No | 125116 | |
著者(漢字) | 羽根田,淳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハネダ,アツシ | |
標題(和) | 物理・論理統合計算環境で認識し行動獲得するヒューマノイドシミュレータの構成法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 125116 | |
報告番号 | 甲25116 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(情報理工学) | |
学位記番号 | 博情第242号 | |
研究科 | 情報理工学系研究科 | |
専攻 | 創造情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 今後は日本の少子高齢化社会がさらに進行することで, 将来的には深刻な労働力不足が起きることが懸念されている. これまで, 産業の分野ではロボットが製品の生産を自動化する上で重要な役割を担っていた. そこで, 次世代のロボットの重要な役割として, 人間の生活環境に存在し, その日常生活を支援するロボットが求められると考えれられる. このような役割を担うためのロボットとして, 近年, ヒューマノイドロボットが注目されている. 何故なら, ヒューマノイドロボットは従来的なロボットと比較して全身が多自由度で多種のセンサを備えているため, 両腕によるマニピュレーションや階段の歩行動作といった行動範囲や応用可能性が高く,また人間と同じ身体構造をしているために, 人間の生活環境において機能的にも適合しやすいからである. これまでのヒューマノイドロボットの研究は, 限定的な環境において人手によって明示的に与えられた既定の動作に関する研究が多かった. しかし, 通常, 環境中には多くの物体が存在し, しかもヒューマノイドロボットは全身の自由度が多く, さらに多種のセンサを備えているため, 従来のロボットと比較すると多様な行動を行うことができる. 従って, 今後, ヒューマノイドロボットの行動範囲を拡大していくためには, 周囲の環境や目的によって能動的に行動することを通じて, 自身の行動の実行結果を認識し, 行動獲得していく機能が求められる. そして, そのようなヒューマノイドロボットの知能を実現するためには, ある環境中において与えられた明示的な目的に応じて, 自律的に適切な行動を選択し, 具体的な行動計画に基づく行動実行結果の学習をを繰り返すことで, 行動獲得していくための枠組みを持つヒューマノイドロボットシミュレータが必要である. そこで本研究では, そのような枠組みを構築するために, 環境の物理的な計算とヒューマノイドロボットのプランニングである論理的な計算を関連付けた物理・論理統合計算環境を構築する. この環境では, 環境中の物理計算結果を完全な情報として取得できるため, 実世界の実機のヒューマノイドロボットによる行動実験では, 完全な認識が不可能であり, 実験の再現性が低いという2 つの理由から一般的に困難である剛体や複雑な変形物体である柔軟物, 流体, 布を扱うヒューマノイドロボットの行動実験を行うことが可能である. そして, 記号接地に基づく環境認識を行うことで両者を結びつけ, 物理・論理統合計算環境下における学習型プランニングのプロセスによって, 高次計画機能を持ちながら, 試行動作によるパラメータ学習を行うことを通じてヒューマノイドロボットの行動獲得を行う. このとき, ヒューマノイドロボットの行動を生成するために,ヒューマノイドロボットの全身を用いた行動プランニングを行なう. 具体的には, 2 次元や3 次元の経路移動のプランニングや全身リーチングによる物体操作プランニングを実行する. またヒューマノイドロボットシミュレータは, プログラミング言語Python によって各インターフェースを統一することで, インタプリタを介した効率的な対話型プログラミングによる開発を可能にし, またその言語機能を活かしたシステムコントローラによって制御を行う. 第1 章「序論」では, 本研究の背景と目的, および本論文の構成について述べた. 第2 章「物理・論理統合計算環境であるヒューマノイドシミュレータの開発」では, 動作結果が予測できない力が働く動力学環境下において, 実世界の実機のロボットではまだ扱うことが困難な布や柔軟物, 流体といった変形物体を含む物体を扱うための行動を自律的に獲得させ, ヒューマノイドロボットの応用可能性を拡大させるために, 多機能・統合型のヒューマノイドロボットシミュレータの構成法を提示した. そして, 環境の物理計算と論理計算であるプランニングを統合したこのヒューマノイドロボットのシミュレータを構築することで, シミュレータの中で記号接地によって環境を認識して行動を獲得していくヒューマノイドを実現するという本研究における指針を立てた. 