学位論文要旨



No 125666
著者(漢字) 榎木,康太
著者(英字)
著者(カナ) エノキ,コウタ
標題(和) 一般化キャノピーモデルの提案と都市域の強風被害予測への応用
標題(洋) A Study of Generalized Canopy Model and its Application to the Wind Hazard Analysis in Urban Area
報告番号 125666
報告番号 甲25666
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7199号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,孟
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 沖,大幹
 東京大学 教授 大岡,龍三
内容要旨 要旨を表示する

都市域における強風予測は,都市のビル風の問題,強風による災害の低減及び社会基盤インフラのリスクマネジメントの観点から極めて重要な技術である.高層建物周辺に発生するビル風は日常的な風環境の悪化を招くため,高層建物の計画段階には周辺風環境への影響評価が行われ,植樹などによる緩和策が採られる.このような樹木,建物が混在する街区内の風環境を統一的なモデルで簡便かつ高精度に予測できる手法が望まれる.また,我が国において主たる強風の要因である台風時には,強風が広範囲に渡り吹くだけでなく,地表面の障害物により局所的な増速が生じ,構造物へ被害を与えるため,広域に渡る地表面の影響と局所的な障害物の影響の両方を考慮可能な強風予測手法の開発が望まれる.また,台風時に社会基盤インフラが強風により被害を受けると,人々の社会生活に多大な損失を招くため,そのような被害を最小限に留めるために,耐用期間中に渡って費用対効果の高い被害対策の策定が望まれる.社会基盤インフラはその特徴として,総延長が数十~数百kmと非常に長い一方で,その幅が数mと短いということが挙げられ,社会基盤インフラ周辺の風環境予測には,広域だけでなく高分解能の強風予測が可能な手法が必要である.また,被害予測に不可欠な構造物の損傷度曲線や強風の出現頻度分布の推定には,長期にわたるデータの蓄積が必要であるという問題がある.

第一章は序論であり,本研究の背景並びに都市域における強風予測の重要性について述べている.

第二章では,植生,建物による流体力を統一して表現可能な流体力モデルの定式化を行うと共に,従来解析の困難であった高占有率の流れ場にも適用可能な乱流モデルを提案し,任意占有率を有するキャノピー内外の流れ場を解析できる一般化キャノピーモデルを構築した.そして,本研究で構築した一般化キャノピーモデルを用いて占有率が低い樹木周りの流れ,様々な占有率を有する街区モデル,そして占有率の極めて高い建物周りの流れに対して解析を行い,適用可能性と予測精度を検証した.

第三章では,提案した一般化キャノピーモデルにより実都市の気流予測を行う上で必要なモデル化について述べている.実都市の地表面には,様々な障害物が存在しており,前章で提案した流体力モデルに基づき,同一計算格子内に複数の障害物が混在する場合の流体力の算出方法を提示した.具体的には,まず,土地利用データに関し,単一の土地利用形態に基づく一般化キャノピーモデルのパラメータの算出方法を示した.次に,建物及び植生の電子地図に基づき,パラメータを算出する方法を示した.そして,流体力の算出に必要な占有面積や周囲長などの幾何的なパラメータの算出方法について述べた.最後に,異なる種類の障害物が同一計算格子内に混在する場合の流体力の算出方法を示した.ここで示した流体力の定式化により,解析モデルを変更することなく,市街地から個々の建物までの気流解析を任意の分解能で行うことが可能となった.

第四章では,提案した一般化キャノピーモデルを都市のリスクマネジメントへ応用する.2003年に全国に大きな被害をもたらした台風0314号による沖縄県宮古島の配電設備への被害を例に,電柱の損傷度曲線と,台風シミュレーションによる強風発生確率予測に基づき電柱ごとのリスク評価を行い,宮古島における配電用電柱ごとの最適設計風速を提案する.具体的には,まず台風0314号による被害電柱の損傷度曲線を,宮古島地方気象台における観測値を基に気流解析を用い,1回の台風被害から推定した.次に,台風シミュレーションと気流解析の結果を組み合わせることにより,宮古島全域の地上風を予測し,配電用電柱のハザード曲線を作成する.そして,設計風速40m/sの電柱の損傷度曲線から,設計風速を変化させた場合の損傷度曲線を作成し,ハザード曲線と組み合わせることにより,個々の電柱の最適設計風速を算出した.

第五章は,本論文のまとめであり,これまでの結論を述べている.

本研究の成果は次のように集約される.

建物群から単体建物,樹木まで様々な障害物による流体力を統一して表現可能な流体力モデルと共に,従来解析が困難であった高占有率の流れ場にも適用可能な乱流モデルを提案することにより一般化キャノピーモデルを構築し,様々な占有率を持つ障害物周辺の流れ場を高い精度で再現可能であることを示した.実都市を解析する上で不可欠な様々な障害物が存在する場合の流体力の算出方法を提示し,これにより実都市の流れ場が任意解像度で解析可能となった.さらに,提案した一般化キャノピーモデルを用いた気流解析を社会基盤インフラである配電設備のリスクマネジメントに応用し,一度の被害に基づく被害予測手法を提案し,配電柱の最適設計風速を算出した.

審査要旨 要旨を表示する

都市域における強風予測は,都市のビル風の問題,強風による災害の低減及び社会基盤インフラのリスクマネジメントの観点から極めて重要な技術である.高層建物周辺に発生するビル風は日常的な風環境の悪化を招くため,高層建物の計画段階には周辺風環境への影響評価が行われ,植樹などによる緩和策が採られる.このような樹木,建物が混在する街区内の風環境を統一的なモデルで簡便かつ高精度に予測できる手法が望まれる.また,我が国において主たる強風の要因である台風時には,広域の地形から建物まで様々な障害物により風速の増大が生じるため,広域の地形と局所的な障害物の影響を考慮できるマルチスケールの強風予測手法の開発が望まれる.さらに,台風時に社会基盤インフラが強風により被害を受けると,社会に多大な損失をもたらすため,費用対効果の高い被害対策の策定が望まれる.

本論文は建物群から単体建物,樹木まで様々な障害物による流体力を統一して表現可能な流体力モデルを提案すると共に,従来解析が困難であった高占有率の流れ場にも適用可能な乱流モデルを提案した.これにより構築された一般化キャノピーモデルは,様々な占有率を持つ障害物周辺の流れ場を高い精度で再現可能であることを示した.また,実都市を解析する上で不可欠な様々な障害物が存在する場合の流体力の算出方法を提示すると共に,土地利用データまたは電子地図データに基づき,実都市の流れ場を任意解像度で解析することを可能にし,気象台で得られた風観測データによりその有用性を立証した.さらに,本研究で提案した一般化キャノピーモデルを用いて,社会基盤インフラである配電設備のリスクマネジメントに応用し,一度の被害データから電柱の損傷度曲線を求める方法を提案すると共に,台風シミュレーションにより求めたハザード曲線と組み合わせることにより,電柱毎の最適設計を可能にした.

本論文の第1章は序論であり,本研究の背景並びに都市域における強風予測や構造物の被害予測の現状について述べると共に,本論文の構成を記述している.

第2章では,植生,建物による流体力を統一して表現可能な流体力モデルの定式化を行うと共に,従来解析の困難であった高占有率の流れ場にも適用可能な乱流モデルを提案し,任意占有率を有するキャノピー内外の流れ場を解析できる一般化キャノピーモデルを構築した.そして,本研究で構築した一般化キャノピーモデルを用いて占有率が低い樹木周りの流れ,様々な占有率を有する街区モデル,そして占有率の極めて高い建物周りの流れに対して解析を行い,本モデルが高い予測精度を有することを示した.

第3章では,一般化キャノピーモデルにより実都市の気流予測を行う上で必要な複数の障害物が混在する場合の流体力の算出方法を提示した.具体的には,まず,土地利用形態を表す土地利用データ及び建物及び植生の形状や高さを表す電子地図に基づき,一般化キャノピーモデルのパラメータを算出する方法を提案した.そして,流体力の算出に必要な占有面積や周囲長などの幾何的なパラメータの算出方法について提示し,異なる種類の障害物が同一計算格子内に混在する場合の流体力の算出方法を示した.このように定式化した解析モデルを変更することなく,市街地から個々の建物までのマルチスケールの気流解析を可能にした.

第4章では,本研究で提案した一般化キャノピーモデルの配電設備のリスクマネジメントへの応用例を示した.具体的には,まず2003年台風0314号の時に宮古島地方気象台で観測された風向・風速の時系列データを基に気流解析を行い,一度の台風被害データから電柱の損傷度曲線を推定する手法を提案した.次に,台風シミュレーションと気流解析により,宮古島全域における地上風を予測し,電柱毎のハザード曲線を作成した.最後に,設計風速40m/sの電柱の損傷度曲線から設計風速を変化させた場合の電柱の損傷度曲線を求め,ハザード曲線と組み合わせることにより,電柱毎の最適設計風速を算出し,費用対効果の高い被害対策を提案した.

第5章は,本論文のまとめであり,これまでの結論を述べている.

以上のように,本論文の研究成果は,都市域におけるマルチスケール気流解析の理論的な基盤を与え,都市域における強風予測の精度向上や費用対効果の高い被害対策の策定に寄与するものである.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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