学位論文要旨



No 125333
著者(漢字) 深谷,裕司
著者(英字)
著者(カナ) フカヤ,ユウジ
標題(和) 低減速BWRの核変換特性
標題(洋)
報告番号 125333
報告番号 甲25333
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7177号
研究科 工学系研究科
専攻 原子力国際専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡,芳明
 東京大学 教授 古田,一雄
 東京大学 教授 越塚,誠一
 東京大学 教授 高橋,浩之
 東京大学 教授 長崎,晋也
 東京大学 講師 石渡,祐樹
内容要旨 要旨を表示する

核変換特性は核燃料廃棄物の変換・消滅や使用済燃料の特性に大きな影響を与えるため、重要である。これらの項目に関しては、使用済燃料の一時貯蔵、輸送、ガラス固化時における安全管理の観点や最終的な環境負荷を決定するため、その研究が必要となる。特に、この核変換特性は炉内スペクトルや燃焼度、運転期間といった炉心特性の違いに大きく依存するものであり、新概念炉心である低減速BWRにおいては、その特性の研究が必要である。このことから、本研究の目的は低減速BWRの核変換特性の解明である。

低減速BWRは日本原子力研究開発機構において研究されてきた新概念炉心である。この炉心概念においては、既存の軽水炉技術を基盤として、将来に向けての継続的なエネルギー供給を目的とした炉型である。低減速BWRは稠密三角格子に配列されたMOX燃料を用いた先進的なBWR炉心概念であり、ABWRのプラントシステムを使用し炉心構成のみを変更した炉心概念である。また、低減速BWRは2つの炉心概念からなる。高転換型低減速BWRと増殖型低減速BWRである。高転換型低減速BWRは現行軽水炉技術とのギャップが少ないため、早期導入が可能な炉心であり、ワンススルーの燃料サイクルを想定している。増殖型低減速BWRは転換比1.0以上を達成できる炉心概念であり、マルチリサイクルが可能な炉型である。

本研究においては、低減速BWRの使用済燃料特性の検討を軽水炉、高燃焼度軽水炉、フルMOX軽水炉、Na冷却高速炉などと比較検討した。検討項目としては、使用済燃料の安全管理上必要とされる使用済燃料からの2年冷却及び4年冷却時における崩壊熱と放射能、ガラス固化時及び地層処分時の発熱制限に関する項目、ガラス固化時に問題となる白金族やMoの発生量、LLFP及びMAの発生量などである。これらの検討の中で、2年冷却及び4年冷却時のFP核種からの崩壊熱と放射能に関しては、炉型間のFPの核分裂収率の違いによる差が無視できる程度であること、運転期間も放射性FP核種の減衰に寄与する重要な項目であることが明らかになった。このことにより、運転期間が3000日程度と長い増殖型低減速BWRのFP核種からの崩壊熱と放射能は運転期間における減衰の効果により他の炉型よりも有利であることが分かった。この運転期間の長さは、スペクトルの硬い増殖型低減速BWRの高い転換比によるものである。また、増殖型低減速BWRのアクチニド核種からの崩壊熱と放射能についても、燃料Pu組成として硬いスペクトルによって照射されて発生した多重リサイクル組成を用いていることから、Puの高次化の程度が少ないため、MAの発生が少ないということが分かった。

また、低減速BWRにおけるMA及びLLFPの変換についても検討した。MA変換に関しては、高転換型低減速BWRにおけるMAリサイクル炉心を三次元核熱結合炉心解析により行った。結果として、核種移行解析により環境負荷低減に有効な核種とされるNpに対して、装荷量の約4割、軽水炉から発生するNpの約22基分を低減できることが分かった。また、設計点の決定は主にボイド反応度係数を負にすることを目的として行われたが、この過程を厳密摂動論を用いることによって、炉物理的に考察した。MA添加によって、随伴中性子束が変化することにより散乱項を通じて反応度が添加されること、燃料棒直径及び炉心長を変化させることにより、散乱項の反応度を負の方向へシフトさせ、漏洩項の反応度効果により最終的にボイド反応度係数を負にする設計を決定する過程を定量的に確認した。この特性は、軽水冷却MOX燃料炉心に共通する特性であり、これらの知見の応用が可能であると思われる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、低減速BWRにおける核変換特性を環境負荷の観点から炉物理現象の解明と核変換特性が与える環境負荷への影響について研究したものであり、論文は4章で構成されている。

第1章は序論であり、低減速BWRにおける核変換特性の意義及び研究目的について述べている。核変換特性が影響を与える項目としては、核燃料廃棄物の核変換性能のほかに、使用済燃料特性がある。使用済燃料特性とは、崩壊熱、放射能、プルトニウム組成、マイナー・アクチニド(MA)及び超半減期核分裂生成物(LLFP)の発生量としている。使用済燃料特性については、低減速BWRは新概念炉心であり、これらの項目に関しての検討がなされていなかった旨が述べられており、MA及びLLFPの核変換についての検討の必要性も述べられている。これらの核変換特性は、炉心特性に大きく依存し、低減速BWRは既存の軽水炉とも高速炉とも異なる炉心特性をもつ新概念炉心であることから、その特性の研究が必要であることが示されている。これらを受けて、本論文の目的は低減速BWRの核変換特性及び環境負荷への影響の解明であるとしている。

第2章では、使用済燃料特性の検討について述べている。低減速BWRの使用済燃料特性の炉物理的位置づけを検討するため、軽水炉、高燃焼度軽水炉、フルMOX軽水炉、高速炉の使用済燃料特性と比較を行っている。解析にはORIGENコードを用いているが、低減速BWR用のORIGENライブラリに関しては、本研究において作成し、作成法についての炉物理的検討がなされている。使用済燃料特性については、ガラス固化時や地層処分時における発熱が特に重要となるが、FP核種からの発熱に関して、核分裂による発生、運転期間及び冷却期間における減衰を定量的に評価したモデルを作成し、運転期間における冷却が重要な役割を果たしていることが解明されている。結果として、炉内スペクトルが硬いことにより、転換比が高く運転期間が3000日程度と大きく取れる増殖型低減速BWRにおいては、運転期間の放射性FP核種の減衰の効果のため、50GWd/tと高い燃焼度であるにもかかわらず、崩壊熱が少ないという特性が表れていることを解明している。また、アクチニド組成についても硬いスペクトルをもつ増殖型低減速BWRにおいては、高次化が少なく、崩壊熱が小さいことが示されている。

第3章では、低減速BWRによるMA及びLLFP変換の検討について述べられている。はじめに、核種移行解析の結果を引用し、環境負荷の定義と環境負荷低減に有効な核種が237Npおよび135Csであることを示している。MA変換については、軽水炉技術とのギャップが少なく早期導入可能なMAリサイクルのオプションとして有意義であるとされる高転換型低減速BWRにおいてのMAリサイクルの検討を行い、最終的には三次元核熱結合炉心燃焼解析により炉心設計を行っている。この炉型において、Npに対して軽水炉からの発生量の22基分の低減が可能であることが示されている。LLFPにおいては、増殖型低減速BWRにおける炉心燃焼解析により評価されている。本研究では135Csの評価が新たに行われ、文献値である99Tc、129Iとの比較が行われている。LLFPに関しては、増殖型低減速BWRが炉心性能の低下の観点からLLFPターゲットを炉内に挿入できないため反応率が低く、LLFPの低減にはつながらないことが示されている。

第4章は結論であり、本研究のまとめが述べられている。

以上を要するに、本論文は低減速BWRの核変換特性を研究し環境負荷への影響を提示している。この成果は工学の進展に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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