学位論文要旨



No 125860
著者(漢字) 宋,周勲
著者(英字)
著者(カナ) ソン,ジュフン
標題(和) サーモグラフィを用いた木材乾燥制御法
標題(洋)
報告番号 125860
報告番号 甲25860
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3560号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 信田,聡
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 准教授 稲山,正弘
 東京大学 准教授 齋藤,幸恵
内容要旨 要旨を表示する

木材乾燥における狂いや割れは木材乾燥技術が克服すべき最重要課題である。外部加熱乾燥では木口面の表層の含水率が内層より先に低下し、水分傾斜が発生する。その含水率の差が大きくなるにつれて、割れが発生すると何らかの温度変化があるのではないかと考えられる。割れがいつ、どこで生じるのかが乾燥過程において未然に分かれば、すなわち割れそうな時期を予測できれば、ある程度割れを防げるのではないかと考えられる。

最近、赤外線技術が発展し、小型、軽量、低価格のサーモグラフィが普及しつつあり、木材の乾燥過程においてその活用性に注目した。そこで、本研究は木材の乾燥過程において割れた際の様子をサーモグラフィでモニタリングする手法を構築し、新しい乾燥操作の自動化に採用できる指標として用いることを最終目的としている。

【第1章】

表面割れに対してモニタリングしながら乾燥条件を抑制しながら乾燥する方法として、サーモグラフィに着目し、木材の乾燥過程においてその活用性に注目した。また、本研究に関連した木材の人工乾燥、非破壊検査法、赤外線サーモグラフィ装置および木材への応用例についての既往の研究を記した。

【第2章】

サーモグラフィを用いて、実際に割れた個所の温度が高く(あるいは低く)検出されないかを調べた。供試材はスギ心持ち正角材(120×120×250mm)を用いた。割れると同時に、木材を恒温器から出してサーモグラフィで木口面内温度分布を測定した。Fig.1に木口面内の割れ個所と割れなし個所の温度分布を示す。乾燥初期に割れが発生した個所は、割れが発生しなかった個所および全乾時に割れが甚だしかった個所より低いことがわかった。乾燥初期は内部の温度は表面の温度より低い。割れの発生によって木口面内の内部が見えて、内部の低い温度が測定されていると考えられる。また、その温度差は乾燥が進んで行くと小さくなった。以上の結果より、赤外線画像を用いて乾燥割れを検知する可能性が確認できた。

【第3章】

前章の結果をさらに確認するために、乾燥装置外部から材が撮影できるように扉を、窓を開けた発泡スチロールに替えて、その前面にサーモグラフィを設置して、材面の温度変化を画像としてコンピュータに取り込み、割れのモニタリングをした。

Fig.2に木口面表面の割れ個所と割れなし個所の温度分布を示す。割れ個所の平均温度が割れなし個所に比べて低くなった。その結果としてより正確な測定を必要とするものの、割れ進行の状態の温度変化を検出することで推定することが可能となった。

【第4章】

前章によって、木口割れ発生時における温度変化はある程度把握することができたが、内部割れの発生を予測することは困難であった。そこで、内部割れの発生位置と同じ座標の木口表面の温度分布を測定した。その結果、内部割れ発生領域の温度が、割れが発生していない領域より低くなった。一方、乾燥開始後5時間以降では高く現れた(Fig.3)。

また、試験体に熱電対を挿入し材内部の温度を測定した結果、約5時間の時点から試験材の両端側と中央部との温度差を見てみると、内部割れが発生したと見られる両端側の方が、割れが発生しなかったと見られる中央部より低かった。このことから、内部割れが発生するとそれに対応する位置の木口面温度は低いことが明らかとなった(Fig.3)。温度の指標として平均温度及び温度の標準偏差から得られる変動係数(CV=標準偏差/平均値×100(%))を考えた。

Fig.4は部位別表面温度の変動係数の推移を示す。2時間までは急激に増加し、最大値となりその後緩やかな減少傾向が見られた。変動係数は表面割れ危険域では5%、内部割れ危険域では3%程度になると推定された。

【第5章】

前章で行った割れ発生時の木口表面の材温分布の変動係数を割れ予測に用いる妥当性を評価するために、変動係数で温湿度を変化させる乾燥制御を行う必要がある。そこで、小型サーモグラフィを用いて材温分布の変動係数を指標とした新しい乾燥制御法を考案した。変動係数を基準とした乾燥制御方法の一例を示すと、初期温度上昇期以降、初期温度設定値のまま一定制御する。変動係数を5%以内に保つように湿度制御を行い、明らかに5%より小さくなる時点から温度を下げ始める。変動係数が3%より小さくなった時点から、温度上昇を始める。また湿度を下げてゆく。仕上げ含水率になったら制御をやめるといった制御を実施した。

【結論】

サーモグラフィを用いて木口面の温度分布を測定した。その結果、割れ個所が割れなし個所に比べて平均温度が低くて、変動係数が大きいことがわかり、木口面の温度情報から乾燥初期割れの発生が予想できた。また、内部割れが発生すると、対応する位置の木口面温度は低いことがわかった。木口表面温度の変動係数を指標とすることで、割れの制御が可能となった。

以上より温度分布の変動係数を指標とする新しい乾燥制御法を提案した。

Fig.1 Comparison of surface temperature among unchecked area(A), checked area in the initial period of drying(B)and checked area in end of drying(C).

Fig.2 Comparison of surface temperature between unchecked area and checked area.

Fig.3 Comparison of surface temperature between unchecked area and checked area.

Fig. 4 Relationship between drying time and coefficient of variation of surface temperature.

審査要旨 要旨を表示する

木材乾燥における狂いや割れは木材乾燥技術が克服すべき最重要課題である。外部加熱乾燥では木口面の表層の含水率が内層より先に低下し、水分傾斜が発生する。その含水率の差が大きくなるにつれて、割れが発生すると何らかの温度変化があるのではないかと考えられる。割れがいつ、どこで生じるのかが乾燥過程において未然に分かれば、すなわち割れそうな時期を予測できれば、ある程度割れを防げるのではないかと考えられる。最近、赤外線技術が発展し、小型、軽量、低価格のサーモグラフィが普及しつつあり、木材の乾燥過程においてその活用性に注目した。そこで、本研究は木材の乾燥過程において割れた際の様子をサーモグラフィでモニタリングする手法を構築し、新しい乾燥操作の自動化に採用できる指標として用いることを目的とした。

2章では、サーモグラフィを用いて、実際に割れた個所の温度が高く(あるいは低く)検出されないかを調べた。供試材はスギ心持ち正角材(120×120×250mm)を用いた。割れると同時に、木材を恒温器から出してサーモグラフィで木口面内温度分布を測定した。Fig.1に木口面内の割れ個所と割れなし個所の温度分布を示す。乾燥初期に割れが発生した個所(B)は、割れが発生しなかった個所(A)および全乾時に割れが甚だしかった個所(C)より低いことがわかった。乾燥初期は内部の温度は表面の温度より低い。割れの発生によって木口面内の内部が見えて、内部の低い温度が測定されていると考えられる。また、その温度差は乾燥の進行に伴い減少した。以上の結果より、赤外線画像を用いて乾燥割れを検知する可能性が確認できた。

3章では、 前章の結果をさらに確認するために、乾燥装置外部から材が撮影できるように扉を、窓を開けた発泡スチロールに替えて、その前面にサーモグラフィを設置して、材面の温度変化を画像としてコンピュータに取り込み、割れのモニタリングをした。Fig.2に木口面表面の割れ個所と割れなし個所の温度分布を示す。割れ個所の平均温度が割れなし個所に比べて低くなった。その結果、割れの進行状態を温度変化を検出することで推定することが可能となった。

4章では、前章によって、木口割れ発生時における温度変化はある程度把握することができたが、内部割れの発生を予測することは困難であった。そこで、内部割れの発生位置と同じ座標の木口表面の温度分布を測定した。その結果、内部割れ発生領域の温度が、割れが発生していない領域より低くなった。一方、乾燥開始後5時間以降では高く現れた(Fig.3)。また、試験体に熱電対を挿入し材内部の温度を測定した結果、約5時間の時点から試験材の両端側と中央部との温度差を見てみると、内部割れが発生したと見られる両端側の方が、割れが発生しなかったと見られる中央部より低かった。このことから、内部割れが発生するとそれに対応する位置の木口面温度は低いことが明らかとなった(Fig.3)。温度の指標として平均温度及び温度の標準偏差から得られる変動係数(CV=標準偏差 /平均値×100(%))を考えた。Fig.4は部位別表面温度の変動係数の推移を示す。2時間までは急激に増加し、最大値となりその後緩やかな減少傾向が見られた。変動係数は表面割れ危険域では5%、内部割れ危険域では3%程度になると推定された。

5章 前章で行った割れ発生時の木口表面の材温分布の変動係数を割れ予測に用いる妥当性を評価するために、変動係数で温湿度を変化させる乾燥制御を行う必要がある。そこで、小型サーモグラフィを用いて材温分布の変動係数を指標とした新しい乾燥制御法を考案した。Fig.5は変動係数を基準とした乾燥制御方法の一例を示す。初期温度上昇期以降、初期温度設定値のまま一定制御し、変動係数を5%以内に保つように湿度制御を行い、明らかに5%より小さくなる時点から温度を下げ始める(図中の左○)。変動係数が3% より小さくなった時点から、温度上昇を始める(図中の右○)。また湿度を下げてゆく。仕上げ含水率になったら制御を停止する。

本研究は、サーモグラフィを用いて木口面の温度分布を測定して割れ個所が割れなし個所に比べて平均温度が低く、変動係数が大きいことをつきとめた。すなわち、木口面の温度情報から乾燥初期割れの発生が予想できることを明らかにした。さらに内部割れが発生すると、対応する位置の木口面温度は低いことも明らかにした。これらの実験結果は温度情報から割れの予測が可能であることを示した点で新しい知見である。さらに、この知見をもとにサーモグラフィで得られる木口表面温度の変動係数を指標とする新しい乾燥制御法を提案した。以上より審査委員一同は本論文が学術上、応用上貢献するところが大きく、博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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