学位論文要旨



No 125305
著者(漢字) 藤井,毅
著者(英字)
著者(カナ) フジイ,タケシ
標題(和) 電気二重層キャパシタを用いたモータアシスト自動MTの研究
標題(洋)
報告番号 125305
報告番号 甲25305
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7149号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 橋本,樹明
 東京大学 准教授 橋本,秀紀
 東京大学 准教授 古関,隆章
 東京大学 准教授 馬場,旬平
内容要旨 要旨を表示する

近年の地球環境の保護に対する関心の高まりや石油価格の高騰をうけ、自動車の燃費性能向上や排気性能向上に対する市場の要求が高まり、電気自動車の効率の良さや排気のクリーンさが見直されるようになってきた。しかしながら、2009年時点においては、エネルギーストレージの容量不足が主因となり、未だ電気自動車が一般的に普及するには至っていない。そこで、容量不足を補う現実的な解として、ハイブリッド自動車の普及が進んでいる。

現在広く普及しているハイブリッド車両は、ニッケル水素電池などの二次電池を電源として、エンジンのトルクとモータのトルクを協調して出力することによって車体を駆動する「パラレルハイブリッド」と呼ばれるシステムを採用しているものがその大半を占める。この方式のハイブリッドシステムでは、エンジンの駆動力とモータの駆動力を同時に利用することができるため、シリーズハイブリッドなどのハイブリッドシステムと比較して、エンジンとモータの重量を小さくまとめることが可能である。そのため、車体重量にして1000kg~2500kg程度の車両のエネルギー効率向上の手段として用いられている。

一方で、車体重量が小さい軽車両に目を向けると、ハイブリッドシステムを採用している例は少ない。その理由のひとつとしてあげられるのが、車体の軽い車両においてはモータやエネルギーストレージの重量増に見合うエネルギー効率向上性能が得られないことである。そもそもこのような軽車両はあまり走行距離を必要とせず、走行エネルギー自体も少量で済むため、純電気自動車でも十分な走行性能を満たすことが可能であり、ハイブリッドシステムは不要であるという意見もある。しかしながら、たとえば東南アジアなどにおいて見られている乗り合いオート3輪車のように、長距離を走行する軽車両も世界的にはニーズが多く、このクラスの車両のエネルギー効率向上が大きな課題となっている。

本研究では、AMTと呼ばれる自動変速機とキャパシタの組み合わせによるハイブリッド車両を提案し、その成立性と制御方法に対して検討を行う。近年の材料技術やパワーエレクトロニクス技術の向上により、蓄電要素の一種であるキャパシタの大容量化が著しく進展し、自動車の駆動電源として用いることができるレベルにまで達してきた。キャパシタは従来の化学電池と比較して、単位重量あたりに蓄えられるエネルギーの総量は小さいものの、出力密度が非常に大きく瞬時に大エネルギーを放出することが可能である。そのためハイブリッド自動車の駆動電源として大容量キャパシタを用いることで、内燃機関とキャパシタの互いの特徴を相補し、より性能の高いハイブリッド車両を成立させることができるのではないかと期待されている。

まず第2章でモータアシストAMTの提案を行い、その特徴と従来型HEVとの差異について述べる。モータアシストAMTは変速機の出力軸後端に駆動力をアシストするためのモータを取り付けたことを特色とする自動変速機の一種であり、従来型のM/Tをベースとして部品を追加するだけで自動化することができると同時に減速時のエネルギー回生も可能であるという特徴を持つ。モータは変速機の後端に取り付けられているため、上流のトランスミッションが変速中等の理由でエンジントルクが車軸に伝わっていない間に限り、そのトルクを補償するようにモータがトルクをアシストするものである。このようなHEVシステムにおいては、モータが連続的に大トルクを負担する必要がないため、モータやエネルギーストレージ等電気駆動系の小型化をすることがが可能である。このシステムや他の一般的なHEVシステムを含め、現在の技術動向について詳述する。

第3章では提案するモータアシストAMTに適したエネルギーストレージに関する考察を行う。鉛電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池、そして電気二重層キャパシタなど近年著しく進化している自動車用エネルギーストレージについて、それぞれの特徴や性能について調査し、そのまとめを行う。

