No | 125151 | |
著者(漢字) | 菅野,安喜 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スガノ,ヤスヨシ | |
標題(和) | JAM-Aは長期骨髄再構築能を有する造血幹細胞の新規表面抗原である | |
標題(洋) | Junctional adhesion molecule-A, JAM-A, is a novel cell surface marker for long-term repopulating hematopoietic stem cells | |
報告番号 | 125151 | |
報告番号 | 甲25151 | |
学位授与日 | 2009.04.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3356号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 生殖・発達・加齢医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 細胞表面分子の発現プロファイルにて血液細胞の系統および分化状態を識別することが行われており大沢らの先進的な研究によって、1個のCD34陰性KSL細胞が長期に渡って全血液システムを再構築することが示され、成体骨髄において、CD34陰性KSL細胞が長期の骨髄再構築能を有する造血幹細胞として確立されていた。最近、松崎らはCD34陰性KSL細胞中のHoechst33342によるside population (SP) の先端が、最も純化した造血幹細胞と報告した。直近では、SLAM family分子により造血幹細胞を純化した報告があった。しかしながら、これらの純化方法は、多くの抗体の組み合わせによる大がかりな細胞採取を必要とし、より効率的に造血幹細胞を純化する新規の造血幹細胞マーカーが求められていた。 我々の研究室では、マウス胎生14.5日の胎児肝臓細胞に発現している新規の造血因子の探索過程において、Junctional adhesion molecule-A (JAM-A/JAM-1/F11R) が、胎児肝臓細胞に発現していることを見いだし、JAM-Aに対する抗体を得た。JAM-Aは、約36kDの2個の免疫グロブリン様ドメインを有するI型膜貫通蛋白で、上皮細胞や内皮細胞のタイトジャンクションを構成する接着分子として知られていた。また成熟血球である白血球、血小板、赤血球などでの発現も知られていたが、未分化な細胞集団である造血前駆細胞、造血幹細胞レベルでの発現は知られていなかった。 そこで、私はJAM-Aがマウス造血器官で、どのように発現しているかを検討することになった。主要な造血器官として、発生順に大動脈生殖腺中腎領域(AGM)、胎児肝臓(FL)、成体骨髄(BM)を見た。それぞれの組織全体のJAM-Aの発現は、胎生11.5日AGMで約80.3%と非常に高く、FLでは約40%(胎生11.5日;42.1%、胎生14.5日;44.0%、胎生18.5日;33.6%)と減少した。8-12週齢のBMでは、約2.1%と激減した。次に、未分化造血幹細胞を多く含む造血幹細胞分画について検討した。造血幹細胞分画に関しては、既知の知見より胎生11.5日AGM、胎生11.5日FLではCD34陽性/c-Kit陽性細胞を用い、胎生14.5日以降のFL、成体BMではc-Kit陽性/Sca-1陽性/分化抗原陰性(KSL)細胞集団を解析した。造血幹細胞では、AGMではほとんどの細胞がJAM-A陽性(約98.8%)であり、FLにおいても発現が高く維持されていた(胎生11.5日;88.1%、胎生14.5日;89.0%、胎生18.5日;71.1%)。8-12週齢のBMは、組織全体ではJAM-Aの発現が約2.1%と低かったが、造血幹細胞分画では約65.3%と高い発現が維持されていた。これらの結果から、胎児期から成体の造血組織において造血幹細胞分画では、JAM-Aが高く発現維持されていた(Figure 1)。 次に、JAM-A陽性細胞、JAM-A陰性細胞の中で、この造血幹細胞分画をどれくらいの頻度で含んでいるか検討した。胎生11.5日AGMと胎生11.5日から胎生18.5日のFLのどの時期でもJAM-A陰性細胞集団に比べ、JAM-A陽性細胞集団が顕著に造血幹細胞分画を多く含んでいる事がわかった。また、マウスの発生に従ってその傾向が強くなることもわかった。この結果は、JAM-Aを用いることで造血未分化細胞の濃縮出来ることを示唆した。次に、成体の骨髄について検討した。胎児期で得られた結果と同様に、JAM-A陰性の細胞集団に比べ、JAM-A陽性細胞集団が顕著に造血幹細胞分画を多く含んでいることがわかった。若い週齢(1週齢)および老齢(36-40週齢)のマウスでもその結果は維持されていた。また成熟マーカーを除かない細胞集団において、JAM-A陽性細胞集団がJAM-A陰性細胞集団に比べ、c-Kit陽性/Sca-1陽性の未分化な細胞集団を濃縮(29.99±8.72% vs 0.15±0.08% ; P< .001)していた。 JAM-A抗体を用いることで、未分化造血細胞を前向き方向に選別出来るかを検討した。抗JAM-A抗体で染色した細胞をFACSVantageで細胞分種し、JAM-A陽性細胞、JAM-A陰性細胞に分けた。それぞれの細胞群をMay-Giemsa染色し、顕微鏡で形態観察した。形態的に、核 / 細胞質比の高い未熟な細胞がJAM-A陽性細胞集団により多く含まれている事がわかった(Figure 2)。