No | 125581 | |
著者(漢字) | 岡本,桜子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オカモト,サクラコ | |
標題(和) | 銀河系周辺の矮小銀河における恒星種族とその空間分布 | |
標題(洋) | A Comprehensive Study of Stellar Populations and Population Structures of Dwarf Galaxies around the Milky Way | |
報告番号 | 125581 | |
報告番号 | 甲25581 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5489号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 天文学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 矮小銀河は宇宙のなかで,何時如何なる環境においても銀河として最も数多く存在する.暗黒物質の支配する銀河の階層的構造形成において,底辺を担う天体であり,銀河系など巨大銀河は,矮小銀河が基礎構成要素となって階層的に成長してきたと考えられている.また重力ポテンシャルの浅い矮小銀河は,大きな渦巻銀河や楕円銀河と比べて,形成と進化の過程が比較的単純であり,銀河の形成進化を調べる上でも非常に重要な天体である.銀河系周辺にはこのような矮小銀河が多数存在しており,銀河系を形成した無数の基礎構成要素の生き残りと考えられている.これらの矮小銀河は銀河系から近く,すばるなど大型望遠鏡を用いることで個々の恒星に分解して調べることができるので,詳細な空間分布とともに,銀河の星の年齢や金属量といった恒星種族の情報を得ることができる. 本研究では,すばる望遠鏡の主焦点カメラを用いて,銀河系近傍の8つの矮小銀河Canes Venatici I (CVn I), CVn II, Bootes I, Leo IV, T, Hercules, Draco, Ursa Minor(UMi) について広く深い撮像観測を行い,明るい赤色巨星から暗い主系列星まで銀河内の個々の恒星の色と等級の情報を得た(図1).この8つは銀河系近傍で知られている矮小銀河のうち,MV=-8.7より暗い全ての矮小銀河であり,さらに最初の6つは近年発見されたばかりの非常に暗い矮小銀河(UFD)で,詳しい恒星種族の研究が待たれていた天体である.それぞれの銀河について,恒星の色-等級図上の分布と恒星進化の理論モデル,および銀河系球状星団との比較から,それぞれの銀河の星の平均年齢と空間構造を調べた.その結果,比較的明るいCVn I とDracoでは複数の世代の恒星種族が存在して,平均年齢は126億年であること,一方それよりも暗い4つの銀河は宇宙年齢程度の平均年齢(135億年)であり,そのうちのBootes I は単一種族で構成されていることを明らかにした.またUMiは平均年齢が135億年でありながら複数種族が存在し,同じ明るさのDracoと異なる様子が見られた.また複数種族を持つCVn I とDracoでは,若い/金属量の多い種族が銀河の中心に集中し,古い/金属量の低い種族の方が空間的に広がって分布していることを確認した.これらの結果より,明るい矮小銀河の方が複数種族を持ち,暗い矮小銀河は星形成期間が短く単一の恒星種族で構成されているという,光度-種族関係を明らかにした.また銀河系から遠く孤立したUFDであるLeo T は,古い恒星種族とともに若い世代(~2000万年)の星も見られ,銀河系周辺のUFDとは異なる星形成史を明らかにした. またそれぞれの銀河について,距離, 重心, 方位角, 楕円率(e)を見積もり,数密度の空間分布 (図2.) からコア半径,潮汐半径,およびhalf-light半径(r1/2)を求めた.その結果,これらの暗い矮小銀河は球状星団に比べて非常に広がっており,また明るい矮小銀河に比べて,UFDにはさまざまな楕円率を持つ銀河が存在することから,UFDの方が銀河系の潮汐力を強く受けている可能性が示唆される(図3.). 本論文中,第一章では,銀河系とその周辺の銀河の紹介,および矮小銀河の説明をした後,2005年以降に銀河系周辺で発見されたUFDの性質について紹介し,本研究の目的と対象銀河を紹介している.続いて第二章では,すばる望遠鏡主焦点カメラを用いた観測の詳細と,得られた画像データの解析方法について説明している.第三章では,各観測領域の測光カタログから得られた色-等級図について述べた後,対象銀河の星以外に色-等級図上に含まれる前景の銀河系の星と背景の銀河について,銀河系の理論モデルを用いて調べている.第四章ではそれぞれの銀河について,色-等級図から距離,恒星種族,空間構造の特徴を求め,恒星種族の空間勾配など個別の特徴を明らかにした.そして第五章では各銀河の特徴をまとめ,矮小銀河の光度と恒星種族の関係について,また本研究で明らかにした年齢からUFDの起源について議論した.さらにUFDと銀河系球状星団,およびM31周辺の矮小銀河との比較も行い,UFDは球状星団に比べて大きく楕円率が高いこと,また銀河系とM31の矮小銀河では構造上の大きな違いは見られないことを明らかにした.最後に第六章では,本研究と今後の展望についてまとめている. 本研究の最大の特色は,銀河系周辺で発見されている全てのUFDについて,初めて詳細な測光解析を行い,星の年齢を同定した点である.8-10m級の望遠鏡で観測を行い,全ての銀河に渡って均一な測光カタログを得た.UFDは非常に星が少なく,空間的に広がっているため,恒星種族や詳細な空間分布を明らかにするには,暗い主系列星まで正確に測光する必要があるが,本研究において,年齢や種族構成,およびその空間分布を初めて明らかにした. 図1. CVn I, Her, Boo I, CVn II, Leo IV, Leo Tの中心から r1/2 以内の色-等級図 図2. CVn I, Her, Boo I, CVn II, Leo IV, Leo Tの空間分布 図3. 銀河系矮小銀河(●),M31矮小銀河(◇)と球状星団(ドット)の r1/2 分布.各色はそれぞれの楕円率を示す. | |
審査要旨 | 青色のBバンドの絶対等級が約-18等級よりも暗い矮小銀河は、それより明るい巨大銀河とは異なる形態と構造を有する。現在の標準的な銀河形成論によると、銀河の素となる小さな構成要素(building block: BB)が合体を繰り返して成長し、次第に大きな銀河ができてくる。この観点から、矮小銀河は、巨大銀河を作る素となったBBと深い関連があると考えられているが、銀河形成論における明確な位置づけは未だ明らかでない。 銀河系とM31という二つの巨大銀河を擁する局所銀河群には、多くの矮小銀河が存在するが、矮小楕円銀河(dE)とそれより暗い矮小楕円体銀河(dSph)と呼ばれるものがほとんどである。これらはどちらも現在星形成を行っている兆候はなく、暗いdSphは星の密度が低く、背景に埋もれて検出すら容易でない。近年の広視野サーベイから、極めて暗く星密度の低いdSphが発見されUltra Faint Dwarf (UFD)と呼ばれるようになった。これに対して従来から知られているdSphを古典的dSphと呼ぶ。 本論文は、これまでに発見された6個のUFDと、2個の古典的dSphをすばる望遠鏡で観測し、それらの中にある恒星の種族と空間分布を調べたものである。これら8個の矮小銀河は、銀河系周辺の矮小銀河としては最も暗いもので、現在見つかっているもののうち、Vバンド絶対等級で-8.7等より暗いものすべてである。これほど暗いUFDの恒星種族の性質の詳細な調査は、すばる望遠鏡の主焦点カメラ(Suprime-Cam)による深い広視野撮像観測によって本研究ではじめて可能となったものである。 本論文は6章よりなる。第1章はイントロダクションで、銀河系周辺の矮小銀河の分布と矮小銀河一般の解説に続いて、UFDの性質を説明し、本研究の目的と対象銀河を紹介している。 第2章は観測とデータ処理の記述である。観測はV バンドとIC バンドの二色で行い、対象銀河を含む視野と、前景・背景の星と銀河を統計的に差し引くためのコントロール視野を同じ夜に観測した。ただし、時間の都合で、コントロール視野が観測できなかった銀河もあるが、その場合は銀河系モデルなどを利用して差し引くべきコンタミネーションを推定した。星の明るさの測定にはIRAFソフトパッケージの中のDAOPHOTOを用いた。星の検出の完全性と測光精度は、人工の星を用いたシミュレーションによって推定した。 第3章では、観測したすべての視野に対する色-等級図(V - (V- IC) ) が提示されている。前景の星と背景の銀河のコンタミネーションが議論され、前景の星に関して参照した銀河系モデルが紹介されている。 第4章では、8個の銀河それぞれに対して色-等級図を利用して、距離を求めた上で、星の進化モデルとの比較から年齢を推定した。さらに、恒星の天球上の分布から、潮汐半径、コア半径、有効半径、扁平度など構造パラメータを導出した。従来の観測より約4等級深いデータで、主系列の転向点を明確にとらえ精度の高い年齢を導き出したこと、また従来の研究より格段に多数の星から信頼度の高い構造パラメータを得たことが本論文の特長である。転向点付近での主系列にある星の色分布が、銀河の中心部と外側で異なることから、サンプルの中で最も明るい二つの古典的dSph (DracoとUMi)は、単一の恒星種族からなっていないことが示された。 第5章では、各銀河の恒星種族の特徴をまとめ、銀河の光度との関係を議論した。本研究でも確認されたように、明るい古典的dSphは多様な星生成史を反映した複雑な恒星種族からなることが知られていたが、今回調べたUFDは、UFDとしては最も明るいCVn Iと銀河系からの距離が他より格段に遠いLeo T以外は、すべて13 Gyr程度の年齢を持つ古い単一の恒星種族からなっていることがわかった。また、UFDは球状星団と同じ程度の光度を有するが、サイズが1桁以上大きく、恒星密度が極めて低い系であることも確認された。第6章はこれまで述べてきたことをまとめた結論の章である。UFDの多くが古い単一の恒星種族であるという今回得られた結果を、UFDを構成する星の重元素量分布が銀河系のハロー星のものと類似しているという事実と合わせて、UFDは銀河系のBBの生き残りではないかと推測している。 本論文は、発見以来待ち望まれていた銀河系近傍のUFDの恒星種族の研究を、広視野で深い撮像データを用いて行い、明るい古典的dSphと違って、UFDの多くは年齢の古い単一種族から構成されることを示したもので、銀河系の形成を理解する上で鍵となる重要な観測データを提供した。本論文にある4個の銀河のデータは、有本信雄他4名との共同研究で取得されたものであるが、その処理と解析および結果の分析は論文提出者が中心となって行ったものである。 以上により、論文提出者に対し、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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