第4章では設計問題としてエンジンとモータ、エネルギーストレージの重量配分について取り扱う。ハイブリッド車両の設計において、モータとエンジンの重量配分とその駆動方法の選択は重要な項目である。そもそもハイブリッド車両はエンジンとモータという同じ働きの出力要素を搭載する必要があるため、設計次第では重量の増加に伴い効率が悪化してしまう可能性すら孕んでいる。そこで、この章ではエンジンやモータ、エネルギーストレージの重量を考慮に入れた車両のエネルギー効率に関する考察を行う。まず一般走行の速度パターンを3種のパラメータを用いてモデル化し、非HEV車や従来型HEV車、そして提案するM-AMT車の3者について、最適なエネルギー効率が得られる重量配分を解析的に求める。さらに、車体重量を変数としてみた場合にその最高エネルギー効率自体が車体重量によりどのように変化するかを示し、電気二重層キャパシタとモータアシスト式AMTという組み合わせが軽車両のエネルギー効率改善に有効であるということを理論的に裏づける。

第5章では具体的なトルクと充放電の制御法について検討を行う。ここではおおきく分けて二つの提案を行う。まずエネルギーストレージに蓄えられるエネルギーは、低車速時には多く、高車速時には少なくあるべきである。これを実現するために、キャパシタの端子間電圧を元にエネルギーストレージの残存エネルギーを常時観測し、それを車速により決まる目標電圧に追従させる制御方法を提案する。またセンサを利用したエンジントルクの正確な推定やクラッチの遮断/解放判定は難しく、正確性も低い。そこで、これらを外乱トルクとして看做す「エンジントルクオブザーバ」に基づくモータコントローラを提案する。モータの出力制御を正確に行うことで、追加センサを用いずにモータアシストAMTを実現する手法の設計を行う。

第6章ではモータアシストAMTの成立性に関するシミュレーションを行う。上記の提案を実現することが可能かどうかを考察するための数値シミュレーションを行った。プログラミングツールにはMatlab/Simulinkを用い、Simulinkのモデル上に車体やエンジン・モータ、エネルギーストレージ、路面勾配などのプラントを模したモデルと5章で提案した制御を組み込んだコントローラを模したモデルを配置し、車速や電流などのダイナミクスを数値演算するシミュレーションプログラムを作成した。プラントのモデルには先述の軽3輪車の例としてインドLovson社製の三輪車RICKYの諸元を採用した。シミュレーションの結果、現状の材料・技術を用いることで、電気二重層キャパシタによるモータアシストAMTが成立することが確かめられた。また副産物として、加速応答の向上や制振性の向上にも効果が期待されることが確かめられた。

第6章ではキャパシタ駆動のモータアシストAMTの成立性に関するシミュレーションを行う。以上の提案を実現することが可能かどうかを考察するための数値シミュレーションモデルを構築した。プログラミングツールにはMatlab/Simulinkを用いた。Simulinkのモデル上に車体やエンジン・モータ、エネルギーストレージ、路面勾配などのプラントを模したモデルと5章で述べた制御を組み込んだコントローラを模したモデルを配置し、車速や電流などのダイナミクスを数値演算するシミュレーションプログラムを作成した。プラントとなる車両のモデルには先述の軽三輪車の例としてインドLovson社製の三輪車であるRICKYの諸元を採用した。シミュレーションの結果、上限電圧30V、容量200Fの電気二重層キャパシタを使用することで、本車両のような軽車両に対する電気二重層キャパシタによるモータアシストAMT化が可能であることが確かめられた。また制御の副産物として、変速中のトルク補償以外にも本システムは有用であり、加速応答の向上や制振性の向上にも効果が期待されることが確かめられた。

第7章では提案するモータアシストAMTの効果を検証するため、実車両を用いた実験を行う。実際にインドLovson社製の三輪車RICKYを輸入し、改造して実験車を製作した。本章ではその構成について述べるとともに実験結果について検討を行う。実験車を実際に運転し、電気二重層キャパシタによるモータアシストAMTで滑らかな加速が実現できることを確かめることができた。

本研究により、500kgを切るような軽車両のエネルギー効率改善に電気二重層キャパシタとモータアシスト式AMTという組み合わせが有効であるということを理論的に示した。エンジントルクオブザーバを用いたモータトルク制御を行うことにより,追加センサなしでもドライバ要求トルクに追従した連続的な加減速とエネルギー充放電の管理が同時に行えることを示した。さらに,その制御がトルク振動の抑制にも効果的であることを示した。実験車を製作し、その効果を確認することができた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「電気二重層キャパシタを用いたモータアシスト自動MTの研究」と題し,AMTと呼ばれる自動変速機とキャパシタの組み合わせによるハイブリッド車両を提案し,その成立性と制御方法に対して検討を行い,実験的な検証によってそれを実証した結果をまとめたものである。

第1章は序論である。近年,蓄電デバイスの一種である電気二重層キャパシタの大容量化が進み,自動車の駆動電源として用いることができるレベルにまで達してきたこと,キャパシタは従来の化学電池と比較して,単位重量あたりのエネルギーは小さいものの,出力密度が非常に大きく瞬時に大エネルギーを放出することが可能である。そのため,AMTのモータ駆動電源として適していることなどを述べている。

第2章ではモータアシストAMTの提案を行い,その特徴と従来型ハイブリッド車(HEV)との差異について述べている。モータアシストAMTは変速機の出力軸後端に駆動力をアシストするモータを取り付けた自動変速機の一種である。変速中にエンジントルクが車軸に伝わっていない短い時間,モータがアシストする。モータは連続的に大トルクを負担する必要がないため,電気駆動系の小型化が可能である。ここではモータアシストAMTシステムや,他の一般的なHEVシステムを含めた技術動向についても詳述している。

第3章では,提案するモータアシストAMTに適したエネルギーストレージデバイスに関する考察を行っている。鉛電池やニッケル水素電池,リチウムイオン電池,そして電気二重層キャパシタなど近年著しく進化している自動車用エネルギーストレージについて,それぞれの特徴や性能について調査した結果をまとめて述べている。

第4章では,ハイブリッド車両の設計において重要となる,エンジンとモータ,エネルギーストレージの重量配分について取り扱っている。まず一般走行の速度パターンを3種のパラメータを用いてモデル化し,非HEV,従来型HEV,そして提案するモータアシストAMT車の三者について,最適なエネルギー効率が得られる重量配分を解析的に求めている。さらに,最高エネルギー効率が車体重量によってどう変化するかを計算し,電気二重層キャパシタとモータアシストAMTの組み合わせが,車重500kg以下の軽車両のエネルギー効率改善にとくに有効であることを理論的に示している。

第5章では具体的なトルクと充放電の制御法を述べている。キャパシタに蓄えられるエネルギーは,低車速時には大きく,高車速時には小さくするべきである。そこで,キャパシタの残存エネルギーを表す端子間電圧を,車速により決まるある目標電圧に追従させる制御方法を提案している。また,エンジントルクの推定やクラッチの解放判定を行う「エンジントルクオブザーバ」を提案し,追加センサを用いずにモータアシストAMTを実現している。

第6章ではキャパシタ駆動モータアシストAMTの成立性の検討を行っている。Simulink上に,車体やエンジン,モータ,エネルギーストレージ,路面勾配などのプラントを模したモデルと,第5章で述べた制御系を組み込んだコントローラを配置し,車速や電流などのダイナミクスを演算する。車両のモデルには軽三輪車であるインドLovson社製のRICKYの諸元を採用し,電圧30V,容量200Fの電気二重層キャパシタを使用することで,モータアシストAMTが可能であることを確かめている。また副産物として,加速応答の向上や制振性の向上にも効果があることを示している。

第7章では提案するモータアシストAMTの効果を検証するために製作した車両について述べている。上述の三輪車RICKYを輸入し,これをモータアシストAMTに改造して実験車を製作した。実験車を実際に運転し,モータアシストAMTで滑らかな加速が実現できることを確かめている。

第8章は結論であり,本研究の成果と将来展望をまとめている。

以上これを要するに,軽車両のエネルギー効率改善にモータアシストAMTが有効であることを示し,変速中のトルク抜けをキャパシタ駆動の電気モータによって高速高精度に補償してスムーズな加減速特性と燃費向上を実現するハイブリッド車両を提案し,シミュレーションと自ら製作した実機によってその有効性を検討したもので,電気工学,自動車工学,制御工学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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