学位論文要旨



No 125186
著者(漢字) 潘,宣超
著者(英字)
著者(カナ) ハン,センチョウ
標題(和) 改変型増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)のマイナー組織適合性抗原としての免疫学的振る舞い、特に同種同系皮膚移植拒絶反応と移植片対宿主反応(GvHR)の特異的調節に関する研究
標題(洋) Immunological Behavior of Enhanced Green Fluorescent Protein (EGFP) as a Minor Histocompatibility Antigen with a Special Reference to Skin Isograft and Specific Regulation of Local Graft-versus-Host Reaction (GvHR)
報告番号 125186
報告番号 甲25186
学位授与日 2009.06.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3360号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 黒川,峰夫
 東京大学 准教授 北山,丈二
 東京大学 准教授 石川,晃
 東京大学 講師 別宮,好文
 東京大学 講師 多田,弥生
内容要旨 要旨を表示する

【研究の背景及び目的】

緑色蛍光タンパク質(GFP)が、オワンクラゲの生体内から分離精製され、その遺伝子の同定、遺伝子導入技術の発展に伴い、分子細胞生物学研究領域において、幅広く応用されている。現在、その改変型で蛍光度が増強された、改変型の蛋白であるEGFPは、標的遺伝子のレポーター遺伝子として使用されている。改変型増強緑色蛍光タンパク質(EGFP)を発現する細胞や組織を移植モデルに応用する時、こうしたEGFPトランスジェニックまた遺伝子導入された細胞や組織の抗原性や免疫原性は非常に重要である。事実、これらの移植細胞や移植臓器組織が、最終的には拒絶反応を受けるため、 EGFPを発現する細胞や組織臓器移植を生体内に応用する事は大いに制限されている。しかも、EGFPを導入された移植細胞の免疫学的な意義、特に、マイナー組織適合性抗原としての意味は未だ十分に解明されていない。

本研究の目的は、マイナー組織適合性抗原に対する免疫反応、特に細胞性免疫反応による、局所性移植片対宿主反応(GvHR)の抑制機構が蛍光標識リンパ球の生体内消失の細胞動態と密接に関連し、古典的な移植皮膚片に対する拒絶反応に較べて、より感度が高く、より優れた解析方法である事、また発現導入されたEGFPが、マイナー組織適合抗原として振る舞う事を証明することである。

【材料及び方法】

同一のベクターで創成した、二系統のEGFPトランスジェニックラット、EGFP-F344( RT11 )、EGFP-DA( RT1a )を用い、それぞれの免疫学的特性をフローサイトメトリーと定量PCRにより検討した。

次に我々は、In vivo細胞傷害性試験を応用、解析検討した。正常雌ラットに、雄ラットのリンパ節細胞をCFSE試薬で標識したもの、あるいはEGFP発現雌DAラットから調整したリンパ節細胞をそれぞれ150 x106個、静注移植後に血液中に現れるそれぞれの蛍光標識細胞を観察した。二次性リンパ球混合培養法による、培養誘導後の細胞傷害性T細胞の活性を抗H-Y反応、抗EGFP反応において解析検討した。

最後に、局所性移植片対宿主反応(GvHR)とEGFP不適合の移植皮膚拒絶反応の関連について解析検討した。

【結果】

フローサイトメトリーにより、EGFP-DAの胸腺、リンバ節、末梢血、脾臓、骨髄はEGFP-F344に比し、より蛍光度が高い事が発見された。しかしながら、定量PCRにより、EGFP-F344には、ゲノム上、EGFP-DAの二倍量のコピー数が含まれている事が明らかとなった。

皮膚移植モデルにおいて、EGFP-DAドナー移植皮膚片は正常(DAxF344)F1レシピエントにより、すべて拒絶された(MST 14日)。対照的に、EGFP-F344ドナー移植皮膚片は、同じレシピエントによって全く拒絶される事はなかった。EGFP-F344からの特殊な抗原提示細胞、樹状細胞(DC)を用いて感作しても、変化はみられなかった。

In vivo細胞傷害性試験では、正常雌DAに、雄DAラットのリンパ節細胞をCFSE標識したもの、あるいはEGFP発現雌DAラットから調整したリンパ節細胞をそれぞれ150 x106個静注移植。移植後血液中に現れる標識細胞を解析したところ、平均3%から4%の割合で、しかも安定して標識細胞が観察された。しかし、雄特異抗原H-Y、あるいは改変型緑色蛍光蛋白質(EGFP)で感作されたレシピエントDAでは、日を追って減少衰退消失していくようすが観察された。

正常雌(DAxF344)F1レシピエントラットと、H-Y抗原あるいはEGFP抗原感作F1レシピエントラットに、CFSE標識雄リンパ節細胞、あるいは雌EGFP発現リンパ節細胞を静注後、移植動物の血液中に現れる細胞を同様に観察した。

H-Y抗原の差がある組み合わせも、EGFP発現細胞を静注された動物の組み合わせも、両方のレシピエント動物の血液中に、細胞移植後、4日までに小さなピークが必ず観察され、しかも観察中は3%から6%の幅で、移植細胞が存在する事が判明。一方、感作レシピエントでは、H-Y抗原感作、EGFP抗原感作ともに、細胞移植後7日~9日までに、移植細胞が排除される様子が観察された。

