学位論文要旨



No 125352
著者(漢字) 根岸,孝寛
著者(英字)
著者(カナ) ネギシ,タカヒロ
標題(和) 細胞壁合成チェックポイント機構の形態学的解析と核輸送因子の関与に関する研究
標題(洋) Morphological Analysis and Investigation of Roles of Karyopherins in Cell Wall Integrity Checkpoint
報告番号 125352
報告番号 甲25352
学位授与日 2009.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第514号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端生命科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大矢,禎一
 東京大学 教授 三谷,啓志
 東京大学 教授 中野,明彦
 東京大学 准教授 小嶋,徹也
 東京大学 准教授 前田,達哉
内容要旨 要旨を表示する

[序論]

細胞は厳密に制御された細胞周期の進行によって分裂し増殖する。細胞の分裂は、常に環境や遺伝的ストレスにさらされており、細胞はそれらのストレスに応答する機構を持つ。それは細胞周期チェックポイントとよばれ、細胞に異常がある際には、細胞周期を停滞させることで秩序だった分裂の進行を保証する。それぞれの生物において細胞の分裂様式は多様であるが、細胞周期の制御機構は保存されていることが多く、細胞周期の制御機構を解明することは、ヒトなど様々な生物における細胞の増殖や癌化に関する知見に貢献すると考えられる。

出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeはその遺伝学的有用性や単細胞生物であり比較的扱いやすいことから、真核細胞生物のモデルとして多くの細胞周期チェックポイント機構の研究に利用されてきた。そのなかで、当研究室において、出芽酵母の細胞壁構築と細胞周期の進行を協調する細胞壁合成チェックポイントが発見された。

出芽酵母の細胞壁は、細胞の最表層を覆い、外界の環境変化から細胞を守る生存に必須な細胞小器官である。そのため、細胞壁は出芽を経て分裂する際に細胞周期と協調して新たに構築される必要がある。細胞壁の主要な構成成分である1,3-β-glucanの合成に異常を示す細胞では、細胞壁合成チェックポイントが働き、細胞周期をG2/M期において停止させる。そのチェックポイント機構の表現型として、複製された紡錘極体を分離以前のまま保持することや、M期サイクリンClb2pの転写抑制が明らかとされている。しかしながら、細胞壁合成チェックポイントの応答機構と情報伝達機構については未解明な部分が多い。そのため、このチェックポイントの応答機構を理解するための多面的な表現型解析方法の開発、また、このチェックポイント機構に関与する因子とそれらの情報伝達経路や制御機構の解明が重要であると考えられる。

本研究では、細胞壁合成チェックポイント機構の表現型解析のため、多面的な形態解析の基盤技術を開発した。紡錘極体など、より多くの細胞内構造体において多面的な形態情報を得ることができることを示した。次に、細胞壁合成チェックポイントの情報伝達機構解明のため、出芽酵母における核輸送タンパク質に着目した解析を行った。その結果、いくつかの核輸送タンパク質がこのチェックポイント機構に関与することが示され、それらの情報伝達機構における役割について考察した。

[結果と考察]

1. CalMorphは、紡錘極体を含む細胞内構造体の形態を定量的に抽出する

現在までに、出芽酵母の定量的な形態解析のため出芽酵母の蛍光顕微鏡画像からその形態を定量的に抽出する画像解析プログラム(CalMorph)が開発されている。それは、細胞外形、細胞骨格、核を可視化した画像から501種類の観点(パラメーター)において定量化された形態を抽出する。本研究では、細胞周期依存的な形態変化をより多面的に解析するため、より多くの細胞内構造体に着目した。その結果、紡錘極体(図1、"Spindle Pole Body")を含む6つの細胞内構造体がCalMorphにより認識され、定量的な形態解析に用いることが可能になった(図1)。このことから、既存の501パラメーターに加え、610パラメーターが定義され、計1,111パラメーターによって出芽酵母の細胞内構造の形態が定義できることが示された。

