学位論文要旨



No 125755
著者(漢字) 張,悦
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,エツ
標題(和) 有機電子デバイスの応用に向けた全共役系ジブロックコポリマーの合成とナノ構造制御
標題(洋) Synthesis and Nanostructure Control of All-conjugated Diblock Copolymers for the Application of Organic Electronic Devices
報告番号 125755
報告番号 甲25755
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7288号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 橋本,和仁
 東京大学 教授 相田,卓三
 東京大学 教授 藤田,誠
 東京大学 准教授 石井,和之
 東京大学 准教授 横山,英明
内容要旨 要旨を表示する

1.緒言

高効率な有機電子デバイスを設計する上で、半導体ポリマーのナノ構造や分子配向を制御し、効率的な電荷輸送と電荷分離を達成することは重要であると考えられる。これは基礎研究のみならず応用研究においても重要な研究課題の一つである。例えば、有機電界効果トランジスターでは材料の結晶化状態を、有機薄膜太陽電池では電子ドナーと電子アクセプターの混合様式を制御することでデバイスの高効率化を探索してきた。しかしながら、これまでの研究例ではデバイスの作製条件などの動的な制御に頼っているため、デバイスのナノ構造の精密制御が難しく、デバイス効率の再現性も長期安定性も乏しい。一方、ジブロックコポリマーは異なるブロック間の非相溶性により三次元的なミクロ相分離構造を自発的に形成することがよく知られており、このような自己組織化による自発的形成を意図的に用いることで、通常の手法では達成不可能な有機電子デバイスのナノ構造を精密に制御することが期待できる。

2.擬リビング重合法を用いた全共役系ジブロックコポリマーの合成

有機電子デバイスのナノ構造制御に向けて全共役なジブロックコポリマーpoly(3-hexylthiophene-block-3-(2-ethylhexyl)thiophene) (P(3HT-b-3EHT)を設計・合成した(図1)。3-(2-ethylhexyl)thiophene (3EHT)はthiopheneの3位に嵩高い分岐アルキルが導入されたため、そのホモポリマーでは結晶性の低下が期待できる。本研究では擬リビング重合法を用いて、制御された分子量かつ狭い分子量分布を有するP(3HT-b-3EHT)を合成し、その固相中の結晶化状態を検討した。

[実験] Grinard試薬およびNi触媒を開始剤とした擬リビング重合[1]を用いて、P(3HT-b-3EHT)をワンポットで合成した。核磁気共鳴(NMR)とゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)より生成物を同定し、示差走査熱量測定(DSC)より固相中の結晶化状態を調べた。参照実験としてP3HTとP3EHTホモポリマー、P(3HT-co-P3EHT)ランダムコポリマーおよびホモポリマーの物理混合物も合成した。

[結果と考察] NMR測定よりP(3HT-b-3EHT)ジブロックコポリマーの生成を確認し、そのポリマーブロックの比率も見積もった。3HTと3EHTモノマーの仕込みモル比はそれぞれ25%:75%、50%:50%、75%:25%であるのに対し、生成物中にP3HTとP3EHTのポリマーブロック比は20%:80%、56%:44%、83%:17%であり、仕込み比とほぼ一致することが分かった。また、いずれのコポリマーにおいても立体規則性が97%より高い値を示し、頭―尾結合の選択性が高いことが示された。GPC測定よりジブロックコポリマーは数平均分子量が20000程度であり、かつ1.10-1.17の狭い分子量分布を示した。これらの結果より、Grignard試薬およびNi触媒を用いた擬リビング重合法は分子量分布が狭くかつ分子量制御可能なポリチオフェンジブロックコポリマーの精密合成に有用な手法であることが示唆された。また、参照実験としてP3HTとP3EHTホモポリマーや対応するランダムコポリマーの合成にも成功した。DSCを用いて各種ポリマー固体の熱的挙動を測定したところ、P3HTは239°Cと208°Cに融解と再結晶のピークを示し、結晶性であることが示唆された。一方、P3EHTは昇温と降温過程では吸熱と発熱のピークを示さず、結晶性が低いことがわかった。ランダムコポリマーではP3EHTのブロック比率が増加するに従い、融解温度と再結晶温度は単調に低下した。これはポリマー全体の結晶性の低下に由来すると考えられる。P3HTとP3EHTホモポリマーの物理混合物ではそれぞれのホモポリマーの熱的挙動が独立に観測され、ポリマーのマクロ相分離が示唆された。一方、P(3HT-b-3EHT)に関しては、P3HTブロックが56%と83%の試料では再結晶ピークが1つ、融解ピークが2つ存在し、複雑な熱的挙動を示した(図2)。これは結晶性の低いP3EHTブロックが先に融解することでポリマーがメソフェーズを形成したためと考えられる。

3.P(3HT-b-3EHT)薄膜におけるミクロ相分離構造の観測およびそのX線構造解析

結晶性の異なるブロックを持つジブロックコポリマーではブロック間の非相溶性により、その薄膜ではミクロ相分離構造の形成が期待できる。そこで、結晶性の高いP3HTブロックと低いP3EHTブロックを有するP(3HT-b-3EHT)薄膜におけるナノ構造の形成を検討した。

[実験] 合成したジブロックコポリマーのクロロベンゼン溶液(5 mg mL-1)を用い、ガラス基板上にスピンコート法で厚さ十数ナノ程度の薄膜を作製した。原子間力顕微鏡(AFM)およびX線構造解析より、薄膜試料の相分離構造を観測し、紫外可視光分光測定(UV-vis)を用いて薄膜中の結晶化状態を調べた。参照実験としてホモポリマー、ランダムコポリマーおよび物理混合物薄膜の構造も検討した。

[結果と考察] P3HTブロック比率が83%および56%のP(3HT-b-3EHT)薄膜試料を異なる温度で熱処理し、その自発なミクロ相分離構造の観測を試みたところ、2つの融解ピーク間の温度で加熱するときだけ明瞭なミクロ相分離構造の形成が観測された(図3、P3HTが83%)。また、すべてのジブロックコポリマー薄膜ではP3HTブロックの比率に比例し、明るいドメインの太さは増加し、長さは短くなった。ブロック比率とパターンの変化から、AFM位相図で観測された明と暗のドメインはそれぞれP3HTとP3EHTであると考えられる。また、P3HTが83%の薄膜試料のUV-visスペクトル(図4)では、ポリマー鎖に結晶性の低いP3EHTを17%導入したにもかかわらず、610 nmにおける吸収の肩が大きく増加し、P3HTポリマー鎖の分子鎖間相互作用が促進されたことを示唆した。これは結晶性の低いP3EHTが先に融解するによりポリマーの流動性が上がり、結晶性の高いP3HTの結晶化を促進したものと考えられる。薄膜X線構造解析を用いてP(3HT-b-3EHT)ジブロックコポリマー薄膜の2次元構造解析を行ったところ、P3HTブロックは基板に平行に1.69 nmの層状構造を作ることがわかった。層内ではチオフェン環同士がπスタックしており、0.382 nmの面間距離をとることが分かった。一方、P3EHTブロック由来の回折ピークは観測できず、このドメインは薄膜中で結晶性の低い構造をとることが分かった。AFM、UV-vis、X線回折の測定結果よりジブロックコポリマー薄膜が図5に示すような構造をとることが示唆された。

参照試料のP(3HT-co-3EHT)と物理混合物の薄膜試料においてはUV-visスペクトルでは吸収の肩が見られず、薄膜の表面観察ではそれぞれ30-50 nm、80-100 nmの大きな凝集しか観測できなかった。これらの結果は薄膜中のナノ構造を精密に制御するためにジブロックコポリマーが有用であることを示唆した。

4.P(3HT-b-3EHT)を用いた有機電界効果トランジスターの作製

有機電界効果トランジスターでは、デバイスの高効率化に向けて材料の結晶化状態を制御することが重要である。そこで、結晶性の高いP(3HT-b-3EHT)を用いて、有機電界効果トランジスターを作製し、そのホール移動度の測定を検討した。

[実験] Film contact transfer method[2]を用いて、各種ジブロックコポリマーとホモポリマーの電界効果トランジスターを作製し、そのホール移動度を測定した。ガラス基板上に水溶性のポリマーをスピンコートし、その上にさらにジブロックコポリマーの薄い膜(10-20 nm)をスピンコートした。このガラス基板を逆さまにBCB/SiO2/Si基板上に置き、水溶性のポリマーを水で溶かすことでポリマー薄膜をシリコン基板に転写した。その後Au電極を蒸着し、デバイスを作製した。本方法を用いることで、膜が反転するため、ホール輸送に関与するスピンコート膜の最表面の形状観察が可能であり、表面構造とデバイスとの関連性について議論することができる。AFMおよびUV-visスペクトルを用いて薄膜のナノ構造および結晶化状態を調べた。

[結果と考察] As-castの薄膜試料において、P3HTは0.07 V cm-2 s-1の高いホール移動度を示した(図6)のに対し、P3EHTホモポリマーは~10-4 V cm-2 s-1と低い値を示した。これはポリマー結晶性の違いに由来すると考えられる。一方、P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)においては、結晶性の低いP3EHTが17%存在するにもかかわらず、ホール移動度は最高0.14 V cm-2 s-1(平均0.10 V cm-2 s-1)であり、P3HTよりも高い値を示した(図6)。また、すべてのジブロックコポリマーは対応するP(3HT-co-3EHT)ランダムコポリマーより高い値を示すことが明らかにされた。これはジブロックコポリマー中にP3HTブロックが結晶性を保たれたためと考えられる。UV-visスペクトル(図7)では、P3HTホモポリマーおよびP(3HT-co-3EHT)と比べ、P(3HT-b-3EHT)のP3HTブロックの分子鎖間相互作用に帰属される吸収ピーク(610 nm)の増加が観測された。これは、成膜過程に結晶性の低いP3EHTブロックが結晶性の高いP3HTブロックの結晶化を促進したため、ポリマーの結晶性もホール移動度も向上したと考えられる。

5.P(3HT-b-3EHT)とフラーレン誘導体混合物を用いた有機薄膜太陽電池の作製とその相分離構造に関する研究

有機薄膜太陽電池ではデバイスの高効率化を達成するために電子ドナーとアクセプターの混合様式を制御することが重要である。そこで、ミクロ相分離構造を示すP(3HT-b-3EHT)を用いて、デバイス効率およびそのドナー/アクセプターの相分離構造制御を検討した。

[実験]各種ジブロックコポリマーとフラーレン誘導体PCBM (1:0.8 w/w%)混合物を用いて太陽電池素子を作製し、その光電変換効率を測定した。すべてのデバイスにおいて低温で熱処理を行った。光源は擬似太陽光AM1.5を用いた。AFMとUV-visスペクトルを用いて薄膜のナノ構造および混合薄膜の吸光度・結晶化状態を調べた。参照実験としてP3HT:PCBM混合デバイスも作製した。また、有機薄膜太陽電池のナノ構造制御に向けて、P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)にフラーレン誘導体PCBMを導入する際に混合薄膜の相分離構造も調べた。

[結果と考察] P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)ジブロックコポリマーとPCBMの混合バルクへテロジャンクションデバイスにおいては、結晶性もホール移動度も低いP3EHTブロックが存在しているのにかかわらず、170°Cで熱処理した後に開放電圧が 0.6 V、短絡電流が 8.52 mA cm-2、フィルファクターが 66.8%、光電変換効率が3.42%を示した(図8)。これは同じ条件下で作製したP3HT:PCBM光電デバイスの光電変換効率3.39%と同程度であった。また、UV-visスペクトル(図9)ではP(3HT-b-3EHT)デバイスにおいてP3HTブロックの分子鎖間相互作用に帰属される吸収ピーク(610 nm)の増加が観測された。これは、成膜プロセス中や熱処理中に結晶性の低いP3EHTブロックが結晶性の高いP3HTブロックの結晶化を促進したためと考えられる。一方、P3EHTブロックの比率がさらに増加したジブロックコポリマーをp型半導体として用いた場合、効率の劇的な低下が観測された。これはポリマー全体の結晶性の低下とホール輸送層の非効率に由来すると考えられる。P3HTブロックが83%のP(3HT-b-3EHT)にPCBMの混合比率を徐々に増やす際に230°Cの高温で熱処理した際に十数ナノメートル程度の鮮明なナノ構造を示すことがわかった。また、UV-visスペクトルではPCBMを混合したにも関わらずP3HTブロックの分子鎖間相互作用に帰納される吸収ピーク(610 nm)の増加が観測された。以上の結果から、P(3HT-b-3EHT)とPCBMの混合薄膜では、電子ドナーと電子アクセプターが数十ナノメートルに相分離することが明らかにされた。

6.ポリマーブロックとして使用可能なローバンドギャップポリマーの合成

ポリマーブロック間のエネルギートランスファーや段階的な電荷輸送を達成することで、デバイス効率の向上が期待できる。そこで、P3HTブロックと間にエネルギートランスファーを目指したローバンドギャップポリマーの合成を検討した。

[実験] Diketopyrrolopyrrole(DPP)をベースとしたローバンドギャップポリマーPDTP-DTDPP(Bu)を合成した。NMRおよびGPCを用いてポリマー同定を行った。UV-visスペクトルより、ポリマーの光吸収を確認した。さらに、電界効果トランジスターおよび太陽電池デバイスを作製し、ポリマーの半導体特性を評価した。

[結果と考察] NMRおよびGPCよりPDTP-DTDPP(Bu)ポリマーの生成を確認した。UV-visスペクトルよりPDTP-DTDPP(Bu)は300 nmから1.1 μmまでの広域で光吸収することがわかった。ポリマーのホール移動度は0.05 V cm-2 s-1であり、他のローバンドギャップポリマーより1-2桁の高いホール移動度を有することがわかった。さらにフラーレン誘導体との混合バルクへテロジャンクションデバイスでは、2.71%の高い光電変換効率を示すことがわかった。以上の結果から、PDTP-DTDPP(Bu)は優れるp型半導体であり、P3HTと連結させることでブロック間のエネルギートランスファーが実現可能となり、デバイスの高効率化が期待できる。

7.まとめと今後の展望

本研究では、全共役系半導体ジブロックコポリマーP(3HT-b-3EHT)を設計・合成し、薄膜においてミクロ相分離構造を観測した。また、これらの知見をベースに有機電子デバイスへの応用を展開した。このように高分子化学と材料化学の観点から半導体ブロックコポリマーを設計・合成して電子デバイスのナノ構造精密制御に応用し、より高い性能を達成できたのは本研究が初めてである。本研究から得られた知見は有機電子デバイス中のナノ構造の精密制御に向けて分子設計の指針を与えることが期待できる。

8.参考文献[1] A. Yokoyama, R. Miyakoshi, and T. Yokozawa, Macromolecules, 37, 1169 (2004).[2] Q.S. Wei, S. Miyanishi, K. Tajima, and K. Hashimoto, Appl. Mater. Interfaces, online.

図1. P(3HT-b-3EHT)ジブロックコポリマーの分子構造

図2. P3HTが56%のP(3HT-b-3EHT)の熱的挙動

図3. P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)薄膜のミクロ相分離構造

図4. UV-visスペクトル。実線はP3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)、点線はP3HTホモポリマーを示す。

図5. P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)薄膜の構造

図6.電界効果トランジスターのtransfer特性。丸はP(3HT-b-3EHT)、四角はP(3HT-co-3EHT)を示す。

図7. UV-visスペクトル。実線はP3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)、点線はP3HTホモポリマー、断続線はP(3HT-co-3EHT)を示す。

図8. P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)デバイスのI-V曲線。

図9. 太陽電池素子のUV-visスペクトル。実線はP3HTは83%のP(3HT-b-3EHT)、点線はP3HTホモポリマーを示す。

審査要旨 要旨を表示する

本論文において、学位請求者(張 悦)は、ジブロックコポリマーをデザイン・合成し、薄膜中でミクロ相分離構造を形成する特性を利用することで、有機電子デバイス中のナノ構造を制御することを目的として研究を行った。本論文はその結果をまとめたもので、以下の7章から構成されている。

