学位論文要旨



No 125754
著者(漢字) 山内,祥弘
著者(英字)
著者(カナ) ヤマウチ,ヨシヒロ
標題(和) 自己組織化を活用した芳香環有限集積体の設計と構築
標題(洋) Engineering Discrete Stacks of Aromatic Molecules via Self-Assembly
報告番号 125754
報告番号 甲25754
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7287号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 教授 加藤,隆史
 東京大学 准教授 山口,和也
 東京工業大学 准教授 吉沢,道人
 東京大学 講師 藤田,典史
内容要旨 要旨を表示する

芳香族分子は、π電子の非局在化に起因した特異な性質を示す。これまでに、π共役系を"平面"方向へ拡張した大小様々な形状の芳香族分子が合成されてきた。その一方で、π共役系の"集積"方向への自在な拡張は現在もなお困難である。特別な化学修飾することなく、それらを正確に積み重ねる手段は、現在でも古典的な結晶化にほとんど限られる。そこで本研究では、自己組織化を利用することにより、精密にプログラム化された"芳香族分子の有限配列制御"を目指した。π共役系分子は集積することで、分子単独では見られない性質を発現する。そのため、π共役系分子間での相互作用を巧みにコントロールして構築される集積体は、多くの関心が持たれている。

本研究では、箱型の自己組織化中空錯体を活用し、"芳香族分子の有限集積と多段階自己組織化"を達成した。本論文は以下の6章から構成されている。本研究に共通する芳香環集積数制御の戦略として、箱型の自己組織化中空錯体の構成成分であるピラー状配位子に着目し、その長さおよび親水性を緻密に調整することで、芳香族分子の有限配列制御を達成した。

第1章では、本研究の背景、目的および概論を論じた。

第2章では、箱型錯体内部空間のサイズをピラー状配位子の調整により、厳密に制御し、強い双極子モーメントを有する極性芳香族分子を1分子単位で5分子まで段階的に集積することに成功した。箱型錯体内に3分子集積した系では、無限結晶状態とは異なる分子の配向がX線結晶構造解析により観察された。すなわち、集積した3分子内で双極子モーメントの総和が0になるように隣接する分子と120度ずつずれて配向していることを見出した。

第3章では、箱型錯体内でトリメトキシシリル基を有する芳香族分子を2分子集積させ、外界から孤立させて反応させることにより、シクロファンの効率的合成に成功した。

第4章では、箱型錯体を3次元的にインターロックさせ、その間に鋳型芳香族分子をインターカレーションさせる手法により、芳香環の7重、8重、9重の構築を達成した。ここで、パネル状配位子は相対的にアクセプター性(A)、鋳型芳香族分子はドナー性(D)を有する。そのため、7重集積体はA-D-A-D-A-D-A配列、8重集積体はA-D-A-D-D-A-D-A配列、そして9重集積体はA-D-A-D-D-D-A-D-A配列に起因する特徴的な電荷移動吸収帯が観測された。

第5章では、第4章で構築した芳香環7重集積体の側面を修飾し、水への溶解度を向上させることで、高濃度条件下において芳香環7重集積体が1次元カラム構造を形成することを見出した。濃度の増加とともに、芳香環7重集積体の会合数の向上がDOSY-NMRにより観測された。さらに、この構造体は少量の水との接触実験の結果、リオトロピック液晶性を示すことを見出した。

第6章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。

以上、本論文では、箱型の自己組織化空間を活用することで、精密に数および配列が制御された芳香族分子の有限集積に成功した。自己組織化中空錯体が提供する高さ方向のサイズを自在に変えることにより、π共役系分子の集積数を有限領域で制御すると共に、集積数に起因した性質を見出した。また、3次元的インターロックを利用した分子配列手法が、電子受容性分子と供与性分子の配列制御に有効であることを明らかにした。さらに、この有限集積構造の配列情報を1次元方向に伝達することに成功した。既存の手法では、実現困難な配列を達成したことから、今後本手法は、集積数および配列と物性の相関関係を解明する上で有効な手段となりうることが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

芳香族分子は、π電子の非局在化に起因した特異な性質を示す。これまでに、π共役系を"平面"方向へ拡張した大小様々な形状の芳香族分子が合成されてきた。その一方で、π共役系の"集積"方向への自在な拡張は現在もなお困難である。特別な化学修飾することなく、それらを正確に積み重ねる手段は、現在でも古典的な結晶化にほとんど限られる。そこで本研究では、自己組織化を利用することにより、精密にプログラム化された"芳香族分子の有限配列制御"を目指した。π共役系分子は集積することで、分子単独では見られない性質を発現する。そのため、π共役系分子間での相互作用を巧みにコントロールして構築される集積体は、多くの関心が持たれている。

本研究では、箱型の自己組織化中空錯体を活用し、"芳香族分子の有限集積と多段階自己組織化"を達成した。本論文は以下の6章から構成されている。本研究に共通する芳香環集積数制御の戦略として、箱型の自己組織化中空錯体の構成成分であるピラー状配位子に着目し、その長さおよび親水性を緻密に調整することで、芳香族分子の有限配列制御を達成した。

第1章では、本研究の背景、目的および概論を論じた。

第2章では、箱型錯体内部空間のサイズをピラー状配位子の調整により、厳密に制御し、強い双極子モーメントを有する極性芳香族分子を1分子単位で5分子まで段階的に集積することに成功した。箱型錯体内に3分子集積した系では、無限結晶状態とは異なる分子の配向がX線結晶構造解析により観察された。すなわち、集積した3分子内で双極子モーメントの総和が0になるように隣接する分子と120度ずつずれて配向していることを見出した。

第3章では、箱型錯体内でトリメトキシシリル基を有する芳香族分子を2分子集積させ、外界から孤立させて反応させることにより、シクロファンの効率的合成に成功した。

第4章では、箱型錯体を3次元的にインターロックさせ、その間に鋳型芳香族分子をインタ一カレーションさせる手法により、芳香環の7重、8重、9重の構築を達成した。ここで、パネル状配位子は相対的にアクセプター性(A)、鋳型芳香族分子はドナー性(D)を有する。そのため、7重集積体はA-D-A-D-A-D--A配列、8重集積体はA-D-A-D-D-A-D-A配列、そして9重集積体はA-D-A-D-D-D-A-D-A配列に起因する特徴的な電荷移動吸収帯が観測された。

第5章では、第4章で構築した芳香環7重集積体の側面を修飾し、水への溶解度を向上させることで、高濃度条件下において芳香環7重集積体が1次元カラム構造を形成することを見出した。濃度の増加とともに、芳香環7重集積体の会合数の向上がDOSY-NMRにより観測された。さらに、この構造体は少量の水との接触実験の結果、リオトロピック液晶性を示すことを見出した。

第6章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。

以上、本論文では、箱型の自己組織化空間を活用することで、精密に数および配列が制御された芳香族分子の有限集積に成功した。自己組織化中空錯体が提供する高さ方向のサイズを自在に変えることにより、π共役系分子の集積数を有限領域で制御すると共に、集積数に起因した性質を見出した。また、3次元的インターロックを利用した分子配列手法が、電子受容性分子と供与性分子の配列制御に有効であることを明らかにした。さらに、この有限集積構造の配列情報を1次元方向に伝達することに成功した。既存の手法では、実現困難な配列を達成したことから、今後本手法は、集積数および配列と物性の相関関係を解明する上で有効な手段となりうることが期待される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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