2. 紡錘極体の細胞周期依存的形態変化

上記の画像解析プログラムをもちいて、紡錘極体の細胞周期依存的変化を追跡した。CalMorphでは、個々の細胞内における蛍光の座標とその明るさを数値化する。それらの情報を用いて、ひとつの細胞内に2つの紡錘極体が認識された細胞について、それらの紡錘極体間の距離と毋細胞に対する芽の大きさをグラフ化した(図2)。その結果、紡錘極体は、芽の断面積が毋細胞のそれの約半分となるまでは、約10 pixels(1.295 μm)以下のshort spindleによって近接しており、それ以降芽が成長するにつれて、紡錘極体はさらに分離し、芽に移行することが示された。これは、既知の紡錘極体の形態変化と一致する結果であり、CalMorphによる紡錘極体の形態解析の有効性を示すものである。

3. 細胞壁合成チェックポイント欠損株における紡錘極体分離のCalMorphによる解析

細胞壁の合成が阻害された際に細胞壁合成チェックポイントが働くと、細胞周期は紡錘極体分離以前において停止する。そのため、1,3-β-glucan合成酵素であるFks1pの温度感受性変異株fks1-1154株を37度において培養し未出芽の細胞を観察することで、チェックポイントが誘発された際の細胞形態を観察できる。さらに、先行研究からDynactin複合体の構成因子Arp1pの点変異であるwac1がチェックポイント機構の欠損を示す表現型、つまり紡錘極体の異常な分離を引き起こすことがわかっている。そのためこれらの変異株を使い、細胞壁合成チェックポイントが働く際の紡錘極体の形態をCalMorphにより抽出した。その結果、fks1-1154 wac1やfks1-1154 wac1 mav1など細胞壁合成チェックポイント欠損を示す株において異常な紡錘極体の分離が観察された(図3A, B)。

4. 細胞壁合成チェックポイント機構に関与する核輸送因子の同定

細胞壁合成チェックポイントでは、細胞壁の合成阻害という細胞表層でおこる異常が、細胞周期の停止を引き起こす。その細胞周期の停止の一つの原因として強く示唆されている機構が、M期サイクリンClb2pの転写抑制である。そのため、細胞表層でおこる事象が情報伝達機構を通じて核内に輸送され転写抑制を引き起こすことが考えられた。そこで、細胞壁合成チェックポイントの情報伝達機構解明のため、出芽酵母において同定されている15の核輸送タンパク質(表1)に着目し、それらの細胞壁合成チェックポイント機構への関与について検証した。

4.1. Kap142pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

当研究室の先行研究から、Arp1pと相互作用があることが知られている核輸送因子、Srp1pとそのヘテロ二量体対応因子Kap95pがそのチェックポイント機構に関与することが示され、Arp1pの核内への移行とチェックポイント機構の相関が示唆されている。そこで、Srp1pと同様に核輸送のImportとExportの両方にたずさわることが知られているKap142pを解析した(図4)。その結果、KAP142を欠損することで、細胞壁合成チェックポイント誘発時に紡錘体の形成が観察され、Kap142pが細胞壁合成チェックポイント機構に関与することが示唆された。Kap142pは多くの(既知のもので10以上)タンパク質の局在変化を制御する因子である。その中でも、G1/S期に働く転写因子であるSwi6pの核外への輸送を担っており、細胞壁合成チェックポイントが正しく細胞周期を制御するには、それらの因子の核外への輸送が重要ではないかということが考察される。

4.2. 核輸送のImportに関わるNmd5p、Kap114pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

核輸送のImportに関わる因子について解析した。当研究室においてHigh Osmolarity Glycerol (HOG)キナーゼ経路のMAPキナーゼであるHog1pが細胞壁合成チェックポイント機構に関与することが示されており、その核内への輸送に関与するNmd5pのチェックポイントにおける役割が予想された。表1に示す因子の解析の結果、そのNmd5pに加えて、Kap114pがそのチェックポイント機構に関与することが示唆された。Kap114pはHistoneの構成因子であるH2AとH2BやTATA-binding proteinの核内への輸送を司ることが知られており、それらの異常な制御が細胞壁合成チェックポイント機構に影響したと考えられた。

4.3. 核輸送のExportに関わる因子のうちKap120pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

