学位論文要旨



No 126116
著者(漢字) 水田,有一
著者(英字)
著者(カナ) ミズタ,ナオカズ
標題(和) 有限次元CAT(0)方体複体に作用する群の弱従順性
標題(洋) Weak Amenability for a Group Acting on a Finite Dimensional CAT(0) Cube Complex
報告番号 126116
報告番号 甲26116
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第358号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 小澤,登高
 東京大学 教授 河東,泰之
 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 准教授 緒方,芳子
内容要旨 要旨を表示する

作用素環論ではその起源より従順群(アメナブル群) が中心にあった。従順群のvN 群環や作用の分類は70 年代から80 年代にかけて行われ、成功裏に終わった。一方、非従順群は数多く知られており、中でも自由群は非従順群の代表的な例である。過去には任意の非従順群は自由群を部分群に持つのではないかと予想が立てられたほどである。

従順群のC*群環は、核型と呼ばれ、有限次元の環を経由するよい近似を持つ。一方、非従順群である自由群も論文[Ha] によってそれに準じる近似を持ちうることが発見され、それは後に弱従順性として定式化された。弱従順な群は、それに付随するCowling-Haagerup 定数と呼ばれる量によってさらに細かく分けられている。例えば自由群、コクセター群[F][J] は従順群と同じくこの定数は1 であり、また実階数1 のリー群の格子によってこの定数が1 より真に大きくなる例も与えられている[Do][DH]。他方、実階数2以上のリー群の格子は弱従順ではないことが知られている。

自由群はそのケイリーグラフである樹木に固有な作用を持ち、その作用が弱従順性を示す上で鍵となるのであるが、その議論は後に樹木に固有な作用を持つ群へと拡張された。本論文の目的は、有限次元のCAT(0) 方体複体に作用する群の弱従順性を示すことである。CAT(0) 方体複体とは、方体(Cube) からなる複体であり、単連結、非正曲率のものを言うが、一次元(グラフ) の場合にはちょうど樹木にあたる。我々の手法はBozejko-Picardello[BP] の樹木の場合をCAT(0) 方体複体の場合へと拡張したものである。CAT(0) 方体複体の一次元骨格はメディアングラフと呼ばれるグラフとなっている。メディアングラフとは、任意の3 点x; y; z に対してそれらを結ぶ測地線上の点集合[x; y]; [y; z]; [z; x] 上の点がただ一つ存在するようなグラフのことである。この性質を用いて2 点を結ぶ測地線の断面に凸胞複体の構造を新たに導入して、その位相的な性質及びその増大度を調べる。元々のBozejko-Picardello の議論では、この複体は常に一点からなるが、CAT(0) 方体複体の場合には1 点にホモトピック(可縮) であること、またその増大度が多項式的であることが証明される。これらを用いて得られたのが以下の定理である。

定理1 X を有限次元のCAT(0) 方体複体とする。また、非負整数n に対して、Xn ={(x; y) ∈ X × X : d(x; y) = n} と定める。このときXn の定義関数によるシューア積のノルムは多項式的に増大する。すなわちある多項式p があり、∥Xn∥cb _< p(n) となる。

定理2 群Γ が有限次元のCAT(0) 方体複体に固有な作用を持てば、弱従順であり、そのCowling-Haagerup 定数は1 である。

なお、有限次元のCAT(0) 方体複体に固有な作用を持つ群が弱従順であることは、一様有界表現を用いた別の手法でGuentner-Higson によって証明されている。

[BP] Bozejko, Marek; Picardello, Massimo A. Weakly amenable groups and amalgamated products. Proc. Amer. Math. Soc. 117 (1993), no. 4, 1039-1046.[Do] Dorofaeff, B. Weak amenability and semidirect products in simple Lie groups. Math. Ann. 306 (1996), 737-742.[DH] De Canni´ere, Jean; Haagerup, Uffe Multipliers of the Fourier algebras of some simple Lie groups and their discrete subgroups. Amer. J. Math. 107 (1985), no. 2, 455-500.[F] Fendler, Gero Weak amenability of Coxeter groups, ArXiv preprint math.GR/0203052.[Ha] Haagerup, Uffe An example of a nonnuclear C*-algebra, which has the metric approximation property. Invent. Math. 50 (1978/79), no. 3, 279-293.[J] Januszkiewicz, Tadeusz For Coxeter groups zjgj is a coefficient of a uniformly bounded representation. Fund. Math. 174 (2002), no. 1, 79-86.
審査要旨 要旨を表示する

群Gは解析的に理想的な有限近似を持つとき、従順であるといわれる。群の関数解析的な取り扱いにおいて従順性は非常に重要な道具であって、群作用の分類、Baum-Connes予想、Novikov予想などの多くの重要問題が従順群に対して解決している。しかし、主要な群の中には自由群や非初等的双曲群、非可解的線形群など従順でない群も多く存在する。そこで従順群での成功を一般化するため、従順性を弱めた性質を考えることが必要となる。そうした性質のひとつに弱従順性がある。連結単純Lie群(の格子)の場合、実階数が1なら弱従順、実階数が2以上なら弱従順でないことが知られている。特に、自由群は弱従順である。より一般的に樹木グラフに固有に作用する群は弱従順であることが知られている。論文提出者水田有一は、この結果を高次元に一般化して、有限次元CAT(0)方体複体に固有に作用する群が弱従順であることを示した。(樹木グラフは1次元のCAT(0)方体複体である。)この結果は、Coxeter群などの重要例を含む広いクラスに適用可能であり、極めて有用なものである。同じ結果がほぼ同時期にしかしやや早くGuentner-Higsonによって独立に示されているが、証明方法はまったく異なる。本博士論文に使われたアイディアは幾何学的であり、例えば双曲群などの幾何学的な群に対しても応用可能なものである。本博士論文の一部は「Journal of Functional Analysis,254(2008),no.3,760-772」に掲載済みである。よって論文提出者水田有一は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51756