学位論文要旨



No 126008
著者(漢字) 鈴木,完
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,カン
標題(和) アフリカツメガエルの血管発生におけるグアニンヌクレオチド交換因子RasGRP2の発現と機能解析
標題(洋) Expression and functional analyses of XRASGRP2 in vascular development of Xenopus laevis
報告番号 126008
報告番号 甲26008
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3487号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 特任教授 井上,聡
 東京大学 准教授 金森,豊
 東京大学 准教授 藤井,知行
 東京大学 特任准教授 眞鍋,一郎
 東京大学 准教授 宮田,哲郎
内容要旨 要旨を表示する

ポストヒトゲノム時代において、35000以上にも及ぶ遺伝子によってコードされるタンパクそれぞれの機能的役割を割り付ける作業において優先的に重要な遺伝子をピックアップすることは困難である。その意味で発生の速いアフリカツメガエルなどの下等脊椎動物モデルによって多くの候補遺伝子をスクリーニングし、更なる解析をマウスなどの哺乳動物に委ねるという方法は戦略として有用である。ツメガエル胚は、1)血管発生に関して信頼性の高い運命地図があること、2)ゼブラフィッシュより高等動物に近い血管系を有していること、3)初期胚は透過性があるので血管発生の段階を観察・解析するのに適していること、4)発生が速く、受精後4日でほぼ完全に血管系は発生し機能するようになること、5)モルフォリノオリゴヌクレオチド(以下MO)を初期胚に導入することによって特定の遺伝子の発現をノックダウンすることができること、などから血管形成や血管新生に関与する過程や因子の研究にとって有用なツールである。

浅島研究室では、アニマルキャップアッセイ法を用いて様々な組織・器官を誘導することに成功しているが、その1つとしてアニマルキャップに低濃度アクチビン(0.4ng/ml)とアンギオポエチン2(100ng/ml)を誘導因子として作用させることで高率に血管内皮細胞を誘導する方法を確立していた。アクチビン処理のみとアクチビン・アンギオポエチン2共処理のアニマルキャップ細胞塊をマイクロアレイにかけて比較し遺伝子プロファイルを作成し、アクチビン・アンギオポエチン2共処理で発現上昇の認められた遺伝子断片の1つにXl.9840(XRASGRP2遺伝子)が存在した。この遺伝子は、スクリーニングのWhole-mount in situ hybridization(以下WISH)によって血管系に特異的な発現が予想されたため、私は本遺伝子を詳細に解析することとした。

RasGRP2はRasGRPファミリーに属するグアニンヌクレオチド交換因子の1つである。このファミリーは、カルシウムとジアシルグリセロールに応答しRasやRapなどのSmall GTPaseを活性化する。XRASGRP2はヒトRasGRP2のshort formのホモログであり、593のアミノ酸から構成される。ヒトにおいてRasGRP2はTリンパ球、好中球、血小板におけるインテグリンの細胞外活性の細胞内からの調節に関して重要な機能をもつことが示されているが、血管内皮細胞や血管形成における機能に関する知見は今までにない。

ツメガエル胚におけるXRASGRP2の発現はステージ24以降であることが報告されている。まず、ステージ24以降の胚を用いてWISHにて詳細なXRASGRP2の発現パターンを解析した結果、ステージ28では一次造血に関与するVBI(Ventral Blood Island)を取り囲むような発現と、二次造血に関与するDLP(Dorsal Lateral Plate)領域の発現が認められた。この発現パターンはヘマンジオブラストマーカーであるXflk-1、Xfliと同様であった。また、ツメガエルの主要血管系が形成されるステージ30以降のXRASGRP2の発現をWISHにて解析すると、ステージ30ではACV (anterior cardinal vein)、AA (aortic arch)、PCV (posterior cardinal vein)、ISV (intersomitic vein)、VVN (vascular vitelline network) などの血管特異的な発現パターンを示す。しかし、その発現は一時的でステージ35以降にはその発現レベルは低下する。この発現パターンはAmiでみられるステージ40以降の血管内皮マーカーとなりうる発現パターンとは異なり、Xtie2やXmsrなどのアンギオブラストから血管内皮形成段階のマーカーの発現パターンに類似している。つまり、XRASGRP2は形成血管においてヘマンジオブラストから早期血管内皮細胞に発現していると考えられる。

XRASGRP2の血管発生における機能を調べる目的で、XRASGRP2のmRNAを人工的に合成し将来のVBI形成に関与する細胞が多数存在する8細胞期胚の植物極側に顕微注入したところ本来原始血球系細胞のみが存在する領域に異所性に血管系細胞が存在するようになることがXmsrを血管系マーカーとして用いたWISHによる解析にて確認された。また、顕微注入胚をステージ40以降まで飼育すると高確率で浮腫になるフェノタイプを認めた。この結果は、XRASGRP2のVBI領域への異所性の過剰発現によって異所性に血管形成が行われ、血球形成が抑制されることによって循環系に異常をきたし浮腫の原因になっていることを示唆している。

また、XRASGRP2の機能阻害を行うため、XRASGRP2の2種類のゲノム断片を特定し、これらの第1エクソンとイントロンの境界領域のスプライシングを阻害するモルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)をそれぞれ作成し、その阻害効果をRT-PCRにて確認した。このMOsを用いて2細胞期胚に顕微注入を行いXflk-1、Xtie2、Amiの各血管系マーカーを用いたWISHによってXRASGRP2機能阻害により血管系に異常が起こることを確認した。さらに、先行研究での知見とXRASGRP2阻害による血管マーカーXmsrの発現パターンの結果を総合し、XRASGRP2が、VEGFとapelinシグナル系の協調作用に影響することによってツメガエルにおける最初のangiogenesisの過程であるISVの形成にも影響を及ぼしていると考えられる結果を得た。また一方で、血球系マーカーglobinT3に関してはその発現自体には異常は起こらないが、血管系の形成異常に伴なった血球循環開始が遅れることをWISHによる解析で観察した。

次に、血管形成において中心的な役割を果たすVEGF-AがXRASGRP2の発現に関与するか検討した。まず、先行研究においてVEGF-AのうちVEGF122とVEGF170においてその過剰発現において浮腫となる胚が得られることが示されていたのでこれらの2つについて検討したところ、のちのVBI領域にVEGF170 mRNAを顕微注入した胚においてXRASGRP2陽性細胞がVBIに異所性に発現することが観察された。反対にVEGF-A MOを顕微注入した胚では顕微注入領域のXRASGRP2陽性細胞が減少した。これらの結果は、VEGF-A (VEGF170) がXRASGRP2を誘導すること、そしてXRASGRP2の発現にVEGF-Aが必要であることを示している。さらに、のちにVBI後方領域を形成する細胞が多く存在する8細胞期VV領域にVEGF-A mRNAと同時にXRASGRP2 -MOを共顕微注入することによって、VEGF-A mRNAのみの顕微注入によってみられるXmsrの異所性発現の増加が減弱し、逆にVEGF-AmRNAのみの顕微注入によって低下するglobinT3の後方VBI領域での発現が回復した。この結果は、VEGF-AシグナルがXRASGRP2の関与したシグナルパスウェイにおいて血管系細胞分化を促す役割を果たしていることを示している。

最後にヘマンジオブラストマーカーXfli、アンギオブラストおよび血管内皮マーカーXmsrおよびXtie2、原始血球マーカーglobinT3を用いてVBI前方および後方における細胞群の性質について検討し、XRASGRP2はヘマンジオブラストマーカーXfliの発現には関与しないこととXRASGRP2がVEGFの強発現により血球系から血管系へと分化する後方VBI領域のシグナル系の一端を担っていることを示した。

まとめると本研究によってツメガエルの胚発生におけるXRASGRP2の働きに関して以下の知見を得た。(1)ツメガエルの発生においてXRASGRP2は神経胚後期から尾芽胚にかけて血管系に特異的な発現を示し、その発現パターンはXmsrやXtie2などの他の血管内皮マーカーに類似している。(2)Gain-of-functionおよびLoss-of-functionの実験の結果より、発生においてXRASGRP2が適当な時期に適当な発現量を示すことは、個体において適切な血管形成をするのに必要である。(3)血管誘導因子VEGF-AはXRASGRP2を誘導し、XRASGRP2はVEGF-Aのシグナル系の一端を担っている。(4)VBI後方においてXRASGRP2はヘマンジオブラストから血管系細胞への分化において重要な役割をはたし、vasculogenesisの過程に関与している。(5)先行研究での知見と総合して、XRASGRP2がVEGFとapelinシグナル系の協調作用に影響することによってツメガエルにおける最初のangiogenesisの過程であるISVの形成にも影響を及ぼしている。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、モデル動物としてアフリカツメガエルを用い、アニマルキャップに低濃度アクチビン(0.4ng/ml)とアンギオポエチン2(100ng/ml)を誘導因子として作用させて血管内皮細胞を誘導する系から同定されたXl.9840(XRASGRP2遺伝子)について、Whole-mount in situ hybridization(以下WISH)による詳細な発現パターン解析と機能解析を行い、下記の結果を得ている。

1.ステージ24以降の胚を用いてWISHにて詳細なXRASGRP2の発現パターンを解析した結果、ステージ28では一次造血に関与するVBI(Ventral Blood Island)を取り囲むような発現と、二次造血に関与するDLP(Dorsal Lateral Plate)領域の発現が認められた。この発現パターンはヘマンジオブラストマーカーであるXflk-1、Xfliと同様であった。また、ツメガエルの主要血管系が形成されるステージ30以降のXRASGRP2の発現をWISHにて解析すると、ステージ30ではACV (anterior cardinal vein)、AA (aortic arch)、PCV (posterior cardinal vein)、ISV (intersomitic vein)、VVN (vascular vitelline network) などの血管特異的な発現パターンを示した。しかし、その発現は一時的でステージ35以降にはその発現レベルは低下した。この発現パターンは、Xtie2やXmsrなどのアンギオブラストから血管内皮形成段階のマーカーの発現パターンに類似しており、XRASGRP2は形成血管においてヘマンジオブラストから早期血管内皮細胞に発現していると考えられた

2.XRASGRP2のmRNAを人工的に合成し将来のVBI形成に関与する細胞が多数存在する8細胞期胚の植物極側に顕微注入したところ本来原始血球系細胞のみが存在する領域に異所性に血管系細胞が存在するようになることがXmsrを血管系マーカーとして用いたWISHによる解析にて確認された。また、顕微注入胚をステージ40以降まで飼育すると高確率で浮腫になるフェノタイプを認めた。この結果は、XRASGRP2のVBI領域への異所性の過剰発現によって異所性に血管形成が行われ、血球形成が抑制されることによって循環系に異常をきたし浮腫の原因になっていることを示唆した。

3.XRASGRP2の機能阻害を行うため、XRASGRP2の2種類のゲノム断片を特定し、これらの第1エクソンとイントロンの境界領域のスプライシングを阻害するモルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)をそれぞれ作成し、その阻害効果をRT-PCRにて確認した。このMOsを用いて2細胞期胚に顕微注入を行いXflk-1、Xtie2、Amiの各血管系マーカーを用いたWISHによってXRASGRP2機能阻害により血管系に異常が起こることを確認した。

4.血管形成において中心的な役割を果たすVEGF-AがXRASGRP2の発現に関与するか検討し、のちのVBI領域にVEGF-A mRNAを顕微注入した胚においてXRASGRP2陽性細胞がVBIに異所性に発現することを観察した。一方で、VEGF-A MOを顕微注入した胚では顕微注入領域のXRASGRP2陽性細胞が減少した。これらの結果から、VEGF-A がXRASGRP2を誘導すること、そしてXRASGRP2の発現にVEGF-Aが必要であることを示した。さらに、のちにVBI後方領域を形成する細胞が多く存在する8細胞期胚の植物極側にVEGF-A mRNAと同時にXRASGRP2 -MOを共顕微注入することによって、VEGF-A mRNAのみの顕微注入によってみられるXmsrの異所性発現の増加が減弱し、逆にVEGF-A mRNAのみの顕微注入によって低下するglobinT3の後方VBI領域での発現の回復を観察した。この結果から、VEGF-AシグナルがXRASGRP2の関与したシグナルパスウェイにおいて血管系細胞分化を促す役割を果たしていることを示した。

5.先行研究での知見と総合して、XRASGRP2がVEGFとapelinシグナル系の協調作用に影響することによってツメガエルにおける最初のangiogenesisの過程であるISVの形成にも影響を及ぼしている可能性を示した。

以上、本論文ではアフリカツメガエルの胚発生において、XRASGRP2がその血管形成に必要であり、VEGF-A/VEGFR2シグナル系の一端を担ってvasculogenesisからangiogenesisの過程において主要な血管の形成に関わることを主にin vivoの実験にて示している。これらの結果は、胎生期血管発生機構の一端を解明したという点で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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