No | 125152 | |
著者(漢字) | 周,玉梅 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シュウ,ギョクバイ | |
標題(和) | 風疹ウイルスの分子進化に関する研究 | |
標題(洋) | The Molecular Evolutionary Study of Rubella Virus | |
報告番号 | 125152 | |
報告番号 | 甲25152 | |
学位授与日 | 2009.04.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第3357号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 国際保健学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 要約 風疹ウイルスはヒトの急性発疹を伴う感染症を来す。また先天性風疹症候群として奇形を伴う疾患を起こす。野生の風疹ウイルスの遺伝子配列からの分子情報は風疹のサーベイランスに重要である。しかしながら、現時点まで13の遺伝子型の中の2つの遺伝子型のみ全遺伝子配列が決められている。風疹ウイルスの遺伝子配列のデータベースを広げ、そして風疹ウイルスのゲノムの進化パラメータをさらに現実的に評価するために、この研究では、6つの遺伝子型の9株について全ゲノム配列を決めた。以前に報告された全ゲノム配列とあわせて8つの主な遺伝子型に属する19ウイルスゲノムを塩基、コドン、アミノ酸のレベルで系統的に解析を行った。総じて、19全ゲノムを比較した結果、ともに同じ長さの2つのORF(NSPとSP)と5'末端と3'末端の非翻訳領域があった。2つのORFの間のjunction非翻訳領域だけに僅かの欠失変異が見られた。従って、風疹ウイルスのゲノムは良く保持されていたことが示唆された。塩基配列においてゲノムの最大のobserved distanceとgenetic distanceはそれぞれ8.74%と100塩基部位で14.78の置換であった。これらの相違の程度はゲノムの部位でほとんど同じであるが2つの部位だけで異なることが見られた:N 末端領域のメチル/グアニリルトランスフェラーゼ領域は変異が少ないこと、一方、非構造タンパク(NSP)のP150 の中央部の超可変領域(HVR)はもっと相違がある。しかしながらアミノ酸配列の相違は一貫していなかった。HVR領域が依然相違が大きいが(33.6%まで)、他方、NSP-ORFのP90 およびSP-ORFのE1よりNSP-ORFのP150およびSP-ORFのE2領域が明らかにもっと相違があった。即ち、P90とE1領域は同義置換が多かった。全体でゲノムのアミノ酸組成において疎水性および脂肪族アミノ酸が多く、特に、NSPのHVRとSPのcapsid領域ではプロリンとアルギニンが多かった。 エキストラの24株ウイルスにおいて、全ゲノムを代表する3箇所のサブゲノムドメインの塩基配列を決めた。この三つのサブゲノムドメインに対する広範囲な比較系統樹解析を43株で行ったところ、1B遺伝子型を除いて同じ系統樹の群に属した。1Bでは2つのORFのjunction領域付近に組み換えがあるためによる。組み換えは風疹ウイルスの遺伝子進化に影響を示していると思われた。さらに行ったNSP遺伝子の3つのコドン部位の配列による系統樹やその遺伝子の塩基配列に対する分解進化ネットワーク系統樹解析でもこの考えが支持された。 ゲノム配列の塩基組成とコドン使用頻度を調べると、8つの遺伝子型の間での差は少ないが、ゲノム内の各領域またはドメインでの塩基組成およびコドン使用頻度は領域およびコドンの位置によって異なった。風疹ウイルスのゲノムはGC組成が多く、GCの使用頻度に強く偏ることが仮定していたが、実際は、最高頻出するコドンにおいて三番目のみはGCを強く使用し、第一および第二コドン部位の塩基中のGC使用は強くなかった。さらに、コドン三番目のGC組成(GC3)と、第一と第二番目のGC組成(GC1とGC2)あるいは実効コドン数(Nc)との正負の相関関係から、風疹ウイルスのコドン使用頻度を決める大きな要因は方向性突然変異圧であることを示した。しかしながら、この特徴はHVR領域では見られなかった。突然変異圧より自然選択の方がHRV領域には強く見られた。もっと興味深いことは、ウイルスと宿主に、頻出するコドンとコドン各部位のGC組成が一致してしたことが見られ、風疹ウイルスが宿主細胞の代謝機構を有効に利用し、ウイルスの増殖を強く維持すことが明らかになった。 この研究では、非同義置換率と同義置換率との割合(ω)の計算を行い、正の自然淘汰を受けたアミノ酸部位を調べた。風疹ウイルスのゲノムにおいては多くの所ではかなり負の自然淘汰(純化淘汰)を選択されていたが、HVR領域の4か所、CおよびE1タンパクの2か所ずつで正の自然淘汰が示された。これらの正の自然淘汰を受けた部位の機能は、ウイルスの複製、免疫、感染性に関連し利点があるとわかった。 さらに、Clade1のE2に反応するがClade2のE2に反応しないモノクローナル抗体を見出し、E2領域の異なった抗原反応性が認められた。これを用いると2つのCladeに属するウイルスを区別することができることが思われた。 | |
審査要旨 | 本研究は風疹感染症と先天性風疹症候群(CRS)を予防することにおいて重要な役割を演じていると考えられる風疹ウイルスのゲノムの分子進化のメカニズムを明らかにするため、6つの遺伝子型に属する9株の風疹ウイルスの全ゲノム、及び24株の部分的の遺伝子配列を決めて、ウイルスのゲノムを塩基、コドン、アミノ酸のレベルで系統的に解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.6つの遺伝子型を属する9株の全ゲノム配列を決めて、以前に報告された全ゲノム配列とあわせて8つの主な遺伝子型に属する19ウイルスの全ゲノムの塩基配列を比較した。同じ長さのORF(NSPとSP)と5'と3'末端の非翻訳領域があったともに、1Bと2B遺伝子型を属するウイルス株において、2つのORFの間のjunction非翻訳領域だけに僅かの欠失変異が見られた。この結果は、風疹ウイルスのゲノムは良く保持されていたことが示唆された。 2.8つの遺伝子型の間に、全ゲノムの塩基配列の最大のobserved distanceとgenetic distanceはそれぞれ8.74%と100塩基部位で14.78の置換であった。これらの相違の程度はゲノムの各遺伝子の部位でほとんど同じであるが2つの部位で異なることが見られた:N 末端領域のメチル/グアニリルトランスフェラーゼ領域は変異が少ないこと、一方、非構造タンパク(NSP)のP150の中央部はもっと相違があった。それが風疹ウイルスゲノムの超可変領域(HVR)であった。 3.風疹ウイルスゲノムにはGCが特に高く、全ゲノムの塩基配列の決定がいつでも難しいであった。本研究は、この問題を解決するため、全ゲノムを代表する3箇所のサブゲノムドメインを選べ、エキストラの24株の塩基配列を決めた。この3つのサブゲノムドメインに分けた全ゲノムを広範囲比較系統樹解析を43株で行ったところ、1B遺伝子型を除いて同じ系統樹の群に属した。1Bでは2つのORFのjunction領域付近に組み換えがあるためによる。組み換えは風疹ウイルスの遺伝子進化に影響を示していると思われた。さらに、1Bと2B遺伝子型のウイルス株に対し、junction非翻訳領域に全ゲノム配列の決定と同じような欠失変異が見られた。 4.二つORFの遺伝子のアミノ酸の配列を用い、アミノ酸配列を解析した。全体で、ゲノムのアミノ酸組成において疎水性および脂肪族アミノ酸が多く、特にHVRとcapsid領域ではプロリンとアルギニンが多かった。19株のアミノ酸配列を比べたところ、配列の相違はゲノムの各遺伝子の部位で一貫していなかった。HVR領域が依然相違が大きいが(33.6%まで)、他方、NSP-ORFのP90 およびSP-ORFのE1よりNSP-ORFのP150およびSP-ORFのE2領域が明らかにもっと相違があった。即ち、P90とE1領域は同義置換が多かったことを示された。 5.NSPとSP遺伝子の3つのコドン部位の配列(sequence at codon positions)を用い、traditional分子進化系統樹と新しい分解進化ネットワーク系統樹の解析を行ったところ、NSP遺伝子による結果、その2種類の系統樹があるウイルスの間に共通するネットワークの存在関係を示し、intra- とinter-genotypeの遺伝子の組み換えが風疹ウイルスゲノムの進化を強く支持する(drive)ことを考えられた。 6.ゲノム配列の塩基組成とコドン使用頻度を調べると、8つの遺伝子型の間での差は少ないが、ゲノム内の各領域またはドメインでの塩基組成およびコドン使用頻度は領域およびコドンの位置によって異なった。風疹ウイルスのゲノムはGC組成が多く、GCの使用頻度に強く偏ることが仮想していた。しかし実際は、一番頻出するコドンにおいて、三番目のみはGCを強く使用し、第一および第二コドン部位の塩基中のGC使用は強くなかった。さらに、三番目コドン部位のGC組成(GC3)と、第一と第二番目のGC組成(GC1とGC2)あるいは実効コドン数(Nc)との正負の相関関係から、風疹ウイルスのコドン使用頻度を決める大きな要因は方向性突然変異圧であることを示した。しかしながら、この特徴はHVR領域では見られなかった。突然変異圧より自然選択の方がHRV領域には強く見られた。 7.二つのORFの塩基組成とコドン使用頻度を宿主細胞の遺伝子のと比べると、ウイルスと宿主に、頻出するコドンとコドン各部位のGC組成が一致してしたことが見られ、風疹ウイルスが宿主細胞の代謝機構を有効に利用し、ウイルスの増殖を強く維持すことが明らかになった。 8.この研究では、非同義置換率と同義置換率との割合(ω)の計算を行い、正の自然淘汰を受けたアミノ酸部位を調べた。風疹ウイルスのゲノムにおいては多くの所ではかなり負の自然淘汰(純化淘汰)を選択されていたが、HVR領域の4か所、CおよびE1タンパクの2か所ずつで正の自然淘汰が示された。これらの正の自然淘汰を受けた部位の機能は、ウイルスの複製、免疫、感染性に関連し利点があるとわかった。 9.さらに、Clade1のE2に反応するがClade2のE2に反応しないモノクローナル抗体を見出し、E2領域の異なった抗原反応性が認められた。これを用いると2つのCladeに属するウイルスを区別することができることが思われた。 以上、本論文は風疹ウイルスの主な遺伝子型において、ウイルスのゲノムの配列を塩基、コドン、アミノ酸のレベルで系統的な解析から、ウイルスの全ゲノム及び功能的な各遺伝子領域の特徴、それなと宿主細胞との相互関係、ウイルスゲノムが受けた進化の動力などことを明らかにした。本研究は、風疹ウイルスの分子進化のメカニズムの解明及び風疹を全世界中に根絶するための風疹のサーベイランスに重要な貢献をなすと考えられ、学位の採与に値するものと考えられる。 | |
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