学位論文要旨



No 125283
著者(漢字) 朴,智妍
著者(英字)
著者(カナ) パク,チヨン
標題(和) 同居空間でのテリトリーの現れ方に関する研究
標題(洋)
報告番号 125283
報告番号 甲25283
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7127号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西出,和彦
 東京大学 教授 藤井,明
 東京大学 教授 平手,小太郎
 東京大学 准教授 千葉,学
 東京大学 准教授 大月,敏雄
内容要旨 要旨を表示する

住まいと家族は歴史とともに変化を遂げてきた。現代にいたっては家族の概念は従来から考えられてきた「家族」より遥かに広い概念になり、その家族の住まいとなる住居には多様化した家族の生活に適応した空間になる必要性が与えられた。しかし、現状を見てみると住まいは家族の多様化に対応しきれてなく、これらは住まいに自分に居場所を設けることを困難にしている。また建築での研究は主に同居空間について行われていて家族と住まいの両方を同時にみた視点での研究は少ない。よって、同居空間と共に家族関係を考慮した研究が必要である。したがって、本研究では本来設計された通りの住居で生活をしているが実際その住居に住んでいる家族の生活は隔てられた壁を超えテリトリーの調整によって成り立っていると思い、同居空間でのテリトリーの現れ方という視点で同居空間を探り、同居の不便性の理由とそれをどのように解決するべきなのかを把握する。また、同居空間でのテリトリーの現れ方から家族関係を把握、居住形態を分類する。以上のことから、実生活に基づいた現代の同居の現状及び同居空間でのテリトリーの現れ方を把握、また、それらの家族との関係性を把握することで、これからも多様化する可能性の高い同居に置いて「自分の居場所づくり」の一つの提案とすることを目的とする。

その具体的課題と取り扱う章を下記に示す。

課題(1) 同居生活の現状を把握し不便性への認識と理由を把握する。 (第2、3章)

課題(2) 居住要素の利用状況、家族関係別居住要素の利用状況を把握する。(第4章)

課題(3) 居住形態を分類し「自分の居場所づくり」の方法を提案する。 (第5章)

第1章では、研究の背景、目的、方法、位置づけなどを整理した。

家族と住まいの変化と現状について述べ、現在の同居生活の問題点を指摘した。また、従来から考えられてきた概念より遥かに広い概念になった「家族」について述べ、本論文での「家族」の意味を定義した。また、関連する既往研究として住宅、住まいについての研究を概観した上で本研究を位置づけると共に特色を述べた。

第2章では、実際の同居生活を調査することで、同居生活の不便性への認識や、その不便性をどの様に調整しながら生活しているのかを把握した。さらに、人は皆、住まいを持ち生活を営んでいて、特に、同居をしている場合においては、色々な要素がその生活を構成しているため、実際の調査を通して、その要素にはどのようなものがあるのかを把握した。また、同居生活の不便性と居住要素の関係性、それらと家族関係の関連性を指摘した。

第3章では、同居する時の不便性の理由を把握した。

不便性に関する認識調査をすることで、同居生活の不便性への認識を把握したことを基に本章では、不便性は自分の空間と行動領域の差による違和感から成るものであると考え、それらに関する調査をすることで「同居生活の不便性」の理由は何なのかを検討した。また、同居生活とは誰かと一緒に過ごすことなので、同居者間の関係も踏まえて「同居生活の不便性」の理由は何なのかを「自分の空間と行動領域と家族の空間と行動領域」を考慮して検討した。これらから、全体的認識的テリトリーより実際のテリトリーは狭くなること、一人の時の認識的テリトリーより二人以上の時の認識的テリトリーが狭くなること、一人の時の実際のテリトリーより二人以上の時の実際のテリトリーが狭くなること、人は同じ空間に誰かと一緒にいる時はそれを認識し自分のテリトリーを調整していることを指摘した。また、家族関係と自分の空間と行動領域の関係性の置いては家族関係によってお互いの領域の調整の仕方が違うこと、自分の空間・行動領域と家族の領域の調整で不便性を感じるが、お互いの関係、例えば、誰の領域は侵入可能で誰の領域は不可能なのかなどを判断しながらお互い不便性をなるべく感じないようにしようとしていることを指摘した。また、「自分の空間と行動領域と家族の空間と行動領域」からみた家族関係は、母領域侵入型、領域侵入バランス型、領域解放型があることを指摘した。

第4章では、自分の空間・行動領域の差による違和感を、居住要素をどのように利用して調整しているのかを把握し、3章で分類した、家族関係との関係性を把握した。結果、物の専・共、生活時間、コントロール家具、愛着家具、場所づくり、食卓の席、冷蔵庫の使い分け、共用空間にある物の所有、一人でいる時の侵入されたくない場所の維持、共用する部屋、二人以上でいる時の侵入されたくない場所の維持、鍵で自分の領域を維持の順に居住要素の利用率が高いことを指摘した。また、居住要素と家族関係の関係性としては以下のことが分かった。母領域侵入型は、自分のプライバシーを守ろうとする認識が強く、逆に「共用空間にある物の所有」のように他の家族に侵入される可能性が高い居住要素においては、あえて利用を避けていることが読み取れた。各居住要素においても同様の傾向が見受けられ、母領域侵入型は、自分のプライバシーを維持する居住用素を利用することで自分の空間・行動領域を調整していることが分かった。また、領域侵入バランス型は、調整可能な居住要素が自分の空間・行動領域と家族の空間・行動領域の差による不便性を解決する要素として多く利用されており、特に調整する必要がなく共用しても良いと思う要素の利用が久しい。これらから、領域侵入バランス型は家族構成員がお互い自分の空間・行動領域を調整することが重要視され、その調整のために必要な居住要素が多く利用されていることが分かった。領域解放型は自分の物や空間などを共用することで自分の空間・行動領域と家族の空間・行動領域の差による不便性を調整していることが分かった。これらから、領域解放型は自分のプライバシーを守ろうとするよりは自分の空間・行動領域を家族と共用する認識が強く自分のプライバシーだけを守る居住要素はあまり使わない傾向にあることを指摘した。

第5章では、多様な住まい方を4章で述べた家族関係と居住要素を基準にその傾向を把握、居住形態を分類することで、今後も多様化するであろう住まいを把握する一つの道しるべとして提案した。また、家族関係と居住要素から居場所を設けることの可能性を導いた。居住要素の中、主に自分の空間・行動領域と家族の空間・行動領域の調整に利用している要素として「生活時間」、「物の専・共」、「コントロール家具」、「愛着家具」を取り上げ、 平面図に落し、これらの関係を分析した。 また、居住形態には、個室志向居住、相互調節居住、共用空間志向居住があることを指摘し「共用空間に置いてある専用の物」、「コントロール家具」、「愛着家具」が共用空間に多いほど、共用空間にいる時間が長くなり共用空間に自分の居場所をつくることが可能であることを指摘した。

第6章は、本論文の結論とした。

人々は同居空間の中で不便を感じておりそれらを居住要素を通して解決していた。不便や、不便を解決するために使う居住要素は家族関係によりことなり、自分の空間・行動領域が家族の空間・行動領域に侵入可能な関係ほど、お互いのテリトリーを侵入し合う居住要素を利用し調整しながら不便を解決していた。また、同居空間の中でもお互いのテリトリーの調整が重要な共用空間を見てみるとお互いのテリトリーに侵入可能な関係ほど「共用空間に置いてある専用の物」、「コントロール家具」、「愛着家具」が多いく共用空間にいる時間が長くなり共用空間に自分の居場所を設けることが可能になることを指摘した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、人のテリトリーを通じて同居空間における「違和感」の認識とその調整を把握し、住まいに居場所をつくる可能性を導き出すことを目的としたものである。「違和感」とは自分の空間・行動領域の差、また家族間のテリトリーによって発生するもので、「居住要素」を通して調整されている。現代の住まいは家族の多様化に対応しきれず、人々は住まいに「違和感」を感じ、住まいに真の居場所を設けることが難しいという現状が背景にある。

