No | 125380 | |
著者(漢字) | 真下,綾子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マシモ,アヤコ | |
標題(和) | 看護実践能力尺度の開発および看護実践能力と有害事象発生との関連性の検証 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 125380 | |
報告番号 | 甲25380 | |
学位授与日 | 2009.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第3364号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 健康科学・看護学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | I. 序文 看護の質は、人的資源や環境的資源等の「ケア構造(Structure)」と実際に行われている実践の状況である「ケア過程(Process)」、そして看護実践の成果である「ケア結果(Outcome)」の3つの側面から捉えられる。ケア構造にあたる看護職員数とケア結果の関連性については、看護職員数と患者死亡率の関連性が証明され、カリフォルニア州では看護職員配置の基準が法制化された。一方、日本では、平成18年度の診療報酬改定から、手厚い看護職員配置がそれまで以上に評価されるようになった。しかし、複雑化する医療においては、単に看護職員数をそろえるだけでは、患者の満足度の低下、リスクを抱えることとなる。そのため、看護職個々の質としての看護実践能力が保証されなければならない。 II. 目的 第1に看護実践能力の測定尺度を開発し、第2に看護実践能力と有害事象発生の関係を検証する。 III. 研究方法 1.調査期間 1)尺度開発のための調査:平成19年11月~12月 2)経時的調査:平成20年1月,5月,7月の各1週間のデータ収集 2.調査対象 1) 対象病院:機縁法にて抽出した一般病床を算定する急性期病院 6施設 2) 対象病棟:一般外科、内科、混合病棟の46病棟 3) 対象者:看護部長6名、看護師長46名、看護職員1200名 4)測定項目 (1) 看護部長に対して「病院の属性等」 (2) 看護師長に対して「病棟の属性等」 (3) 看護職員に対して「看護実践能に関する質問紙調査(自己、他者評価)」 (4) 看護必要度 (5) 転倒・転落アセスメント (6) 対象病棟の当該期間における内服の処方件数および注射処方箋枚数 (7) 対象病棟の当該期間における「転倒・転落」「誤薬(内服)」「誤薬(注射)」「チューブ類の自己抜去」の有害事象発生件数 5) 分析方法 (1) 看護実践能力尺度の開発 既存の尺度を参考に「倫理」「看護の提供」「対人関係・コミュニケーション」「専門能力の開発」で構成された54の質問項目に対する「自己評価」、「他者評価」、および自己評価点数と他者評価点数の平均したものを「平均」とし、3つの視点から分析を行った。自己評価、他者評価に対して、項目分析、G-P分析, I-T分析を行い質問項目に偏りがないか検討した。また、自己評価と他者評価間でICC(Case2)係数、相関係数を求めたのち、因子分析を実施した。 (2) 看護実践能力と有害事象の関係 (1) 看護実践能力指標の作成 看護実践能力尺度を活用し、看護職員個々の看護実践能力の総合点で、低得点者から高得点者に並べ3分割し、便宜的に得点の低い者を低レベル、中間の者を中レベル、高得点者を高レベルとして分類した。その後、各1週間の総看護職員配置数のうち中レベル及高レベル者数の割合を算出し、これを中レベル以上の看護師割合とした (2) リスク調整指標の作成 患者重症度割合、転倒・転落スコア合計、チューブ類の挿入患者割合を算出した。 (3) 分析単位 各有害事象発生によって影響する変数を選定後、転倒・転落およびチューブ類の自己抜去は、1日単位、誤薬(内服)および誤薬(注射)を1週間単位で分析することとした。 (4) 看護実践能力と有害事象発生との分析方法 各有害事象発生と中レベル以上の看護師割合を含む独立変数との関連性を分析した。被験者変数を病棟とし、被験者内変数を1月、5月、7月、勤務帯別にポアソン分布を用いた一般化推定方程式により分析を行った。 IV. 結果 1.対象の属性 1)病院の属性 平均在院日数は10.2~17.8日、看護職員の平均在職年数は、3.5年~9.9年であった。 2)病棟の属性 勤務体制は3交代制が12病棟、2交代制または変則2交代が34病棟であった。また、診療科は、外科17病棟、内科12病棟、混合17病棟であった。 3)対象者の属性 第1回(1月)の看護職員自己評価者数は、1038人では平均28.4±5.7歳、他者評価件数は、1093で、平均32.8±6.9歳であった。 2.