学位論文要旨



No 125708
著者(漢字) 中田,宗樹
著者(英字)
著者(カナ) ナカダ,ムネキ
標題(和) MEMS型全光給電・制御システムとその光ファイバ内視鏡応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 125708
報告番号 甲25708
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7241号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 年吉,洋
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 准教授 何,祖源
 東京大学 准教授 三田,吉郎
 東京大学 准教授 杉山,正和
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、微小電気機械システム(MEMS = Micro Electro Mechanical Systems)への電力・信号の伝送方法として光を利用し、光ファイバ一本のみでシステムのエネルギ給電、および、制御を行う技術の研究開発を行い、また、その応用検討として光給電型のMEMS光ファイバ内視鏡の試作と評価を行った。

MEMSとは、半導体微細加工技術を応用して微小な機械・電気構造を作製する技術、および、その応用デバイスの総称であり、MEMSによる微小機械は、集積化した電子回路を用いて電気的に制御することを理想としている。近年では、半導体電子回路を集積化したMEMSセンサ・アクチュエータが実用化され、次世代のMore than Moore的付加価値技術として半導体技術分野における存在価値を高めつつある。しかしながら、MEMSへのエネルギの供給と制御には、依然として外界との電気配線が用いられている。MEMSが小型化し、ユビキタス・センサやネットワークセンシングの要素デバイスとしての応用が検討されつつある現在では、分散したMEMS素子へのエネルギ供給と制御を、電気配線以外の方法で効率よく行う方法の研究開発が課題となっている。

この課題の解決策として、本論文では光ファイバを用いて光エネルギを給電し、かつ光によって信号を取り出す全光給電・制御システムを提案した。近年の情報通信網の発展にともない、光ファイバ通信分野では波長分割多重通信(WDM = Wavelength Division Multiplexing)による高密度情報伝送が実用化されている。本研究では、従来は光通信技術に限定されていた光ファイバ技術体系を水平展開して、光ファイバによるMEMSデバイスへのエネルギ・情報伝送を実現する手法を検討した。具体的には、赤外波長1.5μmをエネルギ伝送に用い、また、波長1.3μmを光センシングに利用するものであり、これに基づいた光エネルギ伝送・制御型の医療応用光ファイバ内視鏡を試作と評価を行った。

本論文の第1章では、代表的なMEMSデバイスの電源供給および信号取り出し方法を概観し、本論文のテーマであるMEMSを用いた光給電・制御システムの目的を示した。

次に、第2章では、MEMS型の全光給電・制御システムの応用例として、光干渉断層計測装置(OCT =Optical Coherence Tomography)を用いた光ファイバ内視鏡を取り上げた。従来の電気給電型MEMSを用いたシステムを改良し、全光給電・制御が可能となる光ファイバ内視鏡システムを構築する手法を述べた。

第3章では、光ファイバ内視鏡で使用するためのMEMS光スキャナの設計・製作を行った。光ファイバ内視鏡用の要求仕様を満たすために、静電駆動櫛歯型アクチュエータを用いた光スキャナを選択し、設計・製作方法について述べた。さらに、作製したMEMS光スキャナの特性を評価し、光給電によって動作可能であることを示した。

第4章では光ファイバ内視鏡の予備実験として、2本の光ファイバによるエネルギ供給・測定システムを構築した。波長1.3μmの赤外光を生体観察光として、また、波長1.5μmの赤外光をエネルギ供給光として用い、OCT測定システムを構築した。このシステムにより生体画像を取得することで、光給電による測定システムが実現可能であることを示した。

第5章では、システムを内視鏡として利用可能にするために、光ファイバ先端にMEMS光スキャナおよび光電変換素子を直径6mm内の透明な管の中に実装する技術について述べた。これにより、光ファイバ一本でエネルギを供給して動作する光ファイバ内視鏡システムが可能となり、また、本研究が提唱する光給電・制御型のMEMSシステムの実証可能性を示した。

第6章では考察として、MEMS光スキャナとそれを用いた内視鏡システム特性の最適化について述べた。特に、内視鏡の特性を向上させるために、より大きな変向角度で光スキャナを励振する方法と、MEMS型光スキャナの特性を生かすための内視鏡システムの改良について考察した。

