No | 126132 | |
著者(漢字) | 荒木,靖宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アラキ,ヤスヒロ | |
標題(和) | IMSを用いたセンシングサービスプラットフォームに関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 126132 | |
報告番号 | 甲26132 | |
学位授与日 | 2010.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第549号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 基盤情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在活発に標準化およびその導入がすすめられているNGN(Next Generation Network) は単に高速なネットワークであるだけではなく,サービス提供の中核をなすIMS(IP Multimedia Subsystem)によって移動網と固定網などの異ったアクセスネットワーク技術を統合し,その上でサービスを展開するために様々なコンポーネントからなるサービス基盤である. そのサービス提供のために,ユーザの位置情報や,課金情報をはじめ,さまざまな情報を扱う機能を持つ. IMSの導入以前は,移動体向けの電話サービスのためにはPLMN (Public Land Mobile Network),アナログの公衆電話網サービスのためにはPSTN (Public Switched Telephone Network),デジタル化された電話サービスのためにはISDN (Integrated Services Digital Network), データサービスのためにはデータ網,IP サービスのためにはIP 網,テレビサービスのためにはCATV 網のようにそれぞれネットワークを整備し,サーバを設置,運用しなければならなかった. IMS の導入によって,それぞれのネットワークは共通のIMS コアネットワークに接続するアクセスネットワークとして統一され,サービス提供者はサーバ設置のコストを削減するだけでなく,IMS コアネットワークが管理するサーバ,IP コアネットワーク,アクセスネットワークを柔軟に組みあわせ,安価かつ速やかにサービスを設計,構築,運用できる. IMS は通信サービスに関係のある情報を集積しているため,その情報を使って様々なサービスが提供可能である.ただし,センサネットが持つような詳細なデータや通信サービスに関係のないデータは持たない. 一方,環境内に設置されたセンサをはじめとする情報源からコンテキストを推定し,コンテキストに応じたサービスを提供するコンテキストアウェアサービスの開発が進みつつある. コンテキストアウェアサービスを提供するシステムは,一般的に次のような手続きを行う. 1. センサやネットワーク上の情報源から情報を取得 2. 人や環境のコンテキストを推定 3. ほかの情報ソースを必要に応じて取り込み,加工 4. 人や環境に情報を提示したり,ロボットやアクチュエータを動作 これを実現するために使われるセンサネットは現状では垂直統合されたシステムが中心で,互換性や相互接続性,サービスエリア,導入コスト等の面で問題がある. そこで、人間の活動する空間ほぼ全てをカバーする通信基盤であるIMS とセンサネットを組み合わせることで、実際に多くの人がセンサデータを利用可能にし,コンテキストを意識したアプリケーション提供基盤構築が可能になると考える. 本論文のシステムにおいて,この手順の一番最初にあたるセンサからの情報の取得はセンサとそのセンサが接続されるWireless Sensor Network (WSN) が担当し,その後の手順はIMS に接続されたサーバが担当する. しかしながら,その具体的かつ効率的な方法は研究段階にあり,当然ながら標準化には至っていない. 本論文では,センサとIMS の持つ機能を生かし,コンテキストアウェアサービスをより広いカバーエリアで,速やかに展開することを可能とするプラットフォームを設計,実装する. 本プラットフォームで使用するXDMS(XML Document Management Server) は,通常のXDMSの機能に加え,XQuery の機能を実装している.それにより,新たなアプリケーションが必要になった場合であっても,XQuery によるクエリ文を作成するだけで,多くの場合においてアプリケーションサーバを一から実装することなく実現可能である.プロトタイプサービスの実証やきめ細かなサービスの提供を迅速に行うために適している. ユビキタスヘルスモニタリングシステムと,テレワーク実施コンテキストに応じた電力量監視課金システムに応用することで,プラットフォームの有用性を示す. 図 1 : IMSを導入することによるサービスもでるの変化 | |
審査要旨 | 本論文は「IMSを用いたセンシングサービスプラットフォームに関する研究」と題し,センサネットワークのアプリケーションを高速にプロトタイピングできるプラットフォーム技術について述べた論文である.これに向けて,NGN/IMS(Next Generation Network/IP Multimedia Subsystem)に着目し,NGN/IMSをベースとしてプラットフォームを構築する方法,およびそのプラットフォームを利用したアプリケーションの実装を通じた実証について論じている. 第1章は序論であり,特定のアプリケーション毎に別々にネットワークおよびサーバを構築してきた歴史とIMS導入によるセンサネットを含むあらゆるネットワークの統一化が生むアプリケーション開発の可能性に触れ,本論文の背景と各章の目的について述べている. 第2章では,データを元にしたアプリケーションの開発者および提供者を増やすためにはセンサネットワークによるデータ取得の広域化とデータ取得のためのコスト削減の両立が重要課題であることを明らかにしている.さらに,これらの課題のためにはグローバルなカバーエリアを持ち,センサデータを統合処理することができるIMSとの相互接続運用が有力な候補であることを示し,そのためのアプローチを明らかにしている. 第3章では,広域に分散した複数のセンサから得たデータがある条件を満たすときにサービスを起動するイベント駆動型プラットフォームである,「IMSを用いたセンシングサービスプラットフォーム」について述べている.このサービスプラットフォームのポイントは,IMSに備えられたXDMSに対して,XQueryと呼ばれる,XML文書もしくはXMLデータベース問いあわせ言語に対応できるような拡張を施している点にある.また,XQueryを用いることで,センサネットワークのアプリケーションモデルのほとんどが記述可能であり,この拡張がアプリケーションプロトタイピングにきわめて有効なことを示している.さらに,「IMSを用いたセンシングサービスプラットフォーム」を実装し,そのパフォーマンスを評価することで,プロトタイピングレベルでの利用には十分な速度で実装システムが動作することを示している. 第4章では,広域におけるセンサネットアプリケーションとして,いつでも,どこでも健康状態を把握可能なモニタリングシステムについて述べている.このシステムは,NGN/IMSの持つ広域性および緊急時などのリアルタイム通信とQoS機能を生かしたデータ収集とメディア配送を実現し,さらに取得したデータを利用したアプリケーション作成環境を提供している.ヘルスモニタリングで取得したデータを処理したアプリケーション作成は,利用者,医療従事者,家族などが様々な要求を持つため,低コストで作成することが大きな課題であったが,XQueryを用いた記述でアプリケーションが作成できることを述べている. 第5章では,NGN/IMSを用いたテレワークアプリケーションの実装を通じてプラットフォームの実証を行っている.構築したテレワーク環境は,単にテレワークに必要なネットワーク接続性を提供するだけでなく,利用者のファイル操作履歴等のテレワークコンテキストを抽出するとともに,その際に発生するCO2排出総量までを算出し,テレワーク時の費用や排出負担先を切りかえるアプリケーションを実装している. 第6章では,論文全体を総括しており,本論文の成果をまとめるとともに,センサデータを利用したサービスプラットフォームの適用範囲を広げるために残された課題,および今後の研究の方向性について述べている. 以上,これを要するに,本論文は,センサネットワークのプロトタイプアプリケーションをNGN/IMSをプラットフォームとして容易に構築できる環境を,XDMSをXQuery対応に拡張することで実現するとともに,その有効性をヘルスケアアプリケーションとテレワークアプリケーションの実装を通じて実証したものであり,情報学の基盤に貢献するところが少なくない.よって,博士(科学)の学位論文として合格と認められる. | |
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