第1章では、家族と住まいの変化と現状、同居生活の問題点を指摘し、関連既往研究を概観し、本研究を位置づけた。

第2章では、実態調査により、同居生活の「違和感」への認識や、その「違和感」をどの様に調整しながら生活しているのかを把握した。

第3章では、「違和感」は自分の空間と行動領域の差によるものと考え、同居生活の「違和感」の理由を検討した。全体的に自分の空間より行動領域が狭くなること、一人の時より二人以上の時が、自分の空間、行動領域が狭くなること、人は同じ空間に誰かと一緒にいる時はそれを認識し自分のテリトリーを調整していること、家族関係によってお互いの領域の調整の仕方が違うこと、お互いの関係で誰の領域は侵入可能で誰の領域は不可能なのかなどを判断しながらお互い「違和感」をなるべく感じないようにしようとしていることを明らかにした。また「自分の空間と行動領域と家族の空間と行動領域」からみた家族関係は、「母領域共有型」、「領域侵入バランス型」、「領域解放型」があるとした。

第4章では、「違和感」を、「居住要素」をどのように利用して調整しているのか、家族関係と関連して把握した。「物の専・共」、「生活時間」、「コントロール家具」、「愛着家具」、「場所づくり」、「食卓の席」、「冷蔵庫の使い分け」、「共用空間にある物の所有」、「一人でいる時の侵入されたくない場所の維持」、「共用する部屋」、「二人以上でいる時の侵入されたくない場所の維持」、「鍵で自分の領域を維持」の順に利用率が高いことを明らかにした。「母領域共有型」は、自分のプライバシーを守ろうとする認識が強く、「共用空間にある物の所有」のように他の家族に侵入される可能性が高い居住要素は、あえて利用を避けていることを明らかにした。「領域侵入バランス型」は、家族構成員がお互い自分の空間・行動領域を調整することが重要視され、その調整のために必要な居住要素が「違和感」を解決する要素として多く利用されていることを明らかにした。「領域解放型」は自分の物や空間などを共用することで「違和感」を調整し、自分のプライバシーを守ろうとするよりは自分の空間・行動領域を家族と共用する認識が強く自分のプライバシーだけを守る居住要素はあまり使わない傾向にあることを指摘した。

第5章では、多様な住まい方を家族関係と居住要素を基準に傾向を把握し、居住形態を分類することで、多様化する住まいを把握する一つの方法として提案し、家族関係と居住要素から居場所を設けることの可能性を導いた。自分の空間・行動領域と家族の空間・行動領域の調整に利用している要素として「生活時間」、「物の専・共」、「コントロール家具」、「愛着家具」を取り上げ、これらの関係を分析した。 居住形態には、「個室志向居住」、「相互調節居住」、「共用空間志向居住」があることを明らかにし「共用空間に置いてある専用の物」、「コントロール家具」、「愛着家具」が共用空間に多いほど、共用空間にいる時間が長くなり共用空間に自分の居場所をつくれる可能性があることを指摘した。

第6章では、結論として、人々は同居空間の中で「違和感」を感じ、それを居住要素を通して解決していること、それらは家族関係により異なり、自分の空間・行動領域が家族の空間・行動領域に侵入可能な関係ほど、お互いのテリトリーを侵入し合う居住要素を利用し調整しながら「違和感」を解決していることを明らかにした。また、テリトリーの調整が重要な共用空間では、お互いのテリトリーに侵入可能な関係ほど「共用空間に置いてある専用の物」、「コントロール家具」、「愛着家具」が多く共用空間にいる時間が長くなり共用空間に自分の居場所を設けることが可能になることを指摘した。

以上のように本論文は、住まいの同居空間における人々の空間・行動領域の差、また家族間のテリトリーによる「違和感」の認識とその調整方法の現状を把握することにより、住まいに居場所をつくる可能性を導き出した。

本論文は、多様化する家族とその住まい方に対して、今後の居住空間の建築計画、特に住まいにおける真の居場所のあり方を考える上で重要な知見を提示するものであり、建築計画学の発展に大いなる寄与を行うものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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