム環境における通信品質の向上と運用の自律性を提供可能な経路制御アーキテクチャの提案を行い、その動作検証と性能評価を行っている。本論文は、10章から成り立っており、現在のインターネット構造、及びインターネットが抱える構造的な問題の議論を行い、現在のインターネットの構造的な問題を分析する手法の提案を行い、その後、ネットワーク品質分析を際に必要となると考えられるネットワークトポロジ推定手法の提案と推定トポロジを基にしたネットワーク区間分割による品質分析手法の提案を行い、実際に日本全国に計測拠点を設置し長期間の計測を行うことにより、その有効性の証明を行い、さらに、これらの計測・分析結果を踏まえ、今後ユーザの通信品質をより高品質なものとするために必要となる配送経路制御手法(ルーティングアーキテクチャ) の技術的要素についての検討と、その検討結果をもとに、今後必要となるルーティングアーキテクチャの提案を行っている。

第2 章において、現在のインターネット構造、及びインターネットが抱える構造的な問題を議論している。第3 章において、第2 章で述べた現在のインターネットの構造的な問題を分析する手法の提案を行っている。第4 、5 章では、ネットワーク品質分析を際に必要となると考えられるネットワークトポロジ推定手法の提案及び、推定トポロジを基にしたネットワーク区間分割による品質分析手法の提案を行っている。これらの提案手法は、実際に日本全国に計測拠点を設置し、第3 章で提案したシステムを介して長期間の計測を行うことにより、その有効性の検証を行った。 これらの計測・分析結果を踏まえ、今後ユーザの通信品質をより高品質なものとするために必要となる配送経路制御手法(ルーティングアーキテクチャ) の技術的要素について第6 章で議論している。第7、8 章では、第6 章で整理した技術要素を基に、今後必要となるルーティングアーキテクチャの提案を行っている。第7 章では、エンドユーザもしくはそれを内包するエッジネットワークに対する動的なIP アドレス割当て・選択手法の提案を行った。また、第8 章では、商用、エンタープライズやキャンパスネットワークの内部ネットワーク(コアネットワーク) において広く利用されているOSPF (Open Shortest Path First) を対象とし、コアネットワークにおけるサービス品質の安定化のための手法の提案を行った。第9 章では、第7,8 章で提案したルーティングアーキテクチャに関する考察を行い、第10 章において、本論文のまとめを行った。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「品質計測・分析に基づいた選択的ルーティングアーキテクチャに関する研究」(英訳:Proposal of Quality aware Routing Architecture based on Analysis of Wide-scale Internet Quality Measurement)と題し、自律分散的に、かつ階層構造をもって運用されるインターネットシステムにおける経路制御問題の技術課題を実商用ネットワークにおける経路制御の現状とエンドユーザにおける高品質接続サービスの提供のために必要な経路制御に関する技術課題に関する考察と分析を行い、エンドユーザおよび各組織が自律的にかつ分散的に実行可能な通信品質の測定手法ならびにその分析手法の提案を行い、さらに、その測定結果を利用したユーザネットワークのマルチホーム環境における通信品質の向上と運用の自律性を提供可能な経路制御アーキテクチャの提案を行い、その動作検証と性能評価を行っている。本論文は、10章から成り立っており、現在のインターネット構造、及びインターネットが抱える構造的な問題の議論を行い、現在のインターネットの構造的な問題を分析する手法の提案を行い、その後、ネットワーク品質分析を際に必要となると考えられるネットワークトポロジ推定手法の提案と推定トポロジを基にしたネットワーク区間分割による品質分析手法の提案を行い、実際に日本全国に計測拠点を設置し長期間の計測を行うことにより、その有効性の証明を行い、さらに、これらの計測・分析結果を踏まえ、今後ユーザの通信品質をより高品質なものとするために必要となる配送経路制御手法(ルーティングアーキテクチャ) の技術的要素についての検討と、その検討結果をもとに、今後必要となるルーティングアーキテクチャの提案を行っている。

第1章は「序論」、第2章は「現在のインターネットの構造及び課題」と題しに、現在のインターネット構造とその技術的問題について議論する。インターネットはネットワークのネットワークであり、それぞれのネットワークは AS (Autonomous System) と呼ばれる管理組織により自律的に構築・運用されている。その構成要素である複数の AS が相互に接続することで、グローバルスケールの大規模分散システムを実現している。また、インターネットはその性質上階層構造を持ち、それぞれの階層ごとに異なる管理組織により運用されているのが一般的である。こうした事実を踏まえ、ここではインターネットの構造を明らかにし、ネットワークの特性を把握する必要性に関して議論している。また、これらの情報把握が困難である現状において、既存のルーティングアーキテクチャが抱える課題に関して議論している。

