学位論文要旨



No 126130
著者(漢字) 今中,平造
著者(英字)
著者(カナ) イマナカ,ヘイゾウ
標題(和) 低コスト中性粒子ビーム装置の開発と高ベータ球状トーラスへの入射
標題(洋)
報告番号 126130
報告番号 甲26130
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第547号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端エネルギー工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 小紫,公也
 東京大学 准教授 井,通暁
 東京大学 准教授 小野,亮
内容要旨 要旨を表示する

磁気閉じ込め核融合研究はトカマクを中心として、研究が盛んに進んでおり国際熱核融合実験炉ITERにより、将来の核融合商業炉に必要な物理的、工学的な様々な検証が予定されている。一方でトカマク方式は高い安定性の引き換えとしてベータ値(=プラズマ圧力/磁気圧)が数%と低く、核融合プラズマの高い圧力を支えるのに、低ベータのため強力な磁気圧を発生させるコイル郡を初めとして装置構造体に膨大なコストがかかってしまう。そのため、トカマク方式での商業炉は現実的ではない。

そこで、トカマクに代わる次世代の閉じ込め方式として高ベータな配位の研究も盛んに行われており、コンパクトトーラスの分類される配位は総じて炉構造がコンパクトでシンプルであり、中には高いベータ値を持ち次世代炉としての有力な可能性を秘めているものも少なくない。

球状トカマクはコンパクトトーラスに属する配位であり、優れた閉じ込め性能と高いベータを兼ね備えた配位として簡素な炉構成、低コストな核融合炉の候補として盛んに研究が行われている。球状トカマクではさらに高ベータな状態としてバルーニングモードの第2安定領域が注目されており、この領域で安定な配位が実現出来ればベータ値が50%を超える閉じ込め効率の大幅な改善が期待でき、将来の商業炉の有力な一形態となりえる。

逆転磁場配位(FRC)もコンパクトトーラスに属する配位であり、トロイダル磁場を持たず、ポロイダル磁場のみでプラズマを閉じ込めている。そのため、ベータ値は原理的に100%となり飛びぬけて閉じ込め効率の高い配位であり、安定で定常な閉じ込めが達成されれば核融合炉の大幅なコストダウンだけでなく、D-T炉の後継炉であるD-He3炉としての利用も期待されている。FRCの問題点は球状トカマクに比べてプラズマ閉じ込め性能の点で大きく劣っており、その内部構造や不安定性についても不明な点が多く残されていることである。そのため、現時点では実用炉としては球状トカマクの方が有力であると考えられている。

プラズマ合体装置TS-4ではプラズマ合体という方法によりコンパクトトーラスの急速な加熱や、FRCプラズマの立ち上げに利用している。プラズマ合体は2つのコンパクトトーラスを磁気リコネクション現象を介して合体させ、その際開放される磁場エネルギーがプラズマ粒子(主にイオン)の加熱エネルギーなるというものであり、高いベータ値を持つ球状トカマクや、FRC配位の生成が可能である。

プラズマ合体による加熱効果はプラズマの磁場強度と比例関係にあることが理論式から予想され、ドップラー広がりを用いたイオン温度計測からその効果が確認されている。計測結果の外装では1T程度の磁場を持つプラズマであればITERと同程度の温度を実現できるという強力な加熱効果がある。また、FRC生成過程ではトロイダル磁場エネルギーも完全に解放され加熱エネルギーに使用されるため、最も強力な過熱エネルギーが得られる。

球状トカマクでは加熱効果以外にも第2安定領域へのアクセス法として利用が考えられており、FRCを生成後に外部トロイダル磁場の印加で第2安定な球状トカマクを生成する方法が提案されている。今回は球状トカマク同士の合体により第2安定な球状トカマクの生成を試みた。図1はバルーニングモードの安定性判別の結果を示した図であるが、外部磁場コイル電流値(Itfc)の強化により不安定領域を第2安定領域に向けて横切っていくのが確認できる。今後の研究で更なるトロイダル磁場の強化やプラズマエネルギーの向上によりこの方法での第2安定化の実現が期待される。

中性粒子ビーム入射(NBI)加熱はプラズマの追加熱の方法のひとつである。NBIは電場により高速に加速された中性粒子ビームをプラズマに入射し、ビーム粒子とプラズマ粒子のクーロン衝突を介してビーム粒子の持つ運動エネルギーをプラズマ粒子に与え、プラズマを加熱するものである。NBIは磁気閉じ込め核融合プラズマの加熱方法としては最も実績があり、信頼性が高い。

一方で、NBI装置は高コストで定期的で専門的なメンテナンスが必要であるため、トカマクにかわる次世代核融合炉としての研究を進めているコンパクトトーラスの中型以下の装置への導入は進んでいない。