第3 章「物理・論理統合計算環境におけるロボットのプランニングシステム」では, ロボットの行動の実行結果が予測できないために行動の失敗しやすい状況下において, ロボットの行動を制御するプランニングシステムについて説明した. 最初に, 動的な環境下でもロバストであるようなリアルタイム方式[?] [?] に基づくロボットによる可動物体のマニピュレーションプランニングシステムを提案した. 次に, ヒューマノイドロボットが環境モデルを認識して行動計画を立て, 行動実行した結果を学習していくことで行動を獲得していく学習型プランニングシステムを提示した. そして, これらのプランニングシステムを実際に実装し, ロボットシミュレータ内でのヒューマノイドロボットによる行動実験を通じて, その有用性を確認した. 第4 章「Python によるインタプリタ方式に基づく多機能・統合型ヒューマノイドロボットシミュレータ」では, 従来のロボットシミュレータの関連研究を紹介してから, 本研究のPython によるインタプリタ方式に基づく多機能・統合型ヒューマノイドロボットシミュレータの特徴を挙げている. そして, このシミュレータの機能を利用したマルチヒューマノイドロボットの並行物理計算や局所的な動力学効果といった基礎実験を通じて, その有効性を検証した. 第5 章「環境シミュレーションのための物理計算」では, 剛体の動力学計算のための基礎理論や粒子法による剛体・布・弾性体やSPH 法による流体の物理シミュレーション方法について述べた. また, 物理シミュレーションを行なう上で必要不可欠なポリゴン同士の衝突計算を行なう手法を取り上げ, そして, 物理演算ライブラリNVida PhysX による剛体・関節・布・流体の物理シミュレーション方法について説明した. 第6 章「ヒューマノイドロボットの高次計画機能のためのタスクプランニング」では, まずプランニングを行なうための基本的なアルゴリズムについて紹介し, ヒューマノイドロボットが与えられた環境モデルから操作対象となる可動物体を決定する可動物体のタスクプランニングのアルゴリズムについて説明した. 次に, プランニング言語PDDL によるタスクプランニングの概要について述べて, 実際にPDDL を用いて単体や複数のヒューマノイドロボットのタスクプランニングを行動実験を行なった. 第7 章「ヒューマノイドロボットの経路移動・全身動作生成のためのモーションプランニング」では, 最初にロボットのモーションプランニングやプランナの基礎理論について説明し, その後, ヒューマノイドロボットの動作を自動生成するためのヒューマノイドロボットのプランニングアルゴリズムについて述べた. 具体的には, 2 次元平面上や3 次元の足跡の経路移動プランニングや, 目的に応じた全身動作を生成するための全身動作プランニング, 可動物体を取り扱うためのモーションプランニング, そして, 試行動作によって可動物体モデルの可動性を解釈する行動実験を行なった. 第8 章「ヒューマノイドロボットの試行動作に基づく強化学習による物体操作の獲得」では, 強化学習の基礎について説明してから, 力が働く動力学環境下におけるヒューマノイドロボットの試行動作の結果に応じてパラメータの強化学習をすることで, 物体の操作行動を獲得する行動実験を行なった. 第9 章「Python の言語機能を用いたヒューマノイドロボット・ロボットシミュレータの制御記述」では, プログラミング言語Python が持つマルチスレッドやジェネレータといった言語特徴を活かして, 実際に機能分割法やサブサンプション・アーキテクチャに基づくロボットコントローラの制御記述やジェネレータにより実行の中断・再開が可能なシミュレータコントローラの記述方式を導入した. 第10 章「結論および考察」では, これまで各章で述べた内容をまとめて本研究を総括し, 今後行なわれるべき発展について考察した. | |
審査要旨 | 本論文は,「物理・論理統合計算環境で認識し行動獲得するヒューマノイドシミュレータの構成法」と題し,ヒューマノイドによる日常生活支援行動を生成し評価するためのシミュレータの実現を目的として,システムの構築と評価を行った研究をまとめたもので,11章からなる.基盤となるソフトウェアへの要求機能を示し,柔軟物などの存在する日常生活環境を記述した環境で,物の相対関係を記号表現化する記号接地機構を備え,上位の論理的行動手順計画と全身動作を生成し,動作実行を物理計算処理によりシミュレーションするループを形成でき,対話的にそのループ制御や環境操作が可能なシステムの構成法を示している. 第1章「序論」では, 本研究の背景と目的, および本論文の構成について述べている. 第2章「物理・論理統合計算環境であるヒューマノイドシミュレータの開発」では,人間の日常生活環境下の行動実験が可能なヒューマノイドシミュレータを実現するために要求される機能について説明し,そのようなヒューマノイドシミュレータを実現するための物理・論理統合計算環境で認識し行動獲得するヒューマノイドシミュレータの構成法を提案している. 