学位論文要旨



No 125551
著者(漢字) 石原,千鶴枝
著者(英字)
著者(カナ) イシハラ,チヅエ
標題(和) スーパーカミオカンデで観測された大気ニュートリノデータをもちいた3世代ニュートリノ振動解析
標題(洋) Full three flavor oscillation analysis of atmospheric neutrino data observed in Super-Kamiokande
報告番号 125551
報告番号 甲25551
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5459号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳宿,克夫
 東京大学 准教授 大橋,正健
 東京大学 教授 齊藤,直人
 東京大学 准教授 松尾,泰
 東京大学 教授 山本,明
内容要旨 要旨を表示する

This thesis presents the neutrino oscillation studies considering entire oscillation parameters, two mass differences △m212, △m223, three mixing angles, θ12, θ23, θ13, and one CP phase parameter (sp), by the atmospheric neutrino data observed in Super-Kamiokande.

The Super-Kamiokande, a 50 kt water Cherenkov detector, started taking data in 1996 and has been observed a large number of atmospheric neutrino events. About 3,000 day neutrino data is collected through the data taking phases, Super-Kamiokande-I, II and III. This analysis is performed using the amount of this data for the first time.

The neutrino data selection and observed data quality for the analysis are summarized in this thesis. The analysis examines both the normal and inverted mass hierarchy cases. In the normal (inverted) mass hierarchy case,△m223, sin2θ23 and sin2θ13 are constrained at 90% C.L. to 1.87 (1.97)×10-3 < △m223 < 2.74 (3.12) ×10-3 eV2, 0.409 (0.432) < sin2θ23 < 0.632 (0.647), sin2θ13 < 0.067 (0.124). All CP phase values are allowed at 90% C.L.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は7章からなる。第1章は序章であり、この研究のテーマである大気ニュートリノの振動解析の背景と意義が述べられている。第2章では測定に用いた実験装置であるSuper-Kamiokande検出器について詳細を記述する。第3章では大気ニュートリノの生成モデルの検討を進めた。第4章は、解析で重要な、観測粒子のエネルギーを決定する手法とその改良に関して、詳しく述べられている。この改良には論文提出者が大きく貢献した。第5章では多くの事象の中から、大気ニュートリノ事象をどのように選択してくるかを説明する。第6章が論文の核となる章で、大気ニュートリノの方向分布を3世代ニュートリノ振動のフレームワークで調べることにより、ニュートリノ振動のパラメータを得た。第7章はこれらの結果を受けて考察の全体のまとめになっている。

電子・ニュートリノ、ミュー・ニュートリノ、タウ・ニュートリノの3種が、生成された後にお互いに変化するという事実(いわゆるニュートリノ振動)は、太陽ニュートリノや、宇宙線起源の大気ニュートリノ、加速器や原子炉からのニュートリノの実験等の結果により、現在確立していると言える。この発見に関しては論文提出者の所属するSuper-Kamiokandeグループが非常に大きな貢献をしてきた。

ニュートリノ振動が起こるということは、ニュートリノが質量を持っていることと、ニュートリノの質量固有状態がレプトンフレーバーの固有状態になっていないことを示しており、現在の素粒子の標準模型を超える枠組みを示唆している。この振動のパラメータを精度よく求めることは、これらの枠組みを理解する上での大きなヒントとなる。特に現在測定されていないパラメータである,θ13 そしてCPの破れを引き起こす位相の測定が、火急の課題となっており、多くの実験が計画され進行している。

論文提出者は、1996年から2008年までに収集した、実運転時間で8年に及ぶ多量な大気ニュートリノ事象を使い、大気ニュートリノから電子やミューオンなどが生成する荷電流反応の天頂核分布を測定した。その分布を、3世代ニュートリノの振動パラメータすべてを考慮してフィットを行うはじめての試みであり、測定から振動パラメータの持つ値の許容範囲を決定した。

振動パラメータのなかで、大気ニュートリノの分布に一番影響を与えるθ23及びΔm232パラメータに関しては、以前の2ニュートリノ振動での解析で求めた値と誤差の範囲で一致した。3世代のパラメータをすべて考慮することにより、以前の解析より統計量は格段に向上したものの、これらのパラメータの決定精度は同程度か幾分悪い結果しか得られなかったが、完全な3世代振動のフレームワークでも結果を追認した意義は大きい。θ13に関しては有意な有限の値は検出できず、sin2θ13<0.122と、原子炉実験で得られている制限と同程度の制限を得た。また、大気ニュートリノの解析が位相の測定にも感度があることを示すことができた。現在の結果では位相に制限を与えるまでの感度は得られなかったが、今後さらに統計量が増えること、また他の実験でsin2θ13が決定されることによって制限つきフィットが可能になることを考えると、今後、位相に関して感度が出てくる可能性がある。

以上述べたように、この論文は、大気ニュートリノのデータ解析の総決算であるとともに3世代振動のすべてのパラメータでのフィットを試みることによって、より厳密に振動パラメータの許容範囲を示したもので、その物理的意義は大きく学位論文に値する。

本論文は、国際共同実験グループSuper-Kamiokandeでの共同研究であるが、この大気ニュートリノ振動の解析の集大成は、論文提出者が主体となって進めている。実験遂行においては、論文提出者は2005年の実験装置の改造に参加した。また、観測した事象で現れる粒子のエネルギー測定精度の改良を行い、これにより他の解析へも貢献している。以上により論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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