そこでイオン源を高コストでメンテナンスが必要となっていた従来のフィラメント方式からファラデーカップを用いた方式に切り代えることで低コストとメンテナンスの容易さを同時に実現した。図2は開発したNBI装置の構成図である。

このNBIのスペックはターゲットであるTS-4のコンパクトトーラスへの入射を想定しているため、15kVと比較的低い加速電圧で、入射パワーを確保するために20Aというビーム電流を設定している。また、ビーム持続時間は1msecのパルス運転を想定している。

ワッシャーガンはNBIへの利用例がほとんど無いため、開発中のNBIが設計どおりのスペックを示し、ターゲットプラズマへのエネルギー注入が確認されれば、低コストNBIとして今後、他の幅広い中型装置への導入が期待される。

ワッシャーガンの調整の結果、図3のようなビーム電流波形が得られた。

この結果から、加速電流20A以上が達成され、ビーム継続時間も15A以上で600μsec以上あり、TS-4プラズマの加熱時間としては十分である。この結果から、実際のTS-4装置合体球状トカマクに入射してみたところ、僅かにプラズマエネルギーが向上している結(図4)が得られており、今後の検討、調整により更なるエネルギー注入が実現出来れば新たなNBI装置として提案できる。

図1. プラズマ合体球状トカマクのバルーニングモードに対する安定性.

青点は各条件での実験結果, 赤線は各実験で得られた安定境界,緑線は想定される安定境界

図2, 新たに開発した中性粒子ビーム入射装置

図3. NBIのビーム電流と加速電圧の時間変化

図4. NBI入射による球状トカマクの(a)プラズマ磁場の変化と(b)プラズマ電流の変化

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「低コスト中性粒子ビーム装置の開発と高べ一タ球状トーラスへの入射」と題し、従来高価かつフィラメント放電保守の手間がかかった核融合実験用中性粒子ビーム入射(NBI)装置を大幅に改良し、ワッシャーガンという新しいプラズマ源を採用し、さらにパルス動作の特化させることにより電極構造を大幅に簡略化、低コスト化することができた。特に球状トカマク用低電圧・大電流型として、15kV,20A,0.3MWを目標としてプラズマ源と電極を最適化し、目標が達成された。最後にTS-4実験装置の逆転磁場配位、球状トカマク装置に入射し、どちらも電流値や磁束値の増加が認められ、さらに前者では磁場減衰時間が増加することが明らかになった。

第1章は「序論」であって、核融合磁気閉じこめ研究の歴史、および原型炉のための大幅なコストダウンの可能性が明らかになってきた球状トカマク研究、さらに追加熱のための中性粒子ビーム入射装置の開発について説明している。

第2章は「プラズマ合体実験装置TS-4」と題し、実験に用いたTS-4実験装置の概要、球状トカマクの生成法、各種プラズマ計測の概要が述べられている。

第3章は「プラズマ合体による高べ一タコンパクトトーラスの生成実験」と題し、合体を用いた高パワーの磁気リコネクション加熱を用いて、球状トカマクプラズマの急速加熱実験を行い、べ一タが50%程度の超高べ一タ状態を実現したことが述べられている。発生が予想されるバルーニングキンク不安定を実際に観測し、Balloo計算機コードによる理論解析結果と一致した。

第4章は「低コストで保守が容易な中性粒子ビーム入射装置の提案」と題し、ワッシャーガンをプラズマ源に用い、パルス動作に特化すれば、大幅なコストダウンと保守の低減が可能であるとの提案がなされている。

第5章は「低コスト中性粒子ビーム入射装置の開発」と題し、提案したワッシャーガン型の中性粒子ビーム入射装置の開発ステップが述べられており、プラズマ源が必要な数eV以下の低いイオン温度と一様性が確保出来たこと、電源部の工夫や電極部の最適化や放電洗浄によるビーム引き出し電流の向上が述べられている。最終的に15kV,20A,0.3MWという目標とする低電圧・大電流型の中性粒子ビーム入射装置が開発できた。

第6章は「高べ一タ球状ト一ラスへのNBI入射実験」と題し、完成した中性粒子ビーム入射装置を球状トカマクプラズマと逆転磁場配位に適用しどちらも電流値や磁束値の増加が認められ、さらに前者では磁場減衰時間が増加することが明らかになった。

第7章は「結論」であってこれまでに得られた結論をまとめている。

以上要するに、従来0.3MWで1億円程度と高価かつフィラメント保守の手間が大きかった核融合実験用中性粒子ビーム入射(NBI)装置を大幅に改良し、最終的に常温動作で保守の要らない極めて安価な低電圧・大電流型(15kV,20A)NBI装置の開発に成功したものであり、実際に球状トカマクや逆転磁場配位に入射して電流や磁束、あるいはそれらの減衰時間が向上することを確認したものであり、先端エネルギー工学エネルギー工学分野、特にプラズマ・核融合工学への貢献は大きい。よって、博士(科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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