第3章は「インターネット品質計測・分析システム」と題し、インターネットの構造を明らかにするためにするために必要な計測技術及びその手法の提案を行っている。インターネットの構造を明らかにし、その通信特性を分析するためには、大規模かつ長期間の計測を行う必要がある。本論文では、実際に日本全国各地に計測拠点を設置し、計測環境を構築することで、このような計測を実現している。

第4章は「ネットワークトポロジ推定手法」と題し、エンドユーザ間の通信遅延を基に、ネットワークのトポロジを解析する手法の提案を行っている。具体的には、エンドユーザ間の通信遅延と計測拠点の地理情報の対応付を行うことで、ISP(インターネットサービスプロバイダ)がどのようなレイヤ2,3ネットワーク構造を持っているかを分析する手法の提案である。提案手法は、第3章で構築した計測システムを介して得られた計測結果を用いて実際にトポロジ推定を行うことで、その有効性を検証している。既存研究の多くではトポロジ推定を行う際にルータの FQDN 等コアネットワーク情報を利用しているが、本提案手法はこのような情報に依存することなくエンド間の通信遅延とその地理的情報からトポロジ推定が可能である。

第5章では、「区間細分化によるネットワーク品質分析」と題し、ISPネットワークのトポロジ情報を基に、通信品質の変動を発生させているネットワーク区間の特定を行い、その変動傾向を分析する手法の提案を行っている。提案手法では、既存研究と比して、より細密に遅延変動を生じさせているネットワーク区間の特定を行うことが可能となっている。また、遅延変動傾向としては、以下の4つが観測された。1)定常的、2)周期的、3)突発的、4)離散的なものである。このような変動傾向は、長期間計測を行うことが可能な計測基盤を設けることで初めて明らかにされるものである。

第6章は「ルーティングアーキテクチャの課題」と題し、まず前章まで提案した通信品質計測・分析から明らかとなった結果の簡単なまとめを行った。次いで、エンドユーザに適切な通信品質を提供する(トラヒックエンジニアリングの)ために必要な機能要件の整理を行っている。必要な機能要件としては、以下の3つが挙げられる。1)通信品質変動区間の特定。エンドユーザが必要とする通信品質が得られない場合には、その要因がどのネットワーク区間上に存在するかを特定する必要がある。2)代替通信経路の選出。前述により通信品質変動区間の特定が出来た後に、その通信経路を迂回することが可能な新たな通信経路を確立する必要がある。3)選択通信経路の品質推定。代替経路を実際に選択するためには、その代替経路を選択した際に得られる通信品質が推定できる仕組みが必要である。1), 3) は、前述した通信品質計測・分析システムを利用することが可能である。

第7章は「エッジネットワークにおける動的なアドレス割当て・選択機構」と題し、エッジネットワークにおいて必要な機能の整理及び提案を行っている。具体的には、エッジネットワークに対して通信品質の異なる複数の通信経路が提供されている状況を想定し、エッジネットワークが、コアネットワークと協調の下で、通信に利用する IP アドレスを動的に選択する機構の提案を行っている。同機構の導入により、エッジネットワークにおいて通信に利用される通信識別子と、ルーティングに利用される配送経路制御識別子を分離することが可能となった。結果として、コアネットワークにおいて同配送制御識別子を基にルーティングを行う機構が存在すれば、エッジネットワークは通信の透過性を保ったまま柔軟に通信経路を選択することが可能となる。

第8章は「誘導経路情報を用いたルーティングアーキテクチャ」と題し、コアネットワークにおいて必要な機能の整理及び提案を行っている。具体的には、第6章で述べた機能要件 1) が満たされた場合に、そのネットワーク区間を介して通信を行っているエッジネットワークのうち特定のもののみを対象にトラヒックエンジニアリングを実現するための手法の提案である。同提案手法は、商用、エンタープライズやキャンパスネットワークの内部ネットワーク(コアネットワーク) において広く利用されているOSPF (Open Shortest Path First) を対象とし、実際に実装・評価を行うことで、その有効性の検証を行っている。

第9章は「柔軟な経路制御実現にむけての考察」と題し、第7章と第8章で提案したルーティングアーキテクチャに関する考察を行っている。第8章で提案したコアネットワークにおけるトラヒックエンジニアリング技術は、特定の通信(トラヒック)のみを対象としてトラヒックエンジニアリングを行うことができ、結果として他のトラヒックへの影響を最小限に抑えることが可能であることを示せた。また、第7章、第8章それぞれで提案した機構を組み合わせることにより、エッジネットワークがより柔軟な経路制御を行える可能性を示した。

最後に、第10章では、「結論」と題して、本論文での議論の総括と今後の課題について述べている。

以上のように、本論文は、インターネットにおける高品質通信を実現するための経路制御アーキテクチャの提案と評価を行っており、電子情報学に貢献することが少なく、博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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