No | 125281 | |
著者(漢字) | 李,佑眞 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イ,ウジン | |
標題(和) | 鉄筋コンクリート造建築物の外装塗料の劣化挙動及び中性化抑制効果に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 125281 | |
報告番号 | 甲25281 | |
学位授与日 | 2009.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7125号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,建設投資に占める維持管理投資は増加する傾向を強めており,今後高度成長期に建設された鉄筋コンクリート造建築物(以下RC造建築物)の更新時期を迎えることからも,既存構造物を中心とした建築物の供用期間のコントロールは非常に重要な課題である。 一方,鉄筋コンクリート造建築物の表面には,塗料系材料や複層材料,タイル,石材など様々な外装材料が施されることが多く,これらは意匠的要件のみならず,劣化因子の遮断性能を期待することが可能である。したがって,RC造建築物の仕上げ材料の躯体保護効果を適切に評価する事で,より合理的な補修材料の選定や補修後の維持保全計画の立案が可能となることが期待される。 RC造建築物は、外力や環境条件によって経年劣化していき、基準を超えたひび割れや鉄筋の腐食などが起こると性能低下が加速され、構造物としての機能低下が起こり始める。このような性能低下を引き起こす最も大きな劣化現象として、二酸化炭素によるコンクリートの中性化がある。RC造建築物は土木構造物と違い構造物の外壁が露出していることは少なく、外装塗料が施工され、外装塗料が中性化を抑制すると考えられている。RC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果は古くから指摘があることで,従来の研究では 則への実装を中心とした研究がなされてきた。しかし,これらは新規打設されたコンクリートに施工した場合の統計的事実に基づく研究が主であり,既に中性化が進行したモデルへの適用およびRC造建築物の外装塗料の劣化を考慮することは難しい。また,理論的研究としてはされているが,限られた境界条件下における厳密解の導出を試みるもので,より自由度の高いモデルの構築が望まれている。よって、RC造建築物の外装塗料自体の拡散特性を把握することが重要であるが、RC造建築物の外装塗料が施されたものではなく、コンクリートの評価のみが行われているのが現状である。なお、正確な寿命予測と最適な補修計画を実現する上で,様々な材料の劣化がRC造建築物の機能や性能に与える影響を解明することが必要不可欠であるが,コンクリート自体の耐久性を解明する研究は進んできてはいるものの,その表面に施工されるRC造建築物の外装塗料の長期的な効果および工法による違いに関する情報は多くなく,外装塗料が施されたRC造建築物の耐久設計は,十分に体系化されていないのが現状である。 RC造建築物の耐久性に関する研究は様々な部材に関して行っている。しかし、耐久性に関する研究は、ほぼ10年以上の研究であり、最近は200年を目指す研究が始まっている。従って、現実的に耐久性能を様々な試験や実験により直接的に評価することは不可能である。そのため、様々な部材に対する評価に関して、部材に要求される条件によって促進試験を行っているのが現状である。しかし、外部環境から紫外線・熱・湿度等の様々な要因により進行することが知られている実環境の劣化に関して、定量的に規定されている規格、試験方法及び評価方法ができてない。さらに、今までの研究では様々な劣化に対し、個別的劣化試験を行い実環境とは違う結果が出ている。実環境による劣化は個別的に影響が与えられることではなく、同時に与えているのが一般的な現象である。 促進劣化に関する研究は、ほとんど紫外線に基づいた促進耐候性試験により行った研究である。代表的な促進耐候性試験の種類は3種類である。 (1)サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験 (2)キセノン方式促進試験 (3)メタルハライドランプ式促進試験 各試験はそれぞれ長所と短所がある。しかし、促進耐候性試験を行った結果を実環境からの劣化を定量的に比較・分析することはできない。例えとして、メタルハライドランプ式促進試験1000サイクルは実環境約6年~8年に考えてもいいという分析はできている。