細胞を未熟な細胞と3つの成熟細胞集団として4つに分けて定量した結果、JAM-A陽性細胞集団に未熟な細胞が多く含まれていることがわかった(27.75±0.25% vs 1.5±1.25% ; P< .008)。 形態的に未熟な細胞群が機能的に多分化能を有する細胞群であるかを検討した。コロニーアッセイ法を用いて、CFU-Mixとして多分化能を有する細胞頻度がわかるので、造血幹細胞分画をJAM-A陽性、JAM-A陰性細胞群に分けてFACSVantageにてそれぞれの細胞群を採取し、コロニーアッセイ法にてそれぞれの細胞群のCFU-Mixの存在頻度を検討した。この結果、胎生14.5日以降の胎児期および成体骨髄において統計学的有意性をもって、JAM-A陽性細胞群が多分化能を有する未分化造血幹細胞を多く含んでいることがわかった。これらの結果より歳時肝臓、骨髄においてJAM-A陽性細胞群に未分化造血細胞が高頻度で含まれていることがわかった。 造血幹細胞のJAM-Aの発現を骨髄移植アッセイ法により検討した。移植結果は、陽性コントロールとして用いたKSL細胞を300細胞移植したマウスでは、6匹中5匹で長期骨髄再構築能を有する造血幹細胞(LTR-HSC)の生着を認めた。JAM-A陰性KSL細胞では、移植細胞数を1000細胞まで増やしてもLTR-HSCの生着を認めなかった。JAM-A陽性KSL細胞を100細胞移植したマウスでは9匹中7匹でLTR-HSCの生着を認めた。JAM-A陽性KSL細胞を300細胞移植したマウスでは、4匹中全例でLTR-HSCの生着を認めた。この結果から、JAM-A陽性細胞群のみに長期骨髄再構築能があることがわかった。さらに、骨髄から抗JAM-A抗体のみで選別した細胞を100細胞移植したマウスの7匹中4匹がLTR-HSCの生着を認めた(Table 1)。これは造血幹細胞を濃縮したKSL分画の細胞を用いなくても、抗JAM-A抗体のみで、骨髄の中から造血幹細胞を選別出来るという結果を示した。また、造血幹細胞の存在頻度をdilution assay法にて検討した。その結果、陽性コントロールとして用いたKSL細胞群の約109細胞に1細胞が造血幹細胞であり、JAM-A陽性KSL細胞群では約65細胞に1細胞が造血幹細胞であることがわかった。この結果は、KSL細胞群を抗JAM-A抗体を用いることで、造血幹細胞を約1.7倍効率的に純化出来ることを示した。 これらの結果から、胎児期から成体骨髄を通じた造血器官の造血幹細胞分画ではJAM-A陽性細胞の比率は高く維持されていた。また、JAM-A陽性群のみに長期骨髄再構築能を有する造血幹細胞が含まれ、JAM-Aが新規の造血幹細胞の表面抗原であることがわかった。さらに、抗JAM-A抗体を用いることで、造血幹細胞が効率的に分離・純化出来ることがわかった。 Fig.1 Fig.2 Table1 | |
審査要旨 | 本研究は造血細胞学を研究する上で重要な役割を担っている造血幹細胞表面上の新規表面マーカーを明らかにしたものであり、マウスの胎児期造血器官から成体期骨髄までの造血細胞において下記の結果を得ている。 1.胎児期の主要な造血器官でのJAM-Aの発現を検討した結果、胎生11.5日のAGM、胎児肝臓の造血幹細胞分画(c-Kit+CD34+二重陽性細胞集団)および胎生14.5日以降の胎児肝臓と成体骨髄(8-12週齢)の造血幹細胞分画(KSL)においてJAM-Aの高い発現が示された。また、骨髄において幼児期(1週齢)から老齢(36週齢~40週齢)へと週齢を重ねてもその傾向が維持されていることが示された。 2.抗JAM-A抗体を用い造血幹/未分化細胞をprospectiveに選別出来るかを検討した結果、形態学的に幼弱な細胞がJAM-A陽性細胞群に高頻度に存在することが示された。 3.胎生11.5日、14.5日、16.5日、18.5日の胎児肝臓の造血幹細胞分画をコロニーアッセイ法にて調べた結果、JAM-A陽性細胞群がJAM-A陰性細胞群に比べて、胎児肝臓のどの時期においても未分化細胞集団をprospectiveに分離出来ることが示された。成体骨髄細胞(8-12週齢)において同様の検討を行った結果、胎児肝臓と同様にJAM-A陽性細胞群が未分化細胞集団をprospectiveに分離出来ることが示された。 4.骨髄移植による造血幹細胞の解析を行った結果、JAM-A陽性KSL細胞100個を移植したマウスの9匹中7匹、同300個を移植したマウスの4匹中全例に造血幹細胞の生着が示された。JAM-A陰性KSL細胞を100個から1000個まで移植したマウスでは造血幹細胞の生着は示されなかった。この結果から造血幹細胞はJAM-Aを発現している事が示された。 5.造血幹細胞の存在頻度をlimiting dilution assay法にて検討した結果、KSL細胞群の約109細胞に1細胞、JAM-A陽性KSL細胞群の約65細胞に1細胞が造血幹細胞である事が示された。この結果から、KSL細胞にさらにJAM-A抗体の選別を加える事で、造血幹細胞が約1.7倍に濃縮出来ることが示された。 以上、本論文はマウス胎児期から成体期における主要な造血器官であるAGM、胎児肝臓、骨髄のいずれの段階の造血幹細胞分画においてもJAM-Aが強い発現をしていることを明らかにした。また、成体骨髄の造血幹細胞はJAM-Aを発現していることを明らかにした。本研究はJAM-Aが造血幹細胞の新規の表面抗原マーカーであることを示し、今後の造血幹細胞学における重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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