同様に、核輸送のExportに関わることが知られている因子(表1)について解析した。その結果、Kap120pのチェックポイントへの関与が示唆された。Kap120pについては、多くのことは知られていないが、核輸送因子はそのターゲットを共有する場合が多くあることが知られている。そのため、他の核輸送因子と重複したターゲットを持つ可能性がある。実際に、細胞壁チェックポイントが誘発される際に、Kap120pの欠損株はKap142pの欠損株と同様に異常に伸長した芽を持つことがわかり(図4)、これらのターゲットが重複している可能性が示唆された。

[結論]

本研究では、出芽酵母の細胞周期依存的な形態変化をより多面的に解析するための基盤技術を開発した。これにより紡錘極体の定量的な解析が可能になり細胞周期チェックポイントの研究に活用できることが示された。同時に、新たに610種類の観点により出芽酵母の形態を定義した。これは、遺伝子機能解析のみならず出芽酵母の形態学にも貢献することが期待される。さらに、出芽酵母における細胞壁合成チェックポイント機構における核輸送因子の関与を明らかにした。いくつかの核輸送因子の関与が示唆され、細胞壁合成チェックポイント機構がより複雑な情報伝達機構を持つことが推測される。現在は、上記の核輸送因子についてより詳細な解析を目指しており、それが核輸送因子の細胞増殖の制御に関わる知見に貢献すると考えている。

図1.CalMorphによる出芽酵母細胞内構造体の認識

出芽酵母細胞内構造体を蛍光標識し,CalMorph画像解析プログラムによって処理することで定量化された形態を抽出できる。それぞれの示された細胞内構造体、細胞外形、核の蛍光顕微鏡画像(上段左から)とそれらがCalMorphにより処理された際の出力画像(下段)

図3.CalMorphを使った細胞壁合成チェックポイント欠損株の解析

A.温度感受性の細胞壁合成変異株(fks-1151)と既知の細胞壁合成チェックポイント欠損株(fks1-1154 wacl mavl)をもちいて紡錘極体の形態を抽出した、制限温度下において3.5時間培養した際の、未出芽細胞における分離後の紡錘極体えを持つ細胞(Cell with separated SPBs)の割合をグラフ化した(信頼区間90%)。B.未出芽細胞における分離前(左)と分離後(右)の紡錘極体の顕微鏡画像。細胞外形(上段)と紡錘極体(下段)を示した。それぞれの右例はCalMorphによる形態の認識。

表1.出芽酵母で同定されている15の核輸送因子

図4.核輸送因子、KAP142,NMD5,KAP114とKAP120の欠損は細胞壁合成チェックポイントを誘発する条件下において紡錘体の形成を引き起こす。上記の遺伝型を持つ株をエルトリエーションによりG1期に同調し、それぞれ25度、もしくは37度において培養した。それぞれの条件において培養開始0分と240分において紡錘体の形成(左)と出芽状態(右)を観察した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は2章からなり、第1章は細胞壁合成チェックポイント機構の形態学的解析、第2章は細胞壁合成チェックポイント機構の核輸送因子の関与に関する研究について述べられている。

細胞は厳密に制御された細胞周期の進行によって分裂し増殖する。その細胞の分裂機構は、常に環境や遺伝的ストレスにさらされており、細胞はそれらのストレスに応答する機構を持つ。それは細胞周期チェックポイントとよばれ、細胞に異常がある際には、細胞周期を停滞させることで秩序だった分裂の進行を保証する。それぞれの生物において細胞の分裂様式は多様であるが、細胞周期の制御機構は保存されていることが多く、細胞周期の制御機構を解明することは、ヒトなど様々な生物における細胞の増殖や癌化に関する知見に貢献すると考えられる。

出芽酵母、SACCHAROMYCES CEREVISlAEはその遺伝学的有用性や単細胞生物であり比較的扱いやすいことから、真核細胞生物のモデルとして多くの細胞周期チェックポイント機構の研究に利用されてきた。そのなかで、出芽酵母の細胞壁構築と細胞周期の進行を協調する細胞壁合成チェックポイントが発見された。