看護実践能力尺度について 1)自己評価、他者評価の項目分析、G-P分析、I-T分析 項目分析において自己評価、他者評価とも天井効果、フロア効果は見られなかった。G-P分析で自己評価、他者評価とすべての項目で有意差があり、I-T分析では自己評価、他者評価とも全体得点と各質問項目の相関係数が高かった。 2)自己評価と他者評価の一致性 自己、他者評価のICC係数、0.4未満の相関係数の低い項目は、基礎的な看護技術項目や専門職開発などの質問項目であり、他者評価と自己評価の点数の差が大きい項目は、倫理を問う項目や医療依存度の高い患者をケアする項目などであった。さらに、項目分析結果では、他者評価が自己評価よりすべて高い点数をつけること、平均点に偏っているため、他者評価を用いらず、自己評価のみで看護実践能力尺度を開発することとした。 3)自己評価のみを用いた因子分析結果 最尤法、固定値1以上で指定し、プロマックス回転を行った結果、5つの因子に分類された。下位項目の特性から第1因子を「患者の状況に合わせた基本的看護ケア」、第2因子を「医療依存度の高い患者への看護ケア」、第3因子を「患者の個別性にあわせた看護過程の展開」、第4因子を「チームの一員としての役割遂行」、第5因子を「患者の安全を守る看護ケア」とした。また下位項目数は、第1因子が16項目、第2因子が6項目、第3因子が11項目、第4因子が7項目、第5因子が8項目となり計48項目となった。 4) 尺度の信頼性について クロンバックのα係数を求めた結果、第1因子0.966、第2因子0.937、第3 因子0.951、第4因子0.815、第5因子は0.941といずれの因子も高い信頼性を示した。 3.看護実践能力と有害事象発生との関連性 1)転倒・転落 各勤務帯を通して、転倒・転落の発生と看護実践能力が中レベル以上の看護師割合との関連性は認められず、日勤帯では転倒転落スコア合計が高ければ発生しやすく、深夜帯では、看護職員数の増加に伴って発生が減少する傾向が示された。 2)誤薬(内服・注射) 本研究では、各勤務帯を通して、誤薬(内服)の発生と中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性は認められなかった。また、日勤帯および深夜帯では、誤薬(内服)の発生と他の変数との関連性はなく、準夜帯では、混合病棟より内科病棟の方が、発生が多いことが明らかになった。一方、誤薬(注射)では、日勤帯にのみ中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性が認められ、中レベル以上の評価を受けた看護師の割合が大きいと誤薬(注射)の発生件数が減少する傾向が認められた。他の変数との関連性では、日勤帯では、患者数が増加すると発生件数も増加するという関連性があることが示された。準夜帯では、平均在院日数が長くなると誤薬(注射)の発生件数が増加する傾向が認められた。また深夜帯では、重症患者の割合が小さければ発生件数も少なく、平均在院日数が長ければ誤薬(注射)も増加する傾向にあることが分かった。 3)チューブ類の自己抜去 各勤務帯を通して、チューブ類の自己抜去と中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性はみられなかった。その他の変数との関連性では、準夜帯で混合病棟より内科病棟で発生件数が多い傾向が示された。 V. 考察 1.看護実践能力尺度について 今回開発した看護実践能力尺度は、開発当初から開発後では、下位項目数の偏りが少なく、クロンバックのα係数も高かったことから、信頼性の高い尺度であると考える。また臨床現場では、通常自己評価と他者評価を用いて評価していることが多いが、本研究結果から、他者評価では、自己評価よりも高い評価をつける傾向にあること、平均的な点数に偏る中心化傾向がみられため自己評価のみを採用して尺度を開発している。また、本質問項目がより実践に即した看護技術項目にも着目していることから、この尺度を広く急性期病院で働く看護職員の実践能力評価に活用できるものと考える。 2.看護実践能力と有害事象発生の関係 看護実践能力が中レベル以上の看護師の割合が大きいほど、誤薬(注射)の発生数が少なくなるという関係性が明らかになった。点滴・注射における手技が看護業務の中で非常に複雑であることから、特に注射業務が多くなる日、時間帯には、看護実践能力レベルの高い看護師の配置が重要である。 なお、転倒・転落の発生は、環境要因が大きいため、有害事象発生との関連性に対する結果に影響を及ぼした可能性もある。また、誤薬(内服)については、先行研究で誤薬の内服と注射で分類した上で分析した研究がないため、単純な比較はできない。しかし、看護職員が過小報告する傾向にあること、親しみやすく開放的な看護師長のいる病棟ほどエラーの発見率があがるという研究もあり、今後これらの環境因子も投入し分析することが必要である。チューブ類の自己抜去では、国内では、この指標をアウトカムとした研究はなく、国外では患者の抑制との関連性について焦点をあてているため、先行研究と比較することが難しい。 これらから、転倒・転落、誤薬(内服)、チューブ類の自己抜去に関しては、今後の検討課題としてさらなる研究が必要である。 VI. 結論 1.自己評価のみ用いた看護実践能力尺度は、今後、急性期病院で広く活用できる 2.日勤帯において中レベル以上の高い看護実践能力をもつ看護師割合が大きいほど誤薬(注射)は減少するという関連性がある。 3.転倒・転落、誤薬(内服)、チューブ類の自己抜去については、看護実践能力との関連性はなく、今後の課題として、更なる研究が必要である。 | |
審査要旨 | 本研究は、急性期病院における看護職員配置において、看護職員の実践能力の尺度を開発し、その上で、看護実践能力と転倒・転落、誤薬(内服・注射)、チューブ類の自己抜去の各有害事象発生との関連性を検証したものであり、下記の結果を得ている。 1.看護実践能力尺度の開発過程における自己評価と他者評価の相違について 自己評価、他者評価の項目分析、G-P分析、I-T分析後、自己評価、他者評価とも天井効果、フロア効果は見られず、G-P分析で自己評価、他者評価とすべての項目で有意差があり、I-T分析では自己評価、他者評価とも全体得点と各質問項目の相関係数が高かった。しかし、自己評価と他者評価の一致性をICC(Case2), 相関係数を求めた結果、他者評価と自己評価の点数の差が大きい項目が、倫理を問う項目や医療依存度の高い患者をケアする項目などであったことが明らかになった。さらに、項目分析結果では、他者評価が自己評価よりすべて高い点数をつけること、平均点に偏っているため、他者評価を用いらず、自己評価のみで看護実践能力尺度を開発している。 2.看護実践能力尺度の開発について 自己評価のみを用いて、最尤法、固定値1以上で指定し、プロマックス回転による因子分析後、5つの因子に分類された看護実践能力尺度を開発した。下位項目の特性から第1因子を「患者の状況に合わせた基本的看護ケア」、第2因子を「医療依存度の高い患者への看護ケア」、第3因子を「患者の個別性にあわせた看護過程の展開」、第4因子を「チームの一員としての役割遂行」、第5因子を「患者の安全を守る看護ケア」とした。また下位項目数は、第1因子が16項目、第2因子が6項目、第3因子が11項目、第4因子が6項目、第5因子が8項目となり計47項目となった。また、クロンバックのα係数を求めた結果、第1因子0.966、第2因子0.937、第3因子0.951、第4因子0.815、第5因子は0.941といずれの因子も高い信頼性を示した。そのため、信頼性の高い看護実践能力尺度が開発された。 3.看護実践能力と転倒・転落との関連性 各勤務帯を通して、転倒・転落の発生と看護実践能力が中レベル以上の看護師割合との関連性は認められず、日勤帯では転倒転落スコア合計が高ければ発生しやすく、深夜帯では、看護職員数の増加に伴って発生が減少する傾向が示された。 4.看護実践能力と誤薬(内服)との関連性 本研究では、各勤務帯を通して、誤薬(内服)の発生と中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性は認められなかった。また、日勤帯および深夜帯では、誤薬(内服)の発生と他の変数との関連性はなく、準夜帯では、混合病棟より内科病棟の方が、発生が多いことが明らかになった。 5.看護実践能力と誤薬(注射)との関連性 誤薬(注射)では、日勤帯にのみ中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性が認められ、中レベル以上の評価を受けた看護師の割合が大きいと誤薬(注射)の発生件数が減少する傾向が認められた。他の変数との関連性では、日勤帯では、患者数が増加すると発生件数も増加するという関連性があることが示された。準夜帯では、平均在院日数が長くなると誤薬(注射)の発生件数が増加する傾向が認められた。また深夜帯では、重症患者の割合が小さければ発生件数も少なく、平均在院日数が長ければ誤薬(注射)も増加する傾向にあることが分かった。 6.看護実践能力とチューブ類の自己抜去との関連性 各勤務帯を通して、チューブ類の自己抜去と中レベル以上の評価を受けた看護師の割合との関連性はみられなかった。その他の変数との関連性では、準夜帯で混合病棟より内科病棟で発生件数が多い傾向が示された。 以上、本論文から看護実践能力尺度の信頼性・妥当性について確認し、今後、急性期病院で活用できる看護実践能力尺度が開発された。さらに、看護職員配置において、単に看護職員数を確保するだけでなく、個々の看護職員の能力を確保することにより看護の質を維持することを明らかとなり、今後の日本の医療に大きく貢献する研究といえ、学位の授与に値するものと考える。 | |
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