No | 125318 | |
著者(漢字) | 崔,志連 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チェ,ジヨン | |
標題(和) | 金属-リン脂質ポリマー積層ゲルハイブリッド型バイオマテリアルの創製 | |
標題(洋) | Novel Hybrid Biomaterials Composed of Metal and Multilayered Polymer for Controlling Cellular Response | |
報告番号 | 125318 | |
報告番号 | 甲25318 | |
学位授与日 | 2009.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7162号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | マテリアル工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 生体組織は骨や歯の硬組織と、血管や皮膚の軟組織など、力学特性が大きく異なる機能性組織の高次集合体である。したがって、組織機能が衰えた時、機能の代替および回復のために使うバイオマテリアルも組織によって異なる。 硬組織代替マテリアルとして、機械的な強度を有するステンレス鋼、コバルトクロム合金、チタン(Ti)合金などの金属やリン酸カルシウムを中心としたセラミックスが使用されている。一方、軟組織代替マテリアルとしてはポリマー材料が多く使用されている。しかし、実際にバイオマテリアルとして使用するためには、各々の材料に欠けた特性を補充する必要性が挙げられ、これらの材料を組み合わせたものが多く利用されている。 例えば、細胞組織との親和性、生理活性物質の放出制御はポリマーゲルが補い、力学的特性および生理活性物質の放出場所はTi合金が補うことが可能であると考えられる。 そこで、本研究ではTiを基盤基材とした、「金属-ポリマーハイブリッド型バイオマテリアル」を提案した。ポリマーの分子設計を通して、その分子間相互作用を利用した積層ゲルを基材に構築し、バイオマテリアルとしての界面、バルクの特性を制御する方法を開拓した次世代型ハイブリッドマテリアルの創製を目指す。 分子間相互作用を用いた表面処理法として、1990年代に紹介されたレイヤーバイレイヤー(LbL)法に注目した。この方法は基材を選ばずに、容易に、多様なアプリケーションが可能なメリットを持っている。LbL法とは、お互いに親和性を有するポリマーを溶液中から基材上に交互にポリマーを吸着させる方法である。まず、本研究は疎水性薬物の可溶化および分子間相互作用による積層構造を考慮したポリマー(PMBV)を設計した。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は細胞膜の構成成分であるリン脂質構造を有する。このポリマーは非特異的タンパク質吸着および炎症・免疫反応の抑制、抗滅菌性などが認められている。MPCポリマーの溶解性および薬物担持性を考慮し、疎水性のn-ブチルメタクリレート(BMA)ユニットを選んだ。水溶液状態で疎水場を形成し、難溶性薬物であるパクリタキセル(PTX)を可溶化することが可能である。LbL法による積層構造のために、フェニルボロン酸ユニットを選択した。フェニルボロン酸はポリオールとの親和性が高い官能基として知られている。したがって、ポリビニルアルコール(PVA)とフェニルボロン酸基を有するポリマーPMBVは可逆的共有結合による積層構造の作製が可能である。 Ti表面にポリマー積層ゲルを作製するために、Ti表面はシランカップリング処理後、紫外線照射による光反応性PVAをコートして利用した。Ti表面にLbL法により構築されたPMBV/PVA積層ゲルはタンパク質の吸着や細胞の接着などが防げた高生体親和性を現した。また、PMBVとPVAが難溶性薬物であるパクリタキセル(PTX)に対する溶解度が異なることから、積層ゲルの作製時にPTX含有層の位置変化を行った。LbL法から得られたPTX含有PMBV/PVA積層ゲルは多様なPTX放出パターンの作製が可能であり、それにしたがって細胞増殖の制御も可能であった。 タンパク質のような分子量が大きい生理活性物質の放出制御のために、フェニルボロン酸と字オールとの可逆的共有結合と共に静電的相互作用も可能なリン脂質ポリマーPMDVをデザインした。タンパク質としては血管成長因子(VEGF)を選び、VEGFとの親和性が知られているアルギン酸(ALG)をPVAの代わりに選んだ。BMAユニットの代わりに、カチオン性基を有する N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を入れ、ALGとの静電的相互作用を誘導した。PMDV/ALG積層ゲルはpHによってゲル形成に加わる分子間相互作用を調節することが可能である。また、VEGF含有PMDV/ALG積層ゲルはVEGFの生理活性度を維持したまま長時間放出制御することが可能であった。放出されたVEGFは血管内皮細胞(HUVEC)の増殖を促進させることもできる。 金属表面に LbL法によって積層構造を有するポリマーゲルを構築し、 材料へ機能性を加えることが可能であった。分子間相互作用を用いて設計されたポリマーは様々な生理活性物質を積層ゲルに内包させ、放出制御および細胞増殖の調節も可能にした。したがって、金属とポリマーのハイブリッド型バイオマテリアルになり、様々な医療用デバイスとして期待できる。 | |
審査要旨 | バイオマテリアルは目的に応じた医療機能性と生体反応を誘起しない生体親和性などが求められ、対象となる生体組織によってバイオマテリアルも選択される。例えば、骨や歯など硬組織には高い力学特性を有する金属材料が、皮膚や血管など軟組織には柔軟性と加工性に優れたポリマー材料が用いられている。しかし、これらの材料が単独で医療機能性と生体親和性などバイオマテリアルとしての特性を満足することは困難で、多くの場合には組み合わせて利用される。そこで本研究では、二つの異種材料を融合することでそれぞれの特徴を活かしながら、新たな機能を持たすことができるマテリアル設計と評価を系統的に行い、バイオマテリアルとしての選択肢を広げることを実践している。すなわち、本研究では、まず、金属表面にポリマーを積層し、機能化が可能なレイヤーバイレイヤー(LbL)法を適用するために、分子間の相互作用を巧妙に制御する分子設計を行っている。このポリマー積層構造を利用して生理活性分子の拡散を制御することで、接触する細胞の反応を調節する金属とポリマーのハイブリッド型バイオマテリアルの創製を目的としている。 本学位請求論文は全体で6章から構成されている。 第1章は本研究の背景と意義、目的とするバイオマテリアルの創製に関して、その設計論を述べている。生体親和性を獲得する観点から、細胞膜に存在するリン脂質の代表的な極性基であるホスホリルコリン(PC)基を有する2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を一成分とするポリマーの性質と、ポリマー層構造の形成に有効なLbL法の特徴を説明し、表面特性とバルク物性を制御することの重要性を明らかにすることで新規バイオマテリアルの設計概念を提示している。 第2章ではチタン表面にポリマーを積層してゲル構造とし、タンパク質の吸着や細胞の接着などを防ぐ生体親和性表面の構築について記している。MPCとフェニルボロン酸基を有するモノマーからなるリン脂質ポリマー(PMBV)がポリビニルアルコール(PVA)と、これらの水溶液を混合するだけで自発架橋を形成する特性を用いて、チタン表面にLbL法でハイドロゲル積層構造を作製している。金属とポリマーとの分子状接合を施すために、チタン表面にシランカップリング処理を行い、これに対して紫外線照射による化学結合する光反応性PVA層を形成させ、LBL法の基板としている。さらに、PMBVとPVAの水溶液に交互に浸漬することで、各ポリマーの特徴を有する表面が順次形成されて行くことを示している。このポリマー層間には、PMBVとPNAの可逆的共有結合が形成されていることを明らかにしている。 第3章では生理活性分子をポリマー積層構造内に導入し、ゲル層に新しい機能を担持する方法論を展開している。細胞の過度の増殖を抑制することを目的に、パクリタキセル(PTX)の複合化を検討している。水に難溶性のPTXを、水溶液中で疎水場を形成するPMBVを利用すると溶解度が3桁以上も増加することを示し、PMBV層を薬物リザーバーとして利用することを考案している。PTXの溶解性の低いPVA水溶液との間でLbL法を適用することで、PMBV層のみにPTXを含有できることから、積層ゲル構造の中で薬物リザーバーの位置と溶解するPTX量を制御している。特に、ポリマー積層構造の最外層及び最内層にPTXを含有させることで、多様な放出パターンが得られることについて明らかにしている。 第4章では、積層ゲル層をPTXのリザーバーとして利用し、ここからのPTXの放出パターンと、細胞増殖の関係について検討している。積層ゲルの最外層に薬物を含有させると、細胞増殖が全く抑制され、細胞障害を引き起こすことが示された。一方で、薬物リザーバーの位置を変えることで、放出されるPTXの量が細胞障害を誘引しない程度に調節することができ、過度の細胞増殖を制御できることを示している。これを、このことは、血管拡張ステントの問題である血管壁の肥厚化を阻止でき、再狭窄を抑制できる可能性を示すものであり、循環器系の医療デバイスを作製するバイオマテリアルとしての有効性について言及している。 第5章では、LbL 法による積層ゲル構造を利用して、分子量の大きなタンパク質を利用した細胞活性の制御をめざし、ゲルを形成する際の分子間力に、ボロン酸基と水酸基との可逆的共有結合に加え、静電的相互作用の適用について述べている。系のpH変化や酵素などにより分解されやすい血管成長因子(VEGF)をタンパク質として選び、生理活性を維持させるポリマーの分子設計を行っている。VEGFはアルギン酸(ALG)に高い親和性を持つため、LbL法を適用する一成分としてPVAの替わりにALGを用い、これに対応するMPCポリマーには、カチオン性のN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)ユニットを導入している。これにより低いpH環境下でもフェニルボロン酸のイオン化を促進させるMPCポリマー(PMDV)をデザインした。pH変化によるDMAEMAの効果について検討しており、PMDVとALGの分子間相互作用が、pH変化により制御可能であることを明らかにし、さらにLbL法によりPMDV/ALGの積層構造ができることを示している。さらに、ALG層にVEGFを含有したPMDV/ALG積層ゲルは、VEGFの活性を長時間維持したまま血管内皮細胞(HUVEC)の増殖を促進させることを見いだしている。以上のことから、積層ゲル構造を作製する際に分子間相互作用を制御することで、生理活性分子の性質に合わせたゲル構造ができることを実証している。 第6章は本研究の総括である。 本研究は金属とポリマーを分子レベルで化学結合させ、さらに異なるポリマーからなる新しい機能化積層ゲルを安定に形成させることに成功している。特に、ポリマー間の相互作用のみならず、含有する生理活性分子の特徴も活かしたマテリアルデザインにより、細胞の増殖を調節できることを示している。これは、従来問題となっていた血管拡張ステント周囲の細胞の過度な増殖を抑制する有効な方法論の提示につながっている。すなわち、今後の先端医療のためのマテリアル設計に、マテリアル自体のみならず生体分子、細胞まで合わせた新概念を提供すると同時に、多様な性質が求められるバイオマテリアルの創製により医療デバイスの開発に大きな貢献をすると評価できる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 | |
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