学位論文要旨



No 125271
著者(漢字) シム,ウェイ ウェイ
著者(英字) Sim,Way Way
著者(カナ) シム,ウェイ ウェイ
標題(和) 断層変位の影響を受ける埋設管の挙動に関する模型実験
標題(洋) Model Tests on the Response of Buried Pipes Crossing a Fault
報告番号 125271
報告番号 甲25271
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7115号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 准教授 内村,太郎
 大阪大学 教授 鈴木,信久
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、断層を横切る埋設ライフラインの地震時の挙動について、模型振動実験による研究を行い、これをまとめたものである。従来この分野における先行研究では、模型内で断層運動を再現し、これに交差する埋設管の変形を測定するにとどまっていた。しかし本研究ではこれに加えて地震振動強弱の影響も考慮に入れるとともに、断層との交差角度、埋め戻し土の締め固め度、管の剛性、廃棄物の再利用としてタイヤチップ埋め戻しによる管の防護、などの諸点を実験的に研究した。また断層運動に関しても、鉛直(正逆断層)と横ずれ断層の双方を取り扱った。

実験結果によれば、まず、振動と断層運動の重ね合わせは、管にとって厳しい状況とはならないことが判明した。これは、土のせん断強度の一部が地盤振動に対する抵抗に動員されるため、管と地盤との相互作用に関わり得る強度が減少してしまうからである。次に断層に直交する管では、短い区間に地盤変形が集中するので、管の曲げ変形が最大になり、不利であることが判った。土の締め固めは、管に対する拘束を高めることになるため、地盤から管に作用する外力が高まり、管にとっては不利である。他方、管の曲げ剛性を減らすと、管に沿って短い区間に変形が集中し、曲げひずみは大きくなる。さらに、柔軟性に富むタイヤチップ埋め戻しは管に作用する外力を減らす効果がある。これらの検討に続いて管と地盤との相互作用を表すp-y関係を実験結果から再現し、上記の考察と整合する結果を得た。

以上の成果は、埋設ライフラインの耐震工学への実際的な応用において、極めて有意義である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文はModel Tests on the Response of Buried Pipes Crossing a Fault (断層変位の影響を受ける埋設管の挙動に関する模型実験)と題し、英文で執筆された。埋設管は水道、電力、ガス、通信など都市施設にきわめて重要な役割を果たす施設であるが、地盤の変形、特に斜面崩落や断層運動に対しては脆弱である。そこで信頼性向上のためにさまざまな研究と技術開発が行われ、断層の問題も例外ではない。しかし断層地域においては地盤震動も同時発生することが当然予測されるが、両者の重ね合わせに関する研究例は無い。そこで本研究では断層運動と地盤震動の同時発生の問題を中心的テーマとし、付随するさまざまな事項について、模型実験によって研究した。本文は9章および実験データを収録した付録から構成されている。以下に逐次その内容を説明する。

第一章は前書きであり、研究の趣旨と目標、論文の構成などを説明している。

第二章は既往の研究や問題点の所在を簡単に説明している。

第三章は、断層を横切る管の曲げ変形に関する解析的な方法を説明しており、後段の実験結果の理解に資するものである。

第四章は実験の方法を記述している。使用した材料は、地盤に豊浦砂、これに自動車タイヤを細かく裁断したチップを追加した。またデータ収録装置や振動台の仕様も記述した。

第五章は鉛直方向に断層運動を再現した実験の詳細な方法と、その結果を説明している。まず乾燥砂でできた地盤模型を、正方形の平面形状を持つ土槽の中に造成した。土槽の底の中央部を他から遮断してクレーンで持ち上げ、鉛直断層運動を再現できるようにした。そして地中に埋設管を水平に設置した。管は断層面に対してさまざまな交差角度で設置し、貼り付けたひずみゲージの出力から曲げ変形ひずみの時刻歴を計測した。ひずみは、断層運動によって単調増加する成分と地盤振動に起因する変動成分からなっているが、前者の方がはるかに大きく、本研究では主としてこの単調増加成分の大小に着目している。また曲げ変形データに弾性梁理論を適用することにより地盤反力(p-y挙動)を推定することも理論的に可能であるが、数値的な二階微分は信頼性が低いため、主な議論は曲げ変形ひずみそのものに対して行い、補足的にp-y挙動の考察を行うことにした。この方針は第六章の横ずれ断層実験においても同様である。

