学位論文要旨



No 125253
著者(漢字) 百瀬,健
著者(英字)
著者(カナ) モモセ,タケシ
標題(和) ULSI用Cu配線形成を目指した量産対応超臨界流体薄膜作製プロセスの構築
標題(洋)
報告番号 125253
報告番号 甲25253
学位授与日 2009.09.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7105号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 霜垣,幸浩
 東京大学 教授 小関,敏彦
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 教授 寺嶋,和夫
 東京大学 准教授 阿部,英司
 東京大学 准教授 杉山,正和
内容要旨 要旨を表示する

デバイスのスケーリング則に従った縮小化・高集積化に伴い,ULSIの配線は微細化,多層化,高アスペクト比化が進展している。近年量産が開始された65nmノードでは最小線幅90nmで,13層もの多層配線が形成されている。今後も3年ごとに最小寸法は0.7倍に縮小され,益々微細加工への要求が厳しくなる。現在のCu配線はPVD(スパッタリング)によるシード層形成とめっきによる埋め込みからなるダマシン工程により形成されているが,PVDは段差被覆性に乏しく,今後のさらなる高アスペクト比化に対応しきれない可能性が高い。また,微細化に伴い,配線を流れる電流密度が増加し,エレクトロマイグレーションと呼ばれる配線不良が顕在化してきている。これは,Cu配線とバリアメタルとの密着性不良に起因し,密着性の高い構造を形成することも求められている。埋め込み性の観点からは, SCFD(SuperCritical Fluid Deposition),CVDなどの化学反応プロセスが提案されている。SCFDプロセスとは,超臨界CO2中にCu錯体原料を溶解させ,H2により還元することでCuを析出させるプロセスであり,超臨界流体の高拡散性・浸透性から高アスペクト比のビア・トレンチへの均一な薄膜形成が期待できる。また,超臨界流体の溶解性を利用することでCu-CVDに比べ100倍以上の高濃度条件下において製膜が可能であり,高密度核発生や高製膜速度が期待できることや,Cu-CVDでは蒸気圧の制約から使用されなかった種々の固体原料も使用可能になるなど,将来有望なプロセスと言える。しかし現在のところ,量産時の製膜手法,面内均一性,信頼性など不明確な点が多く,実用化への指針は明らかになっていない。本論文ではULSI量産対応可能なSCFDプロセス開発指針を明確にすることを目的とする。

具体的な研究内容は,以下三点に集約される。

(1)極薄連続膜形成

SCFDの初期成長は,膜成長の前に初期核発生過程が存在しており,初期核サイズが大きいと膜成長以前に孔が閉塞する可能性がある。そのため,初期核を小さく高密度かつ均一に発生させ,その後の癒着段階での膜厚を出来る限り薄くする必要がある。このような観点から,初期核発生・成長機構を解明・制御し,極薄連続膜形成を行う。

(2)高アスペクト比化への対応

ビア/トレンチに均一にCuを製膜し,さらに埋め込みを行うには,入り口付近および底部での成長速度を等しくする必要がある。成長速度分布は,ビア・トレンチ側壁面における原料消費と拡散による原料の輸送物性に依存すると考えられ,成長速度式および拡散係数を導出すると共に,シミュレーションにより埋め込み性を定量的に評価する。また,実際に埋め込み検証を行う。

(3)量産性と面内均一性の両立

量産を考えると,スループットが肝要であり,Cu配線形成の全工程に要する時間を考慮し,最適な製膜手法,および装置設計指針を確立する必要がある。実用化レベルでは,20枚/hrが指標となる。SCFDを用いた配線形成工程は,i.ウェハ搬送,ii.scCO2,原料のチャージ,iii.膜成長,iv.scCO2,原料のディスチャージ,v.ウェハ搬送となると考えられる。枚葉式では3min/wfとなり,超臨界流体の滞留時間の長さから原料のディスチャージに数分を要し,導入は難しいと思われる。そのため数枚のウェハをスタックし製膜することでスループットを稼ぐ複数枚バッチ式になると思われる。但し,枚葉式に比べ面内均一性の確保は難しくなり,テクノロジーアセスメントを行い,均一性と量産性の両立する量産装置形状・方式の設計指針を明確にする。また,量産性および面内均一性を向上させるのに必要なケミストリに関しても検討する。

(1)極薄連続膜形成

信頼性を確保するには,Cuとの密着性の高い材料の使用や,配線中および配線/下地界面にボイドない埋め込み手法の構築が必要である。また,発生した核密度が低いと下地との界面にボイドが発生することや初期核サイズが大きいと微細孔内では膜成長以前に孔が閉塞する可能性があり,初期核を小さく高密度かつ均一に発生させ,その後の癒着段階での膜厚を出来る限り薄くする必要がある。次世代デバイスでは,配線の最小ビア径は50nm以下になるため,10nm程度の極薄連続膜を形成する必要がある。原料ケミストリからのアプローチでは,フッ化原料を使用すると,高い原料濃度を得ることができるが,反応副生成物に由来するフッ素吸着層が形成され,高密度の初期核発生を阻害するばかりでなく,密着性を悪化させることがわかた。非フッ化原料を用いることにより,高い密着性と高密度核発生を確認した。また,初期核発生の濃度依存性は,微細孔内での極薄連続膜形成にとっても重要な要素であるが,初期核発生は基板の表面状態になどに敏感であることに加え,時間変化などの系統的データを蓄積するのに膨大な実験回数を必要とすることが知られており,SCFDでは報告例はない。そこで,成長中の基板表面に照射した光の反射光強度変化をその場観察することにより,一度の実験で初期成長の経時変化を詳細に追跡できる手法を開発し,SCFDの初期成長過程を効率的よく解析した。高濃度での原料供給に起因していると思われるが,核発生時には基板表面が原料分子により吸着飽和を起こしているおり,核発生が原料濃度に依存性しないことを確認した。また,H2濃度は核発生を律速しており,H2濃度の増加に伴い,初期核密度が増加する傾向を得た。また,H2は原料の100倍以上供給しており,微細孔内ではH2は均一に存在し,初期核発生の分布には寄与しない。実際に,高H2濃度条件下において,SCFDによりシード層形成に必要となる10nmの極薄連続膜の形成に成功した。また,これら特徴は,原料濃度の低下する微細孔底部においても,原料濃度の高い開口部と同等の核発生を保証するものであり,極薄シード層を微細孔の上部から底部まで均一に製膜できる可能性を示唆している。

(2)高アスペクト比化への対応

高アスペクト孔へボイドなく埋め込みを行うには,前記の初期核発生に加え,微細孔内での上部から底部にかけての均一な成長速度を必要とする。そのような成長速度分布は,製膜による原料消費と拡散による原料輸送のバランスによって決定されることから,製膜因子を独立に制御できるフロー式製膜装置を作製し,成長速度式や拡散係数といった製膜パラメータを抽出し,また成長機構を解明した。SCFDは,Langmuir-Hinshelwood型と呼ばれる非線形反応系であり、成長速度が原料濃度に存しない0次領域を用いることができることが分かった。また,H2も非線形反応であるが,初期核発生時同様,原料の100倍以上供給しており,微細孔内ではH2は均一に存在しており,速度分布に影響しない。反応副生成物は成長抑制効果があることが分かったが,その影響は小さく,無視できる。以上より,気相に比べ拡散係数の数桁遅い超臨界流体を反応媒体として用いているにもかかわらず,SCFDが良好な埋め込み性を示すのは,微細孔内の成長速度分布は,原料濃度分布にのみ依存し,かつ高濃度供給により0次領域を利用しているからであると判断できる。また,微細孔内の原料は拡散によって輸送されていることから,輸送物性として拡散係数を同定した。200℃程度のプロセス温度下では,測定時に反応が関与し正確な測定が難しく,報告例はない。ここでは,すでに成長速度式を得ているので,マクロキャビティと呼ばれる,反応を積極的に取り入れた手法により高温における拡散係数の同定に成功した。また,基板と同様に流体も加熱するホットウォール型反応器では,流体中において微粒子が析出する現象も見えてきており,原料の吸光度の変化から反応速度定数を推算した。これらの検討から,SCFD反応器内の製膜,粒子生成,拡散現象を定量的に評価でき,原料,H2共に高濃度かつ低プロセス温度下において良好な埋め込みが期待できるという指針を得た。実際,ビア径70nm,深さ1μmの微細孔に,極薄連続膜を均一に形成することも,ボイドなく埋め込むことも可能となった。また,埋め込みの最終段階では,何らかのスーパーフィル機構が介在しており,本機構を応用すれば,ナノボイドのリペア技術としての利用も期待できる。さらに,各速度定数を用いて,SCFDの埋め込み限界を予測したところ,開口幅1μm以下のトレンチでは,アスペクト比が100であっても均一に製膜できることを予測しており,1μm以下の領域ではCVDに対する大きな優位性を持つことが分かった。

(3)量産性と面内均一性の両立

SCFDを用いて量産を行うには,複数枚バッチ式が適しているが,複数枚バッチ式には,スタックしたウェハに垂直方向から原料を供給する拡散浸入型と,水平方向から供給するフローチャネル型が存在する。これまでに得られた速度定数,拡散係数を基に有限要素法シミュレーションによって,最適装置設計を行ったところ,電界めっきと同等の40wf/hr,面内均一性99%を得るには,拡散浸入型では高さ17m以上の反応器が必要であり現実的ではない。これに対し,フローチャネル型では,高さ26cm程度,幅35cm程度の現実的なサイズのリアクタにて量産が可能である。さらに,添加剤ケミストリを探索したところ,エタノールが反応を促進するソルベント効果を示し,アセトンが溶解度を増加させるエントレーナ効果を示すことも見出した。これらを利用し,製膜特性を向上させることにより,量産性,面内均一性のさらなる向上が可能であるものと思われる。

審査要旨 要旨を表示する

半導体デバイスのスケーリング則に従った縮小化・高集積化に伴い,ULSIの配線は微細化,多層化,高アスペクト比化が進展しており,微細加工への要求が厳しくなっている。現在のULSI-Cu配線はPVD(スパッタリング)によるシード層形成とめっきによる埋め込みからなるダマシン工程により形成されているが,PVDは段差被覆性に乏しく,今後のさらなる高アスペクト比化に対応しきれない可能性が高い。このような要求に対して超臨界流体薄膜作製(SCFD, SuperCritical Fluid Deposition)やCVD(Chemical Vapor Deposition)などの化学反応プロセスが提案されている。Cu-SCFDプロセスとは,超臨界CO2中にCu錯体原料を溶解させ,H2により還元することでCuを析出させるプロセスであり,超臨界流体の高拡散性・浸透性から高アスペクト比のビア・トレンチへの均一な薄膜形成が期待できる。

本論文は,「ULSI用Cu配線形成を目指した量産対応超臨界流体薄膜作製プロセスの構築」と題し,上記SCFDプロセスのULSI-Cu配線形成への応用と量産対応装置の概念設計を行ったものであり,全部で7章からなる。

第1章は,序論であり,ULSI配線の進展と新規配線形成手法の必要性,超臨界流体の特性と超臨界流体を利用した薄膜形成手法などについて,既往の研究をまとめ,本研究の研究対象をCu-SCFDの量産化に向けたプロセス開発であると位置づけている。

第2章では,Cu-SCFDにおける初期成長過程について検討を行った結果をまとめている。Cu-SCFDにおいて,成長表面に白色光を入射し,その反射スペクトルを取ると,波長770nm程度にCu薄膜の成長に固有な強度変化が現れることを見出し,この反射光測定を行うことによって,薄膜成長の初期段階である核発生・凝集,成長などの段階をその場観察することに成功している。本手法を用いて初期核発生に影響を及ぼす因子を検討したところ,還元剤であるH2濃度が初期核発生を促進することを見出し,H2濃度を限界まで高めることにより高密度核発生を可能とし,10nm程度の極薄連続膜が形成できるようになることを示している。

第3章はCu-SCFDの製膜特性について議論しており,フロー型反応器を構築して,製膜速度の原料濃度依存性,H2濃度依存性,副生成物濃度依存性などを検討している。その結果,原料濃度およびH2濃度依存性はLangmuir-Hinshelwood型速度式にて整理できること,副生成物は製膜阻害効果があることなどを明らかにしている。また,流体中での分解反応も起こることを見出し,その速度の定量的な評価を行っている。輸送特性についても検討を行い,マクロキャビティ法を用いて原料の超臨界二酸化炭素中での拡散係数を測定している。

第4章では,これまでに得た知見を元に,高アスペクト比のビア構造内へCu埋め込みを検討した結果をまとめている。直径70nm,深さ1.0μmの極細ビア内への埋め込み性を評価した結果,ビア底部まで均一な埋め込みが達成できることを確認し,これは,先に得た速度論から説明できることを示している。また,化学的なプロセスであるCVDプロセスとどちらが埋め込み性に優れるかをシミュレーションを用いて評価し,幅1.0μm以下の微細構造ではSCFDがCVDに比べて有利であることを示している。これはSCFDではCVDと比較して高濃度に原料を供給できるため,0次反応領域をうまく利用できるためである結論している。

第5章では,速度論に基づく考察により,量産対応のCu-SCFD反応器の概念設計を行っている。まず,ULSIでのCu製膜への要求事項から,膜厚1.0μmのCu膜を1時間に40枚製膜する必要があることを前提に,ウェハを1枚ずつ処理する枚様式装置では対応不可能なことを示し,複数枚の一括バッチ式装置を提案している。その際に原料の供給方法として拡散進入型とフローチャネル型を想定し,直径300mmのウェハ面内の均一性について評価を行った。その結果,拡散進入型ではウェハ間隔を広げても面内均一性を保つことが難しいことを明らかにし,フローチャネル型がSCFD量産装置として適していることを示している。また,膜厚均一性が±1%以内の精度を得るための条件をシミュレーションにより確認し,その妥当性をチューブフロー型反応器を用いた実験により検証している。

第6章では,SCFDプロセスにおける新規ケミストリの構築について検討した結果をまとめている。アセトンやエタノールなどの有機溶媒を添加すると,反応の促進効果(ソルベント効果)や溶解度の上昇(エントレーナ効果)が期待できる。Cu-SCFDにおいて,これらの効果をその場観察手段を駆使して確認したところ,エタノールには反応を促進するソルベント効果があること,アセトンには溶解度を上昇させるエントレーナ効果があることを見出した。これらの特徴を駆使し,製膜速度が速く,埋め込み性に優れるプロセスの構築が可能であることを示している。

第7章は総括であり,ULSI用Cu配線形成プロセスとして,SCFDプロセスの適応性などについて,本研究から分かったことをまとめている。

以上,本論文は超臨界流体薄膜作製(SCFD)プロセスの製膜手法,面内均一性,埋め込み性などについて検討を行い,ULSI量産対応可能なSCFDプロセスの開発指針を明確化したものであり,マテリアルプロセスの発展に大いに寄与するものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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