No | 125667 | |
著者(漢字) | 金,炯俊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キム,ヒョンジュン | |
標題(和) | 陸域水循環の時空間変動における河川の役割に関する研究 | |
標題(洋) | Role of Rivers in the Spatiotemporal Variations of Terrestrial Hydrological Circulation | |
報告番号 | 125667 | |
報告番号 | 甲25667 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7200号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 陸域水循環の時空間的な変動に果たす河川の役割についての研究を行った。本研究では2つの対象にアンサンブル手法を用い、水文シミュレーションの信頼性を向上させた。その1つは異なる降水観測値を用いた陸面過程シミュレーションに対するアンサンブル手法であり、もう1つは異なる流速を用いた河川流量シミュレーションに対するアンサンブル湯法である。これらのアンサンブル手法にはベイズ学習を用いた。日単位での陸面過程の変数は陸面過程モデルMATSIRO(Minimal Advanced Treatments of Surface Interaction and Runoff)によって1979年から2007年に渡ってシミュレーションを行った。大気境界条件は大気再解析データであるJRA-25(Japanese Re-Analysis 25 years)を基にし、バイリニア法により全球1度に内挿して作成した。月降水量のバイアスに関しては、5つの全球降水量データセット(GPCC, PREC/L, CPC Unified, GPCP v2 and CMAP)を用いて補正した。加えて、気温や気圧を補正するために標高の補正を行った。すべてのシミュレーションと解析は本研究のために開発した、様々なデータセットとモデルを統一された入出力上で扱うためのプラットホームcoreFrame (Common Research Framework)上で行われた。 本研究で用いられているアンサンブル降水量セットは年平均で10~20%の差がある。降水量の不確実性、およびそれが乗発散量や流出計算に与える不確実性の伝播を求めるために相似性を表す指標Ωを用いた。ΩPは全球で一様には分布しておらず、降水量データセットの不一致は降水量の観測所ネットワークの全球の分布とかなり関連があった。一般的に、降水量の不確実性は蒸発散量(および流出)へと伝播し、減少(強調)される。蒸発散が水によって制約される地域ではΩET とΩPの強い相関が見られたが、熱によって制約される地域では見られなかった。半乾燥地域においては、ΩETはΩPの影響を受けやすく、さらに湿潤な地域では、ΩRはΩPと比例関係にあった。ただし、この関係は乾燥帯では十分な降水量がないため見られなかった。しかし、ΩRは多くの地域においてΩPの影響を受けやすいことが発見された。それゆえ、単一の降水量データセットを用いることは流出シミュレーションに無視できないバイアスを生じると言える。特に、乾燥地域および観測地点がまばらな流域においてはその傾向が強いと言える。 本研究で用いられたモデルは地下水や湖、湿地、斜面における物理過程や人間活動による影響を完全には表現することができていない。これらの短所を補うために全球河川流路網モデルTRIP(Total Runoff Integrating Pathway)を計算する際に10個の異なる実効流速(0.1~1.0m/s)を用いた。それぞれの結果はGRDC(Global Runoff Data Center)の全球における主な流域の観測値を用いて、ベイズ学習による重みづけによりアンサンブルされる。このことにより、ベイズ最適のアンサンブル流量は観測された流量のピークや低流量のパターンをとらえることに成功した。さらに、アンサンブルメンバーのうちの最もよい結果が流量のピークはとらえながらもその強度を正確に得ることができていないことに比べ、ベイズ最適の結果では、多くの流域において流量の季節変化のばらつきについても求めることができていた。加えて、アマゾン川流域においては、河川貯留量の時間的な変動をGRACE (Gravity Recovery And Climate Experiment)データを用いて同化したデータがベイズの重みづけの分布と同様な分布を示していることが分かった。また、河川流路は流出と流量の時空間変動の不一致の67%を説明することが分かり、この効果は全球において、流域の大きさにより増加することも分かった。 全球のTWS (Terrestrial Water Storage)解析に関しては、土壌水分また雪と河川が3つの主要な貯留の要素であり、流量シミュレーションの改良がよりよいTWSシミュレーションを可能にする。相関係数の低い(<0.5)流域、二乗平均平方根誤差RMSE(Root-Mean-Squared-Error)が高い(>100 mm/month)の流域、GRACEデータの空間解像度を考慮して面積の小さい(<220,000km2)流域を除外し、その結果として29の流域を解析した。河川の貯留量を考慮すると、モデルの計算結果の合計TWSは乾燥帯を除いて強度とピークが大幅に改善された。このことは、河川の貯留量を無視することはTWSの季節変化と強度の不一致をもたらすことを示している。それぞれの貯留要素が合計のTWSにどれだけを占めるか、またそれらの相互作用を比較するために2つの指標CCR(Component Contribution Ratio)とCEI (Component Exchange Intensity)を設定した。それらは適切に全球の流域の気候的な特徴を適切に分類する指標である。河川の貯留量はアマゾン川流域ではTWSの73%の変動を説明しているが、乾燥地域や雪の影響が卓越している地域ではTWSの変動が滑らかになるため、これらの流域では無視することができる。このことから、河川は合計TWSの変動を説明するのみならず、その地域の気候により異なる役割を果たすことがわかる。河川輸送は湿潤地域の陸域水循環過程では卓越しており、雪の卓越した地域では緩衝となる役割を果たす。 | |
審査要旨 | グローバルな水循環の中で、降水量や蒸発散量に関する研究は数多いが、河川流出量に関してはローカルな研究が圧倒的であった。一方、GRACE(Gravity Recovery And Climate Experiment)と呼ばれる衛星による重力場の変動観測から、陸域の総貯水量変化を推計することが可能になり、世界的にも活発に研究が行われるようになっているが、土壌水分や地下水、積雪などの貯留量との関連を調べている研究は多いものの、河川河道内の貯留量に関する研究は極めて少なかった。そうした中で、本研究は、陸域水循環の時空間的な変動に果たす河川流出量と河道内貯留量の役割に関してグローバルな推計を行ったものである。 第1章では、グローバルな水循環研究に関する既往研究のレビューと本研究の目的、概要について述べている。 第2章では、本研究で利用した陸面モデルと河道流下モデルの概要、ならびに、数値シミュレーションの検証用データや検証対象流域について説明している。 第3章では、まず異なる降水観測値を用いた陸面過程シミュレーションに対するベイズ統計を用いたアンサンブル手法とその結果の検証結果を示している。陸面モデルにより1979年から2007年の全球陸面の水循環・水収支が日単位で推計された。大気境界条件は大気再解析データを基にし、5つの全球降水量データセットを用いてバイアス補正した月降水量データが用いられた。こうしたシミュレーションと解析は新たに開発された、様々なデータセットとモデルを統一された入出力上で扱うためのプラットホームcoreFrame (Common Research Framework)上で行われている。 さらに、第3章の後半では、全球河川流路網モデルを用いて河川流量と河道内貯留量を計算する際に10個の異なる実効流速を適用し、観測流量を用いてベイズ最適なアンサンブル流量が推計されている。推計結果は、観測流量のピークや低水流量の季節変化を的確にとらえており、多くの流域において最も適合度の高いアンサンブルメンバーよりも的確に流量の季節変化のばらつきをとらえることができている。さらに、アマゾン川流域においては、GRACEデータに基づく河川河道内貯留量の時間的な変動を同様にベイズ最適化した結果、河川流量に対して推計した場合と同様の重みづけの分布を示していることが示されている。 第4章では全球降水量データセット間には年平均で10~20%の差があり、時系列間の相似性を表す指標Ωによる評価から、降水量データセットの不一致は降水量の観測所ネットワークの全球の分布と関連が深いことが示されている。また、一般に、陸面水収支計算の結果、降水量の類似性は蒸発散量(および流出量)の類似性へと減少(強調)して伝播されることも示された。蒸発可能な水の量によって蒸発散量が制約される地域では蒸発散量の類似性(ΩET)と降水量の類似性(ΩP)との間には強い相関が見られたが、エネルギー量によって制約される地域では見られていない。半乾燥地域においては、ΩETはΩPの影響を受けやすく、さらに湿潤な地域では、流出量の類似性(ΩR)はΩPと比例関係にあった。この関係は乾燥帯では十分な降水量がないため見られないが、多くの地域においてΩRはΩPに依存していることが見出された。結論として、単一の降水量データセットを用いることは流出シミュレーションに無視できないバイアスを生じる恐れがあり、特に、乾燥地域および観測地点がまばらな流域においてはその傾向が強いことが述べられている。 第5章では、河川の貯留量を考慮すると、TWSの推計結果が乾燥帯を除いて大幅に改善さることから、グローバルにみた陸水総貯水量(TWS)に関して、土壌水分量、積雪量そして河川河道内貯留量が3つの主要な貯留の要素であることが示されている。それぞれの貯留要素がTWSにどれだけの割合を占めるか、またそれらの時系列的な相互作用を比較する2つの指標が提案され、河川の貯留量はアマゾン川流域ではTWSの73%の変動を説明しているが、乾燥地域や雪の影響が卓越している地域ではTWSの変動が滑らかになるため、これらの流域では無視することができること、河川輸送は湿潤地域の陸域水循環過程では卓越しており、雪の卓越した地域では緩衝となる役割を果たすことなどが示された。 これらの結果は、グローバルな水循環変動における河道流下過程の重要性を示すと共に、本研究で開発されたシミュレーション手法は全球陸域水循環過程の推計精度を高めることに大いに貢献することが期待される。グローバルスケールの水循環変動を的確に推計して水インフラの将来設計と水マネジメントに生かすことが社会的にも求められている今、本研究の意義は大変大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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