学位論文要旨



No 125619
著者(漢字) 藤田,健志
著者(英字)
著者(カナ) フジタ,タケシ
標題(和) フラーレンの多重官能基化による特異なパイ電子共役系の構築
標題(洋) Construction of Unique π-Electron Conjugated Systems by Multi-functionalization of Fullerenes
報告番号 125619
報告番号 甲25619
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5527号
研究科 理学系研究科
専攻 化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中村,栄一
 東京大学 教授 川島,隆幸
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 准教授 佐竹,真幸
 東京大学 准教授 平岡,秀一
内容要旨 要旨を表示する

The present thesis provides topics on construction of new curved π-electron conjugated systems through the detraction of spherical π-systems [60]fullerene and [70]fullerene.

Chapter 1 describes the utility of the methodology for creating new non-planarπ-systems through chemical functionalization of fullerenes.

Chapter 2 describes construction of curved bi- and triaryl structures on [60]fullerene by synthesis of dodeca- and trideca(organo)[60]fullerenes. Two regioisomers of dodeca-adducts were obtained with application of reductive functionalization reaction to dibenzo-fused-corannulene-type deca-adducts. One isomer of dodeca-adducts underwent further nucleophilic addition reaction with a Grignard reagent to afford a trideca-adduct regioselectively. Dodeca- and trideca-adducts exhibited colorful luminescence based on their structures.

Chapter 3 describes control of metal-metal interaction on the fullerene framework of hepta(organo)[70]fullerene diruthenium complexes by redox-active functional groups as the seventh addend. Hepta-adducts obtained with stepwise organocopper addition reactions possesses bowl-shapedπ-system which not only assist electronic communication between two metal atoms on the fullerene core but also change its electronic structure through the perturbation by external functional groups.

Chapter 4 describes construction of another type of bowl-shapedπ-system through the synthesis of octa(organo)[70]fullerene dimetal complexes with chemical reduction as the key step. Chemical functionalization reaction of hexa(organo)[70]fullerenes split their original π-systems on the highly unreactive equator part.

Scheme 1.

Scheme 2.

Table 1. Electrochemical Oxidation of Hepta-adducts

Scheme 3.Synthesis of octa-adducts of [70]fullerene.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は五章から構成されており、フラーレン多重付加体の合成による曲面バイ共役系の構築,構造決定,および物性評価について論じている.

第一章では,研究背景として,フラーレンの化学修飾を用いた「トップダウン方式」の新規曲面バイ共役系構築法の重要性について述べている.従来,曲面バイ共役構造を有する化合物の小分子からの「ボトムアップ方式」の合成は,多段階にわたる反応あるいはフラッシュバキュームパイロリシスと呼ばれる激しい条件の必要な反応を必要としていた.著者は,フラーレンの球状パイ共役系を有機基の付加反応によって縮小することで小分子の組み合わせでは構築不可能な曲面バイ共役系を構築する「トップダウン方式」に着目した.これに基づき,著者は以下の章に述べるように,すでに報告されているフラーレン多重付加体にさらに戦略的に付加反応を施すことで新規多重付加体を合成し,種々の曲面パイ共役系を構築ならびにその応用研究を行った.

第二章では,[60]フラーレンの十二重付加体および十三重付加体合成による曲面ビアリールおよびトリアリール構造の構築について述べている.有機銅試薬の一気付加反応により合成されるジベンゾフューズドコラニュレン構造を有する十重付加型[60]フラーレンに対して,還元的化学修飾法を用いることでビアリール共役系を持つ十二重付加体が二種類生成することを見いだした.そのうちの一種類からはさらなる求核付加反応によってトリアリール共役系を持つ十三重付加体が生成することも見出した.それぞれの新規付加体は共役系の形および電子構造に特徴的な発光特性を持ち,それら化合物の有機発光ダイオードへの応用研究も行っている.

第三章では,[70]フラーレンの七重付加体の二核ルテニウム錯体の合成と酸化還元特性を持つ外部官能基による金属間電子的相互作用の変化について述べている.2有機銅試薬の付加により合成した六重付加型[70]フラーレンに対し,さらに有機銅試薬の付加反応を行うことにより,七重付加体が生成することを見出した.七つ目の有機基としてフェロセニルフェニル基を導入した七重付加体では,二つのルテニウム原子間の電子的相互作用が他の七重付加体に比べて小さくなることが,電気化学によりわかった.この七重付加体は単分子電界効果トランジスタのモデル化合物として振る舞い,フラーレンを用いた単分子エレクトロニクスへの新境地を開いた.

第四章では,[70]フラーレンの反応不活性な赤道部分の化学修飾による八重付加体の合成について述べている.[70]フラーレンは[60]フラーレンに代わる新しい炭素クラスター材料として期待されているが,反応不活性なベルト部分を持つため,その自由な化学修飾が重要な課題である.著者は,第二章で重要な寄与を果たしたフラーレン骨格の化学的還元を利用した官能基化の手法を利用し,この問題を解決した.六重付加型[70]フラーレン二核金属錯体に対して還元的化学修飾法を用いて八重付加体の二核金属錯体を合成した.生成物は一種類の位置異性体が多数の少量の位置異性体に優先して生成した.これに関しては理論化学計算を用いて妥当な理由付けが行われている.八重付加体のパイ共役系が分子中の金属間の電子的相互作用を仲介することも見出され,これを利用した高効率光電流発生システムの作製可能性を探っている.

第五章は本研究の総括である.有機銅試薬と化学的還元を用いた化学修飾法の組み合わせにより,種々の新規曲面バイ共役系が得られたことを述べ,それらの曲面バイ共役系の材料およびデバイスへの応用を目指した展望を記し,本論文をまとめている.

なお、本論文第二~四章は中村栄一博士および松尾豊博士などとの共同研究であるが,研究計画および検討の主体は論文提出者であり,論文提出者の寄与が十分であると認められる.

以上のように,本論文はフラーレンの化学修飾を利用した新規曲面パイ共役系の合成,構造決定,物性評価,それらを用いたデバイス作製までを一貫して行った研究成果について述べたものである.したがって,本論文は博士(理学)の学位論文として価値のあるものと認める.

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