学位論文要旨



No 126158
著者(漢字) 北村,亮
著者(英字)
著者(カナ) キタムラ,リョウ
標題(和) ヒトCdc7キナーゼの機能部位の同定
標題(洋) FUNCTIONAL DISSECTION OF MAMMALIAN CDC7 KINASE
報告番号 126158
報告番号 甲26158
学位授与日 2010.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第575号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 メディカルゲノム専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正井,久雄
 東京大学 准教授 伊藤,耕一
 東京大学 准教授 佐藤,均
 東京大学 准教授 反町,洋之
 東京大学 准教授 泊,幸秀
内容要旨 要旨を表示する

Cdc7 is a serine/threonine kinase conserved from yeasts to human. Its catalytic function during cell cycle is activated via association with the activation subunit, Dbf4/ASK, through conserved Dbf4-motif-M and Dbf4-motif-C. However, ASK-interacting motif in Cdc7 remained undefined. On the other hand, since major targets of Cdc7 during initiation of DNA replication are present on the chromatin, association of Cdc7-ASK with chromatin may increase as S phase initiates and proceeds. In order to map the potential chromatin- and ASK-interacting domains in Cdc7 kinase, we generated a series of Cdc7 truncation mutants and cloned them into a CSII-EF-MCS lentiviral vector carrying both HA- and mKO2 (monomeric Kusabira Orange 2)-fluorescent tags. Each plasmid was then used for transfection into 293T followed by transduction into HeLa cells. Subcellular localization and oscillation in the protein level of each mutant were examined via time-lapse analyses. Chromatin binding was assayed by fractionation of the cells expressing each mutant. Association between Cdc7 (HA-tagged) and ASK (FLAG-tagged) was examined by transient coexpression of both plasmids into 293T and HeLa cells followed by coimmunoprecipitation assays. Our results indicate that the segment near the C-terminus of Cdc7, spanning the kinase insert III (amino acids 440-538), is essential for association with ASK. This segment, along with other segments, apprears to be required for chromatin binding of Cdc7. UV photocrosslink assay as a different approach revealed that 444Gly of Cdc7 is very close to ASK in Cdc7-ASK complex. The level of ectopically expressed Cdc7 fusion protein decreased during G1 phase, strongly suggesting that the protein may be regulated by cell cycle-specific proteolysis.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、DNA複製開始の制御にcriticalな役割をはたすヒトCdc7キナーゼの機能部位を様々な変異体の解析によって同定し、Cdc7の細胞内局在に必須な配列を同定するとともに、活性化サブユニットDbf4/ASKによるCdc7キナーゼ活性化のメカニズムについて新しいモデルを示した意欲的な研究である。

Cdc7キナーゼは複製開始に必須なキナーゼとして出芽酵母で同定された。調節サブユニットであるDbf4/ASKと活性のある複合体を形成し、ヒトを含む真核生物に広く保存されている。Cdc7キナーゼは複製開始において、複製フォーク巻き戻し因子であるMCMをリン酸化し、複製開始を誘導する。しかしDbf4/ASKによる活性化の詳細なメカニズムや、活性の細胞周期制御などについては未だ解明されていない。また全てのキナーゼは高度に保存されたキナーゼドメインを有するが、Cdc7キナーゼはCdc7特有の保存されたキナーゼドメインとともに、それを分断する3個のキナーゼ挿入配列を有することがその構造上の特徴である。しかしこれまでのところ、キナーゼ挿入配列の機能としては、キナーゼ挿入配列II全体がCdc7キナーゼの核局在に必要であるとする報告がなされているものの、Cdc7分子の半分近くを占めるキナーゼ挿入配列の機能はほとんど未知である。また、Cdc7キナーゼ活性の発現には、Dbf4/ASKとの結合が必須であるが、Dbf4/ASKによるCdc7キナーゼ活性化の機構は全く未知である。本研究でCdc7分子の詳細な分子解剖による解析を通じて、Cdc7キナーゼの細胞周期発現制御、細胞内局在に必要な領域、Dbf4/ASKとの相互作用、Cdc7の活性化に必須な領域を同定し、Dbf4/ASKによるCdc7キナーゼ活性化について検証可能な新規モデルを提示した。

まず、Cdc7キナーゼタンパク質レベルが、細胞周期で変動することを示した。G1期で低下し、S期に増加し核内に局在する。Ectopicに発現したCdc7レベルも同様に変動するのでタンパク質の安定性のレベルでの制御を受けている可能性が示唆された。

Cdc7の細胞内局在について以下の点を明らかにした。Cdc7キナーゼを12の部位に分け、それぞれの部位を欠失した変異体Cdc7キナーゼを蛍光タンパク質mKO2 (monomeric Kusabira Orange 2)融合タンパク質としてHeLa細胞内で発現させることで、その細胞内局在を観察した結果、C末端の50アミノ酸および、キナーゼ挿入配列IIのN末端側の欠失によってCdc7キナーゼが核と細胞質の両方に局在するようになることを示した。これらの結果より、Cdc7キナーゼの核局在には、これまで報告されていたキナーゼ挿入配列II以外に、C末端の領域が必要であることを明らかにした。

クロマチン結合は、Cdc7の基質認識の機構を明らかにする上で重要であるが、今回の結果からはキナーゼドメインを破壊することにより、喪失することが示された。しかしこれは、タンパク質の全体構造が影響を受けることが理由かもしれない。これまで報告されているキナーゼ挿入配列IIが必要であるという結果は再現できなかった。

Dbf4/ASKとの相互作用については以下の点を明らかにした。Cdc7キナーゼの24の欠失変異体を作製し、293T細胞内でDbf4/ASKとともに発現させ、Dbf4/ASKとの免疫共沈降を解析した。その結果、C末端の50アミノ酸およびキナーゼ挿入配列IIIのN末端付近(448-457)がDbf4/ASKとの相互作用に必須であること、またキナーゼ挿入配列IIのC末端付近(337-361)はDbf4/ASKとの相互作用に必要ではないがCdc7のキナーゼ活性に必須であることを示した。キナーゼ挿入配列IIIのN末端の444の残基が実際にDbf4/ASKと相互作用することを、クロスリンク法により示した。同定した領域のアミノ酸配列をヒト、アフリカツメガエル、分裂酵母、出芽酵母間で比較した結果、C末端テイル領域に保存性の高い配列(567-572)が存在することを明らかにした。これらの結果から得られたDbf4/ASKとの結合に必須な領域であるC末端およびキナーゼ挿入配列IIIのN末端付近の位置関係を、Cdc7キナーゼに分子系統樹上最も近いとされるカゼインキナーゼII aサブユニットの構造をもとに予測することで、それらが共にキナーゼ活性中心に対して裏面に、近接して位置していることを示した。そしてこれらの結果より、Cdc7キナーゼはその活性中心とは反対の面において、C末端テイル領域とキナーゼ挿入配列IIIのN末端領域を介してDbf4/ASKと結合し活性化するというモデルを示した。また、Dbf4/ASK上にはmotif-Mおよび-Nの二個の独立のCdc7結合モジュールの存在が証明されている。これらの二個のCdc7結合モジュールが、今回同定されたCdc7上の二個のASK結合配列に相互作用する可能性もあり、今後実験的に検証する。

本研究により、ヒトCdc7キナーゼにおけるDbf4/ASKとの結合に必須な領域、および核局在に必須な領域を明らかにした。キナーゼ挿入配列IIはCdc7の核局在に必須であり、C末端の50アミノ酸およびキナーゼ挿入配列IIIのN末端付近(448-457)はDbf4/ASKとの結合に必須であることを示した。さらにこれらの結果をもとにDbf4/ASKによるCdc7の活性化のモデルを示した。本研究の結果は、Cdc7-Dbf4/ASK複合体の構造上の特徴を明らかにするとともに、その機能発現に必要なドメイン、Dbf4/ASKによる活性化のメカニズムの解明に大きく貢献する。明らかにされたCdc7の特異ドメインと相互作用する分子の解析は、新たな基質、結合パートナーの解明に貢献し、最終的にCdc7-Dbf4/ASKの高次構造の解明に向けて基礎データを提供し、Cdc7キナーゼの活性を正あるいは負に制御する低分子化合物の開発のための科学的基盤を与える。以上述べたように、本論文は染色体複製開始の鍵を握る制御因子Cdc7による多様な染色体動態制御の分子基盤の解明に大きく貢献することが期待され、博士論文として学位に値する内容であると判断する。また、学位審査会における、北村亮君の質疑応答の際の受け答えも、適切であり、学位に値する知識、学識を有していると判断された。

なお、本論文は、当研究室覺正直子、深津理乃、Gaik-theng Toh、理研の沢野朝子博士、宮脇敦史博士との共同研究であるが、論文提出者が主体となってすべての分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

以上の理由により、北村亮君に博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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