しかし、それも確実に検証することはできないのが現状である。 世界の全部門において環境問題が一番重要な事項になっており,建築分野では建築物の長寿命化を図ることで持続可能な社会を構築することを目指している今、RC造建築物の耐久寿命に直接関わる外装塗料には様々な性能が期待されており、その中でも構造体保護性能の役割が重要である。促進耐候性試験による劣化と実環境下の劣化の関連性が明らかになると、RC建築物の外装塗料が施されているRC造建築物の残存寿命に関する中性化などの予測や耐久設計が可能になると考えられる。 そこで、本研究では促進耐候性試験の中で、特に促進劣化する紫外線量が一番高い試験であるメタルハライドランプ式促進試験をRC造建築物の外装塗料に対して定量的に行い、劣化したRC造建築物の外装塗料に対して促進中性化試験、CO2気体拡散試験を行った。その結果から外装塗料に要求される視覚性能、躯体保護性能の低下を明らかにすること、また、外装塗料の劣化によりコンクリートの中性化進行が加速され、外装塗料の中性化抑制効果が低下する現象を明らかにすることを目的とし、特に下の項目を解決すべき点とする。 ◆RC造建築物の外装塗料中性化抑制効果 ◆劣化を考慮した外装塗料の中性化抑制効果モデル ◆中性化速度係数によるRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果の低下 ◆凍結融解作用により低下する外装塗料の中性化抑制効果 ◆促進耐候性試験による低下する外装塗料の視覚性能 ◆促進耐候性試験及び実環境の相関関係(実用性) 本論文では、全8章で構成され、各章の概要及び主な内容を下記のようにまとめる。 第一章では、劣化を考慮したRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果の評価の重要性、その評価寸法の現状、研究の背景及び目的、位置づけ及び範囲、構成を論じた。 第二章では、既往の文献調査により、コンクリートの中性化、RC造建築物の外装塗料、紫外線及び促進耐候性試験、外装塗材の劣化、気体の拡散及び物質移動、RC造建築物の残存寿命予測手法に関する研究を本研究との関連を中心にまとめた。 第三章では、コンクリートの中性化に対しRC造建築物の外壁に施工されている外装塗料の中性化抑制に関する中性化抑制モデルを提案することを目的とした。実環境にあたる紫外線、温度などの劣化因子により低下する中性化抑制効果を求めるため様々な促進劣化試験及び拡散試験に基づいてまとめ、「溶解-拡散理論」により、RC造建築物の外装塗料及びその下地であるコンクリート内部へのCO2拡散を評価し、外装塗料の劣化を考慮したRC造建築物の劣化を明らかにする。 第四章では、低温における凍結融解作用を受けたRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果の低下を明らかにすることを目的とする。そのため、促進凍結融解試験により劣化を受けたRC造建築物の外装塗料に対し、促進中性化試験及びCO2気体の拡散試験により外装塗料の中性化抑制効果を定量的に評価した。また、試験から得られたデータは凍結融解作用による低下するRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果モデルにより検証し、低温における温度変化によってコンクリートや外装塗料の劣化特性を把握してRC造建築物の中性化を評価する方法を提案することとした。 第五章では、高温により劣化が加速されるRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果を明らかにすることを目的として高温環境で劣化を加速させ、拡散試験を行い、温度により加速される劣化により低下する外装塗料の中性化抑制効果を評価する方法を提案した。 第六章では、紫外線によるRC造建築物の外装塗料を促進耐候性試験及び促進中性化試験、CO2拡散試験を行い、低下する視覚性能及び中性化抑制効果を明らかにすることを目的とした。紫外線が与え化学的反応が起き、外装塗料の劣化が開始する過程を実環境と一番近い環境条件であるメタルハライド式促進耐候性試験により実験的に再現した。促進耐候性試験により低下するRC造建築物の外装塗料の視覚性能を色差、光沢度により評価してこの結果はRC造建築物の外装塗料を塗り替える時期を予測することができると判断する。なお、促進耐候性試験が終わった後促進中性化試験及びCO2拡散試験を行い、進行する中性化により低下する外装塗料の中性化抑制効果を定量的に分析し、RC造建築物の外装塗料の劣化を考慮した鉄筋コンクリート建築物の耐久寿命をより精確な寿命予測を通じて検証を行い、紫外線によるRC造建築物の外装塗料の劣化挙動を評価する方法を提案することとした。 