学位論文要旨



No 125675
著者(漢字) 趙,旺
著者(英字)
著者(カナ) ゾ,ワンフィ
標題(和) 住宅用バッチ式デシカント空調システムの開発及び性能評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 125675
報告番号 甲25675
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7208号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大岡,龍三
 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 特任教授 柳原,隆司
 東京大学 教授 堤,敦司
 東京大学 准教授 鹿園,直毅
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、「住宅用バッチ式デシカント空調システムの開発及び性能評価に関する研究」をテーマとし、床下空間を活用した住宅用デシカント空調システムを提案する。また、提案した空調システムの性能を評価するための数値解析モデルを作成し、作成した数値解析モデルを用いて、提案した住宅用デシカント空調システムの加湿・暖房性能、除湿・冷房性能、中間期における夜間暖房性能を評価したものである。ここでは、全体のまとめとして各章の主要な結論を総括する。

第1章 室内の湿気による問題を提起し、研究の目的を示した。

第2章 室内の湿気による問題を改善するために行われた既往の調湿手法に関する考察の一環とし、温再生型ローターの除加湿性能の評価、調湿材としてシリカゲルを標準住宅に備えた場合の調湿効果に関して検討を行った。

第3章 既往研究の発展形としての住宅用バッチ式デシカント空調システムに関する検討を行い、提案する空調システムの原理や特徴、加湿・暖房運転、除湿・冷房運転及び中間期における夜間暖房運転モードについて説明した。

第4章 デシカント槽に関して規模を縮小した模型実験を行い、デシカント槽の加湿・暖房性能を検討した。また、この検討結果から数値解析モデル用のバリデーションデータを取得した。

第5章 提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムの加湿暖房性能、除湿冷房性能、中間期における夜間暖房性能を評価するための数値解析モデルを作成し、第4章で行った模型実験結果との比較により、作成した数値解析モデルの妥当性の検証を行った。作成した数値解析モデルを用い、シリカゲル量、蓄熱材量、風量、冷温水温度・流量の違いによるデシカント槽と蓄熱材槽の感度分析を行った。その結果を以下に示す。

1) デシカント槽の入口における空気の温湿度、風量、冷温水温度、冷温水流量とシリカゲル量などの条件によって、デシカント槽の出口側における空気の温湿度、デシカント槽の出口冷温水温度を簡易的に予測するデシカント槽の数値解析モデルを作成した。特に、シリカゲル表面の絶対湿度は吸着平衡を仮定して、温度を変数として包含するPolanyi DRを用いた。

2) 第4章で取得したバリデーションデータとの比較により、作成したデシカント槽の数値解析モデルの妥当性を検証した。比較結果から、数値解析結果は模型実験結果によく対応することが分かった。

3) 作成したデシカント槽の数値解析モデルを用い、シリカゲル量、冷温水温度・流量、風量などのパラメータの違いによる性能変化を確認した。特に、冷温水温度が性能に及ぼす影響が大きいことが分かった。

4) 1)と同様に、蓄熱材槽の数値解析モデルを作成した。

5) 作成した蓄熱材槽の数値解析モデルを用い、蓄熱材量、風量などのパラメータの違いによる性能変化を確認した。

6) 蓄熱材槽はモードが切り替えた際に急激に冷気又は暖気が室内に入流されることを防ぐバッファパの役割を果たしていることを確認した。

第6章 作成したデシカント槽の数値解析モデルと蓄熱材槽の数値解析モデルを動的エネルギー解析プログラムであるTRNSYSと気流ネットワーク解析プログラムであるTRNFLOWに組み込み、提案した住宅用バッチデシカント空調システムの加湿・暖房性能を評価した。以下にその結果を示す。

1) 札幌を対象地域とし、吸湿を行うデシカント槽に-10℃の冷水を、加湿・暖房を行うデシカント槽に60℃の温水を供給することによって、吸湿を行うデシカント槽における入口側と出口の平均絶対湿度は各々0.00370 kg/kg'と0.00153 kg/kg'となり、約58.65%の吸湿効果があった。加湿・暖房を行うデシカント槽における入口側と出口の平均絶対湿度は各々0.01640 kg/kg'と0.01770 kg/kg'であり、約7.35%の加湿効果があった。

2) 吸湿を行うデシカント槽における入口側と出口側の平均冷水温度は各々-10℃と-8.06℃であり、外気からの顕熱回収量と吸湿時の吸着熱の回収量が5361.03 kJ/hであった。加湿・暖房を行うデシカント槽における入口側と出口の平均温水温度は各々60℃と54.56℃であり、デシカント槽に15035.74 kJ/hの熱量を供給した。

3) 提案した空調システムの運転により、暖房設定温度である20℃以上に維持することができ、平均絶対湿度(MB)が0.01651 kg/kg'となり、冬季の加湿設定条件よりも高く、十分な加湿能力を持っていると考えられる。

4) 提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムの運転によって、約74.91%の年間暖房負荷の処理ができ、約99.99%の年間加湿負荷への対応が出来た。

5) 年間暖房負荷と加湿負荷を処理するために、提案した空調システムに投入した年間エネルギー量、空調システムが回収した年間エネルギー量、その差である純投入エネルギー量、加湿・暖房運転のヒートポンプの成績係数COPを2とした場合の年間消費電力量を計算した。その結果、室内にかかった全熱負荷(暖房負荷+加湿負荷)に比べ、約49.73%のエネルギー量を投入して負荷に対応出来ることが分かった。

第7章 作成したデシカント槽の解析モデルと蓄熱材槽の解析モデルを用い、提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムの除湿・冷房性能を評価した。

1) 脱着を行うデシカント槽に50℃の温水を、除湿・冷房を行うデシカント槽に10℃の冷水を供給することによって、脱着を行うデシカント槽における入口側と出口側の平均絶対湿度は各々0.01086 kg/kg'と0.01166 kg/kg'となり、約7.34%の脱着効果があることが分かった。除湿・冷房を行うデシカント槽における入口側と出口側の平均絶対湿度は各々0.00654 kg/kg'と0.00563 kg/kg'であり、約13.96%の除湿効果があった。

2) 脱着を行うデシカント槽への供給熱量、吸湿を行うデシカント槽が外気から回収した顕熱量と吸着熱量を確認した。

3) 提案した住宅用デシカント空調システムの運転により、平均空気温度(MB)23.98℃に制御出来ることが分かった。しかし、南側に位置する空調ゾーンにおいては日中の日射の影響により、室内温度が30℃程度になる傾向があった。日中の日射の影響を抑えるためには、カーテンやひさしの活用が有効であると考えられる。平均絶対湿度(MB)が0.00642 kg/kgであり、夏季の除湿設定条件(0.0126 kg/kg')よりも低いことから、提案した空調システムの除湿能力が確認出来た。

4) 提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムを導入することで、約94.16%の冷房負荷と約98.81%除湿負荷の処理が可能であった。

5) 空調システムに投入した年間エネルギー量、空調システムが回収した年間エネルギー量、その差である純投入エネルギー量、除湿・冷房運転のヒートポンプの成績係数COPを3とした場合の年間消費電力量を計算し、室内にかかった全熱負荷(冷房負荷+除湿負荷)に比べ、約38.12%のエネルギー量を投入して負荷に対応出来ることを確認した。

第8章 日中の温かい外気又は日中の南側に位置する部屋の空気を蓄熱源として活用し、蓄熱材槽に溜まった熱を夜間暖房に活用する場合の夜間暖房負荷の削減効果について検討を行った。以下にその結果を示す。

1) 札幌において、日中の外気から蓄熱を行った場合は11.7%の夜間暖房負荷の削減効果が、日中の南側の室内空気を蓄熱源として夜間暖房を行った場合は21.7%の夜間暖房負荷の削減効果があった。しかし、夜間暖房を行っても夜間の室内温度が10℃以下になる時間帯が多く、夜間にかかる暖房負荷によく対応しているとは言えない。これは、日中の外気温度が暖房設定温度である20℃より低い場合も多いため、十分な蓄熱が出来なかったことが原因であると考えられる。

2) 那覇において、夜間暖房熱源を日中の外気又は南側の室内空気とした場合、夜間(午後6時~午前6時)の室内温度が20℃以上に制御でき、夜間暖房負荷の削減率(各々25.3)も札幌における夜間暖房負荷の削減率よりも高いことが分かった。しかし、実際に非空調の際の空調ゾーンにかかった夜間暖房の絶対値が異なり(札幌:3086.6 MJ、那覇:659.2 MJ)、那覇での夜間暖房削減効果が札幌の夜間暖房削減効果より大きいとは言えない。