埋設管が断層と交差する角度αの影響を考察したところによると、曲げ変形については明確な挙動が得られなかった。しかし2階微分を経た地盤反力は、直角に交差する場合(α=90度)に最大であった。このことから、断層の位置と方向があらかじめ判明している場合には、斜めにこれと交差することが望ましいことが判る。また断層運動に地盤振動が重ね合わされた場合には必ずしも管にとって不利にはならず、むしろ外力が少なくなる状況が見出された。さらに管周辺だけをタイヤチップで埋め戻した場合には、曲げモーメントが低減された。これは、タイヤ埋め戻しが軟弱なため、断層運動の力が管に伝わりにくいためである。

第六章は、本研究の中心である横ずれ断層実験の方法と結果を説明している。この実験を遂行するために、まず横ずれ断層運動を再現する土槽を製作し、これを振動台上に設置して、断層運動と地盤震動を重ねあわせた。土槽は正方形の平面形状を持ち、左右に二分されている。そして半分が空気圧シリンダーでずれ移動をし、他方は固定されている。この中に砂地盤を造成し、埋設管を水平に、そして断層面に対してさまざまな交差角度αで設置した。実験にあたっては角度α、震動の強さ、管の曲げ剛性、地盤の締め固め度合い、タイヤチップ埋め戻しの有無の影響に着目した。

実験結果において重要なのはαの影響である。上述の鉛直断層の場合と同じく、直角に交差する場合が管にとって最も厳しい状況であることがわかった。特に、α=90度の場合に曲げひずみが最も大きくなることが実験的に立証できたことが、有益な成果であった。αが90度より小さいときは、管に沿う断層変形帯の長さが増えるため、管の変形が小さくなるのである。次に地盤震動が断層運動に重複した場合には、管の曲げ変形がむしろ小さくなった。これは、土のせん断強度の一部が地盤震動に対する抵抗に動員されるため、管と地盤との相互作用に関わり得る強度が減少してしまうからである。従って断層運動と地盤震動の重複は憂慮するに当たらない。管の曲げ剛性は、材料と直径と管厚によって決まる。これが小さい管は曲がりやすく、断層の近傍に変形が集中する。また曲げ変形そのものは大きい。これに対して剛性の高い管では、断層から離れたところまで変形が及ぶ。しかし曲げ変形は小さくてすむ。これとは逆に、地盤を締め固めると管の拘束が強まり、変形は大きくなる。従って埋め戻し土を締め固めることは得策ではない、という考察になる。ただしこれは断層の影響という面に限られた話であり、実際に道路下に埋設されている管にとっては、交通荷重による埋め戻し土の沈下の影響を避けるためには、締め固められた埋め戻し土の方が好適である。

タイヤチップ埋め戻しの実験では、曲げひずみに対する影響を明瞭に見出すことができなかった。その理由として、管に比べてチップがあまり小さくないため管を拘束してしまった、チップそのものがあまり軟らかくない、埋め戻しトレンチが小さいため周辺地盤の影響が過大に評価された、などの可能性が指摘された。ただし曲げひずみの振動成分に限れば、タイヤチップ埋め戻しによって免震効果が発揮され、ひずみはある程度低減された。最後に地盤反力の性情をさらに詳しく調べるため、反力と変位の関係すなわちp-y曲線を再現した。その結果は、上記の曲げ変形に関する知見と整合するものである。

以上の考察について、地盤と構造物の相互作用の視点からさらに議論しているのが、第七章である。

第八章は結論、第九章は参考文献リストである。そして付録に実験データを詳しく掲載した。

以上、本研究は、断層を横切る埋設パイプラインの地震時挙動を実験的に解明し、その耐震性の向上への方向を明示したものであり、有用性に富みかつ独創的な研究成果と評価できる。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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