学位論文要旨



No 125659
著者(漢字) アミン,バハマンプール
著者(英字) Amin,Bahmanpour
著者(カナ) アミン,バハマンプール
標題(和) 地中地盤改良杭による液状化災害軽減技術の開発のための模型振動実験
標題(洋) Experimental study on the effect of underground columns on liquefaction mitigation
報告番号 125659
報告番号 甲25659
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7192号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 准教授 内村,太郎
 東京大学 准教授 石田,哲也
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、地中に地盤改良固化体の柱を多数造成して液状化地盤災害を軽減する技術の実証と性能の実験的評価である。液状化対策には、従来さまざまな液状化防止技術が開発されてきた。しかし近年はコスト意識が広まるとともに、性能設計の見地から、軽微な液状化発生を許容しつつも致命的な大変形を抑制することが、重要視されるようになってきた。本研究もこのような思潮に沿い、従来技術より廉価な柱状改良体の施工によって地盤変形を軽減することを目指している。柱状体の剛性や密度、長さ、設置範囲などをさまざまに変化させて模型振動台実験を行い、地盤変形、間隙水圧上昇の見地から、性能評価を行った。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、"The effect of underground columns on the mitigation of liquefaction and quay wall displacement in shaking table model experiments"と題し、地盤耐震工學における災害軽減技術の開発を目的とした研究の報告である。その内容は、地中に地盤改良固化体の柱を多数造成して液状化地盤災害を軽減する技術である。1960年代後半から始まった地震時の地盤液状化災害の研究は、当初、液状化の発生機構の解明や危険度予測を目的としていた。その後、液状化の発生抑止が中心的テーマとなり、多くの技術が実用化された。しかし近年はコスト意識が広まるとともに、性能設計の見地から、軽微な液状化発生を許容しつつも致命的な大変形を抑制することが、重要視されるようになってきた。本研究もこのような思潮に沿い、従来技術より廉価な柱状改良体の施工によって地盤変形を軽減することを目指している。

本論文は9章からなっている。以下、それぞれの内容を説明する。

第1章は、研究の目的と位置づけを簡潔に説明している。

第2章は液状化現象について既往の研究に関する説明を加えるとともに、本研究で取り扱っているせん断変形抑制による液状化對策の考え方と実例を紹介している。すなわち、地中に設置した柱状体の剛性が、周辺地盤の振動繰り返しせん断変形を妨げるため、砂中の過剰間隙水圧が上昇しにくくなり、液状化の軽減となる。また、斜面や港湾施設のように液状化地盤が側方へ流動する場合にも、地中に設置された剛な柱が流動を妨げ、被害を小さく抑えることが期待される。

本研究では、二種類の模型振動実験を行ったが、その第一がせん断土槽の中に水平地盤模型を設置した実験である。第3章は、その方法を説明している。実験で使用する模型は実物に比べてはるかに小さいため、相似則と呼ばれる両者の関係構築が重要である。今回の実験では、模型を実物の20分の1寸法に設定し、柱状改良体の寸法や剛性、時間スケールなどの相似関係を決定した。さらに、土かぶり應力の差異に起因する砂のダイレイタンシーの違いを補正するため、実際よりゆる詰めの砂地盤を造成した。さらに、小型模型で過剰に強調されると思われる透水の影響を軽減するため、改良地盤部分の周囲をビニール膜で囲い、水の移動と圧力伝播を妨げる工夫も行った。模擬地震動は、10Hz5秒間であるが、これは50サイクルの強震動を意味し、実際より強烈なものである。柱状体の模型はPVCの管で実現し、下部と上部をそれぞれ穴あき板で固定した。これは、実際条件における下部非液状化層と地表不飽和層に對應している。

第4章では、合計13回のせん断土槽実験の結果を紹介している。

第5章は、せん断土槽実験結果の考察である。主な成果を列挙すると、次のようになる。まず、間隙水圧の上昇が軽減され、かつ上昇した水圧の低下・消散が速まる。これは、高い間隙水圧という危険な状況が起こりにくくなることを意味する。また、多数設置した柱状体の合計面積(地盤改良率)が大きいほど、間隙水圧は上昇しにくくなった。柱状体の直径が大きいとき、また4本の柱状体をまとめて一本にしたとき、剛性が高まって地盤のせん断変形を抑制したので、間隙水圧は上昇しにくくなった。しかし反面、ビニールの地中膜には期待されたほどの効果は見られなかった。また経済効果を追求して柱状体の長さを2分の1にしたケースも実験したが、剛性と地盤変形拘束効果が発揮されなくなり、間隙水圧は上昇しやすくなった。

論文の後半では、柱状体地盤改良を港湾護岸の裏込め地盤に施工して、地震液状化時の側方地盤流動と変形を抑制する試みを研究した。第6章は、模型実験の手法を説明している。相似則の考え方は、上述のせん断土槽実験と同様である。矢板護岸の背後に柱状体改良域を設け、さらに背後には控えアンカーを設置して矢板護岸を安定させた。そして改良率や柱状体寸法、その数など諸条件を変化させ、合計18回の実験を行った。

第7章では矢板護岸実験の結果を紹介し、第8章で考察を行った。前出のせん断土槽実験では、過剰間隙水圧の低さが柱状体の効果の立証となった。しかし後半のように地盤が側方流動・大変形する実験では、変形時に正のダイレイタンシーが生じて間隙水圧が低下する。すなわち、間隙水圧の上昇の度合いが柱状体の効果を示す指標とはならず、護岸自体の変位変形の方が適切なパラメータである。ただし背後地盤の固さと支持力という視点からは間隙水圧が低いことが好ましい、という要求もある。そこで結論としては、護岸変位が最も重要な指標であり、これに加えて背後地盤の間隙水圧上昇量をも考慮して、柱状体の効果を判定すべきである。

実験から得られた主な成果は次の通りである。強烈な地震動を与えているため護岸の残留変形にはバラつきが大きいが、無對策のケースと比べると、柱状体改良には明らかに変位軽減効果がある。ただし上述のように、無對策で変形の大きい場合の方が、過剰間隙水圧値は低めである。柱状体の配置には、施工時の簡明のため、正方形や三角形など規則的なパターンを想定することが多い、しかしこのようなパターンでは柱状体の間に見通しが効き、地盤の側方流動が起こりやすい。本研究では見通しの効かない不規則パターンで柱状体を設置し、規則的パターンの場合に比べて変形が抑制されることを示した。柱状体の上下端を固定することが重要である。固定が不十分な場合には、柱状体が浮いている状況になり、地盤変形の抑制効果が発揮されない。矢板護岸の安定は、背後の控えアンカー構造に負うところが大きい。アンカー構造を柱状体改良域の直後に設置してアンカーを支える受働土圧が発揮されやすくすることが重要である。また、これと同様のことであるが、柱状体総数を増やして改良域を広げることは、アンカーとの距離を縮めることにもなり、有効である。

第9章は全体の結論である。

以上をまとめると、本論文の研究は、液状化災害の経済的軽減技術の開発と立証という目的を模型実験という手法によって実施したものであり、地盤耐震工學に新知識を加え、当該学術の発展への貢献が大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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