学位論文要旨



No 125706
著者(漢字) 今澤,良太
著者(英字)
著者(カナ) イマザワ,リョウタ
標題(和) 磁気中性点と合体を用いた高ベータ球状トカマク立上げ実験
標題(洋)
報告番号 125706
報告番号 甲25706
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7239号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日,邦彦
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 准教授 井,通暁
 東京大学 准教授 小野,亮
内容要旨 要旨を表示する

球状トカマク(ST)炉はベータ値(=プラズマの熱圧力をコイルの磁場圧力で規格化した値)が通常のトカマク配位よりも高くなるという特徴があり、経済性に優れた炉を実現する可能性があると期待されている。しかし、トーラス内側のスペースが小さくなり炉の設計が困難であるという問題点があり、センターソレノイド(CS)無しの運転が望まれている。CS無しの運転では、(1)初期プラズマの立ち上げ、(2)NBI開始までの第1段ランプアップ、(3)燃焼開始までの第 2ランプアップ、(4)核燃焼プラズマの定常維持という各段階を達成しなければならない。(1)の初期プラズマ立ち上げに関しては、電磁波を用いた非誘導立上げ、同軸ヘリシティ入射、DCヘリシティ入射、プラズマ合体法などがあり、本研究はプラズマ合体法を用いた立ち上げを議論する。

合体法は真空容器の天井部と床部の上下2ヶ所で、ポロイダル磁場(PF)変化による電磁誘導により、同方向のトロイダル電流を持つSTプラズマを2つ発生させる。電磁力でそれらが互いに引き合い、赤道面付近で合体し1つのSTが生成される。合体の過程で磁気リコネクション現象がおき、磁気エネルギーの一部がプラズマの熱エネルギーに変換され高ベータプラズマが得られる可能性がある。この方法は、TS-3装置において最初実証され、その後イギリスのSTART/MASTでも採用されている。TS-3の場合は合体法によって15[MW]相等の加熱が得られており、合体直後にベータ値が50%という超高ベータ STが得られた。これらの装置では初期プラズマの生成・押し付けを行うのに真空容器内のPFコイルを使用しているが、中性子負荷の高い商用炉では内部コイルを用いる方法は使えない。そこで、真空容器外部のPFコイルでプラズマ合体法を実現する方法として、次のStep1から4で示されるDNM (Double Null Merging)法が提案された。(Step1)装置の上部と下部に2つのNull点(ポロイダル磁場が0であり、プラズマがつきやすい場所)を生成し、Null点付近の気体を予備電離しておく。(Step2)Null点付近は磁力線に沿った壁までの距離が長いのでプラズマが発生しやすい。従って、PFコイル電流を下げていくとNull点でプラズマが点き、プラズマ電流が誘導されて2つのSTが生成される。(Step3)さらにPFコイル電流を下げ、電流の向きが反転すると、PFコイル電流とプラズマ電流の間に反発力が発生しミッドプレーンの方向へSTが押し出される。(Step4)押し出されたSTが合体する時に、磁気リコネクションによってプラズマ(主としてイオン)が加熱され高ベータSTが生成される。DNM法では外部PFコイルによるフラックススウィングでプラズマを生成するため、CSコイルなしでプラズマを生成できる。つまり、DNM法は高ベータとCSなし立ち上げという2つの重要な課題を扱えるため、魅力的なST立ち上げ方法であると考えられる。

プラズマ合体立ち上げ法を外部PFコイルを用いて、かつCSコイルなしの運転ができるDNM法が提案され、この方法を実証する為に実験装置UTSTが建設された。本研究ではUTSTの立ち上げ、磁場計測器と解析方法の確立、予備電離装置ワッシャーガンの開発、真空容器の渦電流解析を行い、Null点でのST立上げ実験を行った。

通常トカマク装置の磁場計測では、真空容器壁での磁場と磁束を計算し、それらを満たすようなプラズマの平衡解を計算するという事をしている。しかし、この方法ではプラズマの合体過程において解が求まらないため、UTSTではプラズマ内にプローブを挿入し直接磁場の空間分布を計測した。トロイダル対象性を仮定することにより、トロイダル磁場と垂直磁場のR-Z分布を計測することで、ポロイダル磁気面、径方向磁場、トロイダル電場、プラズマ電流密度、プラズマ圧力を計算できる。しかし、トロイダル磁場が垂直磁場に対して10倍以上大きい為、必要な取り付け精度を満たすことができなかった。そこであらかじめコイルの取り付け角度を算出しておいて、角度を考慮して補正をかける事でトロイダル磁場と垂直磁場のR-Z分布が計測できるようになった。これらの計測値から電流密度の空間分布を求めるには、計測値を2次元空間上で補完する必要がある。これにはドロネー分割を用いて線形補間を行うのが一般的であるが、径方向内側のピックアップコイルが故障した場合などに十分な精度が得られなかった。そこで、プローブ毎にR方向にデータをスプライン補間してから、それらをZ方向にスプライン補間することで、ドロネー分割に対して線形補間を行うよりも精度のよい解析が可能となった。

UTST装置は初期プラズマ生成付近の壁が1.5mmの薄肉の導体で作られており、16本の導体リブと繊維強化プラスチックコーティングで強度補強している。磁場の浸み込みに対する導体リブの影響を調べるために渦電流の解析コードを作成し、16本の導体リブの影響が無い事を確認した。そして、このコードを用いて解析した結果、PFコイルの巻き数を変更することで、現在使用しているバンクを用いてUTST内に高電場(20[V/m]]以上)を長時間発生させる事が可能であることがわかった。

予備電離装置であるワッシャーガンは、ミラー装置において種プラズマ供給の為に設計された物を使用したが、絶縁の強化、磁場とガンの放電路を平行にするなどの対策が必要であった。そして、ワッシャーガンによって種プラズマを供給することでブレイクダウン時間が大幅に減少し、STの急速立ち上げが可能になった。これによって外部コイルによるDNM法に成功し、220[kW]の加熱パワーが得られた。また、内部コイルを用いていたTS-3/4装置では、生成されたSTが常磁性電流を有していたが、外部PFコイルを用いた場合はそれが見られなかった。これは、常磁性電流が生じるのはコイル近傍で発生したプラズマがコイル電流によって収縮されるからだと言える。

イギリスのカラム研究所にある球状トカマク実験装置MASTにおいて共同研究を行い、合体立上げ法において磁気リコネクションによる電子・イオン加熱が起きている事がわかった。TS-3という小型装置で発見された加熱効果が、MASTという大型装置においても実証できた意義は大きい。また、放電シーケンスがほぼ同じであるにも関わらず、合体後の電子温度はピークしている場合とホロウである場合とがある事がわかった。この理由として、不純物による放射冷却やIRE(internal reconnection event)による分布変化が考えられたが、それらでは説明がつかなかった。そこで、充填ガス圧によって初期STの生成過程が変わり、リコネクションポイントおよび電子加熱の場所が変わるという仮説を立てた。そして、それを検証する実験を行い、説を支持する結果を得た。また、この検証実験の結果から、リコネクションの電子加熱領域を推定し、シート幅が4.5[cm]と見積もられた。この結果はMRX(アメリカ、プリンストン研究所)で得られたトロイダル磁場が無い場合のシート幅に関するスケーリング則に合う結果となった。また、トロイダル磁場の大きさを変えて合体立上げ実験を行ったところ、トロイダル磁場が大きいほどリコネクションによる電子の加熱パワーが大きくなり、イオンの加熱パワーは変わらないという事もわかった。特に電子の加熱パワーに関しては、理論・ シミュレーション結果からは予想されていない結果であり、今後の研究課題である。

UTSTではDNM法に成功したものの、リコネクションによる加熱パワーは予想よりも小さかった。トロイダル磁場がTS-3装置に比べて3-4倍程度大きいことやプラズマサイズに対するラーマ半径の大きさが変わってしまった事で、リコネクションのメカニズムが変化してしまった(異常抵抗が起きない領域になってしまった)可能性などが考えられるが、MASTでの実験結果はこれを否定している。現在のUTSTでは合体前のプラズマ電流が小さい(リコネクションした磁場が小さい)ため、MASTのように150[kA]程度のSTを生成してから合体を行う事が可能になればリコネクションによる大きなプラズマ加熱が期待できる。

