学位論文要旨



No 125251
著者(漢字) 西内,裕晶
著者(英字)
著者(カナ) ニシウチ,ヒロアキ
標題(和) ETC-ODデータを用いた都市内高速道路のOD交通量変動特性とその予測に関する研究
標題(洋) A Study on OD Volume Variation and its Prediction for Urban Expressways using ETC-OD Data
報告番号 125251
報告番号 甲25251
学位授与日 2009.09.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7103号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 准教授 清水,哲夫
 東京大学 准教授 加藤,浩徳
 東京大学 講師 田中,伸治
内容要旨 要旨を表示する

本研究は, ETC-ODデータを用いて首都高速道路におけるOD交通量の予測手法を提案した.具体的には,ベイジアンネットワークにより,OD交通量変動要因の状態に応じて,将来OD交通量発生の条件付確率を出力するモデルの構築である.また,本研究では,OD交通量予測モデルを構築するための基礎知識となるOD交通量の変動特性について分析をした.

以下,本論文を構成する各章について,その内容を要約する.

第1章では,本研究の背景と目的を述べ,第2章では,本研究に関連する既存のOD交通量の予測/推計手法の整理を行い,本研究の位置付けを行った. 特に,OD交通量予測手法については,OD交通量の変動を考慮するために,確率的にOD交通量を予測手法の構築を行うことを決定した.

第3章では,OD交通量の変動特性を把握するために,1) OD交通量変動の基本特性,2) OD交通量の独立性,3) 分散分析によるOD交通量の変動要因,4) OD交通量の時間的・空間的相関性 を明らかにするための分析をそれぞれ行った.結果を以下にまとめる.

1) OD交通量変動の基本特性の分析:対象としたODペアの内,80%以上のODペアのOD交通量の水準はその平均値が1.0以下と小さいことを示し,平均OD交通量が小さい場合には,その変動係数は平均OD交通量に対して大きくなることを示した.一方で,平均OD交通量の水準が比較的高いODペアについても,そのOD交通量は5分間OD交通量の場合に20%~150%(1時間OD交通量の場合は10%~50%)程度で日々・時々刻々と変動していることを明らかにした.

2) OD交通量の独立性の分析:OD交通量の日による違いの変動効果(日変動効果)とある時間内の変動効果(時間変動効果)がどの程度であるかを級間分散,級内分散を用いて分析した.その結果,一部のODペアについて,時間変動効果よりも日変動効果のほうが大きく,そのOD交通量の水準は日々異なって推移していることを示した.さらに,高速道路におけるODペアの位置関係により,日変動効果と時間変動効果を分類することが可能であることを示した.特に,首都高速道路以外の高速道路から流入し直後の出口を利用するODペアについては,日変動効果,時間変動効果ともに,他のODペアより大きいことが明らかとなり,利用者が交通状況に応じて出口や経路を転換している可能性を示した.

3) 分散分析によるOD交通量の変動要因分析: ODペア違い,曜日,時間,降雨の有無ならびに首都高速道路上で観測されるデータ(流入交通量,旅行時間,事故の有無,事故以外のトラブルの有無)をOD交通量が変動する要因として抽出し,それぞれがOD交通量の変動に影響を及ぼすのかどうかを分散分析を用いて解析した.その結果,ODペアの違い,曜日の違い,時間帯の違い,降雨の有無,流入交通量水準の大小,旅行時間の大小は,OD交通量の変動に対する要因であることを確認した.

4) OD交通量の時間的・空間的相関性の分析:比較的30分間OD交通量水準の高いODペアについて,あるODペアに着目したときに,前後30分程度とのOD交通量で正の相関があることを確認し(時間的相関性),ある時間帯に着目したときに,同一入口を持ち比較的近接している出口を持つODペア同士について,最大で0.7程度の正の相関係数を持つことを確認した.

第4章では,変数間の因果関係をネットワーク構造でモデル化するベイジアンネットワークを用いてOD交通量予測モデルの構築を行った.また,予測精度の検証には,1)条件付確率分布から予測値の決定方法の違いによる予測精度の違い,2) 予測対象時間の違いによる予測精度の違い,3) ODペアが持つ変動特性による予測精度の違い に着目して考察を行った.その結果,予測対象時間が5分先など短い場合には,条件付確率分布において確率最大となる将来OD交通量を予測値とする方が精度が高いが,30分先のように予測対象時間が長くなる場合には条件付確率分布における頻度が上位5個の将来OD交通量の加重平均値を予測値として採用する方が予測精度が高いことを確認した.また,どちらの値を予測値として採用する場合でも,予測対象時間が30分先程度であれば,本研究で提案した予測モデルによって高精度にOD交通量を予測できることを確認した.また,第3章において明らかにしたODペアが持つ変動特性(日変動効果と時間変動効果)の違いと予測精度の違いについて考察を加えた.その結果,OD交通量の日変動効果が大きいODペアについては,予測精度が他のODペアに比べて大きく向上することを確認した.一方で,日変動効果が小さいODペアについても,時間帯別平均OD交通量と比べて同等以上に予測することが可能であることを示した.

第5章では,交通状況の変化を考慮したOD交通量予測モデルを構築し,その予測精度の変化を確認した.具体的には,対象ODペアの,入口からの流入交通量の大小ならびに代表区間における旅行時間の大小を第4章で構築したベイジアンネットワークに説明変数として追加し,その予測精度の向上を確認した.その結果,特に旅行時間の変化を考慮することによるOD交通量の予測精度の向上を確認した.また,流入交通量の変化を考慮した場合と流入交通量と旅行時間を同時に考慮した場合についても,第4章で構築した予測モデルの予測精度に比べて僅かではあるものの,その精度を向上できることを示した.

第6章では,本研究の全体の総括を行った.本研究の成果を述べた上で,今後の課題として,交通事故などの突発事象とOD交通量の変動の関係や,ベイジアンネットワークへの学習データの拡大とともに本研究で説明変数とした流入交通量や旅行時間,更にはOD交通量の条件設定の詳細な分析が必要であることを述べた.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、首都高速道路におけるETC-ODデータを用いて、ランプ間OD交通量の変動特性分析とベイジアンネットワークを用いた予測手法の提案を行ったものである。

OD交通量の変動特性については、1) OD交通量変動の基本特性、2) OD交通量の独立性、3) 分散分析によるOD交通量の変動要因、4) OD交通量の時間的・空間的相関性 を明らかにしている。OD交通量が小さい場合には、統計的にその変動は大変大きくなること、またOD交通量が比較的大きい場合であっても、変動は5分間OD交通量の場合に、その平均値の20%~150%(1時間OD交通量の場合は10%~50%)というように大きく変動していることを明らかにした。

OD交通量の独立性については、日による変動効果(日変動効果)とある時間内の変動効果(時間変動効果)がどの程度であるかを級間分散、級内分散を用いて分析している。その結果、高速道路におけるODペアの位置関係により、日変動効果と時間変動効果を分類することが可能であることを示した。また、分散分析によるOD交通量の変動要因分析を行い、ODペアの違い、曜日の違い、時間帯の違い、降雨の有無、流入交通量水準の大小、旅行時間の大小が、OD交通量の変動に大きく影響を与える要因であることを明らかにした。さらに、OD交通量の時間的・空間的な相関を分析した結果、前後30分程度のOD交通量と正の相関があること(時間的相関性)、同一入口を持ち比較的近接している出口を持つODペア同士については最大で0.7程度の正の相関係数を持つことを明らかにした。

OD交通量の予測手法については、ベイジアンネットワークを用いてOD交通量予測モデルの構築を行い、予測対象時間が30分先程度であれば、一定の精度でOD交通量が予測できることを示した。また、日変動効果が大きいOD交通量については、予測精度が他のODペアに比べて大きく向上することを確認した。さらに、渋滞の有無など交通状況の変化がOD交通量に与える影響を考慮するために、代表区間における旅行時間、ランプ流入交通量をベイジアンネットワークに説明変数として追加することにより、予測精度が向上できることを示した。予測対象とするOD交通量の集計単位に関する考察、予測に生じるタイムラグを除去することなど、一部課題も残されてはいるものの、オンラインで近未来のOD交通量が予測可能であることを定量的に示したことは、今後の発展に大きく貢献するものと認められる。

以上のとおり、本論文ではETC-ODデータという最新のセンシングデータを解析することにより、これまで知ることができなかったOD交通量について、その変動特性を定量的に明らかにしており、交通運用・管理・計画において大変有用な知見を与えている。また、OD交通量の予測についても、30分先程度までの予測の可能性を明らかにしており、交通シミュレーションへの適用や、近未来の交通管制・運用など実務への応用が考えられ、学術的にも実務的にも、新規性のある成果を残しているものと判断できる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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