出芽酵母の細胞壁は、細胞の最表層を覆い、外界の環塊変化から細胞を守る生存に必須な細胞小器官である。そのため、細胞壁は出芽を経て分裂する際に細胞周期と協調して新たに構築される必要がある。細胞壁の主要な構成成分である1,3-β-GLUCANの合成に異常を示す細胞壁合成変異株では、細胞壁合成チェックポイントが働き、細胞周期をG2/M期において停止させる。そのチェックポイント機構の表現型として、複製された紡錘極体を複製するが分離以前のまま保持することや、M期サイクリンであるCLB2Pの転写抑制が明らかとされている。しかしながら、細胞壁合成チェックポイントの応答機構と情報伝達機構については未解明な部分が多い。そのため、このチェックポイントの応答機構を理解するための多面的な表現型解析方法の開発、また、このチェックポイント機構に関与する因子とそれらの情報伝達経路や制御機構の解明が重要であると考えられる。

本研究では、細胞壁合成チェックポイント機構の表現型解析のため、多面的な形態解析の基盤技術を開発した。出芽酵母の細胞周期依存的な形態変化を抽出し、チェックポイント機構を解析するため、細胞形態を定量的に抽出する画像解析プログラム(CALMORPH)を応用した。紡錘極体など、より多くの細胞内構造体において多面的な形態情報を得るシステムを開発した。次に、細胞壁合成チェックポイントの情報伝達機構解明のため、出芽酵母における核輸送タンパク質に着目した解析を行った。その結果、いくつかの核輸送タンパク質がこのチェックポイント機構に関与することが示され、それらの情報伝達機構における役割について考察した。

1.細胞壁合成チェックポイント機構の形態学的解析

1-1.CALMORPHは、紡錘極体を含む細胞内構造体の形態を定量的に抽出する

現在までに、出芽酵母の定量的な形態解析のため出芽酵母の蛍光顕微鏡画像からその形態を定量的に抽出する画像解析プログラム(CALMORPH)が開発されている。それは、細胞外形、細胞骨格、核を可視化した画像から501種類の観点(パラメーター)において定量化された形態を抽出する。本研究では、細胞周期依存的な形態変化をより多面的に解析するため、より多くの細胞内構造体に着目した。その結果、紡錘極体を含む6つの細胞内構造体がCALMORPHにより認識され、定量的な形態解析に用いることが可能になった。このことから、既存の501パラメーターに加え、610パラメーターが定義され、計1,111パラメーターによって出芽酵母の細胞内構造の形態が定義できることが示された。

1-2.紡錘極体の細胞周期依存的形態変化

上記の画像解析プログラムをもちいて、紡錘極体の細胞周期依存的形態変化を定量化した。CALMORPHによる画像解析では、まず細胞外形が認され、個々の細胞内における蛍光の座標とその明るさをが数値化される。それらの情報を用いて、ひとつの一細胞内に2つの紡錘極体が認識された細胞について、それらの紡錘極体間の距離と母細胞に対する芽の大きさをグラフ化した。その結果、紡錘極体は、芽の断面積が母細胞のそれの約半分となるまでは、約10PIXELS(1.295μM)以下のSHORT SPINDLEによって分離しており、それ以降芽が成長するにつれて、紡錘極体は核移行をともないさらに分離して、核移行をともなって芽に移行することが示された。これは、既知の紡錘極体の形態変化と一致する結果であり、CALMORPHによる紡錘極体の形態解析の有効性を示すものである。

1-3.細胞壁合成チェックポイント欠損株における紡錘極体分離のCALMORPHによる解

細胞壁合成チェックポイントは、細胞壁の合成が阻害された際に細胞壁合成チェックポイントが働くと、細胞周期を紡錘極体分離以前において停止する。そのため、1,3-β-GLUCAN合成酵素であるFKS1Pの温度感受性変異株FKS1-1154株を37度において培養し未出芽の細胞を観察することで、そのチェックポイントが誘発された際の細胞形態を観察できると考えた。それは、出芽にともなう細胞壁の構築ができないため、細胞周期の停滞をさせるためである。さらに、先行研究からWAC1、DYNACTIN複合体の構成因子ARP1Pの点変異であるWAC1がそのチェックポイント機構の欠損を示す表現型、つまり紡錘極体の異常な分離を引き起こすことがわかっている。そのため変異株を使い、細胞壁合成チェックポイントが働く際の紡錘極体の形態をCALMORPHにより抽出した。その結果、FKS1-1154 WAC1やFKS1-1154 WAC1 MAV1など細胞壁合成チェックポイント欠損を示す株において異常な紡錘極体の分離が観察された。

2.細胞壁合成チェックポイント機構の核輸送因子の関与に関する研究

細胞壁合成チェックポイントでは、細胞壁の合成変異阻害という細胞表層でおこる異常が、細胞周期の停止を引き起こす。その細胞周期の停止の一つの原因として強く示唆されていること機構が、M期サイクリンCLB2Pの転写抑制である。そのため、細胞表層でおこる事象が情報伝達機構を通じて核内に輸送され転写抑制を司る引き起こすことが考えられた。そこで、細胞壁合成チェックポイントの情報伝達機構解明のため、出芽酵母において同定されている15の核輸送タンパク質に着目し、それらの細胞壁合成チェックポイント機構への関与について検証した。

2.1.KAP142Pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

当研究室の先行研究から、ARP1Pと相互作用があることが知られている核輸送因子、SRP1Pとそのヘテロ二量体対応因子KAP95Pがそのチェックポイント機構に関与することが示され、ARP1Pの核内への移行とチェックポイント機構の相関が示唆されている。そこで、SRP1Pと同様に核輸送のIMPORTとEXPORTの両方にたずさわることが知られているKAp142pを解析した。その結果、KAP142を欠損することで、細胞壁合成チェックポイント誘発時に紡錘体の形成が観察され、KAP142Pが細胞壁合成チェックポイント機構に関与することが示唆された。KAP142Pは多くの(既知のもので10以上)タンパク質の局在変化を制御する因子である。その中でも、G1/S期に働く転写因子であるSWI6Pの核外への輸送を担っており、細胞壁合成チェックポイントが正しく細胞周期を制御するには、それらの因子の核外への輸送が重要ではないかということが考察された。2.2.核輸送の1MpORTに関わるNMD5P、KAP114Pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

核輸送のIMPORTに関わる因子について解析した。当研究室においてHIGHOSMOLARITY GLYCEROL(HOG)キナーゼ経路のMAPキナーゼであるHOG1Pが細胞壁合成チェックポイント機構に関与することが示されており、その核内への輸送に関与するNMD5Pの同様な関与がチェックポイントにおける役割が期待された。表1に示すIMPORTに関わる因子の解析の結果、そのNMD5Pに加えて、KAP114Pがそのチェックポイント機構に関与することが示唆された。KAp114pはHlsTONEの構成因子であるH2AとH2BやTATA-BlNDING PROTENの核内への輸送を司ることが知られており、それらの異常な制御が細胞壁合成チェックポイント機構に影響したと考えられた。さらに、KAP123P,SXM1PとPDR6Pはそのチェックポイントに関与しないことが示された。

2.3.核輸送のEXPORTに関わる因子のうちKAP120pは細胞壁合成チェックポイント機構に関与する

同様に、核輸送のEXPORTに関わることが知られている因子について解析した。その結果、KAP120Pのチェックポイントへの関与が示唆された。KAP120Pについては、多くのことは知られていないが、核輸送因子はそのターゲットを共有する場合が多くあることが知られている。そのため、他の核輸送因子と重複したターゲットを持つ可能性がある。実際に、細胞壁チェックポイントが誘発される際に、KAPl20Pの欠損株はKAP142Pの欠損株と同様に異常に伸長した芽を持つことが示されており、これらのターゲットが重複している可能性が示唆された。さらに、LOS1Pはそのチェックポイントに関与しないことが示された。

結論としては、本研究では出芽酵母の細胞周期依存的な形態変化をより多面的に解析するための基盤技術を開発した。これにより紡錘極体の定量的な解析が可能になり細胞周期チェックポイントの研究に活用できることが示された。同時に、新たに610種類の観点により出芽酵母の形態を定義した。これは、遺伝子機能解析のみならず出芽酵母の形態学にも貢献することが期待される。さらに、出芽酵母における細胞壁合成チェックポイント機構における核輸送因子の関与を明らかにした。いくつかの核輸送因子の関与が示唆され、細胞壁合成チェックポイント機構がより複雑な情報伝達機構を持つことが推測された。

なお、本論文第1章は野上識、大矢禎一との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク