No | 126022 | |
著者(漢字) | 唐川,大 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カラカワ,マサル | |
標題(和) | 表皮角化細胞におけるCTACK/CCL27の産生機序に関する検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126022 | |
報告番号 | 甲26022 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3501号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景:表皮角化細胞は単なる物理的なバリアではなく、外界からの刺激および自己を構成する細胞からの作用に反応して皮膚における免疫反応の場を形成すると同時にサイトカイン産生により樹状細胞を教育し免疫応答を特定の方向へシフトさせるというように、受動的かつ能動的に皮膚および全身の免疫反応に関与している。最外層に存在するという構造上、皮膚科領域における外用療法をはじめ光線療法などの局所療法の主要なターゲットのひとつとなっている。ケモカインは免疫・炎症反応の場において産生され、炎症細胞の遊走や活性化をはじめとした細胞間相互作用を担う一群のタンパクである。Cutaneous T cell-attracting chemokine (CTACK)/CCL27は、表皮角化細胞に特異的に発現するケモカインで、炎症性皮膚疾患において優位を占めるCLA陽性T細胞の皮膚への浸潤を惹起する作用を持ち、皮膚の炎症形成に不可欠な役割を果たしている。CTACKは尋常性乾癬、アトピー性皮膚炎をはじめとする種々の炎症性皮膚疾患に関与が報告されている。その産生はtumor necrosis factor(TNF)αにより、nuclear factor(NF)κBを介したシグナル伝達系により誘導される。 表皮角化細胞からの炎症にかかわるタンパク産生について検討することは、皮膚の炎症の理解や、皮膚疾患の治療において不可欠である。また、CTACKは皮膚の炎症に必須のケモカインであり、その発現は表皮角化細胞に特異的であることから、皮膚の炎症を特徴付けるものであると考えられる。その産生制御のメカニズムを検討することによりコントロールが可能となれば皮膚特異的に炎症を制御できる可能性がある。 CTACKの産生制御については、TNFαによりその発現が誘導されることはすでに報告されているが、炎症皮膚にはTNFα以外にも多数のサイトカインや細胞成長因子が存在し、それらの作用も受けているはずであり、その詳細は不明である。その産生にかかわる細胞内シグナルについても、NFκBを介しているとの報告があるが、それに対して複雑な制御機構が働いていることが予想され、その詳細な検討を行うことで、CTACKの調節にかかわる因子の特定や制御につながることが期待できる。 本研究では、皮膚特異的な炎症形成に関与していると考えられるCTACKを題材とした。CTACKの発現が表皮角化細胞特異的であること、表皮角化細胞が表皮の大部分を構成する細胞で単独あるいは表皮角化細胞同士の作用により炎症に関与していると考えられること、CTACK産生の制御機構について詳細な検討を加えるためには単純化された系での検討が必要であることから、ヒト表皮角化細胞の培養系を用い、主にTNFαとIFNγの相互作用について検討を行った。 方法:本研究では、ヒト正常表皮角化細胞(NHK)および表皮角化細胞cell lineであるHaCaT細胞のin vitro培養系を用いた。 第一にTNFαおよびIFNγ刺激に対するCTACK産生の変化につきELISA法およびリアルタイムRT-PCR法にてタンパクレベル、mRNAレベルでの評価を行った。 第二にTNFαおよびIFNγ刺激に対するCTACK産生について、NFκBおよびMAPキナーゼの関与を阻害剤を用いて検討した。NFκBの活性化へのこれらのサイトカインの影響について、NFκB結合配列を持つルシフェラーゼベクターを使用したルシフェラーゼアッセイにて検討した。 第三にTNFαおよびIFNγによるCTACK産生制御機構におけるJAK-STAT系の関与について、STAT1・3のリン酸化を認識する抗体をもちいたウェスタンブロット法、ドミナントネガティブおよびワイルドタイプのSTAT1・3、SOCS1・3のワイルドタイプを有するアデノウィルスベクター、JAKの化学的阻害剤、既知のSTAT1・3結合配列を持つルシフェラーゼベクターを使用したルシフェラーゼアッセイを用いて調べた。 第四にCTACK産生制御における表皮角化細胞の分化の影響について細胞密度およびカルシウム濃度を調節することにより分化を誘導し、検討した。表皮角化細胞の分化度についてはトランスグルタミナーゼ1およびケラチン1のmRNA量を指標にリアルタイムPCR法で評価した。 最後にTNFαおよびIFNγによるCTACK産生制御機構におけるEGF受容体の関与につき阻害剤を用いて検討し、IFNγ刺激によるEGF受容体リガンドの産生についてELISA法を用いて調べた。 結果:表皮角化細胞におけるCTACK産生はTNFαにより誘導、IFNγによりその誘導が抑制された。TNFγによるCTACK産生誘導は、NFκB あるいはp38MAPキナーゼの阻害剤により抑制され、一方IFNγによるCTACK産生誘導抑制はERKの阻害により解除された。IFNγはTNFαによるNFκB活性化を抑制しなかった。 IFNγによりSTAT1・3の活性の上昇とリン酸化が見られた。ドミナントネガティブSTAT1の導入によりIFNγによるTNFα誘導CTACK産生の抑制が部分的に解除され、ワイルドタイプSTAT3を導入することでTNFαによるCTACK産生誘導が低下したが、SOCS1・3 DNAの導入はIFNγによるCTACK産生抑制に影響を与えなかった。IFNγによるCTACK誘導抑制はJAKの阻害により部分的に解除された。 高細胞密度、高カルシウムイオン濃度の条件において角化細胞の分化のマーカーの誘導が見られたが、それに伴い、IFNγによるCTACK誘導抑制が解除された。 IFNγによるCTACK誘導抑制はEGF受容体の阻害により解除された。IFNγによりEGF受容体リガンドであるTGFαおよびamphiregulinの産生誘導が表皮角化細胞においても認められた。 考案: IFNγはTNFαにより誘導される表皮角化細胞からのCTACK産生を抑制した。TNFαの作用が同様に炎症を誘導するIFNγによって抑制される事実については、われわれの調べえた限りにおいてTh1細胞の血管内皮細胞への接着がTNFαにより誘導されIFNγによって抑制されることが報告されているのみで、表皮角化細胞において、あるいはケモカイン産生において過去に同様の報告は見られず、新しい知見と考えられた。TNFαは既報告と同様にNFκΒ、p38MAPキナーゼを介してCTACKの産生を誘導した。しかし、IFNγによるCTACK産生抑制については、NFκΒ、p38MAPキナーゼのいずれもあきらかな寄与は見られず、ERKの関与が強く示唆された。IFNγはTNFαによるNFκΒ活性化を直接抑制もしていなかった。 STAT1はTNFαによるCTACK産生誘導のIFNγによる抑制に若干ではあるが関与していることがわかった。一方、IFNγはSTAT1の他、細胞種によってはSTAT3をリン酸化、活性化することが報告されているが、本研究により、表皮角化細胞においてIFNγはSTAT3の活性化を誘導し、TNFαによるCTACK産生誘導に対しSTAT3が抑制的に作用することが新たに判明した。一方、JAKの広汎阻害、JAK3阻害により、TNFαによるCTACK産生誘導のIFNγによる抑制の強い解除が見られた。JAKのシグナル伝達はSTATを主とするが、近年他のシグナル伝達系へのcross talkが存在することが明らかとなってきており、STAT1の阻害による解除が部分的である一方JAK阻害によっては強い解除が見られたことから、これらの系の関与については今後の検討が必要であると考えられた。 IFNγによるCTACK産生抑制は表皮角化細胞の分化に伴い働かなくなるとの結果が得られ、IFNγによるCTACK産生抑制に関与する系は表皮角化細胞の分化に伴い、その作用を減ずるものであると考えた。 表皮角化細胞においてIFNγによるEGF受容体リガンド産生に対する作用についてはこれまでわかっていなかったが、正常ヒト表皮角化細胞を用いたわれわれの実験系において、IFNγによってEGF受容体のリガンドであるTGFαやamphiregulinの産生が亢進し、一方でEGF受容体阻害によりIFNγによるCTACK産生誘導抑制が解除されたことから、正常の表皮角化細胞において、これらのEGF受容体リガンドが傍分泌・自己分泌的に作用してCTACK産生を制御している可能性が示唆された。 本研究において、TNFαにより誘導されるCTACK産生のIFNγによる抑制はEGF受容体阻害剤の添加により解除された。表皮角化細胞においてEGF受容体の活性化で、JAK依存的および非依存的にSTAT3が活性化されること、ERKが活性化されることが報告されており、EGF受容体リガンドがEGF受容体を介してSTAT3やERKを活性化し、IFNγによるCTACK産生誘導抑制に関与していると考えられた。 本研究では皮膚における炎症反応に重要な役割を果たすケモカインであるCTACKの産生の制御系のひとつについて、IFNγがEGF受容体を介してCTACK産生を抑制することが明らかとなった。今回の検討は正常およびcell lineを用いたin vitroの系での検討であるという限界を有しており、CTACK自体が乾癬をはじめとする炎症性皮膚疾患にどのような役割を果たしているのかまでは明らかにできず今後の検討課題としたいが、IFNγの表皮角化細胞からのケモカイン産生に対する新たな作用パターンを明らかにできたことは、IFNγの炎症性皮膚疾患における役割を考える上での大きな知見であると考えられた。 | |
審査要旨 | 本研究は表皮特異的に発現し、皮膚の炎症形成に必須のケモカインであるCutaneous T cell-attracting chemokine (CTACK)/CCL27の表皮角化細胞における産生制御機構をあきらかにするため、正常ヒト表皮角化細胞(NHK)および表皮角化細胞株(HaCaT細胞)を用いたin vitro培養系を用いて解析を試みたもので、以下の結果を得ている。 1.表皮角化細胞におけるCTACK産生に対するTNFαおよびIFNγの作用につき、enzyme linked immuno-sorbent assay(ELISA)法およびリアルタイム逆転写polymerase chain reaction(リアルタイムPCR)法にてタンパクレベル、messenger ribo nucleic acid(mRNA)レベルでの評価を行った。表皮角化細胞におけるCTACK産生はTNFαにより誘導、IFNγによりタンパクレベル、mRNAレベル共に、その誘導が抑制された。化学的阻害剤を用いて、そのシグナル伝達について検討を行った。TNFαによるCTACK産生誘導は、nuclear factor(NF)・Bあるいはp38 mitogen-activated protein(MAP)キナーゼの阻害により抑制された。また、extracellular signal-regulated kinase(ERK)の阻害により、IFN・によるCTACK産生誘導抑制が解除された。しかし、既知のNFκB結合配列を有するルシフェラーゼベクター(pNF・B-luc vector)を用いたルシフェラーゼアッセイにおいて、IFNγはTNFαによるNFκB活性化を抑制しなかった。 2.TNFαおよびIFNγによるCTACK産生制御機構におけるJanus kinase(JAK)-signal transducers and activators of transcription(STAT)系の関与について調べた。STAT1、3のリン酸化を認識する抗体をもちいたウェスタンブロット法にて、IFN・刺激によるSTAT1、3のリン酸化が確認された。既知のSTAT1、3結合配列を持つルシフェラーゼベクターを使用したルシフェラーゼアッセイでSTAT1、3の活性化が示された。アデノウィルスベクターにてドミナントネガティブおよびワイルドタイプのSTAT1・3を導入しCTACKの産生量を調べた。TNFαによるCTACK産生誘導はワイルドタイプSTAT3の導入により抑制され、ドミナントネガティブSTAT1の導入によりIFNγによるCTACK産生誘導抑制が解除された。化学的阻害剤を用いたJAKの広汎な阻害およびJAK3阻害により、IFNγによるCTACK産生誘導抑制が解除された。 3.リアルタイムPCR法を用いたトランスグルタミナーゼ1およびケラチン1のmRNA量を指標とする評価にて、細胞密度の上昇、培地中カルシウムイオン濃度の上昇により表皮角化細胞の分化が引き起こされることを確認したのち、CTACK産生制御における表皮角化細胞の分化の影響について検討したところ、IFNγによるCTACK産生誘導抑制は表皮角化細胞の分化に伴って解除された。 4.阻害剤を用いた検討にてTNFαおよびIFNγによるCTACK産生制御機構におけるEGF受容体の関与を明らかにした。ELISA法を用いてIFNγ刺激によるEGF受容体リガンドの産生が確認された。 以上、本論文は皮膚における炎症反応に重要な役割を果たすケモカインであるCTACKの産生において、IFNγがEGF受容体を介してCTACK産生を抑制する制御系を明らかにした。を抑制する。本研究は、IFNγの表皮角化細胞からのケモカイン産生に対する新たな作用パターンを明らかし、皮膚炎症の制御機構の解明に重大な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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