学位論文要旨



No 125276
著者(漢字) 朴,常勲
著者(英字)
著者(カナ) パク,サンフン
標題(和) 日韓米における中高層共同住宅の維持管理支援体制に関する研究
標題(洋)
報告番号 125276
報告番号 甲25276
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7120号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松村,秀一
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 准教授 清家,剛
 東京大学 准教授 大月,敏雄
 東京大学 准教授 藤田,香織
内容要旨 要旨を表示する

ソウルは、世界の超大型都市に劣らない莫大な住宅ストックを有しているが、いまだに既存の住宅を活用したり、維持したりするよりは、新たな住宅を建てる等、既存の住宅を活用するための維持管理支援体制が非常に不足している状態である。

そこで、世界的な地域拠点であると同時に、数多くの住宅ストックを有するニューヨーク市と東京都において、既存ストックの安全と品質を保つために行政機関等がどのように共同住宅の維持管理を円滑に誘導しているのかを比較・把握し、これに基づき、今後のソウル市における共同住宅の維持管理の枠組みを整えることを本研究の目的とする。

第2章は、維持管理支援体制の捉え方、対象都市の選択基準、対象都市の維持管理現況と位置づけについて論じた。本研究の目的が、今後のソウル市における共同住宅の維持管理の枠組みを整えることを目的としているため、枠組みの要素である維持管理支援体制と比較対象都市について論じた。

第1節の'維持管理支援体制の捉え方'では、本論文における'維持管理支援体制'の概念整理と、研究対象として(1)法律的な基準、(2)金融・補助金・税金優遇プログラム、(3)人材育成体制、ITシステム等をなぜ選定するのかの理由及びその範囲を述べた。

さらに、第2節の'対象都市の選択基準'では、ソウルへこれらを適切に適用できる対象都市として、1案(世界の拠点都市として選定)と2案(世界の人口第15位都市を選定)を検討した。

第3節の'対象都市の維持管理現況と位置づけ'では、本研究の対象都市として選定したニュヨーク市、東京都、ソウル市における住宅ストックの規模、共同住宅の割合、5階以上の中高層住宅の割合など、それぞれの都市の維持管理の現況を調べた。なお、以上三つの都市(又は国)の維持管理関連機関の業務及び提供サービスを調べた上、住宅マスタープラン等の中から、維持管理部分をまとめ、現在と今後の維持管理関連の課題と計画を検討した。

第3章は、既存ストックの安全と品質を保つために、行政機関等がどのように共同住宅の維持管理を円滑に誘導しているのかについて、ニューヨーク市、東京都、ソウル市における中高層共同住宅の法律的な基準、金融・補助金・税金優遇プログラム、人材育成体制、ITシステムに分けて、維持管理支援体制を調べた。

第1節では、ニューヨーク市、東京都、ソウル市における'法律的な基準'として、それぞれの都市や国で、法律で定めている安全点検を中心に調査した。ここでは、根拠法、対象、点検時期・回数、点検項目、点検資格などを扱った。

第2節では、それぞれの都市で、共同住宅の円滑な維持管理を誘導するため備えている金融・補助金・税金優遇プログラムを調べた。

第3節では、住宅維持管理の知識や技術の伝達手段として有効な`人材育成体制'について調べた。ここでは、各都市と国で行っている市民向けの教育プログラム、協会の専門家向けのライセンスと一般市民の教育体制を中心に述べた。

第4節は、住宅維持管理ITシステムを調べる。複雑で、数多くの建築物の安全と管理効率化のため、各都市の建築物管理システムの運営方針とITシステムがどのように構成されているのかを述べた。

第4章は、ニューヨーク、東京の維持管理体制をソウルへ適用するため、第3章で述べた、ニューヨーク、東京、ソウルの維持管理支援体制について比較・分析した。まず、第1節では、比較・分析の対象と内容等、枠組みを設定し、第2--5節では、法律的な基準、金融・補助金・税金優遇プログラム、人材育成体制、ITシステムについて比較・分析し、これに基づいて各都市の維持管理体制の特性を把握した。第6節は、ニューヨーク、東京との比較により、ソウルの支援体制に不足していると考えられる事項を把握し、これを踏まえ、新たな維持管理体制をソウルへ提案した。

第5章は、これまでに本研究において得た成果を総括し、その上で、今後の研究課題について触れ、本研究をまとめた。

審査要旨 要旨を表示する

提出された学位請求論文「日韓米における中高層共同住宅の維持管理支援体制に関する研究」は、大量の中高層共同住宅が存在するニューヨーク市及び東京都において、日々行われているそれらの維持管理行為を支援する体制が整備されていることに着目し、今後同様のストックの維持管理が社会的な課題になる他の大都市に益する形で、二都市の維持管理支援体制の詳細を明らかにし、そうした大都市の一例としてのソウル市に対してその知見をいかした提案を行うことで、その効果を検証した論文であり、全5章からなっている。

第1章「序論」では、研究の背景、目的、既往の関連研究の成果を明らかにしている。具体的には、世界の大都市に劣らない莫大な住宅ストックを有しているが、これまで既存住宅の活用や維持よりも、その取壊し・建替えが優先されてきた経緯から、既存住宅を活用するための維持管理支援体制が不足しているソウルの実態を明らかにした上で、同様に数多くの住宅ストックを有する大都市であるニューヨーク市と東京都において、既存ストックの安全と品質を保つために行政機関等がどのように共同住宅の維持管理を円滑に誘導しているのかを比較分析することの重要性を指摘し、そうした比較分析に基づき、今後のソウル市における共同住宅の維持管理体制のあり方を見極めることを本研究の目的としている。

第2章では、維持管理支援体制の捉え方、対象都市の選択基準、対象都市の維持管理現況について論じている。先ず、維持管理支援体制の捉え方については、その概念の整理を行い、その上に立って(1)法律的な基準、(2)金融・補助金・税金優遇プログラム、(3)人材育成体制、(4)ITシステムの4項目を、維持管理支援体制の主たる構成要素として抽出し、本研究の対象とすることを述べている。また、研究対象とする都市に関しては、ストックの量的な拡充の途上にあるソウルを初めとする世界の大都市に対する先行事例として、各種経済指標及び人口動態等のデータの比較に基づき、ニューヨーク市と東京都を選定することの妥当性と2都市の位置付けを明らかにしている。その上で、対象都市として選定したニューヨーク市、東京都と提案対象であるソウル市について、住宅ストックの規模、共同住宅の割合、5階以上の中高層住宅の割合など、それぞれの都市における維持管理対象の属性を明らかにした上で、文献調査等から維持管理関連機関の業務及び提供されているサービス、住宅マスタープランにおける維持管理関連事項を明らかにしている。

第3章では、ニューヨーク市、東京都、ソウル市における中高層共同住宅の維持管理支援体制の4構成要素、即ち(1)法律的な基準、(2)金融・補助金・税金優遇プログラム、(3)人材育成体制、(4)ITシステムの実態を把握することで、既存ストックの安全と品質を保つために、行政機関等がどのように共同住宅の維持管理を円滑に誘導しているのかを明らかにしている。具体的には、(1)法律的な基準に関しては、各都市で法律に定めている安全点検を中心に、その根拠法、点検対象、点検時期・回数、点検項目、点検資格等を比較する形で明らかにしている。(2)金融・補助金・税金優遇プログラムに関しては、各都市で共同住宅の円滑な維持管理を誘導することに活用されているプログラムの詳細を個々に明らかにしている。(3)人材育成体制に関しては、各都市で行われている市民向けの教育プログラム、専門家向けのライセンスの種類と個々の詳細を明らかにしている。(4)ITシステムに関しては、多数の建築物の安全と管理の効率化に寄与している各都市の建築物管理システムの運営実態を明らかにしている

第4章では、前章までにその詳細を明らかにしたニューヨーク、東京の維持管理支援体制の他都市、具体的にはソウルへの適用可能性を、相互の比較分析によって見極めている。先ず比較・分析の対象と内容等を設定し、(1)法律的な基準、(2)金融・補助金・税金優遇プログラム、(3)人材育成体制、(4)ITシステムの4構成要素について比較・分析を行い、これに基づいてソウルの維持管理支援体制に不足していると考えられる事項を具体的に指摘し、ソウルにおける維持管理支援体制確立或いは改善の提案としてまとめている。

第5章「結論」では、これまでの成果を整理し結論としている。

以上、本論文は、丹念な資料調査と現地調査により、ニューヨーク市、東京都における中高層共同住宅の維持管理支援体制を具体的かつ詳細に明らかにし、ソウル市におけるその適用可能性を見極めることで、ここで得られた知見を今後ストックの量的な拡充を経験することになる世界の大都市に益する形で用いる可能性を論じた論文であり、建築学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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