第3章「物理・論理統合計算環境におけるロボットのプランニングシステム」では,物理・論理統合計算環境で認識し行動獲得する本研究のヒューマノイドシミュレータであるFEATHERの構成要素を統合したシミュレーションループを形成することによって,ロボットの試行動作の繰り返しを通じて行動を獲得していく適合型かつ発達型の学習プランニングシステムについて述べている. 第4章「Pythonによるインタプリタ方式に基づく多機能・統合型ヒューマノイドロボットシミュレータ」では,従来のロボットシミュレータの関連研究を紹介し,本研究のPythonによるインタプリタ方式に基づく多機能・統合型ヒューマノイドロボットシミュレータの特徴を挙げている.そして,このシミュレータの機能を利用したマルチヒューマノイドロボットの並行物理計算や局所的な動力学効果といった基礎実験を通じて,その有効性を検証している. 第5章「環境シミュレーションのための物理計算」では,剛体の動力学計算のための基礎理論や粒子法による剛体・布・弾性体やSPH法による流体の物理シミュレーション方法について述べている.また,物理シミュレーションを行なう上で必要不可欠なポリゴン同士の衝突計算を行なう手法を取り上げ,そして,物理演算ライブラリNVidia PhysXによる剛体・関節・布・流体の物理シミュレーション方法について説明している. 第6章「ヒューマノイドロボットの高次計画機能のためのタスクプランニング」では,まずプランニングを行なうための基本的なアルゴリズムについて説明し,ヒューマノイドロボットが与えられた環境モデルから操作対象となる可動物体を決定する可動物体のタスクプランニングのアルゴリズムについて説明している.さらに,プランニング言語PDDLによるタスクプランニングの概要について述べ,実際にPDDLを用いて単体や複数のヒューマノイドロボットのタスクプランニングの基礎行動実験を行っている. 第7章「ヒューマノイドロボットの経路移動・全身動作生成のためのモーションプランニング」では,最初にロボットのモーションプランニングやプランナの基礎理論について説明し,その後,ヒューマノイドロボットの動作を自動生成するためのヒューマノイドロボットのプランニングアルゴリズムについて述べている.具体的に,2次元平面上や3次元の足跡の経路移動プランニングや,目的に応じた全身動作を生成するための全身動作プランニング,可動物体を取り扱うためのモーションプランニング,そして,試行動作によって可動物体モデルの可動性を解釈する基礎行動実験を行なっている. 第8章「ヒューマノイドロボットの試行行動によるヒューマノイドシミュレータの学習」では,まず強化学習の基礎理論について説明し,ロボットモデルや環境モデルをシンボル表現として記号接地するためのルールを教師有り学習によって学習する方法や記号接地による環境認識の試行行動に基づいて適用する記号接地ルールを追加したり除外したりするための学習,モーションプランナによる試行動作結果の経験学習に基づいた幾何学的な拘束条件を持つシンボル表現の生成方法について提案している.そして, 基礎行動実験と共にモーションプランナによる試行動作結果に基づく動作生成パラメータの強化学習を行なう方法について提示している. 第9章「Pythonの言語機能を用いたヒューマノイドロボット・ロボットシミュレータの制御記述」では,プログラミング言語Pythonが持つマルチスレッドやジェネレータといった言語特徴を活かして,実際に機能分割法やサブサンプション・アーキテクチャに基づくロボットコントローラの制御記述やジェネレータにより実行の中断・再開が可能なシミュレータコントローラの記述方式を導入している. 第10章「物理・論理統合計算環境であるヒューマノイドシミュレータにおける日常生活支援の行動実験」では,本研究のヒューマノイドシミュレータFEATHERがヒューマノイドロボットによる日常生活支援の行動実験を行なう上で有効な環境であること,本研究の枠組みによって実現可能な豊富な行動例を示している. 第11章「結論」において,各章で述べた内容をまとめることで本研究を総括し,今後のヒューマノイドシミュレータの発展の方向性について述べている. 以上,これを要するに本論文は,人間の日常生活支援のヒューマノイド行動を実現するために,外部ライブラのインポート機構,ループ制御機能,インタプリタ方式などの拡張性の高い統合基盤の上に,物理計算,プランニング,記号接地機能を搭載したヒューマノイドシミュレータを独自に構築し,柔軟物操作や複数ロボットの協調行動を伴う日常生活支援行動生成を行う総合評価を行いその有効性を示したものであり,この分野に少なくない貢献を果たしている.すなわち,本研究は情報理工学に関する研究的意義と共に,情報理工学における創造的実践に関し価値が認められる.よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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