学位論文要旨



No 126007
著者(漢字) 佐藤,英貴
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ヒデタカ
標題(和) ヒトパピローマウイルスのゲノム動態に関与する宿主細胞蛋白質に関する研究
標題(洋)
報告番号 126007
報告番号 甲26007
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3486号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上妻,志郎
 東京大学 教授 俣野,哲朗
 東京大学 准教授 菊地,陽
 東京大学 講師 飯島,勝矢
 東京大学 講師 榎本,裕
内容要旨 要旨を表示する

ヒトパピローマウィルスは2本鎖環状DNA構造をとるDNAウィルスであり、約100程度の遺伝子型に分類され、子宮頸癌発症の最大のリスクファクターと考えられている。子宮頸癌の発癌過程において、ヒトパピローマウイルスの持続ウイルス増殖は最も初期のイベントである。そのためにHPVは細胞分裂時に絶えずウイルスゲノムを継代されなければならないが、そのメカニズムは不明である。本研究では、細胞分裂時におけるHPVのウイルスゲノム維持のメカニズムを解明することを目的とした。

標識された3つのHPV16ゲノムDNA断片(塩基番号7791-120、 131-360、 531-780)を子宮頸癌細胞であるHeLa細胞の核抽出液と混合し、SDS-PAGEにて結合蛋白質を分離した。ペプチドマスフィンガープリンティング法にて結合蛋白質の同定を行った。大腸菌にて同定された組換え蛋白質を作成し、ゲルシフトアッセイによりウイルスゲノムの結合塩基部位を決定した。実際の細胞内において、同定された蛋白質とHPV16ウイルスゲノムが結合することを示すためにクロマチン免疫沈降法を行った。プロモーター領域を含むHPV16ゲノムDNA断片(塩基番号531-780)に特異的に強く結合する97kDaの未知蛋白質を検出した。蛋白質同定により、核小体に豊富に存在するnucleolinであることがわかった。HPV16ゲノムの中で、塩基番号604-614領域がnucleolinと配列特異的に結合した。HeLa細胞およびヒト上皮角化細胞の内在性nucleolinは、HPV16ウイルスゲノムと細胞内で結合することが確認された。しかし、nucleolinのHPVゲノム転写への関与は否定的である。最近になりnucleolin結合配列を含む領域がゲノム維持に重要な役割を果たしていることが報告された。nucleolinのHPVゲノム動態に関する役割としてゲノムの維持を担う可能性がある。しかし、現時点においてnucleolinのHPV16ゲノムへの結合によってゲノム動態に与える影響は解かっていない。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、子宮頸癌の主要リスクファクターであるパピローマウイルスのゲノムDNAに結合する宿主細胞蛋白質の探索、およびその機能の解明を試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.ウイルス粒子を構築するキャプシド蛋白質の転写を担うHPV16型後期プロモーター領域に配列特異的に結合する宿主細胞蛋白質として核小体蛋白質nucleolinを同定した。

2.ゲルシフトアッセイにより、試験管内においてnucleolinはHPV16ゲノム塩基番号604-614に配列特異的に結合することが示された。

3.HeLa細胞を用いたクロマチン免疫沈降法により、細胞内でnucleolinがHPV16ゲノムに結合していることが示された。

4.HPVの感染は粘膜の裂傷からウイルス粒子が基底細胞層に侵入し、成立すると考えられている。ヒト正常表皮角化細胞を用いたクロマチン免疫沈降法により、nucleolinはHPVゲノムに結合することが示された。そのため、HPV初期感染の場である基底細胞内でnucleolinがHPVゲノムに結合していることが強く推測された。

5.ヒト子宮頸部異形成患者より分離された細胞株W12はHPV16ゲノムをエピゾームとして保持する。W12細胞を用いたクロマチン免疫沈降法により、nucleolinは内包するHPVゲノムに結合していることが示された。HPVの慢性持続感染の場である異形成細胞においてnucleolinがHPVゲノムに結合する証拠を得た。

6.HeLa細胞を用いてnucleolinに対するショートヘアピンRNAを持続的に発現させることでノックダウンを行うことに成功した。この細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイによりnucleolinがHPVプロモーター活性に与える影響を解析したが、転写活性への影響は否定的であった。

7.HPV複製にはHPVゲノムから転写される非構造蛋白質E1、E2が不可欠である。HEK-293T細胞質抽出液と組み替えE1、E2蛋白質、HPV DNAプラスミドを混合した無細胞複製系を構築し、nucleolinがHPV DNA複製に関与するか検討したが、複製への影響は否定的であった。

以上、本論文はHPVゲノムの生活環の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク