学位論文要旨



No 125603
著者(漢字) 前田,裕太
著者(英字)
著者(カナ) マエダ,ユウタ
標題(和) 稠密地震観測網による浅間山長周期地震の研究
標題(洋) Very-Long-Period pulses at Asama Volcano inferred from dense seismic observation
報告番号 125603
報告番号 甲25603
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5511号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 大湊,隆雄
 東京大学 准教授 井出,哲
 東京大学 教授 武尾,実
 東京大学 教授 渡辺,秀文
 東北大学 准教授 西村,太志
内容要旨 要旨を表示する

We observed seismic events composed of a few one-sided velocity pulses with nearly 10sdurations (hereafter called VLP pulses) using up to 14 broadband seismometers installed near thesummit area of Asama Volcano. Particle motions did not point to a single source location despite theirrecti-linearities, suggesting a non-isotropic source mechanism. We conducted moment-tensorinversion analysis for these events using the Green's functions consisting of not only the seismometer'sresponce to synthetic translational motions but also the seismometer's responce to synthetic tiltmotions, resulting in a source mechanism approximatable as a tensile-crack of 90° strike and 60°dip with 1012Nm locating relatively north and 100-200m deep from the bottom of the crater. Timehistories of moment-tensors are indicative of initial sudden pressurization and following gradualdepressurization at the source region. However, gas amount estimated by SO2 observation is smallerto explain the moment histories in the source region by pure gas movement. We propose a sourcemodel considering an inflow of liquid-gas mixture to solve the inconsistency about the gas amount.

審査要旨 要旨を表示する

浅間山山頂に稠密地震観測網を展開し,超長周期地震の観測・解析を行った.従来の地震波形インバージョンでは傾斜変動の影響を受けた地震波形の解析例は無かったが,本研究では傾斜の影響も考慮し,従来は用いられなかった傾斜成分も解析した.インバージョンの結果,火口北寄りに位置する走向90。,傾斜角60。の開ロクラックと円筒の組み合わせで近似されるメカニズムによって観測波形を説明することができた.モーメントテンソルの大きさは1012N・m,震源の深さは100・200mと求まった.モーメントテンソルの時間関数からは震源領域における急激な増圧とそれに続く緩やかな減圧が示唆された.増減圧を火山性ガスによるものと考えると,SO2の観測で得られるガスの放出量と調和的であった.

本論文は9章からなる.

第1章はイントロダクションである.火山で観測される超長周期地震(VLP地震)の研究がレビューされている.VLP地震は体積変化を伴うメカニズムで説明されることが多いため火山体内部の流体の移動などを反映するものと考えられており,その震源位置やメカニズムの決定は火山内部の物理プロセスを理解する上で極めて重要であることが述べられている.また,火山のVLP地震は震源に極近傍で観測されるため,地震波形はしばしば傾斜の影響を受ける.傾斜の影響を受けた地震波形の解析手法のレビューも行われている.

第2章では,浅間山の最近の火山活動の推移や,様々な観測によって明らかになった浅間山の内部構造などが紹介されている.また,浅間山で観測されるVLP地震の特徴も述べられている.

第3章では,本研究に用いた山頂地震観測網の詳細が述べられている.特に,予想される震源のメカニズムの解像度を上げるために最適な観測点配置の設計について詳細に説明されている.

第4章では,観測地震波形の前処理について説明されている.観測点毎に地震計やノイズレベルが異なることから,解析前の地震波形に対し適切な処理を行うことが必要である.

第5章では,開口亀裂による地殻変動の解析解を用い,観測された傾斜分布を最も良く説明する亀裂の位置と走向・傾斜を求めた.これは,次の段階で行う地震波インバージョン解の探索範囲を絞るための予備解析である.得られた開口亀裂の位置は,浅間山山頂火口の北端,深さ100-200m,走向は東西,南側に60度傾斜し,幅と長さはそれぞれ250mと50mであった.

第6章は,亀裂の影響を受けた地震波形に対する波形インバージョン手法が説明されており,本研究において最も重要である.従来の波形インバージョンでは,適当な仮定の下に観測地震波形を並進成分と傾斜成分に分離し,並進成分のみを解析していた.本研究では,並進加速度と傾斜による加速度両者の寄与の両者を考慮したグリーン関数を数値的に計算し,傾斜の影響まで含む観測地震波形を直接インバージョンすることによって,震源メカニズムと震源時間関数を得る手法を新たに開発した.傾斜の影響を数値的に精度良く計算するためには,計算領域の端で発生する反射を軽減する必要があるが,本研究ではPML境界条件の導入により,計算領域端からの反射を無視できるレベルまで低減した.観測地震波形における並進と傾斜の寄与を分離するための仮定は任意性が大きく,しばしばその妥当性が議論されてきた.これに対し本研究は,任意性のある仮定を排除したという意味で,従来の解析手法の欠点を克服している.

第7章では,前章で説明された解析手法を25個のVLP地震波形に適用し,震源メカニズムと震源時間関数を得た.得られた解は2種類に分類できた.震源位置は山頂火口北側,火口底からの深さ150mに決まり,開口亀裂と円筒の組み合わせに対応する震源メカニズム解が得られた.開口亀裂の走向は2種類の解でやや異なっており,一方はESE-WNW走向,他方はENE-WSW走向であり,傾斜は両者とも南傾斜60度であった.また,地震モーメントの大きさは1012Nmであった.

第8章では,得られた震源メカニズム,震源時間関数を説明する物理モデルが議論されている.

第9章は全体のまとめである.

火山で観測される超長周期地震は,震源に近いため傾斜の影響を受ける.本研究は,傾斜の影響を受けた地震波形の新しい解析手法を提出し,浅間山の内部で起きる物理現象の一端を解明することに成功した優れた研究である.

なお,本論文の第5章から第7章までは武尾実氏との共著であるが,計算手法および解析手法の考案,計算プログラムの作成は論文提出者が主体となって行っており,論文提出者の寄与が十分に大きいと判断できる.

従って,博士(理学)の学位を授与できるものと認める.

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