第1章では、研究の背景、目的、及び概要が論じられており、近年までの関連論文の成果や問題点などが明確にされ、本論文の研究の意義づけが明確にされた。

第2章では、擬リビング重合法を用いて、様々なブロック比率を有するpoly(3-hexylthiophene-block-3-(2-ethylhexyl)thiophene) (P(3HT-b-3EHT))ジブロックコポリマーを合成し、核磁気共鳴測定およびゲル浸透クロマトグラフィー測定より合成反応のリビング性が検討された。その結果、本擬リビング重合法を用いて精密合成されたジブロックコポリマーは分子量分布が狭く、かつ分子量の制御が可能であることが示された。また、示差走査熱量測定よりP3HTホモポリマーは結晶性が高く、P3EHTホモポリマーは結晶性が低いことが明らかにされた。一方、P(3HT-b-3EHT)においては、融解ピークが2つ存在し、複雑な挙動を示すことがわかった。これは結晶性の低いP3EHTブロックが先に融解することで、ポリマーがメソフェーズを形成したためと考えられる。

第3章では、合成されたP(3HT-b-3EHT)薄膜のミクロ相分離構造および結晶構造が、原子間力顕微鏡観察、薄膜の吸収スペクトルおよび薄膜X線回折測定を用いて検討された。その結果、異なるブロック比率を有するジブロックコポリマー薄膜において、10ナノメートル程度の明確なミクロ相分離構造を示すことが明らかとされた。また、P3HTが83%の薄膜試料の紫外可視光分光スペクトルでは、ポリマー鎖に結晶性の低いP3EHTを17%導入したにもかかわらず、610 nmの吸収の肩が大きく増大し、P3HTポリマー鎖の分子鎖間相互作用が促進されたことが示された。また、X線回折測定より、P3HTブロックは基板に平行に層状構造を作り、層内ではチオフェン環同士がπスタックすることが示された。一方、P3EHTブロックに由来する回折ピークは観測できず、薄膜中でより結晶性の低い構造をとることが明らかにされた。

第4章では、有機電界効果トランジスターを作製し、P(3HT-b-3EHT)のホール移動度が検討された。その結果、P3HTホモポリマーはP3EHTより3桁ほど高い値を示すことが明らかにされた。一方、P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)においては、結晶性の低いP3EHTが17%存在するにもかかわらず、そのホール移動度はP3HTとそれが対応するP(3HT-co-3EHT)ランダムコポリマーより高い値を示すことが明らかにされた。紫外・可視光吸収スペクトルではP(3HT-b-3EHT)はより結晶性の高い構造をとることが示唆された。以上の結果から、P(3HT-b-3EHT)は優れた電気移動度を有するp型半導体であることが結論された。

第5章では、ジブロックコポリマーとフラーレン誘導体の混合物における相分離構造が検討された。原子間力顕微鏡および紫外・可視光吸収スペクトルを測定し、混合薄膜の表面形態及び結晶化状態を検討した結果、混合薄膜において電子ドナーと電子アクセプターが相分離していることが明らかにされた。また、初期状態で太陽電池デバイスを検討した結果、P3HTが83%のP(3HT-b-3EHT)の混合バルクへテロジャンクションデバイスでは、結晶性もホール移動度も低いP3EHT部分を有するにもかかわらず、P3HTベースの太陽電池デバイスと同程度の高い光電変換効率を示すことが明らかにされた。本構造制御を低温で実現させることで、更なるデバイス効率の向上および薄膜太陽電池デバイスにおけるナノ構造と光電変換効率の相間を明らかにし、デバイス中のナノ構造制御に関する指針を提供することが期待される。

第6章では、狭いバンドギャップを有するポリマーの合成およびその半導体特性が検討された。その結果、300 nmから1.1 μmまでの広域な光を吸収するポリマーの合成に成功し、高いホール移動度ならびにフラーレン誘導体との混合バルクへテロジャンクションデバイスでは高い光電変換効率を示すことが明らかとされた。本ポリマーをジブロックコポリマーに導入することで、ブロック間のエネルギートランスファーが実現可能となり、デバイス効率の向上が期待できる。

第7章では、本研究の総括、及び、今後の展望を論じた。

以上、要約したように、本論文におけるジブロックコポリマーの分子設計や構造制御は、今後の有機デバイスの高効率化に向けた新規材料の設計やナノ構造制御手法に指針を与える大きな成果であるといえる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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