No | 125167 | |
著者(漢字) | 花山,秀和 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハナヤマ,ヒデカズ | |
標題(和) | 第一世代超新星残骸中の種磁場の生成 | |
標題(洋) | Generation of Seed Magnetic Fields in Primordial Supernova Remnants | |
報告番号 | 125167 | |
報告番号 | 甲25167 | |
学位授与日 | 2009.05.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5425号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 天文学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 宇宙では様々な階層構造においてマイクロガウス(μG) 程度の磁場が普遍的に存在しているが、その起源は未だ明らかではない(Widrow 2002)。特に銀河・銀河団に存在する磁場は、ダイナモと呼ばれる微分回転による増幅機構での説明が有力視されている。しかし、増幅される元となる種磁場の起源は、インフレーションなどの宇宙論的な現象を起源とする説や、原始銀河などの天体を起源とする説などが提案されているものの、どれも決定的なものではない。我々は本論文により第一世代星の超新星残骸が銀河磁場の起源の候補として有力であることを2 次元大規模数値シミュレーションにより実証的に明らかにした。 我々が磁場生成の過程として注目したのはビアマン機構と呼ばれるプロセスである(Biermann 1950)。ビアマン機構は衝撃波中で生じるプラズマ流体中の「渦度」によって磁場を生成する機構ある。このプロセスは超新星残骸の衝撃波中においてもその効果が期待される。しかし、宇宙における始原天体とされる第一世代星の超新星残骸でどの程度の磁場が生成されるのかということに関してはこれまで明らかではなかった。 そこで我々は、ビアマン機構の基本的なプロセスを調べるための試みとして、星間ガスの平均密度に対して倍程度の密度比を持つ淡いガス分布を星間雲として計算領域に与え、衝撃波と星間雲との相互作用を超新星残骸の軸対称2 次元磁気流体力学数値シミュレーションを用いて計算した。計算コードに関しては、公開されている数値天文学計算コードCANS (Coordinated Astronomical Numerical Software) を用い、計算スキームはMHD(Magneto-Hydro-Dynamics)Roe 法を使用した。空間2次精度を達成するためにMUSCL 法を適用し、時間二次精度を達成するために2 ステップの時間進行スキームを用いた。∇. B の誤差を補正する方法としてDedner et al. (2002) の手法を計算コードに適用した。また、衝撃波面で発生する「カーバンクル不安定」と呼ばれるRoe 法固有の数値不安定性に関しては、Nishikawa and Kitamura (2008) のRotated-Riemann Solver 法を導入しさらに独自の改良を加えた。 星間雲と衝撃波の相互作用の計算において特に注意を払ったのは磁場の生成領域に関してである。通常、この種の研究には衝撃波のモデルとして星間雲のスケールを十分に小さいと近似した平面衝撃波のモデルが用いられる。平面衝撃波と星間雲との相互作用により生成される渦度は流体力学的には正しいものと評価され、同様の環境を再現した地上での実験により検証も行われている。しかし、ビアマン機構は本質的に電子温度Te の勾配によって磁場を生成する機構であり、プラズマガスの平均自由行程程度のスケールを持つ平面衝撃波の遷移領域における電子温度を評価するためにはpcスケールを下回る局所的な粒子計算を行わなければならない。そこで、本研究では衝撃波遷移領域における磁場生成を扱わず、磁場の誘導方程式中の磁場生成項に領域判定スイッチを導入し、超新星残骸の内部の温度勾配により生成される磁場のみを取り扱うこととした。 結果として、爆発エネルギーが1051 erg の典型的な超新星残骸の内部では、動径方向方向の圧力勾配とそれに垂直な方向の密度勾配によって10-16 G 程度の磁場が生成され、磁場のエネルギー総量は1024 erg 程度となることがわかった。数値計算により得られた磁場の強度とエネルギー総量は、解析的な評価によって説明が可能である。以上の研究により、超新星残骸内部における磁場生成の基本的なプロセスが明らかとなった。 次に、我々は第一世代星の周囲のガスに上記の星間雲の密度変化と同程度の勾配を持つ非一様な密度揺らぎをガスの分布に与え、第一世代星の超新星残骸と相互作用に関する計算を行った。星間ガスの平均密度、超新星の初期の爆発エネルギー、ゆらぎのスケールと振幅をパラメータとして、各パラメータの異なるモデルの計算をそれぞれ行った。 非一様プラズマガスと衝撃波の相互作用の計算において特に注意を払ったのは電子温度の緩和過程に関してである。ビアマン機構では電子温度Te の勾配によって磁場を生成する機構であるが、Itoh (1978) の先行研究により、初期の超新星残骸に関しては、衝撃波通過後の星間ガスの電子温度がクーロン散乱(Spitzer 1964) によって緩和されない可能性があることが指摘されている。そこで我々はクーロン散乱による電子温度の緩和過程を他の物理量の進化と同時に解き、実際の電子温度から磁場の生成過程を計算した。電子温度の計算に関してはCui and Cox (1992) の手法を用い、移流に関してはMUSCL 法を適用した時間・空間2次精度風上差分法により数値流束を計算した。 結果として、超新星残骸の衝撃波中では電子温度が緩和に到達した後に10-17 -10-18 G の磁場が生成され、生成される磁場のエネルギー総量は1026 erg 程度となることが明らかになった。生成される磁場のパラメータ依存性としては、超新星の初期の爆発エネルギー、ゆらぎの振幅に関しては正の相関があり、星間ガスの平均密度とゆらぎのスケールに関しては負の相関があることがわかった。さらに、内部の圧力勾配および密度勾配に関する解析的な評価を行い、生成される磁場の強度とエネルギー総量の時間進化を説明する一般的な規則を導いた。初期天体の生成率を考慮して宇宙全体で平均化した磁場のエネルギー密度は10-42 erg cm-3 程度であり、原始銀河においては10-39 erg cm-3 程度となる。この値はダイナモ機構での増幅に必要とされる種磁場の量に対しては十分な値である。本研究により第一世代星の超新星残骸が銀河磁場の起源として有力な候補であることが実証的に明らかになった。本論文の結果はガンマ線バースト光源の偏角観測よって将来直接的な検証が可能であるという特色があり(Plaga 1995)、今後の観測が期待される。 | |
審査要旨 | 本論文は、4章とAppendix からなる。第1章は導入部である。この章では、まず、宇宙の様々な階層構造のうち、特に銀河・銀河団に検出されている磁場の起源が不明であることを指摘し、様々な解決の試みがあることを簡潔にまとめて述べるとともに、銀河磁場の生成過程として本論文で注目するビアマン機構について解説している。ビアマン機構とは、電子の圧力勾配と密度勾配が平行ではないことが原因となって、磁場のない状態から磁場が生成される機構である。宇宙の構造形成過程で初代天体にあたる種族III 星の超新星残骸のシェルの膨張過程でも、非一様に分布するガス雲と衝撃波との相互作用でビアマン機構が働きうる可能性を論じている。さらに、ビアマン機構による磁場生成を数値計算によって研究する場合、電子温度の緩和過程を磁気流体方程式と結合させて解くことの重要性を強調し、本論文での新しい試みと目的を明確にしている。 第2章では、まず、ビアマン機構の基本的なプロセスを調べるために構築した超新星残骸の軸対称2 次元磁気流体力学数値計算コードと、空間および時間の二次精度を達成するために用いた計算スキームを詳しく論じている。さらに、磁場の発散の誤差を補正するための新しい計算手法や、衝撃波面で発生するカーバンクル不安定性を回避するために独自に加えた改良点等を説明している。この種の数値計算では1 パーセクを下回るスケールの局所的な粒子計算を行う必要があるため、構築した数値計算法の適用範囲を注意深く同定し、衝撃波遷移領域を除く超新星残骸内部での磁場生成のみを計算対象とすることが述べられている。従って、磁場エネルギー等の計算結果は超新星残骸で生成されると期待される値の下限値を与えるものである。次に、構築した数値計算コードを用いて超新星残骸の衝撃波とガス雲との相互作用を数値的に解いた結果、典型的な爆発エネルギー1051 エルグの超新星残骸の内部では動径方向の圧力勾配とそれに垂直な方向の密度勾配が出現し、ビアマン機構によって10-16 ガウス程度の磁場が生成されること、磁場エネルギーの総量は1024 エルグ程度となることを明らかにした。また、解析的な評価を行って、数値計算による結果の妥当性を確かめた。 第3章では、重元素を含まない種族III 星と、ある程度宇宙進化が進んで重元素を蓄積し始めた段階で生まれた種族II 星の超新星に相当する爆発エネルギーを仮定し、星間ガス雲の平均密度に対して2倍程度の密度ゆらぎを持つ非一様なガス分布を与えて、ゆらぎのスケールと振幅をパラメータとして、超新星残骸の衝撃波とガス雲との相互作用に関する計算を行った。初期の超新星残骸に関しては、衝撃波通過後の星間ガスの電子温度がクーロン散乱によって緩和されない可能性があることが指摘されていたため、電子温度の緩和過程を他の物理量の進化と同時に解き、実際の電子温度から磁場の生成過程を計算し、移流に関してはMUSCL 法を適用した時間および空間の二次精度の差分法により数値流束を計算した。その結果、超新星残骸の衝撃波中では電子温度が緩和に到達した後に10-17~10-18 ガウスの磁場が生成され、磁場エネルギーの総量は1025~1026 エルグ程度となることを明らかにした。生成される磁場のパラメータ依存性としては、超新星の爆発エネルギー、ゆらぎの振幅とは正の相関があり、星間ガスの平均密度、ゆらぎのスケールとは負の相関があることがわかった。さらに、内部の圧力勾配および密度勾配に関する解析的な評価を行い、生成される磁場強度とエネルギー総量の時間進化を説明するスケール則を導いた。種族III 星および種族II 星の生成率を考慮して、宇宙全体で平均化した磁場のエネルギー密度は10-42 エルグ/cm3 程度となり、原始銀河では10-39 エルグ/cm3、10-19 ガウス程度の磁場と見積もることができる。この値は、ダイナモ機構による増幅で銀河磁場を説明しようとする場合に必要とされる種磁場として十分な値である。本研究により、種族III星と種族II 星の超新星残骸が銀河磁場の起源として同程度に寄与することが明らかにされ、宇宙の構造形成過程における初代天体・種族III 星の超新星残骸がその有力候補の一つであることが示された。本論文の結果はガンマ線バースト光源の偏角観測よって将来直接検証できる可能性があり、今後の観測が期待される。 以上のように、本論文では、銀河磁場の起源に関して新しい知見が得られ、将来の天文観測に資する手法も提示されていて、高く評価できる。 なお、本論文の内容は富阪幸治、高橋慶太郎との共同研究である。しかし、論文提出者が主体となって行ったもので、研究成果は論文提出者を第一著者とする論文としてまとめて発表する予定であり、論文提出者の寄与は十分であると判断できる。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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