EGFPの感作に用いる細胞(抗原提示細胞をふくむ)の違いによって、(DAxF344)F1レシピエント動物の細胞傷害性反応が如何に変化するかを観察したものである。

感作には、EGFP発現F344細胞、あるいはEGFP発現DA細胞を用いた。F1レシピエント動物足蹠皮下に樹状細胞あるいは腹腔滲出マクロファージ(PEC)を用いて感作。

感作の後、EGFP発現雌F344リンパ節細胞150 x106個を静注の後、細胞傷害性による血液中の移植細胞の消退の様子を観察した。EGFP陽性F344細胞の除去は、EGFP陽性DA細胞の除去に比して、不完全かつ比較的に長期に渡る事が明らかとなった。

二次性リンパ球混合培養法による、古典的なin vitro (試験管内)細胞傷害性反応も検討した。H-Y抗原によって感作された雌DA動物から培養誘導した二次性の細胞傷害性T細胞は、雄DA標的細胞に対し、細胞傷害性を示すも、雄F344標的細胞には、全く細胞傷害性を示さなかった。

EGFPによって感作された雌DA動物から培養誘導した二次性の細胞傷害性T細胞は、EGFPを発現する雌EGFP-DA標的細胞、雌(EGFP-DAxF344)F1標的細胞、(DAxEGFP-F344)F1標的細胞に対し、細胞傷害性を示すも、同種異系EGFP-F344標的細胞には、全く細胞傷害性を示さなかった。またEGFP非発現DA細胞に対しても細胞傷害性を示さなかった。加えて、EGFP-F344に由来するEGFP発現F1細胞は、EGFP-DAに由来するF1細胞に比較して明らかに弱い細胞傷害性を示した。

(DAxF344)F1をレシピエントとする局所性移植片対宿主反応(GvHR)を応用し、更に解析を行なった。EGFPを発現するPECによって感作された(DAxF344)F1レシピエントは、局所性移植片対宿主反応(GvHR)の抵抗性を示すのに対し、正常の(DAxF344)F1レシピエントラットでは、局所リンパ節の腫脹が観察された。

【考察】

緑色蛍光タンパク質(GFP)のアミノ酸配列、遺伝子構成は、既に解明され、改変型緑色蛍光タンパク質(EGFP)が広く応用されるに従い、免疫学的な移植細胞、臓器組織への拒絶反応は無視出来なくなっている。事実、移植細胞の長期に渡る観察は、拒絶反応の結果として、大いに制限されている。本研究では、二系統のEGFPトランスジェニックラットの免疫学的特性、特にEGFPを発現する移植細胞組織に対する免疫応答に対し、さらなる検討を行なった。

古典的な皮膚拒絶反応による各トランスジェニックラット系統におけるEGFPマイナー組織適合抗原に対する免疫反応の差異が、本研究により初めて明らかとなった。EGFP-F344ドナーの皮膚移植に対し、レシピエントは無反応状態である。古典皮膚移植モデルに基づくEGFPトランスジェニックF344の免疫原性は観察されなかった。

本研究の結果により、EGFP-F344またEGFP-DAのいずれかで感作された(DAxF344)F1はEGFP-DA、EGFP-F344のいずれのTリンパ球によって誘導された全身性、局所性移植片対宿主反応に対し抵抗を示した。

フローサイトメトリー法を用いて、CFSE標識、あるいはEGFPを発現するリンパ球は、数ヶ月の長期にわたって、生体内の追跡が可能である。

マウスにおいては、緑色蛍光タンパク質のペプチド(HYLSTQSAL corresponding to EGFP200-208 in BALB/c mice)部分に、その抗原性がある事が一部解明されているが、本研究におけるin vivo細胞キメリズム解析を応用する事により、将来、移植におけるEGFP発現細胞に対する免疫応答メカニズムを更に詳細に研究することが可能となった。

【結論】

本研究により、EGFPトランスジェニック動物に発現するEGFPは、古典的なマイナー組織適合抗原としての意味を有する事。しかしながら、 EGFP抗原に対する免疫反応(皮膚移植)は移植皮膚片の拒絶反応によるだけでは、正しく評価ができない。細胞性免疫反応、特にEGFP特異的に感作誘導されたT細胞による特異的な移植片対宿主反応の調節機構により、初めて明らかとなる。これらの結果は、 EGFPマイナー組織適合抗原に対する細胞性免疫応答、即ちTリンパ球による局所性移植片対宿主反応の調節機構に反映される、免疫応答が、従来の皮膚移植法より生体内における免疫評価法により高感度と優れた免疫解析法を提供するものと確信する。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、マイナー組織適合性抗原に対する免疫反応、特に細胞性免疫反応による、局所性移植片対宿主反応(GvHR)の抑制機構が蛍光標識リンパ球の生体内消失の細胞動態と密接に関連し、古典的な移植皮膚片に対する拒絶反応に較べて、より感度が高く、より優れた解析方法である事、また発現導入されたEGFPが、マイナー組織適合抗原として振る舞う事を証明することであり、下記の結果を得ている。

1.フローサイトメトリーにより、EGFP-DAの胸腺、リンバ節、末梢血、脾臓、骨髄はEGFP-F344に比し、より蛍光度が高い事が発見された。しかしながら、定量PCRにより、EGFP-F344には、ゲノム上、EGFP-DAの二倍量のコピー数が含まれている事が明らかとなった。

2.皮膚移植モデルにおいて、EGFP-DAドナー移植皮膚片は正常(DAxF344)F1レシピエントにより、すべて拒絶された(MST 14日)。対照的に、EGFP-F344ドナー移植皮膚片は、同じレシピエントによって全く拒絶される事はなかった。EGFP-F344からの特殊な抗原提示細胞、樹状細胞(DC)を用いて感作しても、変化はみられなかった。

3.In vivo細胞傷害性試験では、正常雌DAに、雄DAラットのリンパ節細胞をCFSE標識したもの、あるいはEGFP発現雌DAラットから調整したリンパ節細胞をそれぞれ150 x106個静注移植。移植後血液中に現れる標識細胞を解析したところ、平均3%から4%の割合で、しかも安定して標識細胞が観察された。しかし、雄特異抗原H-Y、あるいは改変型緑色蛍光蛋白質(EGFP)で感作されたレシピエントDAでは、日を追って減少衰退消失していくようすが観察された。

正常雌(DAxF344)F1レシピエントラットと、H-Y抗原あるいはEGFP抗原感作F1レシピエントラットに、CFSE標識雄リンパ節細胞、あるいは雌EGFP発現リンパ節細胞を静注後、移植動物の血液中に現れる細胞を同様に観察した。

H-Y抗原の差がある組み合わせも、EGFP発現細胞を静注された動物の組み合わせも、両方のレシピエント動物の血液中に、細胞移植後、4日までに小さなピークが必ず観察され、しかも観察中は3%から6%の幅で、移植細胞が存在する事が判明。一方、感作レシピエントでは、H-Y抗原感作、EGFP抗原感作ともに、細胞移植後7日~9日までに、移植細胞が排除される様子が観察された。

EGFPの感作に用いる細胞(抗原提示細胞をふくむ)の違いによって、(DAxF344)F1レシピエント動物の細胞傷害性反応が如何に変化するかを観察したものである。

感作には、EGFP発現F344細胞、あるいはEGFP発現DA細胞を用いた。F1レシピエント動物足蹠皮下に樹状細胞あるいは腹腔滲出マクロファージ(PEC)を用いて感作。

感作の後、EGFP発現雌F344リンパ節細胞150 x106個を静注の後、細胞傷害性による血液中の移植細胞の消退の様子を観察した。EGFP陽性F344細胞の除去は、EGFP陽性DA細胞の除去に比して、不完全かつ比較的に長期に渡る事が明らかとなった。

4.二次性リンパ球混合培養法による、古典的なin vitro (試験管内)細胞傷害性反応も検討した。H-Y抗原によって感作された雌DA動物から培養誘導した二次性の細胞傷害性T細胞は、雄DA標的細胞に対し、細胞傷害性を示すも、雄F344標的細胞には、全く細胞傷害性を示さなかった。

EGFPによって感作された雌DA動物から培養誘導した二次性の細胞傷害性T細胞は、EGFPを発現する雌EGFP-DA標的細胞、雌(EGFP-DAxF344)F1標的細胞、(DAxEGFP-F344)F1標的細胞に対し、細胞傷害性を示すも、同種異系EGFP-F344標的細胞には、全く細胞傷害性を示さなかった。またEGFP非発現DA細胞に対しても細胞傷害性を示さなかった。加えて、EGFP-F344に由来するEGFP発現F1細胞は、EGFP-DAに由来するF1細胞に比較して明らかに弱い細胞傷害性を示した。

5.(DAxF344)F1をレシピエントとする局所性移植片対宿主反応(GvHR)を応用し、更に解析を行なった。EGFPを発現するPECによって感作された(DAxF344)F1レシピエントは、局所性移植片対宿主反応(GvHR)の抵抗性を示すのに対し、正常の(DAxF344)F1レシピエントラットでは、局所リンパ節の腫脹が観察された。

以上、本研究により、EGFPトランスジェニック動物に発現するEGFPは、古典的なマイナー組織適合抗原としての意味を有する事。しかしながら、 EGFP抗原に対する免疫反応(皮膚移植)は移植皮膚片の拒絶反応によるだけでは、正しく評価ができない。細胞性免疫反応、特にEGFP特異的に感作誘導されたT細胞による特異的な移植片対宿主反応の調節機構により、初めて明らかとなる。これらの結果は、 EGFPマイナー組織適合抗原に対する細胞性免疫応答、即ちTリンパ球による局所性移植片対宿主反応の調節機構に反映される、免疫応答が、従来の皮膚移植法より生体内における免疫評価法により高感度と優れた免疫解析法を提供するものと確信すると考えられ、学位授与に値するものと考えられる。

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