3) 日中の時間帯に蓄熱を行い、夜間に蓄熱材槽にたまった熱をより円滑に利用するためには、太陽熱の収集による蓄熱、蓄熱材量の増量、空調風量の調節などの工夫が必要であると考えられる。

第9章 本論文の総括を示し、併せて今後の研究課題を示して結論とした。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「住宅用バッチ式デシカント空調システムの開発及び性能評価に関する研究」と題して、住宅に適用可能なバッチ式デシカント空調システムを提案し、実験及びシミュレーションにより、その性能を評価するものである。バッチ式デシカントシステムは、シリカゲルなどの吸湿剤とその補助システムを用いて、空気中の水分を吸着、脱着し、室内に供給する空気の加湿、加温、減湿、冷却を行う空調システムである。本研究では、特に大量の吸湿剤、蓄熱材を用いて、吸湿剤の調湿能力、蓄熱材の蓄熱効果を有効に利用するデシカント空調システムを検討し、その有用性を明らかにしている。

本論文では、調湿手法に関する既往研究の考察の一環とし、バッチ式デシカント空調システムの他、ローター式デシカントシステムの検討も行っている。この検討の考察に基づき、床下空間にデシカント槽及び蓄熱材を設けた住宅用のバッチ式デシカント空調システムの提案を行っている。バッチ式デシカント空調システムの検討は、デシカント槽の基本性能に関する模型実験を行い、これをバリデーションデータとして、提案した空調システムのシステムシミュレーションモデルを作成し、適用する地域の気候、空調風量、デシカント剤の量、蓄熱材の量、冷温水温度・流量、切り替え周期などのパラメータによる空調システム性能を評価して行っている。作成したシミュレーションモデルを用いて、加湿暖房性能、除湿冷房性能、中間期における夜間暖房性能、省エネ性能を評価し、その有用性を検討している。

本論文の構成は以下の通りである。

第1章 室内の湿気による問題を提起し、湿気のコントロールが重要であり、その対策としてデシカント空調が有効であることに言及し、研究の目的を示している。

第2章 室内の湿気による問題を改善するために行われた既往のローター式デシカント調湿手法に関して、実大実験及びシミュレーションにより、その性能を考察している。

第3章 住宅用バッチ式デシカント空調システムに関する検討を行い、提案する空調システムの特徴、加湿暖房、除湿冷房、中間期における夜間暖房モードについて説明している。

第4章 デシカント槽に対する基本的な模型実験により、デシカント槽の加湿・暖房性能を検討している。また、この検討結果からシミュレーションモデル用のバリデーションデータを取得している。

第5章 提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムの加湿暖房性能、除湿冷房性能、中間期における夜間暖房性能を評価するためのシミュレーションモデルを作成し、第4章で行った模型実験結果との比較により、作成したシミュレーションモデルの妥当性を検証している。作成したシミュレーションモデルを用い、デシカント剤としてのシリカゲル量、蓄熱材量、風量、冷温水温度・流量の違いによるデシカント槽と蓄熱材槽の感度分析を行っている。

第6章 作成したデシカント槽のシミュレーションモデルと蓄熱材槽の数値解析モデルを動的エネルギー解析プログラムであるTRNSYSと気流ネットワーク解析プログラムであるTRNFLOWに組み込み、提案した住宅用バッチデシカント空調システムの加湿暖房性能を評価し、システムの有用性を検討している。

第7章 作成したデシカント槽のシミュレーションモデルと蓄熱材槽のシミュレーションモデルを用い、提案した住宅用バッチ式デシカント空調システムの除湿冷房性能を評価し、システムの有用性を検討している。

第8章 日中の温かい外気又は日中の南側に位置する部屋の空気を蓄熱源として活用し、蓄熱材槽に溜まった熱を夜間暖房に活用する場合の夜間暖房負荷の削減効果について評価し、システムの有用性を検討している。

第9章 本論文の総括を示し、併せて今後の研究課題を示して結論としている。

以上を総括するに本論文では、大量のデシカント剤、蓄熱材を用いて、その蓄熱効果、調湿能力を最大限生かす住宅用デシカント空調システムを提案している。実験に裏打ちされたデシカント槽及び蓄熱材槽のシミュレーションモデルを作成し、各種設計パラメータの違いによる性能予測を可能としている。本論文は新たな空調システムの提案に加え、そのシミュレーションモデルにより、システムの設計及び運転手法を確立した点において、建築環境工学および空調設備工学上、極めて有用な成果を得ており、評価に値する。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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