第7章では本研究を総括し、本研究の結論を述べた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「MEMS型全光給電・制御システムとその光ファイバ内視鏡応用に関する研究」と題し、微小電気機械システム(MEMS = Micro Electro Mechanical Systems)への電力の供給と制御信号の伝送、および、信号取得を双方向に行うための手法として、1本の光ファイバ中を伝搬する光を用いる技術を新たに提案したものであり、その応用形態として光ファイバ型の医療用内視鏡を具体例に取り上げ、光給電・制御光学系の構築方法、MEMS設計手法、製作技術、特性評価についてまとめたものであり、全7章より構成されている。

第1章は「序論」であり、MEMS技術の歴史を概観するとともに本研究の背景技術を述べている。特に、分散型センサとして利用が進められているMEMS技術の緊急の課題として、中央制御系から遠距離にあるMEMSへの効率よい電力供給方法と、MEMSからの信号取得の方法を調査研究してその問題点を明らかにするとともに、解決方法として光ファイバを用いたPower-over-Fiber型の光給電方式と光信号取得方式を提案し、本論文の目的と研究の意義を提示し、かつ、本論文の構成について説明している。

第2章は「OCT内視鏡」であり、本論文が提唱するMEMS型全光給電・制御システムの応用例として、光干渉断層計測(OCT = Optical Coherence Tomography)原理に基づいた光ファイバ内視鏡の構成方法について述べている。この章では従来の電気配線によるMEMSへの給電方式について解説し、光ファイバを用いて給電・制御する本研究の方式によって、より高機能な光ファイバ内視鏡が構築可能であることを示している。

第3章は「OCT内視鏡用MEMSスキャナ」であり、光ファイバ型内視鏡に搭載する光スキャナの駆動方式として、通電加熱型、電磁駆動型、静電駆動型を比較検討している。また、光給電に適した駆動方法として垂直櫛歯型静電アクチュエータを利用した光スキャナの利点について説明し、その設計方法論について詳細に説明している。さらに本章では、シリコンマイクロマシニング技術を用いて静電駆動型の光スキャナを製作する方法について述べており、実際に試作して得られた静電駆動共振型の光スキャナの電気機械的特性について、内視鏡応用の観点から報告している。

第4章は「光給電MEMSスキャナによるOCT測定」であり、第5章の予備実験として、第3章で製作したMEMS光スキャナを光給電によって駆動する方法について説明している。特に、給電光を駆動電圧に変換する光電変換素子の効率と等価回路モデルについて考察を加え、第2章で説明したOCT光学系に光電変換素子とMEMS光スキャナを組み合わせることで、光給電型の測定システムを構築し、生体試料から断面画像を取得することに成功している。

第5章は「MEMS型全光給電内視鏡」であり、実際に光ファイバ先端に直径6mmの透明な管を配置し、その中にMEMS光スキャナと光電変換素子、光軸合わせのためのレンズ系、ビームスプリッタ等を実装した光ファイバ内視鏡を構築して、生体試料の観察を行い、本研究が提唱する全光給電・制御型のMEMSシステムとしての評価を行っている。

第6章は「考察」であり、本研究が提唱する全光給電・制御型のMEMSの試作結果を、伝送電力、エネルギ効率、制御信号伝送速度、伝送距離、波長間クロストーク等の観点から総合的に評価したものであり、分散型の光ファイバを介したMEMSのためのエネルギ供給・信号伝達方式の適用範囲について示している。

第7章は「結論」であり、本論文で示した成果を総括している。

以上これを要するに、本論文は分散型または遠隔配置型のMEMSセンサ・アクチュエータシステムへのエネルギ供給、および、信号送信・受信に適した方法として、光ファイバを用いた全光型の光給電・光制御システムの構築方法を新たに考案するとともに、実際に同技術の応用例として光ファイバ型光干渉断層観察内視鏡システムをMEMS光スキャナと光電変換素子を用いて製作し、その特性を評価することにより、MEMSと光給電・光制御の整合性と応用範囲について実験的に検証したものであり、電気工学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク