学位論文要旨



No 125331
著者(漢字) 金子,智雄
著者(英字)
著者(カナ) カネコ,トシオ
標題(和) 核セキュリティ強化のための国際的な動向と取組 : 法的側面を中心として
標題(洋)
報告番号 125331
報告番号 甲25331
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7175号
研究科 工学系研究科
専攻 原子力国際専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 小佐古,敏壮
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 久野,祐輔
 東京大学 准教授 木村,浩
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、最近の核セキュリティ強化のための国際的な動向と取組に関し、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)」の発足と展開を中心に国際的核テロリズム対策の現状と国際社会に連動した日本の取組を分析・考察するとともに、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロ防止条約)」の発効と日本の取組を分析・考察し、この条約を実施するために、原子炉等規制法や放射線障害防止法ではなく、「放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(放射線発散処罰法)」の新規立法が必要とされたのかについての分析・考察を加え、日本の原子力規制法体系に与えた影響などについて述べ、核セキュリティ対策の国際的議論において留意すべき点などについて、今後の課題を中心として、提言・留意事項を示すものである。

論文の全体構成は、次のとおりである。

まず、第I章において、「本研究の意義及び目標」が述べられている。

第II章において、「核セキュリティを巡る国際的な動向」として、9.11テロを契機とした国際的な動向、核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)、安保理決議1540などについて触れ、また、「核セキュリティ対策に関連する主な条約等の内容とIAEAの役割」として、核物質防護条約、放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範、核テロ防止条約、IAEAの役割などに関し、それぞれの特徴などが述べられている。さらに、IAEAと協調した日本の取組として、「アジア諸国における核セキュリティ強化のための国際会議」が概観されている。

第III章において、第II章で述べた核セキュリティを巡る国際的な動向のうち、最近の主な核セキュリティ関連の国際的な取組であり、重要と考えられる「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)」及び「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロ防止条約)」についての詳細な分析・考察が行われている。核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)については、発足に至る経緯、GI発表時の米露両首脳による共同声明の内容と留意点、GIの発足と展開、米露がGIを推進した理由、GIと日本の取組、今後の課題など、また、核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロ防止条約)については、核テロ防止条約の採択と概要、締結の意義、締約国が負う義務と日本の対応における特色、新たな立法措置(放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律)が必要となった背景など、に対する分析・考察が加えられている。

第IV章で、提言・留意事項として、(1)日本の経験を活かした防護の具体的基準の策定、(2)「強固な」対応部隊のあり方、(3)放射性物質全般に着目した規制体系の可能性検討、及び(4)IAEA憲章に規定されていない「核分裂性物質」の扱いについての私見が述べられ、第V章で結語が述べられている。

本研究を通じ、日本がこれからも原子力の平和的利用を推進し、原子力エネルギーの恩恵を最大限に享受するためには、IAEA保障措置(核不拡散)、原子力安全に加え、核セキュリティという分野においても最新の国際的動向を適切に把握し、かつリードしていくことが重要であり、IAEAの関連ガイドライン、関連条約等の内容、国際情勢なども理解し、前述した提言・留意事項などにも留意しつつ、国際的議論を専門的・技術的にもリードできるような人材育成が今後一層重要となることが述べられている。

審査要旨 要旨を表示する

原子力エネルギーの平和利用のための根本原則は、保障措置(核不拡散)、原子力安全、核セキュリティ(3S)であることがサミット首脳宣言にも謳われている。このうち核セキュリティは米国同時多発テロ以降注目されるようになった概念で、日本は国際的取組への認識が高いとは言えない。本論文は、核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)や核テロ防止条約といった国際的動向の日本への影響について分析・考察したものである。

第I章では研究の意義及び目標について述べている。核テロとはなにかを説明するとともに、核セキュリティに関する国際動向を簡単にまとめでいる。

第II章は核セキュリティを巡る国際規範の動向をまとめたものである。IAEAの核物質防護に関するガイドラインの強化、核物質防護条約の改正、核物質以外のRIについてのIAEA行動規範の承認、不拡散に関する国連安保理決議1540の採択、核テロ防止条約の採択、米ロ主導によるGIといった流れの背景と意義を簡単に述べた後、核物質防護条約、行動規範、行動規範、IAEAの役割について内容を紹介している。また、日本の取組としてIAEAとの共催による国際会議の背景や開催に至る経緯、概要を紹介し、成果とその意義を分析している。

第III章は本論文の主要部で、最近の主な核テロ対策の国際取組二つについて考察している。第一はGIについてで、その意義を述べ、発足に至るまでの経緯、発表時の米ロ首脳の共同声明内容と留意点、日本政府の対応を分析した後、発足後の展開について各回会合の採択事項から詳しい分析を行っている。その上で米ロがGIを推進した理由、IAEAの役割、日本の取組を説明し、今後の課題をまとめている。日本は原子力平和利用の先進国として、原子力防護や核防護といった狭い概念ではなく、国際場裡で用いられる核セキュリティという用語の範囲全体を確保しうる国内体制の拡充が求められていることを強調している。第二には、核テロ防止条約の内容と意義、日本の取組について述べ、それが日本の原子力規制法体系に与えた影響と今後の課題を考察している。日本は新たな立法措置を行ったが、それが必要となった背景について、目的犯的構成による犯罪化をした理由や予備罪を立法した理由を述べるとともに、対象となる放射性物質を拡げた理由、放射線障害防止法における脅迫罪新設の必要性、放射性物質所持や装置の所持・製造の犯罪化の理由を論じている。

第IV章では提言と留意事項を述べている。核物質だけでなくRI全般の悪用防止が必要となり国際的取組が進む状況の中で、日本の経験を活かした防護の具体的基準の策定、武装し訓練を受けた対応部隊のあり方、放射性物質全般に着目した規制体系の可能性の検討、IAEA憲章に規定されていない核分裂性物質の扱いを論じている。

第V章は結語であり、今後の国際的動向を見通しつつ、日本の現状と特殊性を踏まえ、国際的動向のリードとそのための人材育成の重要性を述べている。

以上のように、本論文は核セキュリティに関する国際的動向を分析し、日本のとるべき道を示したもので、工学の進展に寄与するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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