学位論文要旨



No 125658
著者(漢字) ムバシール,アジズ
著者(英字) Mubashir,Aziz
著者(カナ) ムバシール,アジズ
標題(和) 水浸した粗粒材料の変形特性と強度の劣化に関する実験的研究
標題(洋) Experimental study on effects of deterioration of grains on deformation and strength characteristics of soils
報告番号 125658
報告番号 甲25658
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7191号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 准教授 内村,太郎
 東京大学 准教授 桑野,玲子
 東京大学 講師 知花,武佳
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、礫や砂質土などの粗粒地盤材料が水の作用によって劣化して力学的性能を喪失する現象を、実験的に研究したものである。従来の土質力學では粗粒土の性質はややもすれば時間的に変化しないものと考えられがちであり、特に泥岩質の砕石が低應力下で吸水膨張して泥濘化するような劣化現象の存在は、一般技術者のレベルでは明確には意識されて来なかった。その結果、近年のコスト低減の風潮の下、安価だが低品質の泥岩系砕石を建設材料に採用してしまう危険が高まってきた。すでに現実の問題となって論議を呼んでいる事例すら存在する。また近年の東北地方やパキスタン、中国の地震災害を観察すると、山間地の風化岩盤斜面の崩壊が大きな被害につながっていることが多い。そこで岩盤の風化劣化減少を工学的性質と関連づけて研究する必要性が感じられている。これらの実情にかんがみ、本研究では現場から数種類の岩石材料を採集し、水浸による工学的性質の劣化現象を、実験的に研究した。そして劣化の起こりやすさを表現する簡単なパラメータを提案し、これと水浸時の劣化や強度低下との間に良好な相関があることを、実証した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、"Experimental study on effects of deterioration of grains on deformation and strength characteristics of soil"と題し、礫や砂質土などの粗粒地盤材料が水の作用によって劣化して力学的性能を喪失する現象を、実験的に研究したものである。従来の土質力學では粗粒土の性質はややもすれば時間的に変化しないものと考えられがちであり、特に泥岩質の砕石が低應力下で吸水膨張して泥濘化するような劣化現象の存在は、一般技術者のレベルでは明確には意識されて来なかった。その結果、近年のコスト低減の風潮の下、安価だが低品質の泥岩系砕石を建設材料に採用してしまう危険が高まってきた。すでに現実の問題となって論議を呼んでいる事例すら存在する。また近年の東北地方やパキスタン、中国の地震災害を観察すると、山間地の風化岩盤斜面の崩壊が大きな被害につながっていることが多い。そこで岩盤の風化劣化減少を工学的性質と関連づけて研究する必要性が感じられている。これらの実情にかんがみ、本研究では現場から数種類の岩石材料を採集し、水浸による工学的性質の劣化現象を、実験的に研究した。

本論文は8章から構成されている。第1章は、宅地造成地盤が年月とともに劣化した事例を示し、研究の必要性と意義を説明している。

第2章は既往の研究のレビューであり、ロックフィルダムの年代沈下、粒子破砕にともなう変形性の増加、乾燥試験体と飽和試験体のせん断実験の比較などを紹介している。

本研究では、中空ねじり試験装置を用いて水浸の影響を研究した。用いた装置の諸元、計測のキャリブレーション、試験体の作製方法を説明しているのが第3章である。

水が作用して劣化するのは、造岩のプロセスが十分には進行していない軟岩であり、粒子間の接着が完成していないため、水の浸入によって接着物質が溶解したりサクションが低下したりして崩壊してしまう。そこで実験に使用する材料も軟岩である。具体的には、横須賀で採取した軟質泥岩とパキスタン北部のカシミール州のムザファラバード市周囲の斜面で採取した泥岩や砂岩である。後者は、2005年の大地震後、継続的に斜面の崩壊が進んでいる地域である。水の影響を短時間で発揮させるため、採取した軟岩を破砕して0.075mmと2mmの間の細かい粒子だけを実験に供した。破砕によって比表面積が増えたので、限られた研究期間内に水の影響が粒子全体に及ぶことを期待した。また比較の対象として、安定した鉱物から成って水の影響を受けにくい豊浦砂も使用した。これらの事柄を第4章が説明している。

第5章では、ねじり排水せん断による単調載荷実験の結果を説明している。せん断に先立つ圧密には、簡略な等方圧密の他に実際の条件に近いと考えられる異方圧密を用いた。研究のはじめに水浸の影響を受けにくい豊浦砂の圧縮とせん断実験を行い、乾燥状態と水浸状態とで結果に差の無いことを明示した。それに続いて各種の軟岩破砕材料の実験結果を紹介している。劣化の程度によって水浸時の挙動は異なっていたが、劣化の著しい材料の場合には、圧密/圧縮時の体積収縮が著しい他に二次圧密のような時間依存性の収縮が目立つ、せん断剛性や強度が小さい、せん断時に体積収縮が起こりやすい(負のダイレイタンシー)、せん断破壊してもせん断帯すなわち変形の局所化が起こりにくい、などの特徴が見出された。

次に地震時のような繰り返しせん断の実験が行われ、結果が第6章で報告されている。水浸に影響されにくい豊浦砂の実験を除き、他の材料では、繰り返しせん断時の残留変形の累積が、水浸によって増えることが示された。

繰り返し排水せん断条件での土の挙動を表すパラメータとして、せん断剛性Gとそのひずみ振幅依存性、減衰比、ダイレイタンシー(体積変化)がある。第7章はまず、これらのパラメータについて考察している。それによれば、軟岩試験体では、水浸時にせん断剛性のひずみ依存性すなわち非線形挙動が著しくなるのみならず、減衰比も大きくなり、弾性体から遠ざかる挙動が顕著になることがわかった。次に第5章の結果をも併せた考察に移り、水で飽和した軟岩試料の中では実験後に粒子が細粒化したことを報告した。そして粒子の破砕と細粒化は水浸時にすでに起こっており、圧密応力の載荷によって粒子が破壊されたのではないこと、すなわち水の導入こそが土粒子を軟弱化させたことを示した。そしてDegradation Index, ID, というパラメータで粒子の破砕の度合いを表現し、水浸時の軟弱化の危険性をこのパラメータで表示することを提案している。実験によればこのパラメータは従来のスレーキング抵抗値とも密接な関係があるが、特殊な装置無しでも測定できる実用上の利点がある。そしてIDが圧縮時の体積収縮の大小と深い相関を持っているばかりでなく、水浸時の強度低下とも良い相関のあることを証明した。

第8章は結論と今後への指針である。

以上をまとめると、本論文の研究は、軟岩の水浸による劣化と強度喪失という地盤材料の品質問題に関して実験的な研究を行い、実用上有益な品質表示パラメータを提案するものである。その成果は地盤の工学と技術に新知識を加え、当該分野の発展への貢献が大きい。よって本論文は博士(工学)の学位位請求論文として合格と認められる。

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