第七章では、劣化を考慮したRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果を明らかにすることを目的として,メタルハライドランプ式促進耐候性試験及び促進中性化試験に基づく建築外装塗材中の二酸化炭素移動に関して,実環境と促進試験の関係を明らかにした。また、紫外線及び温度に関する劣化、外装塗料の中性化抑制効果を考慮したRC造建築物の外装塗料の中性化抑制効果モデルを提案して、有限要素解析を行いRC造建築物の耐久寿命予測を行った。 第八章では、本論文における総括の結論として論文の全般的なまとめについて述べた。 | |
審査要旨 | 李佑眞氏から提出された「鉄筋コンクリート造建築物の外装塗料の劣化挙動及び中性化抑制効果に関する研究」は、現代社会において主要な都市ストックを構成する鉄筋コンクリート造建築物を対象として、その物理的耐用年数を最も左右する鉄筋腐食現象に影響を及ぼす主要な劣化因子である二酸化炭素のコンクリートへの侵入に対する外装仕上材料(外装塗料)の抑制効果を評価するとともに、促進劣化試験を実施して紫外線照射や高温暴露による外装仕上材料の劣化に伴う二酸化炭素の侵入抑制効果の低下についても評価し、従来、余剰的な効果として捉えられていた外装仕上材料による鉄筋コンクリート造建築物の耐久性向上効果を明らかにしたものであり、鉄筋コンクリート造建築物の合理的な耐久設計手法および維持保全計画の策定に資する重要な知見を得ている。また、紫外線の影響による外装仕上材料の彩色・光沢の変化についても評価を行い、美観的な観点での外装仕上材料の耐用年数を明らかにしている。資源循環型社会の構築が声高に叫ばれる昨今において、李佑眞氏の研究成果はその一翼を担うものであるといえる。 本研究は7つの章で構成されている。 第1章では、本研究の背景、目的、範囲などが的確に述べられている。 第2章では、本研究に関連する技術の現状および既往の研究成果、すなわち、コンクリートの中性化メカニズム、固体中の気体の拡散移動現象、促進耐候性試験方法、RC造建築物の外装塗料の現状と劣化メカニズム、RC造建築物の残存寿命予測手法などに関する研究が要領よくまとめられている。 第3章では、外装仕上材料の気体拡散実験が論理的に行われており、劣化していない健全な状態での外装仕上材料の二酸化炭素の拡散係数が算出され、外装仕上材料の種類に応じてコンクリートの中性化抑制効果があることが確認されている。また、本章で求められた二酸化炭素の拡散係数は、RC造建築物の寿命予測を実施する場合の重要なパラメータとして用いられている。 第4章では、メタルハライドランプ式促進耐候性試験を用いて、外装仕上材料の紫外線劣化の促進実験が体系的になされた後、劣化した外装仕上材料が施されたコンクリートの促進中性化試験が実施されており、外装仕上材料の劣化に伴いコンクリートの中性化進行が促進されることが明らかにされている。外装仕上材料の中性化抑制効果の低下は、コンクリートの中性化深さが時間の平方根に従うという「ルートt則」に則って評価されており、第3章で求められた拡散係数による評価との対応が試みられている。また、外装仕上材料の紫外線劣化に伴う色差・光沢度の評価もなされており、美観性の観点からの外装仕上材料の寿命決定の根拠となる有用なデータが得られている。 第5章では、促進凍結融解試験機を用いて、コンクリートの凍結融解による体積変化(膨張および収縮)の繰返しに伴う外装仕上材料の劣化促進が精力的になされた後、その促進中性化試験が実施されており、外装仕上材料の劣化に伴いコンクリートの中性化進行が促進されることが明らかにされている。外装仕上材料の中性化抑制効果の低下は、その種類に応じて第4章と同様に「ルートt則」に則った評価がなされており、第3章で求められた拡散係数による評価との対応が試みられている。 第6章では、外装仕上材料の劣化を考慮したRC造建築物の耐用年数の予測が有限要素解析により行われており、第3章から第5章までの実験により得られたデータに基づいて外装仕上材料の中性化抑制効果が構成則に適切に組み込まれている。そして、実施された有限要素解析結果に基づき、外装仕上材料を施すことによるRC造建築物の延命化方策が明示的に示されるとともに、建築仕上材料の補修・交換を適切に導入することが最適な維持管理計画につながることが示されている。 第7章では、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |