学位論文要旨



No 125657
著者(漢字) 三上,大道
著者(英字)
著者(カナ) ミカミ,トモノリ
標題(和) リサイクル地盤材料・建設発生土の埋設管埋戻し土としての適用性に関する実験的研究
標題(洋) Experimental study on applicability of recycled geo-materials and construction generated as backfill materials of underground pipes
報告番号 125657
報告番号 甲25657
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7190号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 岸,利治
 東京大学 准教授 桑野,玲子
 東京大学 准教授 内村,太郎
 東京大学 准教授 腰原,幹雄
内容要旨 要旨を表示する

地震大国であるわが国において,地震災害の軽減は社会基盤学を含め多くの学問における大きな目標の一つである.その中でも,地盤工学の分野において近年対策が急務とされている問題の一つとして,地震時地盤液状化による埋設管浮き上がり問題が挙げられている.

1993年に発生した釧路沖地震では下水埋設管やマンホールなどが埋戻し土の液状化により浮き上がる現象が生じた.これによる被害総額は11億円以上にも上る.その後1994年北海道南西沖地震,2003年十勝沖地震,2004年新潟県中越地震などでも多くの下水埋設管とマンホールに被害が生じた.

既往の研究において,地震時液状化により被害を受けた埋戻し土の復旧には,「埋戻し土の締固め」,「砕石による埋戻し」,「埋戻し部の固化」の3工法が推奨されている.これら3工法は地盤工学的視点からは非常に優れているものの,埋戻しに用いる砕石や山砂などの自然材料が枯渇しつつある現状のもとでは,後者2工法は環境的視点において優れているとはいえない.そのため,リサイクル材料の利用等自然環境に配慮した埋戻し方法の提案とその実用化が必要となってきている.

一方,平成7年に制定された「容器包装リサイクル法」を受け,わが国では多くのガラスびんが使用後に回収されリサイクルされている.しかし,茶色を除く色つきガラスびんは,色調がばらつく,熱膨張係数が異なるなどの理由から再利用しにくく,その多くは使用後に廃棄されている.この問題を解決するための再利用製品として,廃ガラスリサイクル粗粒材料が開発された.この材料は高い透水性能を有することから,本研究では,前述した「砕石による埋戻し」における砕石の代替材として廃ガラスリサイクル粗粒材料を第一の検討対象とした.

また,現在わが国では建設発生土の場外搬出量は,2億4500万m3(平成14年度)に及んでいるが,工事間で利用されているものはその30%程度にとどまっている.利用土砂全体中での建設発生土有効利用率は65%にすぎない.この結果,首都圏を中心とした地域で,大量の土砂の放置が自然環境・生活環境に影響を及ぼすとともに,土砂利用量の約50%を占める新たな自然材料の採取も自然環境に負の影響を及ぼしている.そのため,建設発生土の広域的な有効利用とその利用内容の拡大を推進していく必要がある.そこで,本研究では,前述した「埋戻し部の固化」に建設発生土改良土を用いることを第二の検討対象とした.

以上の背景のもとで,本研究では廃ガラスリサイクル粗粒材料と建設発生土改良土を埋設管埋戻し材として用いるために,主に以下の二点を明らかにすることを目的とした実験的検討を行った.

(1)地震時埋戻し土液状化による埋設管浮き上がり対策性能

(2)交通荷重に対する変形特性

第一の検討対象である廃ガラスリサイクル粗粒材料は高い透水性能を有する.このような地盤材料を埋戻し材として用いることによる,地震時埋設管浮き上がり対策としての有効性を検討することを目的として,既往の遠心模型実験結果の分析と,この模型実験に用いた地盤材料の透水試験を実施した.

地震時液状化による埋設管浮き上がり量は,埋戻し材の締固め度と透水係数,及び排水距離に依存する.本研究で設定した埋設管と排水距離の条件のもとでは,締固め度が90%程度である場合には,透水係数が0.1cm/sec程度以下である場合,埋設管の浮き上がりが生じやすいことが明らかとなった.これに対して,本研究の対象材料である廃ガラスリサイクル粗粒材料(粒径5~10mm)は透水係数が0.32cm/secであることから,締固め度を90%程度以上とすることで埋設管浮き上がり対策として有効であると考えられる.また,本実験より得られた透水係数と埋設管浮き上がり量の関係から,その他の粗粒材料を埋戻し材として利用する場合にも,透水係数を調べることで,埋設管浮き上がり対策としての有効性を判定することができると考えられる.

ただし,上記の遠心模型実験では,廃ガラスリサイクル粗粒材料を用いて埋設管の浮き上がりを抑制できた場合にも,地震時に発生する過剰間隙水圧の消散に伴い地表面沈下が生じうることが明らかとなった.この対策として本研究では締固め度の向上に着目し,廃ガラスリサイクル粗粒材料は締固め効率の低い材料であることから,ジオグリッドを併用した締固めを検討した.この締固め手法の有効性を検証するために,大型モールドを用いた締固め試験を実施した.

その結果,モールド内寸よりも十分に小さな載荷板を用いて締固めを行うと,ジオグリッド上方に土被りを設けた場合に,ジオグリッドから載荷面までの距離が短いほど,締固め効率が向上する傾向が確認された.ただし,土被りを設けない場合には,ジオグリッドが載荷板に巻きつくような形状に大きく変形してしまい,十分な効果が得られなかった.

次に,廃ガラスリサイクル粗粒材料を埋設管埋戻し材として用いた場合の交通荷重に対する性能を検討することを目的として繰返し三軸試験を実施した.供試体高さを変えた試験を実施し、外部変位計測結果のみに基づいて健全層とベディングエラー層の残留変位量を分離して評価する手法を提案し,LDT(局所変位計)により直接計測した結果と比較することにより,その妥当性を検証した.その結果,締固め度95%の廃ガラスリサイクル粗粒材料を用い,拘束圧50kPa,80kPaの場合に,健全層残留ひずみの推定値は実測値の1~1.2倍程度となり,良好な推定結果が得られた.

この推定手法を用いて,締固め度95%及び90%の廃ガラスリサイクル粗粒材料を用い,交通荷重相当の繰返し載荷(拘束圧20kPa,繰返し軸差応力振幅10-25kPa)による残留ひずみの推定を実施した.その結果,健全層の残留ひずみは締固め度95%の場合に0.06%,締固め度90%の場合に0.46%であった.

また,ジオグリッドを併用して締固めた廃ガラスリサイクル粗粒材料の交通荷重に対する変形特性を検討することを目的として大型繰返し三軸試験を実施した.その結果,ジオグリッドを有することにより,繰返し載荷による残留ひずみが軽減することを明らかにした.特に密度の低い場合にはその影響は顕著となり,拘束圧50kPaにおいて,繰返し軸差応力振幅が10-25kPaの場合には15%程度,繰返し軸差応力振幅が25-62.5kPaの場合には35%程度の残留ひずみの減少が確認された.後者のケースに関しては,深さ1mの地点を想定した交通荷重と応力比が等しく設定されている.このケースで,ジオグリッドを有した場合の残留ひずみは0.03%以下となった.

第二の検討対象である建設発生土に関しては,一般に固化改良土を埋設管埋戻し土として用いた場合,室内試験における一軸圧縮強度が100kPa~200kPa程度以上であれば液状化しにくいことが明らかとなっている.一方,改良土を埋設管埋戻し材として使用する場合には,数十年にも及ぶ供用期間中の維持管理作業と更新作業を効率よく行うために,改良土の再掘削性を維持することが重要となり,強度を所定の範囲内に抑える必要がある.そのため,改良土の長期強度発現特性について明らかにする必要がある.そこで,養生日数と安定剤の種類を変化させた建設発生土改良土の一軸圧縮試験を実施した.

その結果,石灰改良建設発生土に関しては,養生日数730日までの段階で,強度は常に概ね100kPa以上であることから,液状化対策として十分な性能を有しており,また,強度が増加しすぎる傾向も見られないことから,埋設管付け替え時の再掘削性にも問題がないと考えられることを明らかにした.一方,普通ポルトランドセメント改良建設発生土,超早強ポルトランドセメント改良建設発生土に関しては,養生日数417日の段階で,普通ポルトランドセメント改良建設発生土の一軸強度は60kPa程度,超早強ポルトランドセメント改良建設発生土の一軸強度は72kPa程度であった.そのため,これらの安定剤を用いる場合には,液状化対策として十分な強度を発現させるうえで,安定剤添加率を増加させる等の対策を講じる必要があると考えられる.

次に,安定剤添加率の低い改良土を実地盤に用いた際の環境条件が強度発現に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,養生条件を変化させた固化改良稲城砂を用いて,一軸圧縮試験を実施した.

その結果,安定剤添加率が等しい場合に,Ca含有量の高い石灰で改良した稲城砂のほうが,Ca含有量の低い普通ポルトランドセメントで改良した稲城砂よりも高い一軸強度を示した.安定剤添加率の低い改良土において強度に最も影響を及ぼす化学的要因は,安定剤のCa含有量であると考えられる.

石灰改良稲城砂では,Caイオン溶脱の生じやすい条件下で養生したケースほど低い強度を示した.そのため,石灰改良土を実地盤に用いる際には,地下水流が速い条件下においては溶脱が生じやすく,強度が低下しやすいことに留意する必要がある.一方で,地下水位が十分に低い地盤では,不飽和状態で溶脱が生じにくい環境となることから,石灰改良土を用いることで十分な強度が得られることを示した.

一方で,普通ポルトランドセメント改良稲城砂では,Caイオン溶脱の生じやすい条件下で養生したケースほど高い強度を示す傾向が見られた.そのため,普通ポルトランドセメント改良土に関しては,地下水流の速い地盤に用いた場合が最も強度を発揮しやすいと考えられる.これとは逆に,地下水面が低下しやすく,溶脱が生じにくい環境下では強度が低くなりやすいことに留意する必要がある.

最後に,建設発生土改良土を埋設管埋戻し土として用いるためには,液状化対策のみならず,交通荷重に対する十分な性能も発揮する必要がある.そこで,建設発生土改良土を用いて交通荷重を想定した繰返し三軸試験を実施した.

その結果,約二年間水浸養生した石灰改良建設発生土の繰返し載荷による残留ひずみは,外部変位計測結果では0.02%,LDT計測結果では0.01%であった.

上記の繰返し載荷試験と供試体条件,養生条件の概ね等しい供試体の一軸強度は89~143kPa程度であった.液状化対策として有効となる一軸強度は100kPa以上とされていることから,本試験結果より,液状化対策として有効となる固化改良を行った場合には,交通荷重に対する沈下対策としても有効となるものと考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「リサイクル地盤材料・建設発生土の埋設管埋戻し土としての適用性に関する実験的研究」と題した和文論文である。

埋設管周辺の埋め戻し土が地震時に液状化すると、液状化土よりも見かけ比重の小さい埋設管が浮き上がる被害が生じる。最近では、2003年の十勝沖地震と2004年の新潟県中越地震において、下水管路に多大な被害が生じた。そのため、埋め戻し土の地震時液状化対策として、十分に締め固める、透水性の高い粗粒材料を用いる、あるいはセメント・石灰等を添加して固化することが推奨されている。

これまでは、埋設管敷設時に発生する掘削土が埋め戻し材料として適さない場合には、山砂や砕石を新たに購入して用いることが多かった。しかし、これらの自然由来材料を用いると、その採取・製造過程や運搬過程において環境に対して負荷をかけてしまう。これに対して、透水性の高いリサイクル材料と固化改良した建設発生土を埋め戻し材料として有効利用すると、環境負荷を低減できるとともに、上述した地震時液状化による被害も防止できることが期待される。その際には、埋め戻し部を通過する車両からの交通荷重に対しても、十分な性能を有していることを確認する必要がある。

以上の背景のもとで、本研究では、廃ガラスリサイクル粗粒材料と建設発生土改良土を埋設管埋戻し材として用いる場合を対象として、地震時の液状化による埋設管浮き上がりを防止する性能、および交通荷重に対して過大な残留沈下を引き起こさない性能を明らかにすることを目的とした実験的検討を実施している。

第一章では、研究の背景と既往の研究を整理したうえで本研究の目的を設定し、論文全体の構成について説明している。

第二章では、廃ガラスリサイクル粗粒材料の液状化対策効果を検証するために実施された既往の動的遠心模型実験結果の詳細な分析を行い、新たに実施した透水試験結果とあわせて、対策効果を発揮するために必要とされる透水係数と締め固め条件を明らかにしている。また、締め固めが不十分な場合には地震後に過大な残留沈下が生じるので、これを防止するためにジオグリッドを併用する締め固め手法についても検討し、効率的な締め固めを行える条件を明らかにしている。

第三章では、繰返し三軸試験を系統的に実施し、締め固めた廃ガラスリサイクル粗粒材料が交通荷重に対して過大な残留沈下を引き起こさないことを検証している。その際に、試験結果に及ぼすベディングエラーの影響を評価する手法の提案も行い、その妥当性も明らかにしている。

第四章では、実際の建設発生土をセメントまたは石灰で固化改良した試料の一軸圧縮試験を系統的に実施し、再掘削性を確保するうえではあまり強度が高まりすぎない必要があることも考慮しながら、長期的な強度の発現特性に及ぼす安定剤と養生方法の影響を明らかにしている。また、固化改良した山砂についても同様な試験を実施するとともに、カルシウムイオンの溶脱特性の計測と微視的構造の観察及び成分分析も行っている。これらの試験結果より、改良前の土の特性と想定される地下水流の条件に応じて、安定剤を適切に選定する必要があることを示している。さらに、液状化対策として有効とされる一軸圧縮強度を確保した場合には、交通荷重に対しても過大な残留沈下は生じないことを実験的に明らかにしている。

第五章では、本研究で得られた成果を結論としてまとめ、今後の課題を整理している。

以上をまとめると、本研究では、廃ガラスリサイクル粗粒材料と建設発生土改良土を埋設管埋戻し材として用いる際に、地震時の液状化による埋設管浮き上がりを防止する性能を確保するために必要とされる諸条件を実験的に明らかにし、さらに、これらの条件を満たした場合には交通荷重に対しても過大な残留沈下を引き起こさない性能が確保されることを検証している。このことは地盤工学の進歩への重要な貢献である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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