UTSTを立ち上げ、外部PFコイルのフラックススウィングによってプラズマの発生・プラズマ電流の誘導を行いながら、同時にPFコイルの磁場でプラズマ位置を安定させ、2つのSTが成長してから合体させるという事に成功した。また、MASTで行った実験結果から合体による加熱は十分期待できる事がわかった。以上より、本研究はDNM法がCTF(compact test facility)など将来の炉での魅力あるST立上げ法である事を示すものである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「Start-up Experiments of High Beta Spherical Tokamaks Using Double Null Points and Merging」と題し、東京大学で考案されたダブルヌル(DNM)法、即ち2組のコイルの中間に形成した2つの磁気中性点で2つの球状トカマク(ST)を形成し、合体・加熱する新手法をはじめて実験的に実証し、実用炉でも合体法が利用できることを建設中のUTST(University of Tokyo Spherical Tokamak)装置を用いて明らかにした。ST炉はベータ値が通常のトカマク配位よりも高く、経済的な核融合炉となる反面、トーラス内側のスペースが狭い。合体法は、センターソレノイド(CS)や内部コイルに頼らない外部コイルでSTを生成しつつ、合体の磁気リコネクション加熱で高ベータ化を経済的に達成する意義がある。さらに、合体加熱の大型炉での実証として、電源拡充が進行中で加熱パワーが十分でないUTSTから、STとして世界最大の規模を有するMAST装置に実験対象を移し、合体によるリコネクション加熱によるイオン温度の急上昇やリコネクション点付近の強い電子加熱を初めて明らかにし、合体加熱が通常のCSコイルによる立ち上げに比べ遙かに速いプラズマ加熱が可能であることを実証した。

Chapter 1 は、Introductionであり、研究の背景となったSTの歴史と高ベータ閉じ込め配位として50%を超える高ベータ化の可能性を秘めたSTの可能性を合体法によって引き出せることや、真空容器外の2組のコイルを用いたダブルヌル法により、離れた距離でのST生成と合体を新装置UTSTによって可能にする本研究の目的が述べられる。また、合体による加熱の物理や大型装置による合体加熱実験の意義が述べられている。

Chapter 2 は、Spherical Tokamak Device: UTSTと題し、新装置UTST実験装置の詳細が述べられており、ダブルヌル法によるST生成の詳細と従来の内部コイルによる生成の比較、鍵となる予備電離装置としてのワッシャーガンをはじめ、本体、計測装置まで詳細が記述されている。

Chapter 3 は、Eddy Current Analysisと題し、真空容器外コイルによってSTを生成する際に問題となるUTST真空容器の渦電流に関する計算解析結果と実験の比較が述べられ、真空容器壁の最適化により60-70%程度のコイル磁束が真空容器内で有効利用されていることや心配された真空容器リブ部分の影響が小さいことが述べられている。

Chapter 4 は、Breakdown Condition on Torus Dischargeと題し、UTST実験装置で形成したダブルヌル配位でSTを生成するための条件をタウンゼント理論などを組み合わせて導き、実験と比較した上で、ダブルヌル生成への見通しを述べている。

Chapter 5 は、 Optimization of Preionization Using Washer Gunsと題し、ダブルヌル配位でSTを生成するための鍵となるワッシャーガン型プラズマ源の改良とその設置場所によってST生成効率が大きく異なることや、生成効率の最適化について述べられている。

Chapter 6 は、 DNM Experiments on UTSTと題し、真空容器外コイルが形成するダブルヌル配位で2つのSTを生成し、合体させることに成功した実験の詳細が述べられている。UTSTは未だ電源容量が少ない状態ながら、真空容器外コイルのみによる生成・合体に加え、合体によるリコネクション加熱により1.5MWという極めて大きい加熱パワーが得られている。

Chapter 7 は、 Merging Experiments on MASTと題し、最大のST装置MASTに合体加熱のアイデアを持ち込み、1kevに達する大きなイオン加熱とヌル点に局在化した0.8keVに達する電子加熱を実現し、CSコイルによる立ち上げとの比較によって合体法の優れた加熱効率を実証した他、初めて電子加熱のプロファイルを検証した実験が述べられている。

Chapter 8 は、 Conclusionsであり、2つの実験を有機的に結合し、外部コイルによる非接触のダブルヌル立ち上げと合体、合体による加熱の大型装置での立証をまとめている。

以上要するに、外部コイルによるSTプラズマのダブルヌル生成・合体が実用炉へ適用可能であることに加え、世界最大のST実験装置でも合体法が通常のCS法に比べ高速で効率の良いイオン・電子加熱が可能であることを実証したものであり、STの合体法の工学的実証や磁気リコネクション加熱に代表される新しい加熱手法の確立を通じたプラズマ理工学、核融合工学、電気電子工学への貢献は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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